1話『ショウジョ』
「もしかして先輩、一緒に遊ぶお友達もいないんですか?」
手を口元に当てて笑う仕草は、到底年上への態度とは思えないが彼女くらいの身長の少女に見下されるというのはなかなかできる経験ではないのでなにも言わない。それより問題は僕に友達がいないという勘違いをそのままにしておくことだろう。
「可愛川ちゃん、勘違いしてもらっては困るけれど僕にだって友人はいるぞ」
「どれくらいいるんですか?」
「…えっと」
はて、友人の人数か…この場合だと莉音、あき、玉波先輩…思緒姉ちゃんと真実は家族だから違うとして……伊藤さんとの現状を踏まえると…うーん…
「さ…三、四人…」
「えっ…」
彼女は短くただそれだけ声を漏らした。おや?もしかして今僕は可哀想なやつだとか思われているのだろうか?中学生女子に哀れみの念を抱かれたりしているのだろうか?
「……先輩、ま…まぁ頑張ってください」
「なにを!?」
やはり彼女から僕に対する尊敬の数値がガタ落ちしている気がするので、ここはひとつ予防線を張っておく。
「し、親友の数だから!心を許せる親友の数だから!」
「え、えぇ…そういうことにしておきます。はい…」
どうやら逆効果だったらしい。これ以上何か言っても自分で傷口を開くだけなのでやめておく。
「それで、可愛川ちゃん。こんな友達もいない男子高校生に付き合ってくれなくたっていいんだぞ。お母さんを心配させないためにもとっとと帰るんだな」
「なにをいじけているんですか、別に私がなにをしようと私の勝手でしょう」
「とにかく、今僕はひとりになりたい気分なんだ」
「うわぁ…」
大人気なく。年下に対してこんな態度をとってしまう僕という人間はどうしようもないやつではあるが、そもそも僕はそれほど人として出来上がっていないので神様も許してくれる。というより多分可愛川ちゃんは僕よりかはちゃんとしているのであまり気にするような子ではないだろう。
「まぁそこまで先輩が言うなら私はもう帰りますけど、先輩もちゃんとお家に帰れますか?」
「家の場所くらいわかるわ!」
「そうですか、それじゃあ」
手を小さく振って公園を出る彼女の後ろ姿を見ながら僕はまたぼーっとする。……昼飯、なに食べようか。ひとりになりたい気分とは言ったが、こうもやることがないと少し寂しい気分になるな。
ラーメンでも食べに行こうかと考えていると、スマホに通知が入った。
【これから会えませんか?】
「莉音?」
莉音に指定された場所にやってきた僕は辺りを見渡す。飲食店が並ぶ人通りの多い通りで昼食をとるには最適な場所だ。まだ莉音はいないようなのでスマホをいじっていると、通知が来ていることに気づく。玉波先輩だ。
【今日はお暇ですか?】
…なぜ敬語?一応はこれから莉音と会うことになっているので断りの連絡を入れておく。なんだったんだろう。後で確認だけでもしておいた方がいいだろうか。
その時、僕の服を誰かが引っ張った。
「うわっ!?」
莉音だった。
【こんにちは、陽満君】
「あ、あぁ…こんにちは」
いつのまに後ろにいたのか、全く気がつかなかった。
「と、ところで何の用だ?」
【はい、少しお聞きしたいことがあったのでお昼ご飯を食べながら少しお話ししませんか?】
「あ、あぁ…うんいいぞ」
聞きたいこと?まあ、とりあえず昼飯を食べることは賛成なので僕は莉音とともに歩き始めた。




