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第5話『初試合!』

 ジョージは馬鹿正直に真正面から突っ込んできた。

 これはジョージの高性能な障壁魔法があるからこそ取れる戦法だ。

 あの障壁の鎧をどうにかしない限り、真正面からジョージを打ち破るのは不可能。


「そらッ!」


 まず1撃目を半身で躱す。

 続く2撃、3撃、4撃目も軽くいなして、5撃目でジョージの背後に回り込んで回し蹴り。

 当然ノーダメージ。振り向きざまのジョージの反撃を躱し、また最初に戻る。

 この繰り返しだ。


「おいおいおい! ちょこまか逃げ回ってるだけじゃオレにゃ勝てねえぜ!? それともビビっちまったのか!?」


「ビビってねえよ! コレは……アレだ! 軽く遊んでやってるだけだ!」


「言うじゃねえか!」


「……魔法の模擬戦なんだからさっさと魔法使えよ」


「うっ……そ、そりゃそうだけど!」


 俺が魔法を使えないのには理由がある。

 俺自身、こういう決闘方式には向いてないのだ。

 相手を「倒す」んじゃなくて「殺す」ことに特化してるからな。転入初日にクラスメイト殺すとか大事件だよ。


「おい、もしかして手加減してんのか?」


「いやぁ、魔法使った時にどのぐらいダメージ行くのかわからなくてな……こういう制御苦手で」


「心配すんな! この体育館は模擬戦用に結界が張ってある。結界のキャパの範囲ならHP以上のダメージは分散されるからよ。しかも腕が飛ぼうが目が潰れようが「システム上で」使えなくなるだけだ。模擬戦が終われば元通りよ」


「おお、そりゃ便利だな。ちなみにそのキャパってのはどのぐらい?」


「さぁな。だが先生の全力の大魔法でも壊れなかったらしいぜ」


「なら問題無いな」


 つまりこの空間内では、たとえ死ぬようなダメージを受けても模擬戦が終わればノーダメージってことだ。

 もちろん手加減はするけど、ちょっとぐらい本気出しちゃっても何も問題は無い。


 問題があるとすれば、本気出すと目立つってレベルじゃないことか。

 流石にジョージの障壁の鎧を壊すのはマズイし、術式を解体するのもやめといた方が良さそうだ。

 無敵の鎧相手に食らいつくも惜しくも敗北、ってシナリオで負けるのが無難かな。


「――《ブレイガ》《アクウォラ》《ウィルド》《グラズド》」


 まずは小手調べに4属性の魔法を展開する。

 それぞれ火、水、風、地の最下級魔法だ。


 火球が焼き尽くし、

 水弾が射抜き、

 風刃が切り裂き、

 土槍が貫く。

 

 それら全てをジョージはノーモーションで無効化する。

 まぁ、羽多野の火球総攻撃でノーダメだった時点で予想は出来てた。

 

「次はこっちの番だ!」


 ジョージが急速に距離を詰めてきた。

 近接戦闘をするなら特殊な歩法とかを使っててもおかしくないのに、ジョージはただ突っ走るだけ。

 そしてジョージは、なぜか俺から少し離れた所で腕を振りかぶり、


「そらッ!」


 一気に突き出す。

 いったい何をしているのか、と思ったのは一瞬。俺は目前に迫った「何か」を察知して大きく右に避けた。

 直後、その判断は間違ってなかったと知る。俺の周囲に浮かんでいた残りの火球が突然霧散したのだ。


「チッ、あとちょっとだったのによ!」


「な、なんだそれ……!?」


「企業秘密だ! 自分で推理してみやがれ!!」


 その後もジョージの不可解な攻撃は続いた。

 腕をがむしゃらに振り回してるだけなのに、俺の周囲の魔力が散っていく。

 まるで何かで薙ぎ払っているかのような……いや違うな。何かを切り払っているような――

 

「あ……あぁ! そういうことか!」


 その攻撃の正体に気付くと同時に感心した。

 ジョージの奴、脳筋に見えて中々面白い魔法の運用をしてる。


 謎の攻撃の正体、それも障壁魔法だ。

 ただし普通の障壁魔法じゃない。薄く引き伸ばして、無色透明な剣の形にしているのだ。

 ジョージの挙動を見るに、障壁の鎧からそのまま突き出させるような形状。腕にそのまま剣が引っ付いたような感じだ。


「意外とすげえなお前! 剣にするなんて俺には思いつかんかったわ!」


「意外とは余計だ! ……ってマジで推理しやがったよコイツ……! 初見で見破られたのはこれで3人目だぜ!」


 そりゃ気付かんわ、こんな変則的すぎる魔法の運用方法。むしろ俺のほかの2人を警戒すべきだろう。

 

 それにしても、さっき驚かされたばかりだというのに、さらに驚かされるとは思ってなかった。

 この学園、レベルが高すぎる。しかも皆、慢心せずに必死に自分を高めようとしてる。

 そこまでして成し遂げたいことがあるのか。

 単に自分を高めることに喜びを覚えているのか。

 どちらにしても、俺がこのまま舐めプしてるのは申し訳ないような気がしてきた。


 俺はジョージから一旦距離を取り、態勢を整える。


「お、どうした? やっと本気か?」


「あぁ、悪かったな。ちょっと舐めてたわ。今からちょっとだけ本気出す」


「いいぜ、かかってこいよ! それでもオレには敵わねえだろうがな!」


 ジョージが俺に特攻してきた。

 ああ、確かにそれは有用だろうよ。お前の障壁なら特攻だけでも強いからな。

 だが、それは俺には悪手だぜ。


「オラァッ!」


 ジョージの不可視の剣が振るわれる。

 今までの攻撃で間合いは見破ってる。避けるのは簡単だ。

 ジョージの攻撃パターンもそこまで複雑じゃない。不可視の剣で相手の焦燥感を煽り、相手のペースが崩れてきたところで――


「んなっ!?」


 右の大振り。

 俺はそれを誘い出し、大振りが来た瞬間に身を低くしてジョージの懐に潜り込む。

 想定外の動きに動きが鈍るジョージ。すかさず剣から拳に戻して間合いを調整してるようだが――もう遅い。


「終わりだ!」


「――ッ!?」


 無防備になったジョージの右脇腹に鋭い掌底を食らわせる。無論、それだけではノーダメージ。

 だから、俺は掌底に一工夫を加えた。

 それは、掌底による衝撃の伝播をサポートして強化する魔法――


「――振動魔法《クエイク》」


 どさり、とジョージがその場に崩れ落ちる。

 HPが半分ほど消し飛んだのに加え、あまりの衝撃に気絶したようだった。

 え、どうすんのこれ? 対戦相手気絶したけどHPまだ残ってるぞ? 気絶した相手に追い打ちかけろと?


「えっと……どうすりゃいいんだ?」


「……模擬戦の勝利条件はHPを削り取ること、そして10カウント取ることだ」


 羽多野に言われて、すぐそばに浮かんでいるウインドウを見る。

 ちょうど10カウントが終了したところだった。


「……おめでとう、九頭龍。お前の勝ちだ」


 どうやら勝ったらしい。

 初試合で初勝利。やったぜ。

 

「よし、時間になったから対戦終わり! 今やってる奴も中断しろー!」


 先生の掛け声で模擬戦の時間が終了となる。

 先生は気絶していたジョージを見てぎょっとしていた。

 俺を見てざわつくほかの生徒。

 あぁ、これは……調子に乗りすぎたな。反省。


 でも俺を強者と認めてくれただろ? 

 これでちょっとは皆、俺に興味持ってくれるんじゃね?



 この時、俺はそう思い込んでいた。

 現実はそこまで甘くなかったと知るのに、そう時間はかからなかった。




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