prologue
目で見えるものを、どれだけ信じていいと言えるのか…案外人間の脳みそは適当らしいと、テレビやネットでもよく見かける。そして人の抱える《ヒミツ》というのは隠されていることがほとんどなので、ただその人物を見るだけでは分からないことの方が多い。自分の目に見えるものが全てではないと僕は断言する。
ーーーーーーーーーーーーーーー
【今日も暑いですね。】
「そうだな。」
遊園地へ行った次の日、つまりは月曜日。僕は莉音と共に学校に向かっていた。相変わらず朝から暑いがこの時期の救いといえば月末から夏休みに入ることである。といっても高校2年の夏休みなんて就活や進学のためのインターンシップやオープンキャンパスなんかで潰れたり、部活動の大会に出たり大忙しだろう。まあ、僕は暇だけれど。
部活動なんて入っていないし、一応進学希望ではあるもののオープンキャンパスなんてまた別の機会でも十分だろうと思っている。そう、僕は夏休みの課題なんて8月31日の夜にやる派だ。典型的なダメ人間である。
【そういえば、今日は朝全校集会が体育館でありますね。】
「あー…そういえばそうだったな、忘れてた。」
僕の通う高校では夏休みの第2週、金土日の3日間夏の林間学校もしくは臨海学校へ行くのが恒例行事となっているのだが海か山どちらに行くか、その年行くことになる場所の紹介と共にどちらに行くかのアンケートを配るために毎年この時期に全校集会が行われる。アンケート結果がおおよそ半々だった場合海組と山組に分かれていけるのだが、もし片方が少なかった場合は多かった方に強制参加となるため悲惨だ。
「莉音はどっちに行くかもう決めたのか?」
【私は、陽満君の行く方に行きますので…できればどちらか教えていただきたいです】
「そ、そうか?どちらかといえば海かな…」
莉音が照れながらスケッチブックを見せてくるのでこちらもなんだか照れてしまう。それに、海に行けば無条件で莉音の水着姿だって見れてしまうかもしれないので男として海を選ばないわけにはいかなかった。
…………それにしても、やっぱり落ち着かん。
今僕は莉音の横を平然と歩いてはいるが、内心ものすごくビビり散らしていた。なぜなら今僕はあきのパンツを身につけているからである。
「月曜日もう一度それを履いて昼休みまで過ごしてね。そしたら部室でまた交換!」
このあきの命令を、僕は堅実に守っていた。しかし、普段とは違う感覚につい歩き方が変になってしまうので
【本当に大丈夫ですか?具合が悪いなら今からでも休むべきなんじゃ…】
このように莉音に心配をかけてしまっていた。
「だ、大丈夫だって!ほら!学校まで競争だ!」
いろんな意味で限界を感じた僕は、逃げるように学校への道を急いだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「以上が、今年の臨海及び林間学校についての説明でした。続いて、本日より復学する生徒の紹介と表彰等の授与式に移ります。」
はぁ…退屈だ。
そもそも体育館は冷暖房が設置されていないためこの時期ものすごく暑くなる。さらにはそこに全校生徒と教師たちも入るとなれば、その熱気はものすごいことになるのだ。
「えー…ではまず本日より3年生に復学します。家内思緒さん。」
「はい。」
はあ……全く、こんな時期に復学なんてなにを考え…………………………………え?
あれ?聞き間違いかな?なんだか聞き覚えのある名前と声が聞こえた気が……教師から紹介された生徒は、マイクを受け取ってから簡単な挨拶をする。
「本日より復学する家内思緒といいます。よろしくお願いします」
いや、いやいやいや!なんで急に…思緒姉ちゃんの挨拶が終わると同時に体育館内が騒つく。主に男子生徒によって
「すげーかわいくね!?」
「まじか!同じクラスだといいなあ!」
「お、俺告白しようかな!」
口々に騒めく館内を鎮めるように先生が声を出す。
「静かに!続いては表彰等の授与式に移ります。名前を呼ばれた生徒は返事をしてから登壇してください。」
な、なんで思緒姉ちゃんが急に復学なんて…いつのまに手続きとか済ませたんだ!?
「美術部3年、玉波 姫。」
「はい」
か、母さんは知ってたのか?まさか勝手になんてことはないだろう。ないよな?全校集会中僕は他のことなど気にもせずに、ただ今起こったことに対する出来事に対しての考えを巡らせることしかできなかった。




