番外:カレーライス
「それでは各自くじで決まった班に分かれてください」
手元のくじに書かれた13という数字をじっと見る。
…ありえないでしょ……なんだって学年もクラスもバラバラになる必要があるの?同じクラスの子となら少しは会話する自信があるけど……違うクラス、ましてや学年すら違う生徒と一緒に料理するだなんて正直言って拷問だわ。
「玉波さん、くじの結果はどうだった?」
「ひえっ!?あ…13だった…」
びっくりした…いきなり声をかけられて変な声出してまったじゃない…
「13か〜残念、一緒じゃないね」
「そ、そうね」
ここでうじうじしていても仕方がないのでとりあえず同じ班の生徒を探す。臨海学校のしおりに書かれた調理場と広場が描かれた図に各班の集合場所が書かれているのでそこに行けば大丈夫なはずだ。
「ふふふっ…もしかしたら家内と一緒になれるかも…」
流石にそう都合よく物事が運ぶなんて思ってないけれど、もし一緒の班になれたらそれ以上に嬉しいことはない。ここで料理の手際の良さを見せつけ、さらには家内とふたりで料理すれば好感度アップ間違いなしだわ!
図の指示通りの場所に着くと、数人の生徒が集まっているのが見える。………………って!いる!いたわ家内!!!!
私のテンションが跳ね上がり、同時に緊張で心臓の鼓動が早まる。…………ん?
ほぼ最高潮にまで達していた私のテンションがだだ下がる。家内の隣に見たことのあるでかい女がいるためだ。さらに周りに顔見知りしかいない。え?もしかして誰かくじに細工でもしたの?どんな確率よ…
「あ、玉波先輩も同じ班なんですか?」
「え、ええそうよ。喜びなさい家内」
家内の声を終業式の日以来に聞いたのでとても嬉しい。そうだ、せっかくの夏休みなのだから今度どこかに遊びに行こう。もちろんふたりっきりで。
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「それじゃあまず僕は鍋と薪を取りに行ってくるんでみんなは野菜の下準備をお願いします」
「ハル君、ひとりで大丈夫?お姉ちゃんが手伝ってあげるわ」
「いいって…」
「ふっふっふ、家内…野菜のことは私に任せてあなたはとっとと鍋でも薪でも取ってきなさい」
「…は、はぁ……じゃあお願いします」
完璧ね!!!夫を送り出す妻として完璧な対応だったわ!
「…玉波さん、あなた久し振りにハル君に会ったからって少しから回っているじゃない?」
「そ、そんなわけないでしょ!?」
確かに緊張はしているけど……
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「よし、野菜を切るわよ!」
「…なんだか不安ね」
「なにがよ!?」
料理をしたのは家内にお弁当を作った時が最初だったけど、あれからほぼ毎日料理をして私の腕も上がっているんだから!
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……家内さんのに比べて私が切った野菜はなんだか不恰好ね……
まな板の上に置かれた同じ種類の野菜とは思えないほど違いのある2つの山を見て、私は少し落ち込む。……ま、まぁ最近料理を始めたにしては私だって綺麗なほうよね…それに鍋に入れてしまえば全部同じよ!
「あ、野菜切れました?こっちも鍋の準備できたんで持ってきてください」
「ええ、わかったわハル君」
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「家内、隣いいかしら」
「熱いですよ?」
「構わないわ」
火の番をする家内の隣に腰を下ろす。
「あなたのお姉さんはすごいわね」
「どうしたんですか急に…」
「あの人、なんでも完璧にこなすじゃない。弱点なんてないんでしょうね」
「あはは…どうでしょう……」
「……」
「……」
どうしよう……話の続きが思い浮かばない。このままだと面白くない女とか思われてしまうかもしれないわ…なんとか会話を続けないと…
「先輩夏休みに入ってからどっか行きました?」
「へっ!?」
「ほら、1週間くらいあったしどこか出かけたりしたのかなと思って」
「あ、そうね……」
出かけたりなんてしていない。ひとりで行きたい場所なんてないもの。
「家内は?家内はどこかに出かけたの?」
「いや〜それが休みってなると寝てばっかりでほとんど家から出てないですね」
「……そう…そ、それじゃあわた「ハル君、ご飯も炊けたわ。カレーはどう?」
「ありがとう思緒姉ちゃんカレーももう大丈夫だと思う。っと玉波先輩最後なんて言いました?」
「……ううん、なんでもない」
……また…また誘えばいいだけよね。それに今は家内さんの目もあるし……うん、だから今は家内との臨海学校を楽しめばいい。




