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低ランク冒険家は竜王様を召喚してしまいました  作者: ラストシンデレラ
第1章 竜王、白竜のメルフィーヌ
9/24

09、ギルド、そして迷宮へ



 明くる日。

 僕はメルゥを連れてギルド『野郎の墓場』に来ていた。


「さあ、青の腕章(ルーキー)共! てめぇらガキ共の仕事は金を稼ぐ事じゃあねえ! 死なねぇ事だ! まずは生き残る事だけを考えろ!」


 朝からお酒臭いギルド内にて、黒い腕章を腕に巻く筋骨隆々の大男が、壁を背にして並ぶ青の腕章達に活を入れていた。


 毎朝恒例の行事で、古参のギルドメンバー達からは儀式(笑)と呼ばれている。


 怒らせると竜王の次に怖いと言われるこのギルドのマスター、ヴェッジホックさんの怒鳴り声を受けて、青の腕章達は顔を真っ青にしていた。 


 もちろん、そこに僕も含まれる。


「迷宮の魔物を相手に身を守れるのはてめぇだけ! いざっていう時に誰かに助けて貰えると思うな!」


 テーブルにゴォン! と拳を落とすヴェッジさん。

 僕の左隣に居る子がビクリと身を竦ませた。


 次いで顔を真っ青にした青の腕章(ルーキー)達を、なにやら獰猛な顔で眺めていく。


「朝から辛気臭え顔してんじゃねぇ! 腕章だけじゃなく顔まで真っ青かてめぇら、気を抜いてたら死ぬぞ! いいか、遊びじゃねぇんだ冒険家はよォ!」


 再びテーブルに拳を落とす。


 必要以上に青の腕章達を脅かすヴェッジさんだけど、これは彼なりの優しさだったりする。


 いわく『俺相手にビビってるようじゃあ、魔物共を相手に出来っこねぇ』とのことだ。だから、逃げ出す新人を追いかけるような真似はしない。


 怖い人だけど、孤児になって行き場のなくなった僕を、ギルドに引き入れてくれた優しい人だって、僕は知ってるんだ。



(おう、坊主。行く当てがねぇなら俺ん所に来い。なあに、ガキが余計な心配すんじゃねぇ。俺が守ってやる。だから、安心しろ)



 あの時、頭を撫でてくれた大きな手の温もりを、僕は忘れない。


 ちなみに僕が賞金首になっていた事を真っ先に心配してくれたのはこの人だったりもする。


 昨日、聖法騎士団本部からメルゥ宅へ移動する前に、このギルドを訪ねて『あれは誤解だった』と伝えると、ヴェッジさんはホッと胸を撫で下ろしていた。


 本当に、優しい人なんだ。


「おう、リュイ! てめぇなあにボォーっとしてやがんだ! 人の話を聞きやがれ!クソガキめ!」


「ごめんなさい!」


「ごめんで済んだら聖法騎士はいらねぇんだよ!」


 でも怖いものは怖い。

 僕へと向けられた活の矛先は鋭く尖っていた。


 そしてその矛先は、僕の右隣に居るメルゥへと向けられる。


「おい、ガキ」


「ん、なんだい?」


「『ん、なんだい』じゃねえんだわ」


 ギロリと睨みつけるヴェッジさん。

 メルゥは意に介してない。


 僕の心臓は今にも破裂しそうだった。


「てめぇ、冒険家舐めてるだろ?」


「舐めてないさ。私の仕事はリュイ君を守るために魔物を蹴散らすことだ。舐めるなんて真似しないさあね」


「は」


 なんて言い出すメルゥ。

 それを聞いていた古参のメンバー達からヒューヒューと口笛が飛んでくる。


「てめぇ、リュイを守るなんざ言ってるが、まず自分の身を守れんのか?」


 ヴェッジさんは視線を下げる。

 メルゥの装備は白いワンピース一枚という重装備である。


「どこぞ世間知らずのお嬢様か知らねぇが、迷宮舐めてると痛い目見るぞ?」


「大丈夫! 自分の身は自分で守れるからね!」


「あ、ああ、そうか。初日にハラワタぶちまける真似だけは勘弁してくれよ」


「まかせとけ!」


「こ、こんな新人は初めてだぜ。流石は聖法騎士団の紹介だ。ただの馬鹿なのか、もっと大馬鹿なのかまるで分からねぇ……」


 すごい、あのヴェッジさんがたじたじだ。


 ただ、他の新人達には冷ややかな目で見られている。メルゥは気が付いていない。それだけが不幸中の幸いか。


 メルゥから視線を外したヴェッジさんは、手を2回程叩いて乾いた音を散らす。

 

「よォし! じゃ、話はこれまでだ。各員、命を大事に。以上だ!」


 さあ行った行ったァ! と豪快な大声に背を押され、ぞろぞろと新人達はギルドを出ていった。


 習って僕達もギルドから出ようとすると、ドンッとメルゥの背後に大男の影が迫り来る。ヴェッジさんだ。


「おいメルゥだったか。てめぇは残れ」


「うぉぉぉ!? な、なんだぁ?」


 メルゥの頭が鷲掴みにされる。

 そして、ギルドの奥にある倉庫へと連行されて行く。


「まずはてめぇのふざけた身なりを正してやる!」


「ぎゃああ! た、助けてくれリュイく~ん!」

 

 僕は見守る事しか出来なかった。




 



 それから数分もしない内か。 


「じゃん! どうだいリュイ君!」


「おお! 冒険家っぽいですよメルゥ!」


 意気揚々と倉庫から出てきたメルゥの服装は一新されていた。


 ワンピース一枚という紙装備から皮の鎧(レザーアーマー)へと更新。少しばかり年期が入った鎧はややサイズが大きかったけど、なるほどどうして中々冒険家っぽい。


 しかし、子供が親の装備を勝手に着てしまった感が拭えない。


「うんうん、結構いい感じだよこれ」

 

 メルゥは確かめるように、その場にくるりと一回り。どうやら気に入っている様子なので良しとしよう。


「っは! ワンピースよりそっちの方がよっぽど丈夫だぜ!」


「いやぁ、悪いねヴェッジ。こんなに良いの貰っちゃって!」


「がはは! さっそく呼び捨てとは生意気な小娘だ! いいぜ、ぜひ貰ってくれそいつをよぉ! 鎧は消耗品、じゃんじゃん使え!」


「じゃあお言葉に甘えるよ!」


 がははと豪快に笑うヴェッジさん。

 メルゥもヴェッジさんの背中をバシバシ叩いて笑っている。


 あのヴェッジさんを相手に流石は竜王様だ。

 メルゥは人付き合いが上手なのかも。



 と、そろそろ出発の時間。

 なんだけど、僕とメルゥは思わぬ敵の妨害によって、ギルドから出れずにいた。


「大丈夫か? ちゃんと傷薬は持ったか? 弁当は忘れてないよな?」


 敵とはすなわちヴェッジさん。

 

「大丈夫だってヴェッジ。忘れ物なんて無いからさ」


「そういうのはいざ迷宮に行ってから気が付くんだよ。あれをこれをと忘れちまったって。ああ、そうだ、ちゃんと解毒薬は持ったか?」


「持ったから大丈夫だって~」


 メルゥが腰に付けるバックパックをポンポンと叩く。中には迷宮探索の必需品がいっぱいだ。


 そして、いざ迷宮へとギルドから出ようとすれば、またもメルゥはヴェッジさんに引き留められる。


「大丈夫か?」


「なにが!?」


 これぞ新人が迷宮探索の初日に受ける洗礼――ギルド『野郎の墓場』の名物である親心(仮)だ。ギルドの古参メンバーはそう呼んでいる。


「おいおい、マスター。そろそろ行かせてやれって」


「リュイもメルゥも困ってるぜ」


「うるせぇ! おめぇらに何が分かる! こいつらが怪我でもしたらどうするってんだ! 俺ぁ心配で心配で夜も眠れねぇんだよ!」


「落ち着け、まだ寝る時間じゃない」


 ぞろぞろとギルドメンバー達が集まってきて、ヴェッジさんをなだめてくれる。ヴェッジさんはほぼ聞いていない。


 思い出すなぁ。

 僕も初日はこんな感じで迷宮になかなか行けなかった。


「うおおお!お父さんは許さねぇぞメルゥ!」


 嫁ぐ愛娘かな?


 新人メルゥを迷宮へは行かせんと暴れだすヴェッジさん。慌ててギルドメンバー達が抑え込み、羽交い絞めにする。


「今だ行けェ! メルゥ、リュイ!」


「は、はい!」


 僕はメルゥの手を取りダッシュで駆け出し、街の雑踏へと踏み出した。




 そんなこんなで僕達の迷宮への玄関口にたどり着く。



 そこは聖法騎士団本部〈大神殿〉

 

 大聖堂とは別にある大神殿に設けられたロビーにて受付済ませ、地下へと続く階段を下りていくと、その先にあるのは4つの光り輝く大きな結晶だ。


 宙に浮かぶその結晶体には魔法陣が刻まれており、その性質は『転送』人を別の座標へと送り込む魔法が組み込まれている。


 結晶に魔力を注ぎ込むことによって転送魔法(テレポート)が起動するんだ。


 今回、僕達が向かう先は迷宮『森』

 一番右にある緑色に発光する結晶に魔力を注ぎ込むと、迷宮へ転送される仕組みだ。


「メルゥ、準備はいいですか?」


「うん。でも、何でわざわざ『森』なんだい? もっと稼げる所へ行った方が、リュイ君の懐は温かくなるんじゃあないかい?」


 ほらと言って、メルゥが指し示すのは、今まさに別の結晶にて転移していく冒険家達。


 言いたいことは分かります。

 けど無理なんです。


 青の腕章――つまり新人達が行ける迷宮は限られる。

 転移出来る迷宮は一番難易度の低いと言われる『森』まで。


 腕に巻かれた腕章が通行証の役割を持っていて、勝手に別の迷宮へ行こうと魔力を注いでも、無駄な努力に終わるという感じだ。


 ちなみにこれは偽造防止にも役立っていて、例えると【黒の腕章】を偽造したとしても結晶はなんら反応を示さない。


 なんでも聖法騎士団だけの特別な技術が使われているそうだ。


 それを伝えるとメルゥ「ふ~ん」と淡泊に返事をかえし、


「ま、リュイ君とデート出来るなら私はどこでもいいさね」


「へ?」


 なんて言い出し、僕の手を取った。

 朝とは別の意味で、心臓が破裂しそうだった。


「ほら、行こっ!」


「あ、ちょ、メルゥ!」


 僕を引っ張るままメルゥは結晶に手を触ると視界が暗転。宙に浮いた様な錯覚を覚えると次の瞬間には、芝生の上に立っていた。


 僕の靴が隠れるか隠れないかくらいの長さで繁茂する雑草。何度も踏んだその感触を僕はまだ覚えている。


 ここは迷宮、エリア1『森』


「流石は迷宮か、死臭が鼻につくね」


 メルゥが身に纏う雰囲気が変わった。

 それはあちこちから漂う殺気に当てられてか。


 ここからは一瞬たりとて油断は許されない。

 

 僕でもはっきりと区別できる異臭が漂うのは、何百何千と冒険家達の血を吸ってきた眼前の森からだ。 

   



 

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