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エンドレス・キャンパス  作者: 木眞井啓明
第一部 息吹  第二章 夢
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登場人物)

 本藤ほんどう かおり

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。


 森里もりさと 利樹としき

  西暦2101年09月25日生まれ/国土省環境局

  森里家一族の中で、一二を争う穏やかで、優しい心を持っている。

  他人を思いやり、自然が大好きな男である。


 藤本ふじもと かえで

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識・知能が低い訳ではない。


舞台)

 関甲越かんこうえつエリア

  関東甲信越を短縮したエリアの名称。東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。


 鵜野森CBうのもりしーびー

  鵜野森とは、神奈川県相模原市にあり、東京都町田市との境にある地名。

  楓達が通学の途中にあり、関甲越エリアにある商業地区の一つ。

  飲食から衣料品などまでの店や複合施設、娯楽施設、宿泊施設まで揃っている。


 百合ヶ丘LBゆりがおかえるびー

  神奈川県東部、百合ヶ丘を中心にした居住地区。東京都の境も含まれる。

  楓と薫りの家が含まれ、関甲越エリアにある居住ブロックの一つ。


メカニカル)

 エレカ

  所謂電気自動車のことであり、コミューターである。

  燃料は電気で、燃料電池、バッテリー(充電池)を使用。駆動はリニアホイールモーターを使用する。

 流れてゆく街並み……。車窓から見える景色はプライバシーガラスのため、晴天にも関わらず薄曇りに見えている。

 未だ目覚めぬ楓と付き添った薫は、利樹のエレカに乗っていた。

 この時代、個人で車を持つ人は減っていた。公共の交通機関が、より利用者の利便性を考えて進化したためである。そうは言っても、趣味や仕事の都合などの理由で、乗用車としてのエレカは未だに存在している。利樹もまたそんな部類に入るのかも知れない。

 三人を乗せたエレカは、鵜野森CBを後にして、既に地下から地上に出ていた。

「藤本さんの様子はどうですか」

「まだ、呻き声すら上げていません。意識もあるのかどうか……」

「そうですか」

 重苦しい空気が車内を包んでいた。楓が倒れてから一時間になろうかと言う時間が経っていた。

 いつもより痛みが激しいのであろうか、あるいは、痛みに負けて意識を手放しているのであろうか。薫や友人達にはそれを知る術はない。ただ、付き添っている薫が感じる呼吸と鼓動が、楓が無事であることを感じさせる唯一のことであった。

「……楓!」

 一瞬、何かを発したように感じた薫だが、楓の表情は、痛みを感じているどころか寝顔のように見えるだけであった。

「本藤さん」

「はい」

「心配のしすぎは精神的に良くないですよ。大丈夫。藤本さんは元気になります」

「そうだと良いのですが……」

「そう、信じましょう」

「えぇ」

 利樹の言う通り、心配のしすぎは意識が戻った楓を逆に心配させるであろう。それは薫とて分かっていることである。しかし心配せずにはいられない。それは、相手が楓だから余計にそう感じているのかも知れない。

「……う~……」

 楓に険しいながら表情が戻る。

「……楓!」

 目に涙を浮かべた薫が叫んだ。だが、直ぐに楓の表情から険しさが消えてしまい、それと同時に呻き声も消える。まだ、痛みに耐えきれないとでも言うのであろうか。楓が、必死に何かと戦っているのであろうか。それが時折、顔を覗かせているだけなのかも知れない。

 利樹の操るエレカは、百合ヶ丘LBのジャンクションに差し掛かったようで地下へと潜っていく。と、緩く右に負荷を感じた薫。どうやら、利樹が車線を変えたようである。

 しばらくすると、先ほどより強く右に負荷がかかる。

「森里さん。あの……」

「あ、申し訳ありません。今し方の藤本さんの反応がちょっと気になりまして」

「それと、方向を変えたことと何か?」

「はぁ。まだ何とも。でも、何かが分かるかも知れません」

 複雑なジャンクションを利樹は左回りでルートを変えていった。一体何処へ向かっているのか。しばらくするとエレカの前方に電灯とは違う明かりが見えてきた。どうやらジャンクションを抜け、地上に出るようである。

「……何故、戻るようにしたのですか?」

「先ほども申し上げた通りです。もう少しだけ、このまま行かせて下さい。きちんとお送りします」

 車窓の景色に気が付いた薫が問い掛ける。一方で利樹の言葉に、何かをしようとしていることは分かるのだが、何をする積もりなのか、薫にはまだその真意が理解できていなかった。それより、早く連れ帰って休ませてあげたいという思いが強かったのである。

「……う~……」

 楓の呻きが聞こえたのは、戻るルートになってしばらくしてからである。この時薫は、楓を見つつ利樹も見ていた。何故、真っ直ぐ帰してくれなかったのかを薫なりに詮索していたのである。

 しばらく、幾つもの住宅ブロックの何れにも入らないように分岐を選択してエレカを駆る利樹。その間に、楓の呻き声が何度か上がった。その中で目に付いたのは、植物の不治の病として知られている“枯れと萌え”である。これが楓の痛みと関係するとでも? あるいは何か別の理由でもあるのか。薫は、幾つかの疑問を感じつつも利樹の思惑を計りかねていた。

「森里さん。そろそろよろしいのではないですか?」

「え?」

「楓がかわいそうです……」

 利樹がちらりと見た薫は、悲しみと不条理な憎しみが綯い交ぜになったような、何とも言い難い表情をしていた。目にはうっすらと涙も浮かんでいた。少々やりすぎたか、そう利樹は思わざる終えなかった。

「……そうですね」

 利樹そう呟いて、楓の自宅がある向ヶ丘第一〇住宅へとエレカを向けた。

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