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ヒミツ  作者: 爪楊枝
序章
3/109

2話「フタリ」

挿絵(By みてみん)



「ねえ、それ私のタイツなんだけど。」

「え…?」


思わず素っ頓狂な声を上げてしまうほど、女子生徒から発せられたそれは堂々と、それでいて人のことを嘲笑あざわらうかのようなそんな涼しげな声だった。


「だから、今君が被ってるタイツ。それ私のなんだって」

「あっ!これは…その…」


終わった。学校生活はもちろんのこと僕の人生が崩れる音が聞こえた。こんなコトを知られてしまったのだ。どう考えても反省文では済まない。これから先、毎日のように新体操部の部室に入り込み女子の所持品の臭いを嗅いでは興奮していた、そんな童貞ゴミクズ変態クソ野郎として、家内いえうち陽満はるまの名前は報道されたりするのだろう。


僕がそんなことを考えていると女子生徒はもう一度口を開いて言う。


「それ、毎日やってたの?」


一瞬なにを聞かれたのか分からなかった。

いかにも落ち着いた雰囲気で彼女はあろうかとか僕に質問を投げかけたのだ。普通、こういった行為を目の当たりにした女子というのは叫んで助けを求めたり、逃げたりするものではなかろうか。


「いや、その…」

「ふふ、家内君がいつも急いで教室を出て行くから気になってつけてきたけど、面白いもの見ちゃった。」


僕の苗字を口にした女子に対して、さらに驚く。

そして、今までなぜ気がつかなかったのか不思議なほど自分が犯していた過ちに気付く。


「お前…立花…?」

「なにその反応、初めて会ったわけじゃないのに。」


自分の愚かさに、怒りすら湧き上がる。

なぜクラスメイト一人ひとりの名前と顔くらい覚えておかなかったのか、なぜ()()()()()()()()が新体操部に所属していることくらい、把握していなかったのか。


うなだれるように絶望する僕を見て、またも




立花たちばなあき》が言葉を紡ぐ。



「黙っててほしい?」

「え?」


先ほどからこの女子はなぜこうも落ち着いているのだろうと驚きながらも言葉を返す。


「黙ってて…くれるのか?」

「でも条件があるの。」


もう、驚きすぎて意味わからなくなってきた。

だけど助かるためにはなんでもしよう。しなければ、待つのは死だけなのだから。


「……条件?」


立花は先ほど見せた無邪気な笑顔でこう言った。


「私の言うことをなんでも聞いて、私だけのおもちゃになって。」

「……は?…なんだそれ…」

「まあ、返事は聞かないし家内君に拒否権は無いけど。」


そう言いながら、立花はスカートのポケットからスマホを取り出しパシャリと一枚写真を撮った。え?女子のスカートってポケット付いてたの?という疑問を即座に捨てるほどの絶望が僕を襲う。部室に忍び込み、あろうかとか女子のタイツを頭にかぶった姿を写真に撮られてしまった。とっとと外しておけばこんなことには…とも思ったが忍び込んでいる時点でアウトだった。


「ちょっ!?その写真どうするんだよ」

「ん?いやあ流石に私と君だと力に差があるからさ、いざという時の脅しの材料にするの。」

「脅しって……」

「それより、はい」


立花がスリッパを脱いで、足を僕の前に差し出す。


「え?」

「舐めて」


顔を赤らめ、普段教師や友人には絶対に見せないであろうひどい笑顔を晒し立花は言う。


「返事は聞かないし、拒否権は無いって言ったでしょう?誰にもバラされたくないなら…舐めて」


こいつ、自分がなに言っているのか分かってんのか?

いや、こっちもこっちでなにしてるんだって状況だけどとにかく逃げ道は無い…それなら、やるしかない。


そう判断してからの行動は早かった。

決して立花の、黒タイツで包まれて蒸れた足を舐めたくなったなんてことは断じてないが自らの名誉を守るために僕は被ったタイツを口元からおでこあたりまで上げて、立花の右足の親指あたりを舐めた。


「契約完了だね。」


なるほど、これは契約だったらしい。

契約なら仕方ないね。


ーーーーーーーー


「そろそろね、家内君終わっていいよ。」


どれほどの間足を舐めていただろう。梅雨の季節でただでさえ蒸れていたタイツがベトベトになる程度には舐めた。


ひどく興奮して、頭がくらくらする。


「あと10分で昼休みも終わるし今日は終わり。明日また昼休みにここに来てね。」

「ああ…うん、わかった。」


「あ、あとそれから…」


なにか思い出したかのように立花は、自らのスカートの中に手を突っ込みおもむろに黒タイツを脱ぎ始めた。


「えっ!?なにやってんの!」


思わず口に出して驚いてしまったが、立花はシュルシュルと黒タイツを脱ぐと、僕の方へ近づきそして今の今まで僕が被っていたタイツを取って


履いた。


そして僕に先ほどまで履いていた黒タイツを被せると立花は鼻歌交じりにひとりで部室を出て行く。


「あ」


放心状態の僕がぼーっとしているとドアを再び開けひょこっと顔を出した立花が、あの邪悪な笑顔でこう言ったのだ。








「2人だけのヒミツだよ。」






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