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低ランク冒険家は竜王様を召喚してしまいました  作者: ラストシンデレラ
第2章 泉の水竜 地鳴らすコンパロロ
19/24

03、身剥ぎ討伐の件



 メルゥから腕章を受け取ってから数日。

 

 その間、ヴェッジさんとメルゥが毎日お見舞いに来てくれて、ときおり暇を見てギルド『野郎の墓場』のメンバー達やオルムさんもお見舞いに来てくれた。


 ずっと客室で寝かされてたけど、パルルさんが話し相手になってくれていたので暇はしなかった。


 そして更に数日後。

 怪我の回復を見計らって、ジャシー様の部屋へと僕は呼ばれたんだ。


「目撃情報を鵜呑みにして身剥ぎを逃し、あろうことか君に大怪我を負わせてしまったのはワシらの責任じゃ。リュイ、君には色々と迷惑を掛けている、すまない」


「いえ、もう怪我もすっかり回復しましたし、大丈夫です!」


「君には借りを作ってばかりだな。そう言ってくれるとありがたい」


 話の始め。

 まずはジャシー様に頭を下げられた。


 僕を賞金首にしてしまった件。

 そして今回の騒動。

 二つの借りは必ず返すとジャシー様は言った。


 僕としては、あの身剥ぎと遭遇し、命があっただけでも十分なんだけどね。


 そして次の話。

 それは僕のランクアップについて。


「メルゥから既に聞かされたようだじゃな。ランクアップについての理由はその通りだ。竜王を身剥ぎから守った君の実力を認めての事だ」


「でも、僕はそれについての記憶が全くないんですよね」


「あろうがなかろうが、事実とワシは認識しておる。メルゥは嘘は付かん。聞けば『消滅魔法』を操り、竜王、そして迷宮を守ったと」


 そして、詳しい理由をジャシー様は教えてくれた。


 まずは、身剥ぎが使用した爆弾から竜王様を守った事。


 次に、爆弾を消滅させ、迷宮への被害を防いだ事。これについては、想定された爆発の規模が大きく、最悪の場合、他の冒険家も巻き込んだ可能性が高かったと言われた。


 そして、竜王様を使役し、見事【身剥ぎ】を討伐してみせた事。これはパルルさんにも言われた通り、召喚術士と使役獣は二つで一つ。よって討伐の功績は僕にも認められるとのことだ。


 

 改めて説明され、僕は正式にランクアップを果たしたんだ。






 

 怪我もすっかり治り、ギルドに戻る許可が下りた。


 迎えに来てくれたヴェッジさんと、メルゥに手を取られて僕は大聖堂を後にする。見送りに来てくれたパルルさんにお礼は忘れない。


「パルルさん、ありがとうございます!」


 頭を下げようとすると、パルルさんに止められた。


「別にいいわ、お礼なんて。パルルには怪我の治療なんて朝飯前、お礼を言われる程の事じゃないわ」


「いや、こればっかりはそうはいきません!」


 僕の怪我は結構な重症だったらしい。

 それをパルルさんは睡眠もとらずに治癒術を施してくれたそうだ。お陰で傷跡も残っていない。体調も万全。


 再度、深く頭を下げる。

 伴ってヴェッジさんも「内の者が世話になった」と頭を下げた。


 パルルさんはそんな僕達に背を向けてしまう。

 

 けれど、チラリと顔だけを振り返えらせて一言。


「……受け取っておくわ」


 言い残して大聖堂の大門を潜って行った。

 メルゥ曰く「難儀な奴だよ」らしい。



 そこから、時間の流れは速かった。


 まずギルド『野郎の墓場』へ戻れば、僕の『復帰祝い』『ランクアップ祝い』にと盛大なパーティが開かれた。


 皆、顔を赤くして大いに騒いでいたけど、お酒が飲めない僕は場の雰囲気に付いていけなかった。


 ギルドメンバー達からは、


「おうリュイ、それで身剥ぎとの闘いはどんな感じだったのよ?」


「えッ!?」


「おーう! 聞かせろ聞かせろ!」


 なんて言われて困った。

 どうやら聖都では主に僕が【身剥ぎ】討伐の功労者として扱われているらしい。


 さて、どう言ったもんだか。

 素直に僕は気絶してましたと言っても良いんだけど、それはそれでメルゥの力が疑われる事になってしまいそうだ。


 メルゥは竜王様であることを隠している。


 う~ん……。

 と悩んでいると、メルゥが助け船を寄こしてくれた。 


「そこは私が説明しよう!」


「おい皆ぁ! 早くも緑の腕章となった期待の新人メルゥちゃんが説明してくれるってよォ!」

「どんな感じだったんだ!」

「俺達ぁ、それが気になって夜も眠れなかったんだ!」


 ギルドメンバー達の反応を見て、満足気に頷くメルゥは身振り手振りを付けて身剥ぎとの戦闘を説明していった。


「身剥ぎとリュイ君の戦いは激闘の一言だ! か弱い私は木の陰に隠れて、リュイ君と身剥ぎの戦闘を見守る事しか出来なかったんだ!」


 ん?


「流れる汗、飛び交う火花、黄昏時の森に響く死闘の交響曲!」


「それでそれで!」


「ついぞリュイ君は地に倒れてしまった。そして身剥ぎが手にする凶器はついに私へと! もう終わりだ……て思ったその時!」


 んん?


「一筋の光が身剥ぎを貫く! そう、リュイ君は諦めていなかったんだ。地に伏す身剥ぎにリュイ君はこう言った――『僕のメルゥに手を出すな!』……と!」


「「「「おお~」」」」


「こうして無事、身剥ぎは討伐されましたとさ~終わり」


 パチパチパチとギルド内が盛大な拍手に包まれる。


 満足と言わんばかりにお辞儀しているメルゥへと慌てて駆け寄り、ギルドの端っこへと連れ出す。


「ちょ、何言ってるんですかメルゥ!」


「えへへ、いやぁ~……ちょっと脚色を加えただけだよ」


「盛大にインクをぶちまけてくれましたね!」


 凄まじい勘違いをギルドメンバー達にばら撒いてくれたなぁ。 僕はただ気絶していただけだと言うのに。


 なんでこんな事を言ったんですかとメルゥに詰め寄っていると、僕の肩にドスッと大きな手が置かれた。ヴェッジさんだった。


「おいリュイ」


「は、はい」


「ちょっと倉庫に来い。メルゥ、てめぇもだ」


 ドスの聞いた声で言われ、僕は有無すら言えずに倉庫へと引きずり込まれる。ヴェッジさんは色々と察しが良い人だ。それに聖法騎士団とも繋がりがあるらしい。


 今回の件について何か知っているのかも。 


 倉庫の扉がバタンと閉まり、メルゥと僕、そしてヴェッジさんの三人だけになる。


 ヴェッジさんがパチンと指を弾くと、扉に魔法陣が浮かび上がった。これは『防音』の魔法。一体、どういうことだろう。


「まあ座れや」


 どすんと近くにあった樽に腰を落とすヴェッジさん。習って僕もメルゥも近くにあった手頃な物に腰を落とす。


 見計らってヴェッジさんがゴホンと続ける。


「んじゃリュイ、これはお前が大聖堂に居た時に話しても良かったんだが、怪我人に長話ってのもな。だから今、ここで手短に話す」


「は、はぁ」


「まず、身剥ぎ討伐の件については、メルゥ様が補助に回り、リュイの主な働きによって倒したことになってる。まあ、駆け出しもいい所のメルゥ様が倒したってのも可笑しな話だからな!」


 いやいやいや。

 待て待て待て。


「メルゥ様!? メルゥ様って言いました今!?」


「ん? ああ、俺ぁメルゥ様が竜王様だってもう知ってるぜ! そうだったそうだった、これをまず初めに説明しなきゃな!」


 ガッハッハとヴェッジさんは腕を組んで豪快に笑う。メルゥはメルゥで「ヴェッジは横着者だなぁ」と笑っていた。


 何なんだこの人達。

 ヴェッジさんはメルゥの正体を知っていたのか。


「ヴェッジさんは、全て知っているんですか?」


「知ったのはつい最近だがな。オルムから聞かされ、メルゥに確認を取ったまでよ」


 その後、ヴェッジさんは知っている事を全て話した。


 身剥ぎとの戦闘に関して。

 メルゥと僕の関係をどこまで知っているかなど。

 

「リュイが竜王様を召喚したって聞いた時は驚いたぜ」


 全ての話しを終えたヴェッジさんは立ち上がる。

 すると、倉庫の奥にある厳重に鍵を掛けられた金庫から、なにやら袋を取り出した。


 それをポンと僕に投げ渡す。

 開けてみると多額のお金が入っていた。


「な、なんですかこれ?」


「おめぇとメルゥ様で仕留めた身剥ぎの懸賞金だ」

 

 その金額は占めて500万メセル。

 古い家ぐらいなら購入出来てしまう金額だ。


「緑の腕章になったからには迷宮エリア2に挑むんだろう? それで装備でも整えな」


 再び豪快に笑ったヴェッジさんは倉庫から出て行った。


 僕はこのお金の扱いに困ってしまい、思わずメルゥの顔を見てしまう。察したメルゥはぐっと親指を立てた。


「ヴェッジも言っただろう、これは私達のお金だぜ? パァっと使って装備でも整えて、次の迷宮に挑もうじゃあないかい!」


「そ、そうですね!」


 そうだ。

 パルルさんにも言われた、ヴェッジさんにもたった今言われた。


 身剥ぎ討伐は僕とメルゥで成し遂げた事。

 

「じゃあ早速、明日は買い物にでも行きましょう! なんてったて次の迷宮は『火山』なんですから、一筋縄ではいきませんよ!」


 なんて意気込んで僕は立ち上がった。


 のは良いけど……何やらメルゥは申し訳なさそうに僕の肩を叩く。

 

「ちょ、ちょっといいかいリュイ君……」


「どうしたんですか?」


「あの……次の迷宮は『火山』って言ったかい?」


「そうですね。緑の腕章になると迷宮、エリア2『火山』に行けるようになるんです。エリア1『森』より稼げるらしいですよ!」


「そ、そうなのね」


 一体どうしたんだろうかメルゥは。

 何か悩んだ様子で視線を落とし、再び見上げて僕に言った。


「火山って熱いのかな~なんて……」


「え?」

 

 


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