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第3話『学園生活スタート……したけども』

 何故だ?

 どうしてこうなった?

 こんなはずじゃなかった。おかしい、俺の想定とは全く違う状況だ。



 どうして。

 どうして。

 どうして――この1週間、誰も俺に関わろうとしない!?



 我ながら自己紹介は完璧だった。

 明るい雰囲気に、話しかけやすいフランクな口調。ウィットなジョークを挟み、戦闘マニア的な要素を含むことで血の気の多いであろう彼らの心もキャッチ!

 これ以上の自己紹介をどうやってやれと!? なぜ俺だけポツンと机に座っている!?


 もしかしてちょっとチャラかったか? 親しみやすいキャラを研究した結果、適度なチャラさという結論に辿り着いたのに!

 それとも明るくやりすぎて「高校デビューしたばっかの痛々しい奴」認定されたか!?

 でもそれにしたって、もうちょっと転入生に興味を持ってもいいはず……!


「クソ……ノブさんが言ってたのはこういうことか……っ」


 甘く見ていた。

 長きに渡る任務生活のせいで、知らず知らずのうちにコミュ力が落ちていたことを。

 現に俺の急ごしらえのキャラは容易く見破られ、孤立の一途を辿っている。

 これは確かに心が折れる……!


「あの……すいません」


 現実に打ちひしがれて机に突っ伏していると、誰かが俺に話しかけてきた。反射的に横を向く。

 俺に話しかけてきてくれたのは、俺の隣の席のウサギ系獣人の子だった。


 確か……新聞部の安浦やすうら葉由流ハユルちゃんだったか。

 ふわふわしたミルク色の髪をボブカットにした女の子だ。ぴょこぴょこ動くうさ耳が小動物っぽさを強調していて可愛らしい。


「やぁ、どうしたんだい?」


 嬉しすぎてキャラ崩壊するレベルの爽やかスマイルで応じる。

 そんな俺にハユルちゃんは、心配してるというか哀れんでるというか、何とも言えない微妙な表情を浮かべながら言った。


「あの……次の授業体育なんですけど、移動しないんですか? もうみんな更衣室行っちゃいましたよ?」


「え、マジで!? うわホントだ誰もいねえ!」


 机に突っ伏して考え事してたから全く気が付かなかった!

 つーか誰か誘うとかしてくれよ! 俺、転入生だから普通は更衣室の場所なんてわからんでしょうが!

 生徒のデータといっしょにマップも貰ったから問題ないけどさ!


 ハユルちゃんの微妙な表情の意味がわかったわ。

 これは「え、誰も誘ってくれなかったんですか? うわぁ可哀想に……」って顔だったんだ。

 ショックすぎて言葉も出ねえよ。


「更衣室の場所、わかりますか?」


「あ、ああ……大丈夫。わざわざありがとう」


「いえいえ、それでは私は行きますね」


 ハユルちゃんはそのまま駆け足で教室を出ていった。もう時間もあんまり無いから俺も行こう。

 それにしてもハユルちゃん、ええ子や……。こんな哀れなぼっちに親切にしてくれるとは。


 理事長がくれたデータって基本的な情報は正確なんだけど、性格のところはだいぶ贔屓目に書かれてるから信用ならないんだよな。

 ちょっと疑心暗鬼だったけどハユルちゃんは大丈夫そうだ。

 え? 1回優しくしてもらったぐらいでチョロすぎだろって?

 そのぐらい優しさに飢えてたんだよ。



◇◇◇



 3限目、体育。

 体育といってもスポーツはしない。するのは魔法の実践と模擬戦闘だ。

 俺たちのいる馬鹿デカい体育館には防御魔法がかけられていた。ここで模擬戦をするらしい。


 この渋谷第三魔導学園は、代々優れた魔術師を排出してきたことで有名な学校だ。

 そのまま各地方騎士団にスカウトされることもあれば、魔法が欠かせない技術職に就く者もいる。

 魔法教育に関しては国内トップクラスであり、魔法を「学ぶ」だけでなく「使える」ようになる教育をするのがこの学園の特徴だ。


 体育は選択授業のひとつで、魔法戦闘技術を学ばなくてもいい奴はほかの授業を取る。

 体育を取ってるのは、将来そういう系統の職に就きたい奴か、運動が得意な奴。もしくは「何となくかっこいいから」って理由で取った奴。


 ちなみに1年生で魔法を「学ぶ」授業はあらかた終わり、2年生以降はそこから自分の魔法適性を理解し「使う」授業になる。

 模擬戦で使う魔法はよっぽどヤバいのじゃなければ各自自由。ほんと実戦的だわ。


「よし、じゃあ2人組になって模擬戦やってみろ!」


 出たよ悪魔の言葉!

 どうしよう、野郎に友達なんて1人もいないし、男女は別だからハユルちゃんはいないし!

 というかハユルちゃんも別に友達じゃねえ!


「あ、今日は奇数だからどっか3人組だな。じゃあ九頭龍、お前は初めてだからあそこのペアに入ってやり方教えてもらえ」


 ありがたい気遣い。

 これで何食わぬ顔でグループに入ることができる。

 できればリア充ペアに入って存分に俺をアピールしてやりたいところだが……。


「おう転入生、よろしくな」


「……」


 俺が入れられたのはリア充とはちょっと違うペア。


 1人は柳沢やなぎさわ譲治じょうじ

 ウニみたいにチクチクした黒髪で、眼鏡をかけた大柄な人間族の男子。ラグビー部かよってぐらいデカイ。

 ただしバリバリのインドア派。タイピングとかめっちゃ速いらしい。


 もう1人の無口な奴が、羽多野はたの耀よう

 ギャルゲー主人公みたいに茶髪に目が隠れている、細っこい体をした無気力系イケメン。ただし無気力すぎて女子からの人気が微妙。どんだけ無気力なのお前。

 種族は幽霊系モンスター、レイスの魔人。


 どっちも俺のクラスメイトだ。喋ったことないけど。


「ああ、よろしく。知ってると思うけど、九頭龍巳禄だ……え、知ってるよな?」


「おう、自己紹介でいきなり戦闘狂宣言してドン引かれてた奴だよな」


「え?」


「お前がぼっちな理由、単純に頭ヤバい奴だって思われてるからだぞ」


 柳沢の言葉に俺はその場に崩れ落ちた。

 そこか! そこが悪かったのか! いくら個性の塊みたいなクラスでも血の気が多いわけじゃなかったのか!?

 クッソ、リサーチが甘かったか……ッ!


「なぁ九頭龍、お前に聞きたかったことがある」


「な、何だよ?」


「お前……女の子の部位ならどこが好きだ?」


 ……高尚な話だ。


 しばし悩む。どう返答すべきか。

 時間にして10秒にも満たない時間。しかし俺にとっては永遠にも思える時間の中で、ついに俺が出した結論は――


「……鼠蹊部、かな」


「……そうか」


 再び、しばしの沈黙が流れる。

 俺という人間を試すような真剣な眼差しで、柳沢が俺の目を射抜く。

 そして――



「今日から俺たちはダチ公だぜ、九頭龍」


 固い握手を交わす。

 初めての友達ができました。



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