序章★
『Steel Eyes――夢霞――』より
鏡を見るのは好きじゃない。
映るのは
生まれつき白すぎる肌。
周囲とは明らかに色彩を異にする短い髪と瞳。
他人とは違いすぎる自分の姿が
嫌で堪らなかった。
幼いころから時々思っていた。
父とも、写真でしか見たことのない母とも違う。
何か自分は
とてもよくないモノなのではないか、と――
◇ ◇ ◇
街も人もすでにあわただしく動き始めていた午前八時。
都会の喧騒から遥かに離れた閑静な住宅地の、その最奥――
敷地面積だけはやたら広い古い木造建築の家屋では、毎朝のことながらようやく遅い目覚めを迎えつつあった。
ザーッ!
バシャバシャ……ガッシャンッ!!
洗面台ではこれまた毎度のことながら、まだ寝ている身内への配慮など欠片もないような洗顔風景が繰り広げられている。
ただでさえ音が反響しやすい建物であるにもかかわらず、顔面に打ちつける水音や洗面用具の取り扱いで生じる音を必要以上に響かせ、しかもその間水は勢いよく出しっ放し――。
そんな迷惑極まりない日常風景も、数分後ようやく終焉を迎えた。
水しぶきをあげながら探り当てたレバーを無造作に押し戻し、ふと眼前の――鏡に映し出された――自分に目を留める。
「……」
何年経っても慣れない。慣れるわけがない。
鏡面に映し出されるのは、他人とは――周囲の人間とは――似ても似つかない容貌の自分。
その辺の純日本人にはありえない色彩。
なぜ自分だけがこんなふうに生まれついたのか……。
つい考えてしまう。
誰も答え得るわけがないとわかってはいるものの。
ふいに口元に笑みが宿る。
瞳には強い光。
考えてどうにかなるのなら、十七年もこんな姿をしていない。
「今さら、だよな……」
つぶやいて大谷睦月は、未だ頬や前髪から水を滴らせたままの鏡の中の自分に鋭い視線をぶつけた。
――――
【いただきもののイラスト紹介】
堺むてっぽうさまよりいただきました、企画絵。
ありがとうございました!( *´艸`)