第6話『イメージ大改造作戦!』
体育が終わって教室に戻ると、昼休みだった。
俺がぼっち飯をしていると、ジョージと羽多野が俺に声をかけてきた。
「よう、メシ食うぞ! 付き合え!」
「……話すこともあるしな」
やっと誘われたよ! 体育で一目置かれたと思ったのに誰も声かけてくれないから焦ってたわ!
でも羽多野の「話したいこと」ってなんだろう?
疑問に思いながらも、校内の比較的人気の無い場所のベンチで昼食を摂る。
ジメジメした日陰な上に、あまり手入れがされておらず雑草がまばらに生えているが、理事長室よりは落ち着く場所だ。
「まずは……」
ジョージが口を開く。
ジョージは気絶したあとにすぐに先生に叩き起こされたのだが、もしかして俺に文句でもあるんだろうか。
思いっきりぶっ放しちゃったしなぁ。下級魔法とはいえ。
俺は若干悲観的になっていたが、ジョージの反応は正反対のものだった。
「すげえなお前! このオレを一撃でぶっ倒すなんて! あんな負け方したの初めてだ!」
「あ、ありがとう……? いやむしろ悪いな、気絶させちまって」
「なに、そんなのこの学園じゃよくあることだ! 気にすんな!」
おおう、そうか。それはそれで物騒だなオイ。
って痛い痛い痛い!
肩をバンバン叩くのやめろ!
悪気は無くてもゴリラに叩かれんのは痛いんだよ!
「……このゴリラはいつもこんなんだ。我慢してくれ」
「お、おう……」
「……まぁ暑苦しいゴリラは置いといて。俺が本当に言いたいのは、忠告だ」
「忠告?」
「……ああ。九頭龍、お前かなり有名だぞ。悪い方向に」
「は!?」
俺なんかしたっけ!? 転入初日で悪い噂なんて流れるか普通!?
もしかして体育のアレか!?
「あいつ調子乗ってんな」「マジねえわ」「潰そうぜ」みたいなノリ? なにそれこわい。
「……お前に誰も関わろうとしなかった理由。こいつは自己紹介でドン引かれてたって嘘ついてたけどな」
「え、アレ嘘だったのか?」
「いやぁ、初対面で悲しい事実をぶつけるのはどうかと思ってな。100パー嘘ってワケでもねえし」
「100パー嘘ではないのか……」
これからはインパクトなんて考えずに普通の自己紹介をしよう……ってそんなのどうでもいい!
「本当はなんで避けられてたんだ?」
「……お前がとんでもない不良だって噂されてたからだ」
「え、不良? そりゃまたなんで? 別に素行悪くした覚えは……」
「……前の学校で暴力沙汰を起こして転校した、って噂されてるぞ」
それかよ! 前の監察官時代のミスだよそれ!
うわぁ、なんで知れ渡ってるんだよそれ!? あんなに隠してたのに! いや、偽名使ってたわけじゃないから調べればすぐわかることか!?
「……噂に過ぎないって気にしない奴もいたが、今日の体育で実際に強い奴ってことが証明されちまった。それでみんな警戒してんのさ」
「オレ達、こう見えて学園の中じゃ結構強い方だからな。確か学園全体だと500人中の30位とかだぜ? で、そんな実力上位のオレを一撃でKO……これだけで警戒度が跳ね上がってもおかしくねえ」
「なるほどね、なるほどな……はぁ、最悪だ」
目立つなって言われてたのに、転入前からすでに目立ってるし。そして不良と噂されてる状態で、自己紹介での戦闘狂宣言。信憑性マシマシチョモランマだわ。
しかも転入してからも目立つようなことしてるし。しかもよっぽど悪い方向に。何やってんだ、俺。
「でもそんな俺に普通に接してくれたんだよな、お前ら……」
「当ったり前だろ! 性は人と人を繋ぐ! 変態に国境はねえのさ、兄弟!」
偉大なり、鼠蹊部。
こいつら本当いい奴だな。
「……で、実際のところどうなんだ? 事実なのか?」
「その……信じてくれてんのに申し訳ないが、事実だ」
「おお、元ヤンだったのか! 何やらかしたんだ? 誰ボコったんだ?」
「なんでちょっとワクワクしてんだよ!? ありゃ不可抗力だ! 俺だってやりたくてやったワケじゃねえ!」
事件があったのは1年前。
結果だけを言えば、暴走した生徒を一方的にボコって強制的に大人しくした。それだけ。
転入試験でも出た通り、魔人は魔法界の影響を受けて変貌した存在だ。
魔人というものは非常に不安定だ。元は人間だったのに、強制的に変貌させられたんだから当然だ。
だから精神が一定以上のストレスに晒されると「魔獣」となって暴走してしまう。魔人の生徒が魔獣化しないように周りをちゃんと見るのも監察官の仕事なのだ。
で、俺はそれを怠った。初めてで右も左もわからなかったってのもある。比較的小さい学校だからって俺1人にやらせた騎士団側も悪いけど。
その結果、いじめの存在に気付けずに、いじめの被害者は魔獣化して暴走。俺が実力行使で鎮めるハメになった。
そのいきさつを、自分が監察官であったことを隠して2人に話す。ジョージも羽多野も俺に同情的だった。
「そりゃ災難だったな。巻き込まれただけなのに」
「でも半殺しにしたことには変わりないしな。転校って措置も妥当っちゃ妥当だろ」
「……半殺しにしたのかよ」
羽多野の顔が引きつっている。
半殺しの件は伏せとけばよかった。
「ちなみに魔獣化した奴は何年生だったんだ?」
「えっと……当時2年生で俺の1つ先輩だな」
「そりゃお前は悪くない! 悪いのはその学年の奴らだ! お前、完全に無関係じゃねえか!」
普通ならそうなんだけどね。
監察官に無関係な生徒なんていないワケだし、もっと2、3年生の知り合いと仲を親密して、色々と聞いておくべきだった。
そこが前回の俺のミスだ。
「よし、決めたぞ!」
「何を?」
「……こういう時のお前、ロクな提案しねえよな」
「うっせえ! よく聞け、今から俺たちで九頭龍のイメージ改善運動を執り行う!!」
ジョージが高らかに宣言した。
それを聞いた羽多野が溜息をつきながら、
「……具体的にはどうすんだよ」
「それをこれから決めるんだろうが!」
「……ちったぁ考えてから喋れよな」
「うっせえバーカ! その辺は……ほら、ご自慢の頭脳使えよな!」
「……抽象的すぎてわかるわけねえだろ……ま、考えるけどさ」
えっ、ちょっと待って。
なんか勝手に話が進んでるぞ? ジョージはともかく羽多野もなんかやる気だし。
「い、いいのか……? お前らのイメージが悪くなるかもしんないのに……」
「当たり前だろ! 兄弟の悩みだぞ!」
「……ハッ、これ以上下がるイメージなんざねえよ。特に女子からは」
「違いねえ。オレら、女子からは普通にキモがられてるしな! ガッハッハッハッ!」
「お前ら……」
不覚にもジーンと来た。
東京は色々とカオスすぎて「我関せず」精神が主流なのに、こんないい奴らがまだ存在してたなんて……!
「っしゃあ! そうと決まれば『九頭龍イメージ大改造作戦! 〜おこぼれでオレらもモテまくり〜』発令だオラァ!」
「……台無しだクソゴリラ」
うん、やっぱ前途多難っぽい。