表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
低ランク冒険家は竜王様を召喚してしまいました  作者: ラストシンデレラ
第1章 竜王、白竜のメルフィーヌ
5/24

05、ご主人様



 オルムさんに案内されるまま廊下を歩いていくと、やがて辿り着いた先は一つの狭い室内だった。


 なんだろうここ。

 色々と物はごちゃごちゃしてるし、剣や盾、鎧なんかも置いてある。


 武器庫かなにかだろうか?


「ここは俺の部屋だ。適当にくろいでくれ」


「あ、はい」


 言われて、付近にあった椅子に腰を下ろし、


「どうして僕をここに?」


 と聞いてみる。

 

 なんでオルムさんの私室に案内されたのだろうか。

 それも僕だけを指名して。


 少しばかり警戒してしまう。


 だってオルムさん聖法騎士だし。

 その聖法騎士に僕は昨晩追われていたんだ。


「まずは、俺達の勘違いで君に危害を加えようとしたことを、全聖法騎士に代わって謝ろう。本当に申し訳なかった。どうか、許して欲しい」


「え?」


 僕が警戒している事に気が付いたのか、オルムさんは深々と頭を下げてきた。


「ちょ、そんな、やめてください!」


「いいや、こればかりはそうはいかない。聖法騎士は竜王様を怒らせたと、君を指名手配し、その首に賞金を懸けてしまった」


「え!? 僕って今賞金首なんですか?」


「すまない。だが、それは不備だったと既に取り下げてある」


「わ、分かりました。でもいいですよ、だって僕、怪我一つしてないですし」


「申し訳ない。そしてありがとう、感謝する」


 再度、頭を下げた。

 十秒程経って、オルムさんは頭を上げる。


 この人、これだけのために僕を呼び出したのだろうか。


 いや、違う。

 謝罪だけならあの場で出来た筈だ。


 そうあれこれ考えていると、オルムさんはこんな事を言い出した。


「それにしてもだ。リュイ、久しぶりだね」


「へ?」


 え、なに?


 久しぶりだねって言われても、僕はこの人の事は何も知らないし初対面の筈だ。以前、どこかで会ったことがあるのだろうか?

 

 僕が不思議そうにしていると、オルムさんは口に手を当てて笑みを漏らす。


「ははは、覚えていないのも無理もないか。俺と最後に会ったのは、君がまだ3才の頃だったからね」


 と、僕の頭をポンポンと撫でるオルムさん。


「いやぁ、あの頃と比べたら随分と身長が伸びたもんだな」


「あの、失礼ですが、どうして僕の事を知っているんですか?」


「なあに、リュイの両親と俺が友達だったってだけさ」


「へ、お父さんとお母さんの友人?」


「ああ、そうさ」


 オルムさんはニカッっと軽快な笑みを浮かべた。


 友達……?

 本当なのだろうか?


「あれ、そういえば」


 朧げな3才の頃の記憶。

 なんとなく、僕は覚えていた。


 確か、誰かが良く家に訪ねてきていたような……?


 あ。


「え、あのオルムさん!?」


「どうやら覚えていたようだね」


「いや、すんごくギリギリな記憶なんですけ!」


 そうだ。

 オルムさんって人が、よく家に来ていたんだ!


 だから、僕の事を知っていたのか。


 両親が命を落としたと聞いてから何年経つだろう。あの時は、その意味も分からずキョトンとしていたっけ。


「そうか、そうだったんですか。オルムさんは亡くなった僕の両親と知り合いだったんですね」


「残念だったよ。召喚術士として有力だったリュートとアリア……、彼らが命を落としたと聞いた時は、俺を含め、みんな耳を疑ったもんだ」


「お父さんもお母さんも、そんなにすごい人だったんですか?」


「白銀の腕章だ」


「白銀! ほ、本当ですか!?」


「ああ」


 それを聞いて僕は驚いてしまう。


 この世界に存在する〈迷宮〉と呼ばれる魔物の巣窟に挑む者達――いわゆる『冒険家』には階級が存在し、それぞれの階級に因んだ腕章を身に着けている。


 見習いのDランク【青の腕章】

 その上のCランク【緑の腕章】

 更に上のBランク【赤の腕章】


 それら三つの上に立つAランク【黒の腕章】

 そして英雄と呼ばれるSランク【白銀の腕章】


 腕章にて区別されるのは『冒険家としての実力』だ。

 与えられた腕章によって潜ることの出来る〈迷宮〉の種類が違ってくる。


 青や緑、それと赤に黒とは一線を画すのが【白銀】だ。英雄と呼ばれる白銀達はこの世界に僅かしか居ない。


 神と称される竜と、対等に渡り合えるとさえ言われているんだ。



「ははは、両親が白銀と聞けば驚くのも無理はないか」


 なんてオルムさんは笑っているけど、僕としては笑いごとじゃなかった。


 竜王様を召喚してしまったかと思えば、次に両親が白銀だったという事実を聞いてしまうなんて。


 これじゃあ僕の心臓がもたないぞ。

 おお落ち着けぇ、ドキドキが止まらない。


「そんな白銀の血が流れるリュイも、いずれが白銀になれるかもしれないな」


 と、僕に左腕に巻かれる【青の腕章】をオルムさんは指でさす。


 この腕章が示す通り、僕も聖都に数多く存在する冒険家の一人だ。迷宮へ潜る事を生業としている。


 でも、まだ見習いDランク青の腕章だ。


「白銀だなんて僕には無理ですよ」


「謙虚だな。現にリュイは竜王メルフィーヌ様を召喚しているじゃないか」


「いや、これは……きっと何かの間違いです」


「血は争えないんだよ。竜王様を召喚してしまった君を見てそれは確信に変わった」


 なにやら机の中をごそごそとしだすオルムさんは、目当ての物を見つけたようで厳重に鍵が三つ付けられた箱をテーブルの上に置いた。


 解錠し、中からとある物を取り出す。

 

「腕輪、ですか?」


 オルムさんが取り出したのは『腕輪(ブレスレット)』だった。

 煌びやかな装飾が施された腕輪には3つ穴が開いており、そのうち2つには既に綺麗な宝石が嵌められている。


 なんだろうか。


「なんですかそれ」


「これはリュイのお父さんから預かっていた物だよ。なんでも『リュイが成人を迎えた年に、もしも冒険家をやっているようなら、僕の夢を託して欲しい』とのことだ」


「は、はぁ」


 夢を託す?

 この腕輪がそうなのだろうか。


「俺はその腕輪について何も教えられてはいないし、詮索もしていない。よってリュイに聞くのは、受け取るか受け取らないかの二択だけだ」


 真剣な眼差しで問われ、


「わ、分かりました。受け取ります」


 そう答える。


 僕は余計な事を考えずに、腕輪を受け取ることにした。お父さんが僕にこれを託すと言うなら、託されよう。


 そう思っただけ。


「ありがとう。お父さんも喜ぶ筈だ」


「こちらこそ、ありがとうございます」


 お父さんからの贈り物である腕輪はやけにズッシリとしていた。オルムさんは「夢でも詰まってるから重いんだろう」ってロマンチックな事を言っていた。


「じゃ、話は以上だ。リュイの愛しいメルフィーヌ様の所へ戻ろうか」


 とかなんとか言いながらオルムさんは立ち上がった。


 何を言い出すんだ。

 僕は手を慌てて横に振る。


「愛しい!? 何を言い出すんですか!」


「ははは、良い反応だ。メルフィーヌ様が君をからかって楽しむ気持ちが分かるよ」


「えぇ……」


「あの厄介な竜王様を召喚したんだ。これから苦労はすると思うけど、これから彼女の事をよろしく頼むよ」


 苦笑しながら言うオルムさん。


「厄介? わ、分かりました」

 

 この人もメルゥの事で苦労してるのかなぁと思いながら、僕は返事をかえして立ち上がった。


「あの、今度、お父さんとお母さんの話、聞かせて貰えませんか?」


 僕の両親の友人だったと言うオルムさん。

 もう記憶があやふやで、どんな人だったかも思い出せない両親について尋ねる。


 すると、


「ああ、もちろんだとも」


 オルムさんは軽快な笑顔を浮かべた。

 

 と、その時だ。

 

「き、貴様! ここで何をやっとるか!」


「いっ!?」


 扉を開けて外へと出た僕達が廊下で蜂合わせたのは、竜神祭の召喚の儀にて、僕に聖法騎士をけしかけた神官様だった。


 顔を合わせるや否や、表情を怒りに染める。


「竜王様の逆鱗に触れたクソガキめ。貴様がこの大聖堂に足を踏み入れる資格など無いのだぞ!」


 うおあああ! と奇声を上げながら、今にも僕に掴みかかって来そうな神官様。


「お待ちを、ヘルヴ神官様」


 それをオルムさんは静止させてくれた。

 

「竜王様は彼に対し怒ってなどいませんよ」


「戯言をオルム! おのれ何様のつもりで私に意見を!」


「聖法騎士団長としてです」


 聖法騎士団長?

 オルムさんが?


 え、全然知らなかった!


 聖法騎士団長って、聖都を守護する全聖法騎士の頂点の存在だ。


 その上に神官、更に大神官。

 これらが聖都を管轄する大聖堂における階級だ。


 オルムさんもすごい人なんだけれども、この神官様の方が立場は上だ。大変な事になってきたぞ。


「彼、リュイについての疑いは既に晴れております」


「疑いがなんだ! それは貴様の意、今すぐにそこのガキの首を切り落とせ!」


「それはヘルヴ神官様の意。なんでも独断でリュイの手配書をばら撒いたそうですが、それを竜王様は望んでおられません。仮にです、リュイに危害を加えれば、聖都はかつてない災厄に見舞われるでしょう」


 故に、とオルムさんは続ける。


「我々、聖法騎士がリュイに手を下すことはない」


 その言葉にヘルヴと呼ばれていた神官様が青筋を立てた。


「オルム! 貴様がやらぬと言うのなら、私が直々に手を下すまでよ!」


 ヘルヴ神官様は怒りで血管が浮かび上がった右手を開く。そして、空気が渦巻き、魔力が集まっていった。


 展開されるのは魔法陣。

 それは魔法を放つための詠唱(じゅんび)だ。


 もちろん、魔力のこもる右手を向けられるのは僕。


「くッ!」


 僕は咄嗟に構える。


 しかし、流石は神官様と言うべきか、込められる魔力は尋常じゃない。あれを受けたら木っ端微塵になってしまう。


 かと言って神官様に襲い掛かれば、その後はどうなる?


 オルムさんにも、メルゥにも迷惑が。

 

「竜王様の怒りを喰らえェ!」


 あれこれ難しい事を考えている内に魔法が放たれてしまった。


 赤く光るそれは魔力の塊。

 人を殺すなんて訳はない。

 

「――ッ!」


「おっと、聖堂内で魔法は困りますね」


 魔法は僕に届くことはなかった。


 放たれた魔力はオルムさんの手に受け止められた。


「なっ!? す、素手で私の魔法を!」

 

「ヘルヴ、お前は魔法を放ったな。ならば聖法騎士である俺は罪無き子供を守るために、剣を取らなくてはならない」


 受け止めた魔力を握り潰し、オルムさん威圧を持って剣に手を掛けた。


 それは向けられていない僕でさえ身も凍るような威圧感。流石は聖法騎士団長という他ない。


「……っく。うぅ……」


 神官様は膝を震わせて尻もちを突き、その体勢のままズルズルと後退していった。


 しかし、口は塞がらない。


「お、オルム、誰に向かって口を聞いておるか」


「お前だ」


 神官様は後退していく。

 伴ってオルムさんも一歩進む。


「貴様、どうなるか分かっているのか。私は神官だぞ」


「それがどうした」


 神官様は後退していく。

 伴ってオルムさんも一歩進む。


 やがて、オルムさんはふぅと一息吐いて威圧感を引っ込めた。それは、ヘルヴさんの背後に誰かが現れたからだった。


 それに気づくや否や、神官様は助けを求める。


「竜王様! こ、こやつが、こやつが私に向かって剣を!」


 現れたのは、メルゥだった。


「……、どうしたんだい? やけに遅いなと思って様子を見に来てみれば、何があったの?」


「オルムが! 私に剣を向けてきたのです! 私はただ、竜王様を怒らせたあそこのクソガキに罰を与えようと!」


 迫るように僕へと指をさす神官様。

 

 するとメルゥは僕を一瞥したあと、ずぃっと神官様に顔を近づけた。


「ん? 私のご主人様(・・・・・・)に、罰がなんだって?」


「へ? ご主人様?」


「うん、あの子は私のご主人様だよ」


「え?」


 表情を青くして口をぽかんと開けた神官様が僕に『マジで?』と言いたそうな顔を向けてくる。


 それに対し割って入ったオルムさんが、メルゥの説明に補足を入れた。


「リュイは竜王メルフィーヌ様を召喚した人物だ」


「な、なんたることだ……」


「で、さっきも聞いたけど罰がなんだって?」


 追撃を加えるメルゥはわざとらしくオルムさんの手に視線を移す。先ほど、魔法を握り潰した方の手だ。


「あらら! オルムったら手に火傷しているじゃあないかい、こりゃ大変だ。一体この場で何が起きたと言うんだい?」

 

 そんな芝居掛かった演技に、ブワッっと嫌な汗を流し始める神官様。目に見えて狼狽した様子で、


「わ、わわ私は何も知らん……!」


 捨て台詞を吐いて去って行った。


 僕として一つの修羅場に幕が下り、廊下が静けさを取り戻す。


「メルゥ、オルムさん、すみません」


 僕は神官様を追い払ってくれたメルゥと、魔法から庇ってくれたオルムさんに頭を下げる。


「こちらこそすまない、頭を上げてくれリュイ。ヘルヴは前々から問題を起こしやすい人でね、あれを放っておいたこちらにも責任があるんだ」


 なんてオルムさんは言ってくれる。

 僕はそれを素直に受け止め、頭を上げた。


「ま、これは召喚をキャンセルした私も悪い。ごめんねリュイ君」


「いえ、大丈夫です。もう終わった事ですから」


「ありがとう。それじゃあ戻ろうか。ジャシーが美味しいお菓子を用意して待っているんだ」


 僕はメルゥに手を取られ、ジャシー様の私室に戻ることにした。



 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ