第4話『学園生徒SUGEEE!』
それから15分近く、柳沢と俺は女の子の鼠蹊部について熱く語り合った。
柳沢譲治という男は……いや、もう渾名でジョージと呼ばせてもらおう。ジョージは性に正直で真摯で紳士な漢だった。
その語り合いは羽多野の「……そろそろ模擬戦やらね?」の一言で終わりを迎えた。
ちなみに波多野は生粋の足フェチらしい。うむ、足も悪くない。俺はもう1人友達をゲットした。
「模擬戦のやり方だが、ぶっちゃけ普通に戦り合うだけだ」
「じゃあこのウインドウは何なんだ?」
俺たちのそばに浮かんでいるウインドウには、模擬戦中の人間の顔写真とHPバーみたいなのが表示されてた。
大体予想はつくけど一応聞いておこう。
「これはそのまんまオレたちの体力を表してる。けどHPゼロ=戦闘不能ってわけじゃねえ。あくまでその模擬戦中で負っていいダメージの総量を表してるだけだ」
「……そうしないと再生体質持ちの奴が負け無しになる」
「それでも再生できる奴はちょっとずつHPゲージも回復するんだけどな。あとは回復魔法でも回復する。ま、流石に素でHPゲージ全快させるような奴はいねえだろ!」
「……そんなの回復魔法無しで蘇生までできる奴じゃないと無理だ」
「ゾンビか吸血鬼かよってな! はっはっはっ!」
すまんな。持ち前の再生力だけで蘇生できる奴がここにいるんだわ。
首飛ばされても、すり潰されても、燃やされても俺は再生するし。ゾンビとか吸血鬼なんて目じゃないぐらいの不死身っぷりだよ、俺は。
「んじゃ、早速やるぜ。まずはオレと羽多野でやっから。オレの戦いぶりに目ぇ輝かせてな」
「……」
ジョージがウインドウをいじると、そこに数字が表示される。制限時間は5分。
3、2、1とカウントダウンが進み――
『――Duel start』
「っしゃ死ねコラァ!」
電子音声が試合開始を告げると、ジョージはまっすぐに羽多野に殴りかかった。
あれ!? 魔法は!? お前ほんとに魔導学園の生徒なの!? 魔法(物理)じゃねえかこいつ!
「……《ブレイガ》」
対する羽多野が出したのは初級の火炎魔法。
テニスボール大の火球が10個、羽多野の周囲を飛び交い始めた。
よかった、こっちは普通に魔法使ってる……ってあれ!? 寝た!? 無気力ってレベルじゃねえぞ!
「ハッハァ! 今日はその手にゃ乗らねえぞ!」
火球なんて気にも留めず、ジョージが思いっきり拳を突き出した。インドア派とは何だったのか。
その拳は寝オチした羽多野の顔面を鋭く打つ……と思いきや、するりと手応えなくすり抜けた。
これは幻覚魔法の一種か。
寝オチしてる幻影を精巧に作りつつ、自分は姿を完全に消すとは。中々の腕前だ。
寝オチの幻覚とかふざけてんのかと思ったが、よく考えたら波多野ならマジで寝オチしかねない。羽多野をよく知ってる奴なら騙されてもおかしくはないだろう。
その辺もちゃんと考えてあるみたいだ。
隙を見せたジョージを火球の群れが襲う。火球もステルスしていたのか、最初に見せた数よりも明らかに多い。
その猛攻撃を受けてジョージのHPは――1ミリも減っていなかった。
「オレの障壁魔法も日々進化してんだぜ! オラ、そこだァ!」
ジョージが何も無い空間に拳を振り下ろす。
すると、その空間から羽多野が現れ、炎の盾を作ってジョージの拳を防御した。
しかし炎の盾に突っ込まれたジョージの拳は無事。攻撃こそ防がれたが、ダメージは負っていない。
ジョージの拳をよく見てみる。
うわっ、障壁魔法でコーティングしてんのか! 薄すぎて見えんわこんなもん! しかも拳だけじゃなくて全身に張ってやがる!
障壁魔法に適性があるのはデータにも載ってたけど、まさかこれ程とは思わなかった。
「……チッ」
再び羽多野が姿を消す。
それと引き換えに大量の火球が出現し、ジョージを取り囲んだ。今度の火球はサッカーボール程もある。
その全ての直撃を受け――ジョージは未だ無傷。
「クッソがぁ! 男なら真っ正面から来やがれ!」
「……誰がゴリラに正面切って挑むか」
「この卑怯モンが!」
「……卑怯結構。さっさとくたばれ」
こいつら本当に友達なの? ってぐらいの言い合いの末、またまた2人の攻防が始まった。
その攻防は何度も何度も繰り返され――結局2人ともノーダメージのまま5分経過した。
ウインドウから発せられるアラーム音が模擬戦の終了を告げる。
「だークソ! これで1勝1敗83引き分けかよ! いい加減勝ち越させろや!」
「……それはこっちのセリフだ」
お前らそんなにやってんのにまだ勝負つかないのかよ。いいライバル関係だよお前ら。
しかし凄いな。正直ここまでとは思ってなかった。
俺の想定では、初期魔法がある程度使えれば十分、適性があれば中級魔法も使えるって程度だった。
でも現実は違った。
2人とも使ってたのは下級〜中級の魔法だったが、その熟練度が並大抵のものじゃない。
特にジョージの障壁魔法の鎧なんて、あそこまでの完成度にするには、よっぽど適性がぶっ飛んでても相当な努力が必要な芸当だ。
「……すげえ」
その一言に尽きる。
ノブさんの言ってたことを本当の意味で理解した。
パッと見た感じだと、ほかの生徒も軽く下級騎士ぐらいの実力はある。
将来有望ってレベルじゃない。油断してるとすぐに追いつかれてしまうだろう。
「こりゃうかうかしてらんないな……!」
「お、やる気じゃねえか。どうする、どっちとやる?」
あまり時間も無いし、やるとしたらどっちか1人だ。
だがどっちとやるかは観戦してる途中でもう決めてある。
「ジョージ、お前と模擬戦やる」
「ハッ、あの戦いぶりを見て勝負を挑むたぁいい度胸だ! 受けて立つぜ!」
少しの休憩を入れてから、ジョージがウインドウの設定を書き換えた。
羽多野の表示が消え、俺のHPが浮かび上がる。それと同時にカウントダウンが始まった。
「お前がどこの学校から来たかは知らねえが、ウチの学園はレベル高いぜ? ちょっと腕に自信があるからって調子乗ってたらすぐ潰される」
「ああ、そりゃ今思い知ったよ。だから俺もちょっと本気出す」
「へえ、本気出しゃ勝てるってか? ナメられたもんだなぁ!」
3、2、1――0。
『Duel start』
「っしゃあ! お望み通り拳で語り合おうぜッ!!」