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エンドレス・キャンパス  作者: 木眞井啓明
第一部 息吹  第二章 夢
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登場人物)

 森里もりさと 利樹としき

  西暦2101年09月25日生まれ/国土省環境局

  森里家一族の中で、一二を争う穏やかで、優しい心を持っている。

  他人を思いやり、自然が大好きな男である。


 神本かみもと 里子さとこ

  西暦2109年06月20日生まれ/専課学校、社会法律学部社会科4年生

  神本家一族の中でも、きっての穏やかな性格。

  他人を慈しむことに秀でており、里子の傍にいるだけで、穏やかな気持ちになれる程。


 藤本ふじもと かえで

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識・知能が低い訳ではない。


 本藤ほんどう かおり

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。

 岩間いわま 聖美さとみ

  西暦2108年08月13日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、子供っぽい所もあるが、二〇歳に何とか相応しい女性だが、楓に似た所もあり、類は友を呼ぶを表した友人の一人。


 山田やまだ 明子あきこ

  西暦2108年06月21日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、長女であるだけにしっかり者で世話好き。だが、おっとりしているわけではない。その辺は弟を持つが故なのかも知れない。


舞台)

 関甲越かんこうえつエリア

  関東甲信越を短縮したエリアの名称。東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。


 鵜野森CBうのもりしーびー

  鵜野森とは、神奈川県相模原市にあり、東京都町田市との境にある地名。

  楓達が通学の途中にあり、関甲越エリアにある商業地区の一つ。

  飲食から衣料品などまでの店や複合施設、娯楽施設、宿泊施設まで揃っている。


メカニカル)

 エレカ

  所謂電気自動車のことであり、コミューターである。

  燃料は電気で、燃料電池、バッテリー(充電池)を使用。駆動はリニアホイールモーターを使用する。

「ねぇ、利樹兄ちゃん。いいでしょう~」

「いや、それはちょっと困りましたね」

 袖を引っ張る女の子、いや“少女”と言った方が良いのか。神本里子、一八歳。専課学校、社会法律学部社会科の四年生である。

 目は大きめで目尻はそれほど下がってはいない。鼻は少々大きめで鼻筋が通っている細面の顔立ちである。髪型は、セミロングのストレートで色は黒である。

 この顔立ちに加え、胸もおしりもあまり主張はしていない。そうは言っても一般的な女性特有の体型ではある。であるのだが、その容貌と身長が一六〇・八㎝であるため、子供に間違われること数知れずである。その一方で、傍にいると何故か心が和やかになる、彼女が通う学校内での喧嘩を止めたこと数知れず。と言うやや不思議な特性を持つ人物である。

 さて、本日の服装はと言えば、敢えて本日の言動に合わせたのであろう。トップは、ボタン止めする部分にフリルをあしらったベージュのブラウス。ボトムは、フリルが多くあしらわれた淡い赤のスカート。シューズは、ピンクのスニーカーを履いている。

 この様な出で立ちの里子は、まるで子供のように知り合いと思しき男性に甘えているのであった。

 男性の方は、森里利樹、二六歳。国土省環境局に努めている。所謂公務員と言う奴である。

 目は細い部類に入るが少々釣り目気味、鼻は小さく鼻筋が通っている。すっきりした逆三角形の顔立ちである。

 髪型は、耳が出ている程度で大ざっぱに分けられており、色は黒である。

 本日の服装はと言えば、トップはグレーのポロシャツ。ボトムは少々色の抜けたデニム。シューズは普段使っているのであろう黒のスニーカーを履いている。

 公務員であると言うことは殆どがデスクワークの筈であるが、身長が一七〇㎝である事も手伝っているのか太っているようには見えない体格である。

 さて、里子があまりにも子供じみた出で立ちであるため、利樹のラフな格好が二人のアンバランスさという点で、周囲の視線を集めていた。

「里子ちゃん。その喋り方、止めませんか?」

「なんでぇ~」

「もう、子供ではないのですから」

「良いじゃない。利樹兄ちゃんとデートなんて、そうそうできないんだから」

「いや、デートと言われましてもですねぇ」

 里子の言動には、明らかにご近所のお兄さん、あるいは、小さい頃からの憧れの人と言ったところが多分に含まれており、たまたま、お休みと聞きつけ引っ張り出してきたと言うのが感じられる。

 じゃれ合っているようにも見える会話をしながら、往来を進んでいると人集りに遭遇する。

「ちょっと待っていないさい」

「え~。……分かった」

「ちょ、ちょっとすいません」

 利樹は里子を残してその人集りの中へと分け入って行く。

「とりあえず、移動させましょう」

「……貴方は……本藤……さん? じゃないですか」

 分け入った先には、横たわっている女性がおり、友人と思しき人達が運ぼうとしているところであった。その中の一人に見覚えがあったようである。

「……あら。森里さん、でしたわね」

 その呼び掛けに、本藤と呼ばれた女性が振り返って答えている。

「どうかされましたか?」

「見りゃわかるじゃん。楓がまた倒れたんだよ」

「なるほど。そのようですね」

「あんてこと言うんだよ。このおじん!」

 ぶっきらぼうな聖美の返答に、冷静さを保ったまま返す利樹。だが、そのあまりにも冷静すぎた応対のため、聖美が逆に切れかけてしまったようである。

 薫とは知り合いのようだが、自分達の中に割って入ってきた利樹に、聖美が更に何か言おうとするのを薫に止められて渋々口を閉ざすこととなった。それで引き下がる聖美ではなく、視線は利樹を睨んでいた。

「申し訳ないですね。この喋り方は癖なものですから。失礼」

 聖美の視線に気が付いたのか、利樹は申し訳なさそうな表情で説明し、楓を抱えてその場から移動していく。


     *


 道行く人の視線が集まっているここは、ブティックなどの衣料品を纏めたストアの前である。

 表にある装飾をあしらったベンチを借用し女性を一人横たえ、その周囲には数人の男女が立っていた。

「楓ぇ~」

「聖美。何情けない声を出してるのよ」

「だってぇ~、いつもより長いじゃん」

「そうねぇ。痛みの方も激しいようだし……」

 薫が、楓の汗を拭いながらそう呟いた。もう、倒れてから一〇分は経ったであろうか。楓の痛みは一向に治まる気配を見せていない。いつもと同じ……、そう高を括っていたのだが、どうやら今回はそうはいかないようである。今は倒れた時程の険しい表情が消え失せている。楽になったからなのか、あるいは意識がないからなのか、端から見ているだけでは伺い知ることは出来ない。

「藤本さんは、まだ痛みが続いていたのですか」

「えぇ」

「いつもこれ程なのですか?」

「いえ。いつもですと、既に治まっているのですけれど、今日は……」

「そうですか……。ですが、いつまでもここにいるのも何ですね……」

 薫の返答を聞きながら利樹は顎に手をやり、これから薫達を特に楓をどうするか、いつまでここにいたものかと思案しているようである。その間も、ほんの少しだけ離れた場所で手持ちぶさたにしている少女がいた。

 里子である。

 せっかくのデートであるのに何故こうなるのか。里子はふと、神本家、森里家で何かしようとすると、何故か、子供達だけになることが多くなるのを思い出していた。その時その時の用事について、いつも教えて貰えていなかった事も思い出したのである。現に今も……。いや、今のこの事態は、知り合いであるならば当然無視は出来ないであろうと言う事も里子は理解できる。あまり理解したくはないであろうが。

「……利樹兄ちゃん。私のことは良いから、この人を送っていったら?」

「ん?」

 突然の申し出に少々戸惑ったようである。先ほどまではあんなに甘えん坊だったと言うのにと……。いや、今日は久し振りだった所為もあるのであろうと思い直す利樹であった。

「本藤さん」

「はい」

「藤本さんの自宅、分かりますか? 僕はエレカで来ていますので送りましょう」

「はい。近所ですから。ですが、こちらの方とのお約束は……」

「大丈夫ですよ。利樹兄ちゃんはこういう事を放っておけないし。私も我が儘ばかり言っている歳でもないですから。……本当ですよ」

 里子は、はにかんだ笑みを浮かべると、その場にいた者達も釣られたのであろうか、いつの間にか笑いがこぼれていた。

「そこまで仰るのでしたら。お言葉に甘えて、楓と私だけ送っていただこうかしら」

「えぇ~」

「当たり前でしょ、聖美。楓のことは心配だけど、そちらの、え~と……」

「あ、すいません。神本里子と言います」

「里子さん、で良いかしら?」

「あ。これはお気遣いすいません。里子ちゃん、この人達を困らせちゃだめですよ」

「分かってるわよ、大丈夫。それより利樹兄ちゃんの方こそ、ちゃんと送っていってあげてね」

「分かってますよ」

 利樹と楓、それに薫を見送り、後に残った聖美と明子、そこに里子が加わった三人は、“憩いの一時通り”に向かって歩き出した。


     *


「すいません。こんなことがあるなら、もう少し近い場所に止めれば良かったですね」

「いえ、お構いなく。この様な事態の想定など出来るものではありませんから……」

 既に地上から地下へと降りており、がらんとした装飾のない打ちっ放しの壁に囲まれた通路を、楓を抱えた利樹と薫が歩いていた。抱えながら、薫に気を遣ったのか済まなそうに話しかけてくる利樹と、極ありきたりな返事を返す薫がいた。

 利樹の言う通り、このCBには駐車場が幾つか点在しており、これから向かう先は、利樹や薫達がいた場所からは一番遠い場所である。一方で、薫の言い分にも一理ある訳で、どちらにしても現状では致し方がない。

「そう言えばこの辺りは、グランド・バスの停車場でしたわね」

「そうですね。もう少し下の階だったと思いますが、位置的にはそうですね。鵜野森は短距離と中距離のターミナルですから。……もう少し行くと、確か、右手に南駐車場口があった筈です」

 薫達が日常使っているバスは短距離と定義され、それ以外のルートの大半が中距離である。また、ターミナル化しているところなどは、単純に商業施設を集めたブロックではないと言うところに合理性が垣間見える。

「そうですか」

 会話が途切れがちとなり、黙々と、淡々と歩いて行く二人は、利樹が言ったグランド・バスの出入り口を通り過ぎても尚、先へと進んでいく。

「この辺りは、始めてきました」

「そうだと……思いますよ。殆どの方は、グランド・バスの……中央口を使いますから。ここは……駐車場を使う人くらい……でしょう」

 薫が珍しく感想を述べている一方で、聞いている利樹は、それどころではなくなりつつあるような喋り方になってきていた。

「そう言えば、大丈夫ですか?」

「何がですか?」

「いくら男性とは言え、人を抱えて長距離を歩くのは大変かと思いますが」

「まぁ、そうですね。確かに……楽ではありませんが。もう少しですから……何とか」

「そうですか」

 里子と約束をした為なのかどうかは分からないが、利樹は、踏ん張って楓を抱えて車のある場所まで歩き続けた。

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