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ヒミツ  作者: 爪楊枝
声涙
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5話『サナギ③』


「思緒姉〜夕飯食べないの〜?」

「ハル君が帰ってから一緒に食べる…」


一向に開く気配のない扉の前、廊下に体育座りしたまま思緒姉は私の問いに答える。


「……う、うぅ…どうしちゃだったんだろ思緒姉…」

「お姉ちゃんは陽満が心配なのよ」

「でもママ、いつもは思緒姉あんな感じじゃないよ?」

「いつもあんな感じよ、真実だって小さい頃はよくああしてお兄ちゃんとお姉ちゃんの帰りを待ってたでしょ」

「え?そうだっけ……うーん、そんな記憶ないけどなあ…てか、それだと思緒姉が小さい子みたいじゃない」

「そうね〜、思緒が昔に戻ったみたいで私嬉しいわ〜まだまだ思緒も子供だったのね〜ね、あなた」

「そうだね」

「……」


ママとパパは思緒姉の現状をどうにも思ってないみたいだ。たしかに兄貴が熱出した時なんかは思緒姉いつも過剰な看病しちゃうほど取り乱すけど……今回は本当にどうしたんだろう…原因として考えられるのは姫さんか兄貴となにかあったとかかな…





「……ハル君」


あれからもう1時間以上経った。それなのにハル君は戻ってこない。今まではハル君と離れてもこんなことにはならなかったのに…落ち着かない。何かあったんじゃないか…もしかすると玉波さんに何かされてるんじゃないかと、嫌な予感ばかりがよぎってしまう。


玉波さんとハル君の仲を応援すると彼女に言っておいて、いざ彼女が行動におこしてハル君と交わろうとしたことを知った今、私は焦っている。


「ハル君…」


膝をより強く抱きしめて顔を埋める。


情けないことに、本当にハル君が自分から離れてしまうと感じて、私は不安なのだ。どうしようもなく、壊れそうなほどに…胸が苦しい。ハル君を幸せにすることが私の幸せなはずなのに、他の誰かの影響でハル君が幸せになることがたまらなく辛い。


できることなら最後まで私の手で育てたい。私が甘やかしてあげたい。私の側にいてほしい。頭を撫でて、会話して…私が…私の…私と……浮かんでくるのはそんなことばかり。


朝からずっと、感情の制御が上手くできない。玉波さんにハル君を取られまいと意固地になったり、こうしてハル君と少し離れただけで泣きそうになったり……自分でもどうすればいいのかわからない。いえ、自分がどうしたいのかは分かっている…でも、そうするべきじゃない。


「……」


こうしてこの場所に座り込んでいるのも、結局はハル君が帰ってきた時に一番最初に話しかけてもらい、心配してほしいから…私のことをもっと見て、もっと感じて、もっと触って…そして知ってほしい。


今まで抑えてこれていた思いが……とめどなく溢れてくる。


その時、重かった扉が音を立てて動いた。


「ただいまー」

「…!!」

「あれ、思緒姉ちゃんなにしてんだここで…もしかしてずっと待ってたのか?」

「ハル…君」

「お、おう?」

「ハル君!」

「うわっ!?」


ハル君に飛びつき、力強く抱きしめる。


「ど、どうしたんだよ…急に…」

「ハル君ごめんね、頼りないお姉ちゃんで。でも少しの間だけこうさせて」

「…なにか知らないけど、大きい子供みたいだな…よしよし」


ハル君を抱きしめて、そして撫でられることで少しずつ気分が落ち着いてくる。


「思緒姉ちゃん」

「…」

「俺ちゃんと莉音やあきと絶対仲直りしてみせるから。だから思緒姉ちゃんもどうかあの二人を許してやってくれ」

「……!!」

「もう二度とあんなことにならないように、気をつけるから」

「……ハル君…」


私の願いとは裏腹にハル君の意思は固いようで、その表情は自信に満ちていた。


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