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登場人物)
岩間 聖美
西暦2108年08月13日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生
性格は、子供っぽい所もあるが、二〇歳に何とか相応しい女性だが、楓に似た所もあり、類は友を呼ぶを表した友人の一人。
山田 明子
西暦2108年06月21日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生
性格は、長女であるだけにしっかり者で世話好き。だが、おっとりしているわけではない。その辺は弟を持つが故なのかも知れない。
井之上 美也
西暦2110年09月10日生まれ/専課学校、基底学部物理科3年生
几帳面でしっかり者と言う性格が良く表れた、はっきりした物言いする。それでいて、自然にぼけてしまうところがあるという、堅物とは言い難い所もあり、どちらかと言えば、聖美や楓に近い性格であるのかもしれない。
大里
生誕日不明/専課学校 基底学部物理学科、研究員
周囲によると真面目すぎであるが、暗くならないためそれもまた良いところとされる一方で、説教が始まるのが玉に瑕。
小林
生誕日不明/専課学校 基底学部物理学科、研究員
お調子者である節があるが、総じて明るい性格。他人に任せすぎるところがあり、学生に至ってはこき使っているイメージもちらほらある。
舞台)
関甲越エリア
関東甲信越を短縮したエリアの名称。東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。
厚木BB
神奈川県西部、厚木を中心とした企業地区。
楓達が通う学校も含まれ、関甲越エリアにある企業ブロックの一つ。
組織・家など)
ATSUBB専課学校
場所は、関甲越エリア、神奈川、厚木にある。基底学部として、化学、物理、自然の学科を持つ専課学校。
極薄い雲に遮られた日差しが差し込んでいる窓の内側は、まだ、朝の低い日差しも相まって明かりの必要がない程である。そこに、ふらふらよろよろとやってくる人物がいた。
「あら、聖美。おはよう? って、どうしたのよぉ」
「……うん」
寝ぼけているようにも見えるが、「ん? おはよう、……明子」と、誰から声を掛けられたのかは認識できるようである。であるならば、気力がなくなり呆けているのであろう。
「おはよう、ございま……。先輩、どうしました? 大好きなご飯の時間なのに」
「ん? おぉ、美也じゃん。おはよう。ご飯は好きだよ」
遅れてやってきた美也も、明らかにおかしい聖美に気がついたようである。しかし、当の聖美は無気力な者がするような一本調子な返事をするだけで、いつもの元気がないのであった。
そこに、聖美達にとってはやっかいな人物がやって来て、「美也。何立ち止まっ……。聖美、ね。何? その呆けたような顔は、若いんだからシャキッとしなさい」と、同じ年である事を忘れたのか、年配の人が口にするような言葉を聖美に向けるのである。
「あ? あに言ってんの、あんただって若いじゃん」
聖美の言いように、「確かに」と美也が頷き、「納得しかけたけど、どうなのかしらねぇ」と何故か考え込んでしまう明子がいたのである。
「全く、貴方たちはぁ……」
「でもまぁ、一応、岩間先輩は、いつも通りなので安心しました」
「ちょっと、美也ぁ」
「いつもの聖美には、まだ、元気が足りないわよ」
「そう言えば、いつもの反撃なら、もっと、こう、ガツン! とした元気がありますね」
「あんた達はねぇ。人の話を……」
「ちょっとさぁ。二人共あたしを何だと」
「聖美でしょ?」
「先輩です」
「……」
いつにない程、覇気がない聖美の反撃、美也の天然が発揮され、とっさに明子がそれに便乗したことによって、毒気を抜かれた博実は、言葉を失ったようである。明子は、うまくいったという笑みがこぼれていたのを聖美は見逃さなかった。
「博実はなんかないの?」
「ないわよ。強いて言うなら、覇気がなくとも反撃できる元気はあるようね」
「それが先輩です」
「美也ぁ」
「一応、いつもの聖美ではある訳ね」
「明子までぇ。あきれられてるしぃ」
*
「先輩! なんか顔が怖いです」
突然。美也がそう言って聖美を揺すり始めたのである。
「うわぁ。あに? あにがあった?」
「顔が怖いです」
聖美が反応したことから揺するのを止めた美也の表情は、至って真剣であり、見方によっては怖いと言えることを、本人のみ気が付いていないのが、聖美が慌てていることからも覗えるのである。
「はっ? 美也ぁ、それは酷いよぉ。顔が変だなんて」
「あっ、えっと。変じゃなくて、怖いんです。難しい顔だったのに、いきなりニヤけてます」
「おっ? なんじゃそりゃ」
「……え~と。なんて言うか。調査してるんで、考え事すると人って、難しい顔するじゃないですか」
「そうだねぇ」
「で、先輩は、今。考え事してる筈なんですが、ニヤけてます。何か良い案でも思いついたんですか?」
「ほ? あたしが? いや、ないよ。今も必死に考えてる」
「そうなんですか。……考えてるのにニヤけてるのは怖いですよ、先輩」
「そんな馬鹿な」
「先輩? ありふれた台詞で、否定してもだめです。それは、事実です。はい」と言って、持ち歩いているポーチから手鏡を出して、聖美に渡すのであった。そして「おぉ~」と雄叫びを上げた聖美であった。
「大里さん……は、いませんね。しょうがない。小林さん」と、突然研究員を呼び出すと、「どうした。岩間君がまた何かやったか?」と、緊張感がある台詞を、やや面白そうに口にすると、ツカツカとやってくるのであった。
「またって。人聞きが悪いですよ、小林さん。あたしを何だと……、止めとこ」
「何だ、よ……お? 岩間君、どうした? 何がそんなに嬉しいんだ。……まさか!」
「小林さん。違うようです」
「まだ、何も言ってないが……。で、何が違うと?」
研究員の小林は、聖美が何かやらかしたかと思っていたようである。それに反応しようとした聖美は、学習したようで途中で言葉を切ると、つまらなそうにする小林がいたのである。しかし、聖美の表情を見るに、いろいろな意味で何かあったのだろうと目を輝かせると、美也に即刻否定されたのである。一転つまらなそうな表情に変わってしまう、こちらもややお子様が垣間見える大人である。
「調査は相変わらず何もないです。ので、先輩がニヤける意味が分かりません」
「本人に聞けば良いだろう」
「聞きました! で、考え中だって言うんです
「んー。ん?」」
「ホントですって」
「そりゃぁ、……何だ? 岩間君は、今も嬉しそうだが、画期的なアイディアが浮かんだ訳ではない、と」
「ないです。あったら……」
「あぁ、そりゃそうか。岩間君だもんな」
ポンと手をたたくように、合点のいった小林であるが、方やそれを聞いた聖美は、何か理不尽な思いに苛まれるのであった。
「と言う訳ですので、このまま続けるのも私がおかしくなりそうなので、二人で休憩してお昼に入ります」
美也が鬼気迫る表情で、捲し立てるように休憩してそのままお昼に雪崩れ込むことを告げると、「お、おう」と、許可を出してしまう小林がいたのである。
「うぅ」と唸りを上げているのは美也である。いつになく、疲れた表情であるのは、聖美が意図せずニヤけ続けているからである。
「せ・ん・ぱ・い。いつまでニヤけてるんですか」
食堂のテーブルに肘をついて頬を支えながら喋る美也が、心底あきれているのが口調と表情から覗える。
「美也ぁ、人がいないんだから、もっと小さい声で喋ってよぉ。それに、そんなつもりはこれっぱかりもないよ」
今の聖美は、どんな言葉を言おうとも、口を噤んでしまうとニヤけてしまう状態である。語る内容によっては、大惨事になりかねず、一緒にいる美也の精神が疲弊してしまう恐れがあったのである。「もう。何でですか。私への嫌がらせですか」と、既に疲れ始めているようである。
お昼休憩を知らせるチャイムが鳴ったのは、そんな頃であり、しばらくすると、食堂にもちらほらと生徒や研究員がやって来たのである。
「あら。もう来てたのね、早いわねぇ」
「お? 明子」
美也の背後から掛けられた声に、聖美が返事をすると、「山田先輩ぃ」と、泣きつくような声を出した美也であった。
「どうしたの?」
「聞いて下さいよぉ。岩間先輩が、岩間先輩が……」
「聖美ぃ。美也ちゃんに何か言ったの?」
「言ってない」
「……じゃぁ、何かやっちゃった? って、何で嬉しそうなの? 聖美、大丈夫?」
会話をする中で、美也が泣きついてきたことの一端を見たかのように、突っ込みではなく、心配する明子がいたのである。
「で? 何で聖美はニヤけてるの?」
「さぁ」
「聖美ぃ。自分のことでしょ、何か思い当たることはないの?」
「全く以て、ない!」
「あぁ。美也ちゃんは何かないの?」
明子の事情徴収が始まるも、「特にないです。調査中に突然始まって」と、美也の説明に、「それじゃぁ、あたしは変な人じゃん」と、聖美としては、至極当然の反論である。しかし、表情がニヤけているため、いつものような迫力は全くないのである。
「困ったわねぇ。……ひとまず、お昼食べちゃいましょうか」
ニヤついた表情のまま、明子に促されて配膳カウンターへと向かう聖美であった。
食事を取って、テーブルに着いた三人であるが、幾分か元気のない美也と、常にニヤけた状態の聖美。それをやや面白そうに眺めつつ、食事をとっている明子達であった。
「あら? もう来ていたの?」
「うわっ」
「何? まずいことでもあった?」
「いや、別に」と言いつつも、聖美の表情はニヤけたままである。
聖美は機嫌が良さそうである一方で、美也が落ち込んでいるような表情と受け取った博実は、そのまま配膳カウンターへと向かっていくのであった。
しばらくは、三人で静かに昼食を食べていたのだが、「ここ、座るわね」と言って、美也の隣に座る博実であった。
「何? ニヤニヤして、気持ち悪いわね。言いたいことがあったら言いなさい」
「それじゃぁ、誰も許可した覚えがないんだけど?」
「そう? 良いじゃない。……何かあったんでしょ」
売り言葉に買い言葉、ではないものの、聖美の笑みと怒りの入り交じった表情から紡がれた言葉を受け流す博実である。会話を始めようとする博実に、聖美の怒りの視線が刺さっているが、ニヤけた状態に怒りが合わさっているため、不敵な笑みに見えても不思議ではないという状態である。
「その不適な(?)笑みに何かあるの?」
「何もない」
「そんなことはないでしょ。美也が落ち込んでいるようだし」
「くぅ~。よく見てる」
「当たり前でしょ」
低く唸っているように見える聖美は、我慢しながら昼食を食べているのだが、いかんせん、口元が緩んでしまうようである。
「そんなに美味しいの? それ」
聖美がニヤけていることからの反応なのであろうが、事情を知る美也と明子は、口元をひくつかせながらも、博実にばれると面倒であることも承知しているため、耐えるのであった。
「何?」
「何でもないです」
「そうねぇ。特に問題はないかしらね」
博実でなくとも、時折“くっ”と、何かを堪える仕草をされれば、何かあると考えるのが普通である。しかも、聖美絡みともなれば、自分、と言うよりは聖美本人と言うことになる訳で、そこまでは、博実とも成れば直ぐに辿り着けるであろう。
「また、聖美が何かやらかしたのね」
「ん? 何もやってないよ」
きょとんとした表情になりそうであるが、今の聖美はニヤけてしまうのであった。
「聖美、あんた。どうしたの?」
「ど、どうでも良いじゃん」
言葉とは裏腹に、どのように表情を作ろうと、気を抜くと直ぐにニヤけてしまう聖美であった。




