1話『それ、私のタイツなんだけど①』
雨、先生の声、黒板とチョークの音、生徒の雑談。その全てが雑音に聞こえて耳を塞ぎたくなる。そんな雑音から逃げるように机に伏して、髪と腕に隠れて私は君を見る。昨日までと同じ、今日もどこか不安げで心ここに在らずといった様子の君はチラチラと時計を気にしてる。
ジッと見つめても、私の視線には気づくことはない。
私のことを覚えているわけでも、今仲が良いわけでもない君だけが…私の唯一の心の拠り所だった。
チャイムが鳴って昼休みになると、君はいつも教室を出てふらふらと立ち歩く。そんな君の後ろを私がついて歩いていたことを、やっぱり君は気づいてなかった。ある日を境に体育館に侵入するようになった君が何をしていたのか知りたくて、私は忘れ物を取りに行くという名目で先生に頼み体育館の鍵を借りて君を探した。
トイレにも、ステージ裏にもいなかった君は私のロッカーの中にいた。私が近くに来ていたことをギリギリまで気づかなかったのか、服の裾がロッカーの隙間から垂れていた。
「……あ、あった」
別のロッカーを開けて忘れ物を取ったふりをして、部室を出た私は扉を少しだけ開けて中の様子を見る。少し経ってからロッカーから出た君はあろうかとか私の鞄の中身を取り出して匂いを嗅ぎ始めた。
「……」
夢中で私の匂いを嗅ぐ君を私はずっと見ていた。その姿を見て、気持ち悪いとも…やめてほしいとも思えなかったあの時の私は今思えば相当に壊れていたんだと思う。
私の中にあった燻るような感覚は日を増すごとに大きくなって、ついにあの日……歯止めが効かなくなった。
「それ、私のタイツなんだけど」
歪な征服感と期待感に歪められた私は、過去に蓋をして君の前に立った。
次回更新は19日です。




