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低ランク冒険家は竜王様を召喚してしまいました  作者: ラストシンデレラ
第2章 泉の水竜 地鳴らすコンパロロ
18/24

02、ランクアップ



「そうかい、そうかい。包帯を巻き直してる最中だったのかい」


 『着替え中かと思ったよ』と手を頭の後ろにやってメルゥが笑っているここは〈大聖堂〉の客室。メルゥを捕まえ事情を説明し、僕は客室へと戻ってきていた。


 メルゥは見舞いにと来てくれたらしい。彼女が持ってきた荷物は2つ。そのうち一つからはリンゴが出てきた。


 パルルさんはメルゥからリンゴを受け取ると、無表情で皮を剥き始める。


「いやいや、目を覚ましてくれてホッとしたよ。リュイ君がなかなか起きなくて、私の心臓は張り裂けそうだった」


「あなたの治癒術が荒っぽいせいね。お陰でパルルは大変だったわ」


「しょうがないだろう、パルル~。君と違ってあんまり使う事ないんだからさ」


「そ、怠慢ね」


 パルルさんがリンゴの皮を向いていたナイフを置くと、その手には可愛らしいウサギリンゴが出来上がっていた。手先が器用らしい。


「わぁ、可愛いですね」


「パルルにはお茶の子さいさいね」


 気を良くしたのかパルルさんは次のリンゴに狙いを定める。


 そしてリンゴを手に取ったかと思えば、瞬く間の飾り切りによってリンゴの皮が模様を描いた。螺旋を刻むソレはまるで芸術作品のよう。


「「おお~」」


 僕とメルゥは思わず拍手を送る。


 しかしパルルさんにとっては失敗作だった様子。真顔で舌を打ったのち、


「失敗したわ。はいメルゥ、あなたのよ」


「おかしくないかい?」


 失敗作をメルゥへと押し付けた。

 受け取ったメルゥは腑に落ちない表情でシャクシャクとリンゴをかじっている。


 そして僕には、


「あなたにはウサちゃんリンゴよ。はい、あ~ん」


「えぇ!?」


 ようじで刺したリンゴを差しだしてくる。


 メイド服の女の子にあ~んか……。

 こ、これは照れるなぁ……。


「止せ! パルル!」

「――ッ!?」


 しかし、何故だが慌てたメルゥに手を払われ、パルルさんの傑作『ウサちゃんリンゴ』は宙に放り出された。


「その役目は私の仕事だ!」


 パシッとリンゴがメルゥの手に収まる。

 そして、その手を僕の方へと近づけ、


「はい、リュイ君。あ~ん」


「なにしてるんですか。別にメルゥの仕事ではないですよ?」


「私だけ扱いが違くないかい?」


 むぅと唇を結ぶメルゥ。

 可愛い。


 とにかくだ。

 僕は今、気になる事が2点。


 そのうち一つは、


「メルゥとパルルさんはどんな関係なんですか?」


 見たところ、仲良しさんって感じだけど。

 

 パルルさんとは何者か。

 メルゥの正体を知っている人物。

 

 そして、あの竜王様にタメ口、なおかつ失敗作を押し付けるなんて、僕は恐れ多くてとても出来ないぞ。


 僕の問い、二人は顔を見合わせ同時に言った。


「知らない人よ」

「親友だ!」


 そ、そうですか。

 互いの認識ははっきりと分かった。

 お答えいただきありがとうございます。


「な、なんだとパルル! 私と君は親友じゃあないかい!」


「え? あなた誰?」


「ボケ老人かい君は!」


 やっぱり見たところ仲は良さそうだ。


「パルル、君にとって私メルゥはなんなんだい!?」 


「ばあさんや~飯はまだかえ~」


「誰がばあさんだ!」


 漫才を繰り広げる仲睦まじい二人だけど僕は「ちょっといいですか」と割って入ることにした。このままだと延々に続きそうだったから。


 気になる事の2点、残り一つ。


「メルゥ、その腕章は?」


「ん、これかい?」


 それは、メルゥが腕に巻く【緑の腕章】だ。


 緑の腕章はCランク冒険家の証だ。

 ちなみに僕が巻いていた青の腕章はその下であるDランク冒険家の証。


 つまりメルゥはランクアップを果たしたことになる。いつのまに。


「じゃーん。わたくしメルゥは見事に青から緑へとランクアップを果たしました!」


「おお、流石ですね!」


「ちなみにリュイ君も緑の腕章になったよ」


「えぇ!」


 サラッと言ったなぁ!


「なんでも【身剥ぎ】討伐の功績を認めて~がどうのって、オルムとジャシーが言ってたよ」


 そう言ってメルゥは持ってきた2つの荷物の内、残る一つの紙袋をガサガサと探り出す。すると出てきたのは緑の腕章だった。


「ランクアップおめでとうリュイ君!」


 ハイと緑の腕章を差し出される。


 嬉しい。

 でも、僕はそれを受け取れなかった。


「メルゥ、悪いですけど、僕はそれを受け取る権利がありません」


「え、どうしてだい?」


 メルゥの言った身剥ぎ討伐の功績。

 

 何も僕が成し遂げた訳ではない。僕はただ気絶していただけ。状況を察するにあの【身剥ぎ】を討伐したのはメルゥだろう。


 そう、僕がやった訳ではない。

 つまり【緑の腕章】を受け取るのは……


「ズルだ、なんて考えてそうね。リュイ」


「へ」


 僕の心を見透かしたかのようにパルルさんは言った。


「どうして分かったんですか?」


「なんとなくよ。【身剥ぎ】討伐はメルゥの功績だって、あなたの顔が言ってるわ。でもそれって、召喚術士としておかしくないかしら? メルゥに失礼じゃないかしら?」


 じっと僕の目をパルルさんは見つめる。

 表情は相変わらず無いけど、真剣さは伝わってきた。


 召喚術士としておかしい?

 メルゥに失礼?


 どういう意味だろう。

 僕には分からな


「メルゥは、あなたの使役獣でしょ?」

「……!」


 僕は思い出す。

 あの日、メルゥに言われた言葉を。


――だって私は、君の使役獣なんだから


「…………」


 パルルさんは僕のおでこをピンと指で弾いた。  


「召喚の儀、主従の契り。それは例え竜王様でも変わらない。あなたを主人として尽くしたメルゥの気持ち、少しは汲んであげたら?」


「…………」


「それに召喚術士は使役獣をパートナーにして迷宮に挑むんでしょ。2つで一人の冒険家なんでしょ。それはつまり、この緑の腕章はあなた達二人で掴んだランクアップなんでしょ? それでもリュイ、あなたはこれを受け取れない?」


「いえ」


 僕はメルゥの方へと向き直り、頭を下げる。


「すみませんメルゥ! 僕が間違ってました!」


 僕はメルゥの気持ちを無碍にするところだった。難しい話は良く分からないけど、それだけは分かった。いや、分からなくちゃいけない。


 だから僕は謝る。


 けど、メルゥは、


「くっふふ! いやいや、やっぱり人の子は難儀なものだな~」

「え?」


 笑っていた。

 不意を突かれた気持ちで僕は頭を上げる。


「まあまあ、リュイ君の気持ちは分かるよ。だって君、身剥ぎとの戦闘でほとんど何もやってなかったしね」


「うぐっ!」


 言葉の剣が僕に突き刺さる。

 鋭い、切れ味が良すぎる!


「でもね、この腕章は身剥ぎから竜王である私を守ってくれたと、ジャシーがその実力を認めて君に与えることにした物なんだ」


「え、僕なにかしましたっけ?」


「ん、覚えてないかい。まず一回、飛んで来た刃から私を守ってくれた。そして2回目、奴の爆弾を止めて私を守ってくれた。なおかつ迷宮への被害をゼロにしたんだ。下手な爆発で魔物を刺激したら、何が起こるか分からないからね」


 これらが君の功績だとメルゥは言ってくれた。

 そして再び、僕に【緑の腕章】を差し出してくる。


「受け取れよ、これは君が掴んだランクアップだ!」


「はい!」


 こうして僕は、青の腕章から緑の腕章へとランクアップを果たした。


 

 


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