第三話 謁見
長くなったので、2つに分けました。残りは今日明日中に上げる予定です。
その日の正午、勇者とその一団は、無事に王都に到着することができた。
三ヵ月近くの時間を掛けての、のんびりとした行軍だったので、兵士の誰一人も欠ける事なく王都に帰還する事ができたのだった。
そして、それは昼時であったこともあり、駆け付けた野次馬に囲まれてしまった。
一時行軍を阻まれるというアクシデントはあったものの、早々に駆け付けた衛兵達によって、その後は何事も無く入城できた。
しかし入城すると一息つく間もなく、本日夕方より玉座の間にて、今回の魔物討伐の件で女王陛下との謁見が急ぎ執り行われる事になった。
女王陛下との謁見を許された勇者クロードとドナ、ベル、ルイの三人の聖女達、騎士団長マシュー、副団長ヘンリー、騎士ジャック、司祭ゲイシー、魔導師ゲインの計九名は貴人の間に通され、他の騎士達や兵士達とはここで別行動となった。彼らは各々の宿舎などに戻って行くこととなった。
謁見を許された九名は、聖剣を始めとする装備一式等を衛兵に渡すと、メイド達に食堂に案内されて軽く食事を摂った後、今度は風呂で身を清めるよう勧められた。
風呂から上がると、礼服等を持っていない勇者と聖女達は、謁見の為の服を既にメイド達によって用意されていた。
用意してもらった真新しい服に袖を通した勇者と聖女達はその時を待った。
そして夕方となり、玉座の間に入った彼ら九人は、片膝をつき首を垂れて、女王陛下が来るのを・・・特に馴れない勇者と聖女達は今か今かと緊張した面持ちで待ち続けた。
実際はかなり緊張していたせいで、時を長く感じていた勇者と聖女達だったが、女王達はそれほどの時間はかけずに入場していた。女王が玉座に座ると、多くの貴族達がが見守る中、彼らとの謁見が始まった。
「皆の者、面を上げよ!」
宰相の落ち着いた声で許可が出ると、勇者達は床に見ていたその顔を正面に見上げた。
そこには、正面の玉座に座るエスメラルダ女王陛下、その左側にフリードリヒ王配殿下、右側に大公のジョージ王太子殿下とマーガレット王女殿下の三人が玉座から少し後ろに下がった位置にある席に座ってこちら側を見下ろしていた。
「これより、第四次北部魔物領域の討伐遠征に関する褒賞及び叙爵の伝達式を執り行う予定ではあるが、その前に、女王陛下からお言葉がある。皆の者、傾聴されたし!」
玉座から腰を上げた女王は少し前に進み出でると、遠くまでよく通る声で話し始めた。
「皆の者、今回の魔物領域への討伐遠征、誠に大義であった。今回の遠征をもって、我々ティターニア連合王国は北の魔物共を完膚なきまでに討ち倒すことに成功した。これにて北伐は終了とし、同時にこれは我々の勝利を宣言するものである。」
周囲の貴族たちがざわつき始めるが、女王は咎めるようなことはせず、さらに大きな声で宣言する。
「ここに、我、女王エスメラルダ・サーシャ・マリーは北伐終了と我々の勝利を宣言する!!!」
周りの貴族たちは今度は遠慮せず大きな歓声が上がる。
しばらくして歓声が一段落して落ち着いてくると、宰相から大きな声が上がった。
「これより、第四次北部魔物領域の討伐遠征に関する褒賞及び叙爵の伝達式を執り行う!次に名前を呼ばれたものは前に出よ! 武勲第一等、ガントレット騎士団長スターフォード伯マシュー・ニューコメン卿!」
「はっ!」
と短く答えると、騎士団長はすぐさま立ち上がり、玉座の正面に移動する。
その時、首を下げていたので、周りに気付いた者はいなかったが、騎士団長の名前が呼ばれた瞬間、勇者クロードは顔を歪ませ苦い表情をしていた。
もっとも、次に呼ばれた勇者も同じく武勲第一等であり、騎士団長と勇者の褒美の内容もさほどの違いはなかった。共に奉書金が同額で違いは、伯爵でもある騎士団長の子爵位に対して、勇者は男爵位、あと爵位の差を埋めるように王家の所蔵する名剣の一振りを与えられた。
また、残りの七人の内容は似たり寄ったりで、ガントレット勲爵士とアザミ勲爵士と違いはあるものの、勲爵士と報奨金が全員に与えられることになった。
式典も終わりが近づいてくると、勇者に宰相からお声が掛かった。
「勇者クロード!今回の功績により、第三王女 マーガレット殿下との婚約を認められました。
これから約半年から一年の間、ダイカイ離宮にてマーガレット王女殿下と共に生活することになります。
その間は、王族として相応しい態度と振舞いを身につけることに専念て下さい。
その振舞いが王家の方々に認められた暁には、伯爵位とバシュターニュを領地として与える予定です。
また、マーガレット王女殿下が結婚可能な年齢14歳になり次第、結婚式の準備に入りますので、そのつもりでいて下さい。」
言い終わると宰相は女王に目配せをした。
「勇者クロードよ、王家の婚約者として恥ずかしくない振舞いを期待している。今後とも励むように!」
宰相の言葉を引き継ぐ形で、最後に女王から勇者へ激励の言葉が送られて締めくくられた。
女王を含む王族たちが玉座の間を退室して、式典は終わりとなった。
ようやく女王との謁見が終わって気緩んだところに、勇者達はまた宰相から声を掛けられた。
「このあと、勇者殿と聖女の御三方にお話があります。すぐに謁見の間にいらしてください。」
宰相の有無を言わせぬ会談の申し入れに、勇者と三人の聖女は困惑しながら謁見の間に向かうのであった。
どーでもいい裏設定
●爵位について
⓵個人で爵位を複数持つことができます。
複数所持してる場合、一番格の高い爵位を名乗ります。
⓶特別な事情が無い限り、爵位の降格はありません。基本、没収のみです。
今回の騎士団長のように、もし不祥事をやらかして伯爵位を没収されても子爵位が残ります。
通常であれば、新たに得た子爵位をすぐ嫡男に譲り、その後、家督を譲る際に伯爵位も譲ります。
但し、今回は騎士団長の長男は既に子爵位を持っている為、次男に譲る予定です。