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A氏のQ.E.D

作者: リキ

 純白の世界、自分が立っている場所には影もできていない。


 一瞬で、「ここは夢の世界だ」俺はそう確信した。しかし、それにしても、何もない。


 夢とはもっとリアルに近いモノだと思ってた、確か深層意識がどうとか、記憶を整理するためにうんたらとか……。


 そんな話があった気がするが、俺って何にも考えてなかったんだなぁと、つくづく思う。


 自分の格好を見てみると、買った覚えのないGパンに白いTシャツ、そして、どこにでもありそうなスニーカー。


 白いTシャツはアルファベットでAと一文字書いてある奴ですごくダサい。


 せめて夢の中でくらい、もうちょいマシな格好しててもいいと思うんだが




 ぐるっと見渡してみる、前後左右上下360度


 この世界には空がない、壁がない、とにかく真っ白け 立っているんだから地面はあるんだが、触ってもツルツルとした感触があるだけで、何も落ちていない。



 夢の中って何でもしていいんだと思うんだが……こう何もないとお手上げだ。


 とりあえず、全裸になって踊ってみようかと思ったが、何故か夢の中なのに恥ずかしくなってやめた。


 よかった、夢の中でも俺の理性は正常運転らしい。


 とにかく歩いて出口を探す。もしかしたら、大きな建物の中かもしれないし、何か見つかるかもしれない。


「とにかく行動しなければ始まらないんだ」


 ポジティブに考えて目が覚めるまで歩き続けることにした。



 ーー



 かれこれ、数時間は歩いたか? それとも10分も歩いていないか? 分からない。


 お腹も空かないし、疲れないし、でも目も覚めない。


 夢の中で落ちると目が覚めるとかいうけど、落ちようにも段差一つ見つかりはしない。


 そのうち歩き回るのも飽きて来た頃、遥か遠くに何かが見えた。


 そっちの方へしばらく歩くと、(ようや)く何か判った、人だ。


 大声で叫んだ 「おーい!」 すると、向こうも同じように「おーい!」と返してくれた。


 俺は走った。


 何時間ぶりか、何日ぶりか分からない他人との出会いに俺は嬉しくなった。


 こういうシチュエーションだと、相手が若い女性とかだと嬉しいのだが、残念ながら俺と同じくらいの歳の若い男だった。


 しかも俺と同じ格好をしている。ただ胸のアルファベットはBと書かれている。うん、とてもダサい。


(あれ?知らない男だ 夢って記憶にある物とかが出てくるんじゃ……)


 相手も同じ感想だったらしく、向こうから声をかけて来た。


「あのー 初めまして……ですよね?」


「あ、はい そうっすよね!初めましてですよ!絶対」


 お互いの共通認識が出来た事を喜んだが、おかげで"ここは俺の夢説"が怪しくなって来た。


「俺、夢の世界だと思ってたんですが、ここっていったい……」


「いやー、俺もわかんないです 俺は宇宙人にでも(さら)われて宇宙船の中かと……」


 二人でしばらく座り込んで喋っていたが、何の進展もなかった。それどころか、ここに来てとんでも無い事が分かった。


 記憶がない それも二人共だ。


「やっぱり宇宙人の仕業ですよ! ほらキャトルミューティレーションです、キャトルミューティレーション!」


(何故こいつは自分の名前も覚えてないのに、そんな言葉を覚えているんだろう?)


 俺は少し呆れた。


「とりあえず、今は俺がAで、あなたがBで呼び合いましょう 宇宙船の中ならとりあえず端まで行けば何か見つかるかもです」


 俺は、Bにそう提案して二人で歩くことにした。記憶もないので会話も盛り上がらない。そのうち黙ってしまったまま歩き続けた。


「あ、Aさん!何かありますよ!何か光っています!行って見ましょう!」


 二人はやっと見つけた手がかりに喜び、走り続けた。


 ーー


 ようやくたどり着くと、そこは"池"だった。周りには若干の雑草が生え、石ころがゴロゴロ、申し訳程度の木が生えている。


 池の周りには霧が立ち込めており、池の対岸までは見通せなかった。


「死後の世界? って俺達死んだのかな?」


 俺はこの景色が、昔見た映画の三途の川原に似ているように思えた。


「いや、勘弁してください! 生きてますって、絶対生きてますよ!! ほら!」


 Bは無意味に腕を振り回した。彼なりの生きているアピールだろうか?


「とにかく池を調べて見ましょう」


 俺が提案すると、二人で池に近づいた。そこは何の変哲も無い只の"池"だった、生き物の影すらない。


 それから二人で、周辺を詳しく調べたが何も見つからなかった。


「どう? なにか見つかった?」


「いやーないっすね……って わぁあああ!!」


 Bが驚いて俺の方を見る、正確には俺の後ろを見た。俺は慌てて振り返ると恐怖で腰が抜けた。


 そこには大きな鎌を振り上げた白い頭巾を被った大男がいた。 


 シュッ!ザクッ! 


 その大きな鎌が目の前の地面に突き刺さった。


「うわぁあああ!!!」


 薄情にもBは俺を置いて逃げ出した。俺は腰を抜かしたままだったが、這うようにして必死に起き上がると、足を(もつ)れさせながら逃げ出した。


 もうBの事など構っていられない、俺は霧の中を必死に走った。まっすぐ一目散に……


 どこまで走ったのか……、もう振り切ったと思うが、恐怖から止まる事ができない。


 しかし、おかしな事にBの悲鳴が消えない。 それどころか、Bの声がだんだん大きくなってくる。 


(おかしい、Bとは逆の方向に走ったはずなのに)


 そう思っていると、突然目の前の霧の中から、Bが大男に追いかけられながら現れた。


「うわぁあああああ」


 Bは男を引き連れ、ドップラー効果の悲鳴を残しながらすれ違って行った。


(どうやら、あの大男は俺の方ではなくBの方に行ったらしい)


 安心して休もうとすると、ザクッザクッと変な音が俺の後ろから聞こえて来た。


 大男がいる!


 こっちに向かって来たのか、二人いたのか分からない。俺は必死に、また走った。


 ーー


「はぁはぁはぁ」


 さすがに息が切れて来た。もう走れないと思うと突然大男が後ろから追いかけてくる。


「何がしたいんだ!」


 俺は大声で叫んだ、


(俺をここに呼んだ奴は俺に何をさせたいんだ、異常者め!)


 もう、さすがに限界だと思った時、また霧の中からBが現れた。ギョッとしたが、後ろに大男はいなかった。


 二人は言葉も交わさず、同じ場所に座り込んだ。


「はぁはぁはぁ」「はぁはぁはぁ」


 もう、言葉を交わすのもしんどい。


 俺は仰向けに倒れ、大声で叫んだ


「殺せっ! 殺したいなら殺せ! 何がしたいんだこのクソ野郎!」


 Bも同じ考えだったらしい、何も言わず頷いていた。


 すると、どこからともなく声が響いた。



『ー求めよ』



 まるで演出過多の神の声のようだ。


「クッソ、何が求めよだ! 俺の希望はここから出る事だ! ほら求めてやったぞ!!」


 俺は声を限りに求めた。



『ー求めよ』



 再び、声が響く。聞こえていないのか!? 俺は何度も助けを求めた。


 だが、叶えられることはなかった。



 ーー


「Aさん」


 Bが青い顔でこちらを見た。


「Aさん、私たちずっと池の周りを回っていたみたいです。ほら、すぐ後ろに池が」


 俺が目を凝らして見ると、確かに霧の中に池があった。


「なっ!」


 驚いた。もうずっと池から離れたと思っていたのに。


 俺は絶望的な気分で再び仰向けに寝転ぶと、Bが隣に来て話しかけた。


「Aさん、なんかこれ(・・)、どこかで見た事ありませんか?」


「なんだよ、これ夢じゃねぇのかよ こんな場所、来た事ねぇよ!」


 他の記憶もないが、こんな印象的な場所なら覚えているはずだ。


「いや、あれ、池ですよね?」


「あぁ、でもあんな池見た事ねぇよ。 子供の時でも来たことねぇ 多分」


「いや、俺も見たことはないんですけどね、あのですね、変なこと聞くけど Aさん池を想像したことない?」


 Bは何を言っているのか? 本格的におかしくなったとしか思えない。


「俺、ずっと思ってたんだ。何で池の周りを走るのか、しかも何でお互いに逆方向へ行くのか、そしてまた出会うのか?」


「はぁ?」


「A君とB君は、結局何がしたかったんでしょうね」


「ちょっと待て、お前何言ってるんだ?」


「A君とB君が同じ地点を同時に出発して、A君は時計周りに分速60m、B君は反時計周りに分速30mで進む。二人が再び出会うのは何分後か求めなさい」


「はっ、……なっ」


 俺は声が出なかった。


「A君やB君は何で走ってたか、とか、そのあと家に帰ったとか書いてある問題を見たことあります? 僕はありません。 彼らはきっと池の周りを走るためだけに生み出された、あるいは連れてこられた存在なんですよ」


「馬鹿な!ありえるか!そんなこと!」


「何でそう言えるんですか? 例えば国語の授業で出てくる文学作品では、作られたキャラが作品の中に生きていると言えますよね? 感情を持ち、苦悩し、恋愛をし、家族までもつ つまり僕たちは……」


「言うな!」


 俺はBを殴りつけた。


「はぁはぁはぁ、 ふざけるなぁ!言うなぁ!」



『ー求めよ』



 再びあの声が響き渡った。


 求めよとは俺達に言っていた言葉じゃなかった。この世界の意思が、ただ一つの方向性が話している。俺達ではない誰かに。


「無理です Aさん これは世界の法則、法律です 絶対なんです 私たちは永遠に……」


 俺は反射的に、Bの首を締めた。 自分のものとは思えない力が腕に宿る。Bが苦しそうにもがいた。


 Bは暴れ、何とか俺の腕を外すと、池の方へ逃げ出した。


「Aさん、やめてください! こんなことをしてはダメだ! Aさん!」


 Bはザブザブと池の中に入って行った。俺は何も考えられず、Bを追いかけ、池の中に入って行った。


 俺はBに飛びつくと、頭を持って水の中に沈めた。


 Bは苦しそうに暴れたが、俺は必死に頭を押さえつける。


 ちょっとでも力を緩めるとBは復活して来そうだ、そうなれば今度は俺が殺されるかもしれない。


 その恐怖から俺はBの頭を押さえつけ、指先が白くなるまで力を込め続けた。


 バシャンバシャンと水面を叩くBの両手から徐々に力が抜け、Bの体がビクン!ビクン!と跳ねた



 俺はBを殺した。


「はぁ、はぁ、はぁ…… これでもう出会わねぇよ!」


 俺はBを殺した もうこの世界はぶっ壊れた ()とBは二度と出会わねぇ


 もう、大男は出てこなかった。



 ……



 あれからどれくらい歩いただろうか、俺はこの世界の最果てに来れたのだろうか?


 すると、俺の目の前に一軒の家が現れた。


「ただいま」


 何故か素直に、そう言葉が出た。



 ーー




「よぉ、問題出していい?」


「え、その本何? 数学?」


「違ぇよ、今さ"サイコパス診断"ってのが流行ってんだよ これに正解したらお前サイコパスな」


「ははは、何だよそれ、正解したらダメじゃん」


「じゃぁ、問題な "あなたが家に帰ると、死体があった。どうしますか?"」


「何それ、怖えぇよ! とりあえず逃げるわ あと警察に電話する」


「他には?」


「うーん、他は考えらんねぇなぁ で、サイコパスの答えは?」


「これ」


 >【一般人】逃げる 警察を呼ぶ 死体を処理する


 >【サイコパス】そのまま生活する



「そんな奴いねぇよ(笑) でもさ、この問題の下の写真の奴ってさぁ、リアルサイコパスなのかな?」


「まさか、モデルか何かだろ?」


「でもこいつ(・・・)めっちゃ怖くない? 目つきとか逝っちゃってるっぽいじゃん!」


 本の中から白いTシャツの若い男がじっとこっちを見ていた。


 そのTシャツには、はっきりとアルファベットのAの文字があった。


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