prologue
「……ねぇ、思緒姉?」
「なに、真実」
「兄貴あれどうしたの?」
「…そっとしておいてあげなさい。ハル君も多感な時期なのよ」
家のリビング、窓際でぼーっとする僕を眺めながら愛すべき妹と尊敬すべき姉がなにやら察してくれている模様だが、それはいらぬ心配なのでできれば放っておいてほしいものだ。
臨海学校から帰ってきた僕は、なにをするでもなくこうして無駄な時間を過ごしてしまっている。なぜかといえば、やはり伊藤さんの件が頭から離れないというのが大きい。あれから伊藤さんとはほとんど会話は無かったしそもそもなにか話すという気にはなれなかった。しかし、いずれは話さなければならない。ちひろのそして彼女のことは僕としても解決しておきたい事柄だからだ。
「ちょっと、バカ兄貴。ずっとそこでぼーっとされても邪魔だから外にでも行ってくれば?」
可愛い妹がアイスを食べながら僕に言う。言葉はやや辛辣ではあるが、実際は僕のことを気にかけてくれているに違いない。
「うーん、そうだな…気分転換になるしちょっと昼飯は外で食べてくるよ」
「…ハル君、私も…」
「ひとりで行ってくる」
「そう……」
思緒姉ちゃんには悪いが少々一人になりたい気分なのだ。ここは遠慮してもらおう。
家を出てしばらく歩き、とある公園へとたどり着いた。……ここは僕にとっても…そして多分彼女にとっても思い出深い場所だろう。あの頃と同じようにブランコに座りまたもぼーっとしていると、誰かに声をかけられた。
「こんにちは、先輩」
「……ん?」
「なにしてるんですか?」
ブランコに座る僕に話しかけてきたのは、女子小学生……いや、確か一応女子中学生だったか…
「えっと……可愛川ちゃんだっけか?」
「そうです。先輩、高校生なのにまた公園でひとりで遊んでるんですね。以前は別の公園でしたが」
「……まぁ、僕にもいろいろあるんだよ。それより可愛川ちゃんこそなにしたんだ?」
「私は母からお使いを頼まれてその帰りです」
確かに、彼女の手にはスーパーのレジ袋が握られている。なるほど、僕のように日中からやることがなく公園でぼーっとしている男にもわざわざ話しかけてくれるとは…もしかして彼女は天使かなにかなのだろうか?
小学校高学年程度の身長に凹凸のない体つき、うなじあたりにまとめられた小さなポニーテール。彼女、可愛川 瀬里奈は小さく笑う。
「もしかして先輩、一緒に遊ぶお友達がいないんですか?」




