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ヒミツ  作者: 爪楊枝
ヤクソク
12/109

3話「オムライスはコイのアジ」


「なるほどね、2人で隠れてこんなことしてたんだ」


ゆっくりと、確実にこちらに近づく足音が聞こえる。


「……立花…?」


なぜここに立花がいるのか、この状況をどう打開すればいいのか…一度に色々起きすぎて、頭がショートしそうだ。と、とにかくまずは説明をしなければ。


「立花っ!これは…もがっ!?」


急に莉音りおんが僕の頭を強く押さえ自らに押し当てる。い…息が…!


「まったく…ひどいよ。私は『待て。』って言ったのに、そんな簡単なことも守れないだなんて」


「貴女には聞いてないんだけど?」


…なんだ?立花が一人で喋って…まさか莉音が対応しているのか?


「悪いもなにも、陽満くんは私のものってことになってるの。勝手に手を出されても困るのよ。」


一体どんな会話をしているのか、僕には想像もできないが莉音が僕のシャツをギュと握る仕草からその気持ちの強さが伝わってくる。そしてそれは、普段友人や教師と話すような可愛らしさの残るものとは全く違う立花の声色からも伺える。


「………は、はぁ!?」


ここで初めて、立花が焦ったような驚愕の声を上げる。一体なにを言われたのか


「わ、私は別に…」


「そ…それが一体なんだっていうのよ…」


「なによそれ、結局それだって貴女のわがままじゃない!」


「…そう、でもそれだけは譲れないわ…陽満くんと私には2人だけの《ヒミツ契約》があるんだから。」


ふたりの…会話?がどのような内容なのか、気になってしょうがないが何もできない自分が本気で情けない…一体、立花と莉音はなにを話しているのだろう。

雰囲気から察すると、なにか言い合っているようにも聞こえる。


「…………好きにすれば良いんじゃないの…私が貴女と陽満くんの交友関係を邪魔するわけにもいかないし」


握り締められていた莉音の手が離れ、再び優しい手つきで僕の頭を撫で始める。


「勝手にして、私は帰るわ」


足音がこちらに近づいて、立花の声がする。


「それじゃあ、また明日。陽満くん…」


恐らくあの、無邪気な子供のような笑顔をみせているだろう立花の挨拶が聞こえた。話が終わったのか立花がその場を去る音が聞こえ、扉の開閉音が聞こえた後にはただただ煩い蝉の声とそれとは対照的に静かな莉音の優しい手の感覚だけが僕に残っていた。


そして、このことがきっかけで僕と立花と莉音三人の関係が少しずつ変化していくことをこの時の僕はまだ知るよしもなかった。




ベッドに寝転び、天井を見る。今日起きたことを思い起こすが、上手くまとまらない。


「はぁ…明日からどうすればいいんだ…」


立花はまた明日と言ってくれてはいたが、正直今日の僕の醜態を見て良く思うなんてことはないだろう。莉音も結局あの後、手錠をすぐに外してくれたが立花とどんなことを話していたかまでは頑なに教えてくれはしなかった。


「明日…昼休みに立花に聞いて見るか」


もちろんそれは立花が昼休みに今まで通り来てくれたらということになるが、立花の言った「また明日」という言葉を信じるしか僕に残された道はなかった。なにより、いちどそれで立花を怒らせているのだからこれ以上刺激しないことにこしたことはない。


「兄貴ー!ご飯だぞー!」


ひとりで悩んでいると、下の階から妹の声が聞こえる。昨日から両親が旅行に行っているため、夜ご飯と朝食は持ち回りでみんなの分を作ることになったのだ。昨日は僕がチャーハンを作ったので、今日は真実まなみが夕飯を作る番だった。


「悩んでもしょうがなし!可愛い妹の手料理でも食べて英気を養うとするか」




「おお!今日の夕飯はハンバーグかあ〜やったぜ〜!」

「違うっ!オムライスよ!!」

「そっかそっかオムライスかぁ〜オムライスも好きだぞ俺は〜」

「そ、そう!なら早く食べてよね。洗い物もしなくちゃいけないんだから」


椅子に座り、目の前に置かれた黒い塊にスプーンを当てるとサクリといい音を鳴らした。なにか心配そうな妹が見えるが僕は気にせず、そのままの勢いとスピードですくった物体を口へと運ぶ。


そして間髪入れずに


「うまいっ!!!!」


と、一言。


するとどうだろう、先ほどまで心配そうだった真実の顔がみるみると笑顔になり


「そ、そう!?そうよね!ほら!おかわりも沢山あるからいっぱい食べて!」


こうなる。愛する妹の作った料理が不味いなんてことはあり得ない。そう、あり得ないのだ。プルプルと痙攣し始めた腕に無理やり力を込めて、最大限の笑顔を作り僕は言った。


「全部持ってこい!僕は腹が減っている!!!」



「ハル君…私や真実のことを考えてくれたのは分かるけれど、アレを全部食べるなんて体に悪いわ…。」


真実の作った美味しいオムライスをペロリと平らげた僕は、なんとか風呂には入れたが満腹のため苦しくなり自室で思緒姉ちゃんに看病されていた。決して、お腹を壊したわけではない。


「ははっ…悪いな思緒姉ちゃん、俺のせいで真実とカップ麺だなんて…」

「それはいいけれど、正直に言ってあげないと真実の為にもならないとお姉ちゃんは思うの」

「そうだな…でも…真実が誰かのために作ってくれたものが原因であいつが傷つくところを見たくないから…」

「ハル君…まだあの時のこと覚えていたのね」

「忘れないさ…絶対に忘れない」

「…いけない、なんだか辛気臭くなったわね。それはそうとハル君。最近の学校生活でなにか変わったことはあった?」


思緒姉ちゃんが急に話を変えてきた。

学校のことは、正直あまり聞いて欲しくないし答えられないことの方が多いので非常に困る。


「たとえば…そう、先日一緒に登校してた女の子…とか」


腹の痛みが一気に引いて、今度は背筋が凍るような感覚が襲ってくる。


「り…の、野美乃さんのこと?」


莉音と名前で呼びそうになり、すんでのところで言い直す。


「そう、あの子は野美乃さんというのね。それでその野美乃さんとはどういう関係なのかしら?」

「か……関係って言っても、ただの友人というかなんというか…」


攻めた質問を繰り出す思緒姉ちゃんに対して、あやふやな返ししかできない。


「友人…ね。私は別に男女の間に友情がどうとか言うつもりはないけれど、友人というのは腕を組んで一緒に登校したりするのかしら」


的確なツッコミに思わずなにも言い返せない。


「お姉ちゃんは、ハル君の嘘くらい簡単に見破れるのよ。正直に言いなさい」

「こ…」

「こ?」

「告白…された…」


思緒姉ちゃんが目を細める。


「そう、ハル君は了承したの?」

「いや、まだ答えは出してない。急がなくてもいいって言われたから…」


姉に話せる範囲内でなるべく怪しまれないように、答える。


「それじゃあ、あの子は一方的にハル君に交際を申し込んで付きまとっているってことね。」

「え?いやいや違う違う!まだ互いに知らないことだらけだからもっと仲良くしましょうねってことだろ!?」


告白されたことなんて初めてなので、確証は無いが


「あら、そうなの?なるほど…」


思緒姉ちゃんは昔からモテて、告白もよくされていたらしいからこういうことは詳しいと思っていたが、どうやらそうでもないようだ。


「と、とにかく莉音との関係はまだ何ともなってないから!」

「莉音?」

「あっ…」


つい、そのままの勢いで名前で呼んでしまった。


「あのハル君が…私や真実以外の女の子を……名前で?」


珍しく思緒姉ちゃんが驚愕の表情を見せる。


「と、友達なんだから名前でくらい呼んだりもするさ!な?大丈夫だって!」

「………。」


黙ったまま思緒姉ちゃんは立ち上がり、扉の方へ歩いていく。


「し…思緒姉ちゃん?」

「…………………ハル君」


部屋から出て、ドアを閉める直前に思緒姉ちゃんから質問される。


「は、はい」

「ほかに、女の子のお友達がいたりなんて、しないわよね?」

「あっ…えっと…」

「そう……いるのね…。わかった」


そう言い残し、思緒姉ちゃんはドアを閉めた。



「いったい…なんなんだ…うっ!?」


急に緊張が解けたからか、腹の痛みが再び襲ってきて僕はそのまま意識を手放した。




「うー…ん、もう…もう食べれね…よ……はっ!?」


何か悪い夢を見ていたようだ。内容は覚えていないが、大量のなにかが押し寄せてくるような…そんな感じだった。


「…眠い。」


時計を見ると、まだ早朝の6時。学校へ行くまでまだ余裕がある。とりあえず、寝巻きのまま部屋を出てリビングへ向かおうと階段まで行くとなにやら良い匂いが1階から漂ってくる。


「そっか…今日は思緒しお姉ちゃんが当番か。」


昨晩、なにやら思いつめていたようにも見えたがやはり長女としての思緒姉ちゃんは完璧だ。こんなに朝早くから朝食の準備を始めているのだろう。匂いに釣られて1階まで降りたところで、思緒姉ちゃんの声が聞こえた。


「そう、あなたの思いは大体わかったけれどやっぱりあの子の相手として認めるわけにはいかないわ。」


誰かと話してるのか?リビングのドアを開けて確かめる。


「おはよう、思緒姉ちゃん今日の朝はなんだぁあ?」


自分が見たものが信用できず、変な声が漏れる。なんとそこには、美女と美少女がいたのだ。リビングに入って、まず目に入ったのはソファーに座ってモーニングコーヒーを嗜む姉。そして、カウンター式のテーブルを挟んだ向こう側で料理をしている莉音の姿だった。


「あら、おはようハル君。よく眠れたかしら?」

「あら、じゃないが」


なんだ…どういうことだ?

思緒姉ちゃんと莉音は知り合いだったのか?


【おはようございます、陽満はるま君】


わざわざ用意したのか、莉音は大きなスケッチブックに文字を書いて意思表示をする。うん、なんだか必死な感じで可愛いく思えるな。いい仕事をしてるな!スケッチブック君。


「なんで莉音が料理してるんだ?」

「そのことなら野美乃のみのさんがさっき訪ねてきてね、ハル君と一緒に登校したかったそうよ。」

「いや…それでも早すぎるだろ?」

【そ、それは陽満君がメッセージで今ご両親がお家にいらっしゃらないと言ってたので…】


あぁ、たしかにそんなことをメッセージの会話の中で伝えた気がする。


「…なるほどな!じゃあ楽しみにして待ってる。」

【はい!急ぎますね!】


思緒姉ちゃんがソファーに座っているので、仕方なく床に座る。心なしか思緒姉ちゃんの視線が冷たい。しばらくして、ドタドタと2階から音が聞こえ始めた。


「やばいやばいやばい!寝坊した!朝練に遅れちゃう〜!」


どうやら、マイシスターがお目覚めのようだ。真実は吹奏楽部に所属しており、朝は比較的早く家を出る。しかし、昨日僕がオムライスを褒めて上機嫌だったためか真実は夜遅くまで何かしていたらしくいつも家を出る時間の直前に目覚めてしまったようだ。やれやれ、我が妹ながら可愛いやつだ。


僕は莉音が食器と料理を並べて始めたのでそれを手伝いう。


僕と姉そして莉音の三人分。真実が部活で朝はあまり食べないというのを伝えていたためか、真実用に少なめのお弁当が用意されているあたり流石である。階段を駆け下りてきた真実が走りながら玄関へ向かう。


「行ってきまーす!」

「ああ!真実!弁当あるから持ってけー」


すると靴を履いたまま、床を汚さないように膝と手でハイハイをするようにして真実がドアから顔を覗かせる。


「マジで!?サンキュー!」

「いや、莉音が用意してくれたんだ。お礼は彼女にしてくれ。」


はい、どうぞ。そう言わんばかりににこやかな笑顔で莉音が真実に弁当を手渡す。


「あっ、どもども!ありがとうございます〜」

「真実、時間は大丈夫なの?」


思緒姉ちゃんの一言でハッと思い出したように真実が焦る


「あっ!そうだった。今度こそ行ってきますっ」

「気をつけろよ〜」


やはりバタバタと騒がしく家を出て行く妹。

あれで嫁の貰い手がつくのだろうか…



ーーーーーーーーーーーー



玄関を閉めて、駆け足で学校を目指す。もう!昨日兄貴に褒められたのが嬉しくてついオムライスをもっと上手く作れるように練習なんてしたから…


「やばいっ!マジで遅刻しちゃう!」


それにしても今日は弁当もあってラッキーだった。いつもならお昼休みまで我慢だもんな〜





…………………………ん?
















「今知らない女の人いた‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」








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