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エンラセ  作者: 和惟
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第二話 喪イ

第二話 喪イ


 38 :アフェサイト転載禁止 2055/1/8(金) 23:02:30.92 ID:P9ySaI0

    数年前からVRのB-SABotオープンマッチ荒らしてるエオリアって青い機体って、     

    日本人らしいぞ

 

 39 :アフェサイト転載禁止 2055/1/8(月) 23:16:42.11 ID:Jis09LsE

    <<38 それな、高校生で確定らしい

 

 40 :アフェサイト転載禁止 2055/1/8(金) 23:30:45.32 ID:FGt5wW3

    マジか!激アツ! あれリアルでB-SABot適正なくてもいいからオラもやって

    るが、今年も初戦敗退乙……

    スピアリアーズも出てるってな。そこで1位とかリアル凄そう 

 

 41 :アフェサイト転載禁止 2055/1/8(金) 23:33:50.67 ID:TaP81Ffi

    え?VRのB-SABot総合格闘って日本人が世界ランク1位なんですか?

    wktk てか、皆なんで知ってんの?非公開でしょ?

 

 42 :アフェサイト転載禁止 2055/1/8(金) 23:45:30.92 ID:P9ySaI0

<<41 非公開だが、知るルートは無限tk

 

 43 :アフェサイト転載禁止 2055/1/8(金) 23:46:43.22 ID:3U2vBr0

    昨日の大会も優勝したらしす。武器は短剣二刀流。決勝の配信みたけど、対戦相 

    手はおそらくスピアリアーズっぽい。見た事無い規格のエフェクト外装だった。

    でもな、開始五秒で青い機体のやつにジャミングっぽい技でPID制御ずらされた

    のか上腕が一瞬変なロールになった隙に短剣の四連激で間接の薄装甲剥がされ

    て終わってた。全部で十秒。

    とにかく早杉……てか強すぎ……

    リアルであの動きできたらスピアリアーズランキング一位落とせると思った

 

 44 :アフェサイト転載禁止 2055/1/8(金) 23:54:12.29 ID:VVci+6n

    その試合みたい!

    リンクおなしゃす!


2055年1月12日 東京


「なんだこれ?」

「ユヅル、これ以上アトムスフィアへの深部アクセスは危険です」

「分かってるよ。でも、やっと(つか)めそうなんだよ」

「ユヅル、対象サーバからの警告で私の機能の一部に制限が掛かりました。速やかにアローヒエラルキーへの移動をお願いします」

「BPF使っても減衰率が落ちない……エオちゃん、ブレインコネクトだけシャットダウンできない?……ん?エオちゃん、もしもーし?やっべ、落ちたか……」  

 深夜の静けさとは無縁の四畳半。熱の籠ったその小部屋で家庭用LOCQ型サーバ一台が唸りをあげる。少し大きめのモニターの明かりだけが小部屋内を照らし、冬だというのに汗ばむ感じだ。

 モニターの前で旧式のヘッドフォンを外したユヅルの瞳には、『WARNING』の点滅が映り込んでいた。

「今日は行けると思ったのになぁ。こんなけ厳重だと逆にますます見たいよな〜」

 モニターアラームが午前二時を知らせる。

「おっと、今日から学校か……。行きたくねー」

 ユヅルは違和感のない独り言を吐きながら座椅子で寝息をたてた。



翌1月13日


 冬休み開けの新学期。江戸川区瑞枝工業高校。白煙を吐きながら校門をくぐる生徒達。その中にひときわ気だるさを隠せない者が居た。


——学校嫌だな……。どうせクラスの奴ら嫌みな視線しか……。ちょっと太ったか……。

「ほら尾上(おがみ)!ブツブツ言ってないで教室に急ぎなさい。チャイムがなるぞ」

「は、はい、すいみません」

——はぁはぁ、まったく、どいつもこいつも……。僕になんの関心もないくせに命令ばかりしやがって……。全剣会(ぜんけんかい)(※1)のエントリー終わったら保健室でもいくか……。

 午前中のホームルームを終えた人工知能科3年の教室。

 休み明けの変化を高揚しながら吐露し合う雑音の最中、ただ一人、尾上ユヅルだけは自席にへばりつき今年度の全剣会エントリーシートが写った卓上タブレットに食い入っている。大会は一週間後。瑞枝工業高校で唯一のB-SABot適正者であるユヅルは高校を代表して今回で二度目の出場となる。

——受験か……ご苦労様だね。僕みたいな才能があればそんな事をしなくても楽勝で勝ち組……へへへ。せいぜい頑張ってくれってな。よっし、今年の大会のために“一の湯“に新調したエンコーダを取り着けて反応速度ギリギリまで調整しないとな。後、休み中に出来なかった右腕のトルクの引き上げやんないと……。あれ面倒だからなぁ……。

「お、ぶーたん、何見つめてんだ?」

「あ、ぶーたん、今年もあれに出るんだ!みんなー、ぶーたん全剣会にでるってよ!」

——くそ、よけいな事を言うな!しかも、いつから僕はぶーたんになってんだ……。僕はお前らみたいなリア充どもと絡むのが嫌いなんだ!

「え、マジ、また出るの? 前回、初戦敗退でうちの高校の恥とか言って先生連中が言ってたぜ?!」

「でもこいつ、一応、B-SABot動かせるから警察の内定もらえるらしいぜ」

「マジか!ぶーたんなのに生意気だなぁ。俺ら勉強で疲れてるから暇なら肩でも揉んでくれないかい?ぶーたんさん」

——なんで僕がお前らの肩なんか揉まにゃならん!忙しいんだ。あっちいけよ!

「ありがとうな、ぶーたん。あ、もうちょい右な!……そこ、そこそこ。気持ちいいわぁ」

「俺も、次頼むな!」

「俺も!!」

「順番に並んでくれたら揉んであげるよ」

「さすが、仏のぶーたん。やさしいなぁ」

——B-SABotの調整もしなきゃいけないのに……。こいつらいつか絶対……。


(※1):全剣会(全国高校B-SABot剣技競技会:National High School B-SABot Sord Competition)



一週間後


 静岡県富士見市 B-SABot競技専用アリーナ 通称プラネットカバー


 全剣会は、全国の高校生の中でB-SABot適正者の全てが出場し、トーナメント制により唯一の優勝者を選ぶとともにその年の高校生ランキングも決定された。

 試合方式は至って簡単。一対一によるB-SABot格闘戦で、一辺25mの正方競技フィールド外に出るか、審判が戦闘不能と判断するほどの機体損傷があるか、操作者のリタイア宣言があるか。その何れかで負けとなる。試合時間は5分。5分で勝敗がつかない場合は2分間の延長戦が行われる。それでも尚、両者が続行可能な場合、審判員3名の合議による判定で勝者が選ばれる。その判定基準は、格闘技としてより有効な戦闘が出来ていた方に有利な判定となる。

 今年も、全校4520校の中から、B-SABotに適正がある男女合わせて2120名の高校生が一堂に会して、各々が自作し、調整した個性豊かなB-SABotが熱戦を繰り広げようとしていた。

——ヤバい……リア充祭りだ……毎回、この雰囲気にのまれて本来の僕の力が発揮できないんだ。邪念は捨てろ自分!まずは端末でエントリーっと……ん?!あれ、無い!!エントリーに必要なパスワードをメモした紙をポケットに入れといたはずなのに?!あれ、あれあれ。

 会場の入り口付近でポケットをまさぐり、凄まじい汗を流しているユヅル。それを気にも掛けず、皆、整然と受付端末に列を成す。

——まずいぞ、これが無いと出場できない……1231だったかなぁ7312だったかなぁ……どうしよう……ううう。

〈〈あの、これ落としませんでした?〉〉

「あ、それ、あ、あの、落としました!僕のです」

〈〈よかった。私、1年で今年初めてなんですけど、エントリーしようとしたら同じ名前の人いるのか、重複エラーって出ちゃうんです……。先輩達ともはぐれちゃったんですけど急いでエントリーしたくって……もしよかったら、教えて頂けませんか?〉〉

 人の顔をまともに見れないユヅルは、インナートランサー(※2)に付いたVSG(※3)から聞こえる音声に違和感を覚える事無く、額の汗を拭いながら返されたパスワードの書かれたメモ用紙を握りしめる。安堵から相手の言う事が頭に入らない様子であったが、ふと、うつむいた目の前に細白い指先とそれが添えた純白のハンカチが差し出され、はっとする。

——かっ、かわいい手だなぁ……メモ用紙を拾ってくれた人への興味が沸いたユヅルは、即座に顔をあげた。

〈〈あ、あの、汗すごいですね。使ってください〉〉

——め、めちゃくちゃ……たっ、タイプだぁ。え、えっと何だこの状況は……。ん?トランサーで会話?大会で貸し出してる出力専用のトランサーかな?あ、やばい!こっちの思考伝達モードにして……なかった。良かった……あぶないあぶない。

〈〈もしよかったら、エントリー方法教えて貰えると嬉しいです〉〉

「は、ひゃい……はい!」


——おい僕!お礼をまず言うべきじゃないか!でも、何だこの良い香りは……。男子校だから女子と話すなんて何年ぶりだ……ヤバい。また汗が……。何話したら良いんだ……。とりあえず、エントリーの仕方だな。よし!

 中学時代から小太りな体型と陰気な性格から女生徒とは無縁の生活を送ってきたユヅルにとって現実(リアル)とは思えない時間が続く。

〈〈なるほど、ここでパスワードを入れて……。あ、出来た!これで完了ですね。ありがとうございました。とても助かりました〉〉

「も、もしかして、君、声が?」

〈〈あ、ごめんなさい。別に病気じゃないんですが小さい頃から声がでなくって……〉〉

「こ、こちらこそ……ごめん」

〈〈平気です〉〉

「あ、あの、僕、東京の高校なんだけど、き、君は?」

〈〈私、岡山です。瀬戸内高校。私の学校、3人も出場してるんですよ!先生も珍しいって〉〉

「あ、昨年優勝した〈渦潮丸〉の人が居る高校だ!名前何だっけ……」

〈〈湊先輩です!〉〉

「ああ、甲ノ内湊くんだ!」

〈〈そうです!やっぱ先輩有名人だ。すごい〉〉

「あ、き、君の名前聞いてなかった……。僕の名前は尾上ユヅル。君は?」

〈〈私は……〉〉

 っと、その時、会場の方からの大声が2人の会話を遮る。

早瀬(はやせ)!いたいた!探したぞぉー。早くしろー行くぞー」

〈〈ご、ごめんなさい。親切にしてくれてありがとう。また大会で!〉〉

「あ、う、うん。また」

——早瀬さん、っかぁ。めちゃかわでストライクだぁ。てか、同じ学校の人が居るならその人たちに聞けば良いのに……何で僕に?ん?まさか、僕の事が……うん、1000%ないな。ある訳が無い!

 早瀬の残り香に頬を赤らめながら、ユヅルは気づいた。

——あ!ハンカチ!!返さなきゃ。


(※2)インナートランサー : 内耳型思考送信機。耳に装着し思考をそのまま言語に変換し送受信できる。半径100m内の特定のインナートランサーとの送受信が可能。電話機能を使うには腕に付けたウエアラブルフォンのネット回線を通せば可能となる。


(※3)VSG(voice Sonograph Generator:ソノグラフ音声生成器):インナートランサー基盤部にオプションで取り付け可能な小型音声生成器。思考がほぼリアルタイムで言語化され人工音声にて発声。発語障害用はもちろんのこと思考の文章化なども可能である。



三時間後

第八競技フィールド 


 ——ある程度シーケンス制御だな。最大トルク検出。右腕振り下ろし時18kN・m……。斬り込まれたらまずいな。

 第一試合。ユヅルは持ち前の分析眼で対戦相手を征している。

 ユヅルのB-SABotは基本的に市販のパーツで自作されているが、カメラや制御基盤など少し高価でこだわりのある物にしている。B-SABotのボディー外装には、出資者の両親が経営する銭湯のロゴである“一の湯”という漢字プリントが施されている。故に不本意ではあるがB-SABotエントリー名を「一の湯」としていた。

——この人、適正値低いのかな?今回は初戦だけ突破しとくかな!一分!このまま予定動作だけ避けてれば終了だ。ん?軌道が変わった?あっ!!間合いが詰っ……

 相手は、どう見ても百貨店でキット化されて売っているであろう末梢的(まっしょうてき)なB-SABotであり、特出すべき戦闘能力が無いのは明らかだ。だからといって油断していた訳ではなく、ましてや、勝利にとらわれている訳でもないユヅルは、昨年、一回戦で清々しいほどの負けっぷりを晒した記憶がフラッシュバックする。

——相手の動きが変わった?僕と同じ“適正値変更”ができるのか?僕も“適正値調整プログラム”を使うしかない

 全剣会での適正値調整プログラム自体の実装は禁止されている。使う事は無いと思っていたが一般に入手できないプログラムを自作していたユヅル。

——バレたらまずいってのに……

 “一の湯“と書かれた外装部が青く発光し浮かび上がる。すると、相手に詰められた間合いの外に瞬間移動さながらのスピードで一気に飛び出した。

 間合いが空き、数秒、睨み合いとなる。しかし、“一の湯ブルーモード”になったユヅルにはちょっとした自信があった。それは、ブルーモードになると同時に自宅のLOQCサーバにある“エオリア“という彼独自で作り出した人工知能総合支援システムに直結されるのだ。そして、高い適正値のユヅルの行動判断を瞬時に高速演算を用いた最適解処理でB-SABot動作支援に反映させることができる。軍や警察のB-SABotにだってこれがあれば負けはしないとう自負が、得体の知れない恐怖心を払拭させていた。

——残り時間も少ない。このまま、小康状態で判定負けでも良い。何もしないでくれー

 ユヅルは睨み合いのまま試合終了を望んだ。相手が(まと)った陰湿な殺気が自分に向けられているのを感じていたのだ。

 しかし、終了の数十秒前、ユヅルの予測と期待を大きく外れる。

——だめだぁあああ、何て早さだ……外装が剥げたぁ。後三十二秒……一の湯がもたないい。なんだこいつ。遊んでるのか?くそっ……僕の一の湯じゃあ基本性能が違うって言いたいのか……

《なかなか、面白い仕掛けですねー。適正値も高い……が、つながりが深すぎです。あまり深いと……ふふふ、対象ではないですが、芽は摘んでおきますか》

——はぁはぁはぁ、なんだ今の“声“は……インナートランサーは着けてないのに頭に直接?誰だ?こ、こいつ、何なんだ。刀の振り下ろし速度が尋常じゃ……しかも出力もケタ違いに上がってる……うっ、おっ、押されるぅう……なめやがって……で、でも、しょうがない。うん。しょうがない。ここまでコケにされるとムカつくけど……めちゃくちゃ脳が疲れる……。あ、暑い

 ユヅルがリタイアのフラッグを審判に送信しようとした……その時……

《そろそろ限界だな。切れるぞ》

——え?ま、まさか……いっっ痛っぁ

 リタイアフラッグを送信する直前、ユヅルは頭部に激しい激痛をおぼえた。

——あ、暑い……焼ける……意識が遠くなる……

 ユヅルのヘッドギアから何かが焦げるような臭いと白煙が散り、感電したように震え、その場に倒れ込んでしまう。

「おい、第八のあれ?!人倒れたぞ!」

「マジ?てか、頭から煙り出てない?なんか、ヤバそう……」

「きゃぁぁぁぁ!!」

「早く!!操作ブースに担架を!!」

 会場の一部から立ちこめる焼けこげた臭いが次第に辺りをざわつかせる。程なく、雑踏(ざっとう)の中を担架に乗せられたユヅルが駆け抜けていった。

 

 2055年冬、第十二回を迎える全国高校B-SABot剣技競技会は計4名の負傷者をだして閉会。結局、ユヅル第一回戦の相手である黒い機体のB-SABotが圧倒的に高い適正能力と機体性能を武器に他を寄せ付けず優勝を納めた。しかし、事故を配慮してか優勝者の氏名、高校など発表されないままとなり、数日後のネットニュースに負傷した4名の高校生が死亡したと小さく報じられるだけで、いづれも黒い機体のB-SABotとの試合で起きた事故である事は伏せられたままであった。

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