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低ランク冒険家は竜王様を召喚してしまいました  作者: ラストシンデレラ
第1章 竜王、白竜のメルフィーヌ
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08、初戦闘



「殺すなよ! 生きてる方が金額がでかい!」


「っは! 青の腕章が2匹、手玉だぜ! ウルフ共、行けェ!」


 夜の山に、賞金稼ぎの大声が響き渡る。

 そして、ウルフのおぞましい唸り声もだ。


 真正面から、賞金稼ぎの男一人とウルフ4匹がこちらを目掛けて走ってくる。


「メルゥ!」


「大丈夫さリュイ君、君はそこから一歩も動くな! ただ、こいつらの位置情報を私に知らせるだけでいい!」


「はい!」


 返事をしたその時、僕の視界にはメルゥ目掛けて飛び掛かる2匹ウルフが映った。

 

 まずい!


 と思ったのもつかの間、一瞬にしてウルフの姿が視界から消えうせる。その直後、遥か前方からズドンと鈍い音が聞こえてきた。


「くっふふ。飛び掛かるだけとは、芸が無い」


 メルゥの尻尾がゆらりと揺れる。

 どうやらアレでウルフを殴り飛ばしたらしい。


 むちゃくちゃだ。

 速すぎる。僕の目には見えなかった。


「ちょ、メルゥ。殺してないですよね? あの人達は僕を賞金首だと勘違いしただけであって」


「ちゃんと手加減してるよ」


「手加減してそれですか……」


 本当にむちゃくちゃだ。


 そう思ったのはどうやら賞金稼ぎの男も同じなようで。


「ちぃ、なんだあの小娘! 本当に青の腕章かぁ!?」


 走る足を止めてバックステップ、一旦距離を取ったかと思えば、手の平をこちらに向けて突き出した。


「喰らえ!」


 手の平から淡く発光する魔法陣が展開される。


 近づけば尻尾の餌食になると判断した様子。

 遠距離から攻撃を仕掛けるつもりだ。


 けど、


「遅いッ!」


「うごぁ!?」


 同じく手の平を賞金稼ぎへと向けたメルゥが叫ぶと、魔法陣が展開されることもなく、氷のツブテが放たれた。


 襲い掛かる氷弾は賞金稼ぎに直撃。

 その意識を狩り取る。


「す、すごい」


 通常、魔法を使用する際には詠唱時間(キャストタイム)と呼ばれる『魔法陣を展開』から『魔法の発動』までのラグが生じる。


 発動する魔法によって詠唱時間は異なり、効果の小さい魔法ほど詠唱時間が短いものなんだけど、無詠唱で魔法を使うだなんて初めて見た。


「……ッ!?」


 おっと、見とれてる場合じゃない。


 僕の背後に、


「メルゥ! 後ろに残りのウルフが2匹!」


「ほいきた!」


 ウルフの叫び声。

 叫号が後方から聞こえたかと思えば、メルゥが地面を叩くとすぐにそれは悲鳴へと変わる。


 振り返ると、地面から突き上がる氷の柱に打たれたウルフ達が2匹、宙に舞っている最中だった。


 ドシャっと落下したウルフに立ち上がる力は残っていない。ピクピクと体を震わせている。


 また、メルゥは無詠唱で魔法を発動したんだ。

 

 強すぎる。

 キャストタイムの存在しない魔法なんて、勝てる訳ないじゃないか。


「どうだい見たかリュイ君! これが私の力だ!」


 メルゥが腕を組んで得意気にふふんと鼻を鳴らす。


 僕は惜しみなく称賛の拍手を送った。受け取ったメルゥは「いやぁ~」と頬を赤らめて照れていた。


「んで、残りは……どこだい?」


「はい、残りはって、ん?」


 正面にもう一組残っていた筈なんだけど、いつのまにか地面に倒れていてピクリとも動かなくなっていた。


「あ」


 そこで僕は思い出す。


「さっき、殴り飛ばしたウルフ」


 どうやら、先ほどメルゥが尻尾でふっ飛ばしたウルフが、もう一組居た賞金稼ぎとウルフ達に直撃したようだった。


「そこまで計算していたんですか」


「いやぁ~」


 照れるメルゥ。

 可愛いなこの人。そして恐ろしい。


「でもメルゥ。まだ左右にもう二組ずつ残ってます! 油断は出来ませんよ」


 そう注意を促すと、メルゥはつまらなさそうにあくびをかく。


「これだけやれば十分さあね。私達の力を連中を理解しただろう、勝てっこないってね。私の魔法にリュイ君の眼、逃れるすべはない」


 ケケケと悪魔のように笑ったメルゥの、ニヤリと曲がる桃色の唇からちらりと牙が見えた。僕の背筋に冷たい悪寒が走る。


「私達の目的は迎撃だ、なにも殲滅じゃない。これ以上は大人気がないさあね」


 両の手の平を左右へと向けるメルゥ。

 茂みの奥からは「ひぃ」と小さく悲鳴が聞こえた。


「さあ、君達はどうするんだい? まだやるかい?」


 開いた手の平をメルゥはぐぐぐっと握っていくと、急に辺りの空気が冷え込んでいく。


 僕だけを避けて、地面に霜が降り、やがては氷の膜が張っていった。


 一帯が凍てついていく。


「や、やめてくれぇ! 降参だ降参! だから殺さないでくれえッ!」


 たまらず両手を上げた賞金稼ぎ達が茂みから姿を現す。攻撃した訳でもないのにブルブルと体を震わせており、顔からは血の気が引いていた。


 完全に戦意を喪失している。


「頼む! 殺さないでくれ、お願いだ!」


「べ、別に殺すつもりはないし」


 メルゥは可愛い唇を尖らせていた。

 ぷくぅと頬を膨らませるおまけ付き。


「さあ散った散った! 私は忙しいんだからね!」


「は、はいいいいいぃッ~!」


 大慌てで賞金稼ぎ達が地面で伸びている仲間とウルフを回収し、退散していった。


 さっきまで慌ただしかった夜の山が、再び静けさを取り戻す。


「ははは、さすがは竜王様ですね」


 また、僕はちょっとした拍手をメルゥに送った。


 強いだなんてもんじゃない。強すぎる。

 メルゥ一人でジャシー様も相手に出来るんじゃないかな?


 出来るに違いない。

 だって、メルゥはジャシー様のお師匠様なのだから。


 強がって僕も戦うと啖呵を切った自分が恥ずかしくなってくる。僕、正直に言っていらないじゃん。


「守ってくれてありがとうございます」


「くっふふ、いいよいいよ。まさかここまで賞金稼ぎがやってくるなんて、失念していた私が悪い」


 それに、とメルゥは続ける。


「今回の戦闘で私の力は分かっただろ? これが君の手となり足となり、魔物と戦う力となるんだ」


 なんて言い出す。

 確かにメルゥの強さは嫌って言うほど分かった。


 これ程の人が迷宮へ一緒に付いて来てくれるなんて、とても心強いと思う。でもそれはパートナーとしての話だった筈。


「メルゥ、手となり足となりって言い方は、ちょっと違う気が……」


「リュイ君、それこそ違うさ!」


 メルゥは強く否定した。


 そして、僕の手を握って言う。


「だって私は、君の使役獣なんだから」



 僕はこうして、メルゥを連れて迷宮へと挑むことになった。


 



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