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■ 後 編


 

 

タキの頬に、再び涙が伝った。


ユズルも顔を歪めて必死に涙を堪えていた。

 

 

 

 『たった一人だけ生き残ったレイに、


  その先生が ”ごめんね ”って謝ったの・・・


  ”君をひとりぼっちにしてしまった ”って、レイを抱き締めて・・・

 

 

  後から分かったんだけど、


  その先生にもレイと同じ歳くらいのお子さんがいたらしいわ・・・

 

 

  きっと、レイを自分の息子さんと重ねて胸が痛んだのね・・・。』

 

 

 

すると、タキは伏せていた顔を上げた。

まるで穏やかで眩しい朝陽のような微笑みで、静かに言う。

 

 

 

 『あの子の両親が搬送されたのは、ユズル先生の病院だったの・・・

 

 

  ホヅミ先生・・・


  ユズル先生のお父さん、当時、外科部長だった院長先生が


  あの時、必死に救おうとしてくれたお医者さんなのよ・・・。』

 

 

 

その言葉を耳に、ユズルは目を見張って固まった。


タキがわざわざ隣街のユズルの病院に来た事に、確かに違和感を覚えていた。

自らが住む街の、しかもレイが務める病院があるというのに、何故ここまで

来て入院したのか不思議に思っていたのだった。

 

 

 

 『どうしてもどうしてもあの時のホヅミ先生に会いたくて、


  レイに無理言ってこの病院に入院したの・・・

 

 

  あの子はきっと当時まだ小さかったから、


  搬送先がここだって気付いてないのね・・・

 

 

  そうしたら、ユズル先生がホヅミ先生の息子さんだって聞いて


  わたし、もう嬉しくて嬉しくて・・・。』

 

 

 

ユズルの顔を潤んだ目でまっすぐ見つめる、タキ。

 

 

 

 『ユズル先生が例えどんなに表面上だけの笑顔でいても、


  あのホヅミ先生の息子さんだもの、悪い人なはずないって信じてた・・・


  ユズル先生は、あたたかくてやさしくて、素晴らしい人に違いないって。

 

 

  だから、ユズル先生がレイをお嫁さんにしてくれるって聞いて、


  わたしにとってはもう夢のようなのよ・・・

 

 

  あの子の両親も、きっと天国で飛び上がって喜んでるわ・・・。』

 

 

 

タキが身を乗り出して、ユズルの手を握った。

そのぬくもりがユズルの胸にじんわり広がり、透明な雫となって零れる。

 

 

 

   『レイを・・・


    あの子を見付けてくれて・・・ ありがとう・・・。』

 

 

 

タキの小さな手の平の温度が、胸に突き刺さり痛かった。

ユズルは頬に伝う涙をそのままに、大きくかぶりを振る。

 

 

 

 『見付けてもらったのは、僕です・・・


  ・・・僕が、レイに・・・ 救われたんです・・・。』

 

 

 

するとタキは目を細めて幸せそうに微笑んだ。

ユズルはタキの手をもう一度ぎゅっと力をこめて握り締める。

 

 

 

 『動かない脚の分、それ以外の全てを使って


  ・・・全力で、レイを幸せにしますから・・・。』

 

 

 

その真剣な一言に、タキが心から幸せそうに笑った。

 

 

 

 『そんなのいいのよ・・・ 幸せにしようなんて思わないで・・・


  ふたりでただ仲良く生きてくれれば、それで・・・

 

 

  それにあの子、


  ”幸せにする ”なんて言われたら、きっと怒りだすわよ・・・

 

 

  ”してもらわなくてケッコー! ”とか言って。』

 

 

 

ユズルとタキ、レイが目をすがめ顎をツンと上げる顔を思い浮かべて声を

出してケラケラと笑った。


ふたりのやわらかい笑い声が、静かな病室に木霊していた。

 

 

 

 

 

カッコウが遠く小気味よい鳴き声を高い空に響かせている。

暫しなにも喋らずに、延々続く青い空を見上げていたユズルとレイ。

 

 

ユズルはそっとレイを見つめた。

 

 

 

 『幸せになろうな、ふたりで・・・。』

 

 

 

そう呟いて手を握った。

レイの細くて長い指、短く切り揃えた爪、飾らないそれ全てが愛おしい。

 

 

するとレイが嬉しそうに頬を緩め、頷く。

 

 

 

 『うん・・・  ”ふたりで ”ね。

 

 

  もしユズルが ”幸せにしてやる ”なんて上から言ったら、


  ”そんなのケッコーです! ”って言おうかと思ってたわ。』

 

 

 

レイが言い放ったその一言に、ユズルが思わず吹き出して笑った。


一旦笑い出したら、もう止まらなくなってしまったユズル。 いつまでも

いつまでも、愉しそうに幸せそうに笑い続けているその姿に、レイは小首を

傾げる。  『・・・なによ??』

 

 

『いいや、別に・・・。』 そう言いつつ、まだ笑っているユズル。

 

 

 

 『タキさんに、感謝しなきゃな・・・。』

 

 

 『ん~??』

 

 

 

『なんでもない。』 そう言って、上半身を乗り出しユズルは両腕を広げた。

レイはユズルが笑う意味がよく分からないまま、その腕にすっぽり包まれる。

 

 

 

    『運命だな・・・。』 

 

 

 

ユズルの囁くような声が、くぐもってふたりに落ちた。

 

 

 

                              【おわり】

 

 

 


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