6話『リンカイガッコウ』
あきとの契約が、莉音との関係が、そして玉波先輩との出会いが良くも悪くも少しずつ僕の日常を変えてきた。そして彼……いや、彼女との再会もまた
玉波先輩との一件から数週間が経ち、夏休みに入った僕は眠い目をこすって学校を目指していた。
「ハル君、眠いのならお姉ちゃんがおんぶしてあげるわ」
「いや、いいよ……」
思緒姉ちゃんとふたりで行く通学路は違う学校の生徒達も夏休みのためかいつもよりもなんだか人数もまばらだ。
「それより思緒姉ちゃん、なんでそんなに大荷物なんだ?2泊3日っても所詮は臨海学校だぞ」
「所詮?その考え方は間違っているわハル君。ハル君と過ごす臨海学校なんてこの先もう一度あるかどうかなのだから、海ではお姉ちゃんと一緒に泳いで夜は楽しくお姉ちゃんとカードゲームをして遊ぶのよ」
「えぇ…」
なぜそんなにも遊ぶ気満々なんだお姉ちゃんよ。そんな会話を楽しみながら学校に着き、クラスごとに分かれて点呼をすませる。そしてバスへと乗り込み座席に座る。
「お、隣同士だな陽満」
「あぁ、伊藤さんが隣で助かったよ」
「どういうことだ?」
「いや、なんでも」
実際、もし教室と同じようにあきと隣同士になっていたらまたなにかしらの命令を下されそうだ。流石にここんな朝早くにそんな元気はないのでできればゆっくりしたいのが本音である。
「陽満」
「ん?」
「楽しみだな」
「うん」
明るい笑顔で微笑む伊藤さんに、僕も笑顔が溢れる。
……おっと、しまった。いつのまにか寝てしまっていた。……ん?
「伊藤さん?」
これは……まさか…あれか?伊藤さんが僕に寄りかかり、頭が肩に乗っている。電車で疲れた女子高生がつい眠ってしまい寄りかかってくるというご褒美タイム的な?
「……」
起こすのも悪いし、このまま起きるまで放っておくか。うん、それがいいな。僕は到着時間を確認してからまた一眠りすることにした。
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あぁ、幸せだ。まさかこうして陽満さんの肩に寄りかかれるなんて。出席番号順にしてくれた担任には感謝しても仕切れないな。それにしても……さっき陽満さんが起きた時は流石に焦ったな。嫌がられなくて良かった。
鼻呼吸多めにして、陽満さんの匂いを堪能する。寝相を調節するために少し頭を擦るようにして動かすことも忘れない。
幸せだ。どうせなら陽満さんの頭も私に寄りかかりらようになればなお良いのだけど、まぁそれはいつかやって貰えばいいか。
それにしても楽しみだ。あぁ、一体どんな顔をするのかな……早く伝えたいな…私があなたのちひろだって。
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「それでは、事前に引いてもらったくじに従って班に分かれてください。昼食は各班で協力してカレーを作ってください。」
3年生の主任の掛け声に従って、生徒達が大移動を開始する。この課外授業では、学年の垣根を超えた体験をしてもらおうとこのように完全に学年クラスバラバラの班分けをすることが結構あったりする。初日の昼食作りもそのひとつだ。
……でも
「ハル君、危ないからハル君は座っておくだけでいいわ。…いえ、やっぱりお姉ちゃんが手取り足取り料理を教えてあげる」
「なに言ってるの家内さん、家内は私と一緒に美味しい愛妻カレーを作るの。邪魔しないで」
【よろしくお願いします。陽満君】
「ははは、騒がしいチームだな陽満」
……協調生が無さすぎる!!!!!!
といつかどんな確率だこれ、僕たちのくじだけなにか細工されてんじゃないのこれ!
「あら、玉波さんいたの?気づかなかったわ。あなた小さいから」
「はぁ?アンタがデカすぎるのよ!」
「まぁまぁ、シロ先輩に陽満のお姉さん。同じ班なんだから喧嘩は良くないぞ」
……あぁ、先が思いやられる。
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結果として、カレーはめちゃくちゃ美味しかった。いや、そもそもあのメンバーで失敗する方がおかしいのかもしれないが。しかし玉波先輩と思緒姉ちゃんは結局最後までなにか言い合ってたな…もしかして逆に仲が良かったりするのか?
一応課外授業ということもあって、今現在僕たちは地元では有名な史跡等の見学をしているが真面目に見学したり説明を聞いたりしている生徒はほとんどいない。まぁ、そもそもこれだけの人数があれば順路に従って動いてもかなりの時間がかかるのでじっくり学ぶ時間などほとんど取れないが。
僕もクラスの塊について適当に進んでいると、いつのまにか近くに来ていた伊藤さんに話しかけられた。
「そうだ、陽満明日の夜クラスで肝試しをやるという話があっただろ?あれ一緒に行ってくれないか?私怖いのダメなんだ」
「へぇ、伊藤さんでも怖いものがあるんだ」
「なんだ、心外な言い方だな」
「ごめん」
ほっぺを膨らませて怒る伊藤さんはなんだか新鮮な感じがした。
それにしても肝試しか…クラスのレクリエーションとか言っていたが、僕も怖いの苦手なんだよなあ……そういえば、今日はまだあきからの接触がほとんどなかったな。後で一応様子を見てみるか。
「それで、どうなんだ陽満。一緒に行ってくれるのか?」
「え?あぁ、うんいいよ」
「そうかそうか!ありがとう。嬉しいよ」
なんだか伊藤さんの反応は大げさな感じもするが、喜んでくれているので良いとしよう。うーん、とりあえずは情けない姿を見せないように努力してみるか。
僕は
僕はこの時まだ知らなかった。この臨海学校を機に、僕と周囲の関係が少しずつ、歪んでいくことを




