3話「ダエキ」
立花あきは、良くも悪くもごくごく普通の女子生徒だった。ごく普通の地方の公立高校2年生の17歳。授業態度はいたって真面目で部活動にも参加している。そんな普通の女子高校生。
の、はずだった。
あの日僕、家内陽満の《ヒミツ》を知るまでは…
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昼休み、誰も居ない体育館の中にある新体操部の部室で僕は今日も立花のわがままーー否、《命令》を聞くのだ。なぜ、このような関係なになってしまったのか…それはもう考えるだけ無駄である。
立花に僕がタイツを被って鼻息を荒くしている写真を人質にされている以上、僕は立花に逆らえないし抗えない。そういう契約だ。あの日の翌日から、僕は毎日昼休みに立花と部室で会いそして彼女の出す指示にただ従う。そんな日が続いた。足を舐めることから始まったそれは、案外僕が思って居たようなことだらけではなく次の授業の課題の答えを教えろだの、僕が普段なにをしているかを質問されるだの、そんなたわいもないものもあった。
しかし、だからこそとてつもない命令が出された時にひどい興奮を覚えてしまうほど、僕を立花あきという存在が蝕んでいった。
湿度と気温だけが夏の到来を予期しているかのように高くなっていき、雨の音がすこし弱まった今日もまた昼休みを告げるチャイムが鳴る。横の席に座る立花をチラリと見るが、こちらなど気にもなっていないかのように周りの女子たちとお喋りに興じている。
それを確認して、僕は席を立ち教室から出る。
基本的に、僕と立花は部室以外で会話をしない。部室に行くのも僕が先で、すこし経ってから立花が追って来る感じだ。友達と昼飯を食べなくていいのかと聞いてみたら、普段からご飯は一人で食べる派だと返された。なるほど、それなら怪しまれないかと普段クラスメイトの食事風景を知らない僕は納得せざるをえなかった。
部室に着いて、すこし経つとガチャリとドアが開き続いて立花が入ってくる。
「よしよし、今日もちゃんといるね。」
「まあやることもないし、行くとこもないしな。」
「よろしい、じゃあ早速今日の命令を聞いてもらおう。」
すこし息の荒い?様子で言う立花に警戒しつつもそれに反比例するように僕も興奮してくる。
ヒミツを知られた日は家に帰って死にたくなった。
うじうじと悶える僕を見て妹にはキモがられるし母親と父親には何か察せられような態度をとられて本当に辛かった。唯一姉だけはいつも通り接してくれたが、それも逆に辛い。でも、それも立花との新しい《ヒミツ》の回数を重ねるごとに薄れていった。
自分が変態だなんてことわかっていたが、今目の前にいるこの女は自分以上に異常な奴だということもまた1つの事実だとわかったのだ。
僕の目の前まで近づいた立花は一言。
「屈んで、上を向いて口を開けて。」
それだけで、今から彼女がどんなことをするのだろうと僕の心臓が高鳴る。彼女の指示通り屈んで上を向き口を開ける。
彼女の顔を見る。
ああ、この顔だ。この顔が僕の目を、心を掴んで離さない。まるで人を化かしてほくそ笑む狐のようなこの笑顔。
可愛らしさの残る顔を歪ませて
「これ、口に溜めて。」
そう言って彼女は僕の口へと唾を垂らした。
顔が溶けそうなほど熱かった。彼女の唾が入れば入るほど鼻腔を彼女の匂いが駆け巡る。ただ彼女が満足するまで、待つ。彼女が「いいよ。」と言うまでは僕に命令されたこと以外の行動は決して許されない。
酷い背徳感となんとも言えない高揚感が僕を包み込む
満足したのか立花が「飲んで」と言うので僕は口の中の唾を飲み干した。
「じゃあ、また明日ね。」
そう言って立花が部室を去る。
僕はいそいそと立花のロッカーを開けて鞄からポケットティッシュと靴下を手に取る。
きっと立花も気づいているのだろうが、あえて口には出さないんだと思う。いや、そう思いたいが…
毎日の命令である意味調教されかけている僕は毎日ムラムラして仕方ないのだ。イソイソと自分の処理をしてトイレのゴミ箱にティッシュを捨ててから僕も体育館を後にした。
匂いでバレているという情報をネットで見たが、童貞の僕には実感の湧かない。さして意味のない噂話だ。きっと大丈夫だろう。
今日は火曜日、女子新体操部の活動日だ。