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エンドレス・キャンパス  作者: 木眞井啓明
第二部 役  第五章 混線
49/65

登場人物)

 岩間いわま 聖美さとみ

  西暦2108年08月13日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、子供っぽい所もあるが、二〇歳に何とか相応しい女性だが、楓に似た所もあり、類は友を呼ぶを表した友人の一人。


 井之上いのうえ 美也みや

  西暦2110年09月10日生まれ/専課学校、基底学部物理科3年生

  几帳面でしっかり者と言う性格が良く表れた、はっきりした物言いする。それでいて、自然にぼけてしまうところがあるという、堅物とは言い難い所もあり、どちらかと言えば、聖美や楓に近い性格であるのかもしれない。


 岸田きしだ 博実ひろみ

  西暦2108年09月21日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  山岳地域で育ったせいか、大ざっぱな面が多々ある。その所為か喋り方がぶっきらぼうなところがある。それでいて知的な部分を見せる事も覆い。


舞台)

 関甲越かんこうえつエリア

  関東甲信越を短縮したエリアの名称。東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。


 厚木あつぎBB

  神奈川県西部、厚木を中心とした企業地区。

  楓達が通う学校も含まれ、関甲越エリアにある企業ブロックの一つ。


組織・家など)

 ATSUBB専課学校あつびーびーせんかがっこう

  場所は、関甲越エリア、神奈川、厚木にある。基底学部として、化学、物理、自然の学科を持つ専課学校。


メカニカル)

 巨大な物体

  突如地球上空に出現した物体。

  出現の理由はおろか、地球に対して何の影響も与えていない訳すらわからない。

「美也」

「何ですか?」

「この定義方法だと、駄目っぽくない?」

「そうですか? む~。私の知識だと微妙ですねぇ」

 聖美が喚いた日から二日が経っていた。未だに聖美を始めとするATUSBB専課学校に止まっている生徒達は、上空に鎮座している建造物の調査を続けていた。しかし、これと言った成果は出ていなかったのである。

「う~ん」

「すいません、先輩。私じゃ力になれなくて……。すん、すん」

「……うわぁ。美也、何で泣くぅ……。え~と。う~んと。調査が上手くいってないのは、美也だけの所為じゃ……。あれ? じゃぁなくて」

「うわぁ~ん」

 美也を宥めようとして墓穴を掘ってしまった聖美は、狼狽えておろおろするばかりであった。聖美の様子から察するに、どうやら、いつもの聖美らしい状態に戻っているようである。

 聖美も必死に先輩をやろうとしているのであろうが、構えすぎているためなのであろう、逆に失敗を繰り返す羽目になっているのかもしれない。一方で、建造物の調査は、この学校だけではなくどこもかしこも似たようなもので、遅々として進んでいないようである。

 美也を宥めようとしておろおろしていた聖美が、ふと窓から見える建造物に目が留まった。泣いていた美也が、唸り声の止んだ聖美に気が付いて声を掛けた。

「……先輩?」

 美也が涙を拭きながら聖美の顔を覗き込む。その視線は、窓越しに見えている建造物に対して敵意を含んでいるように見えたのである。

「! あ、あの。先輩? 今思いついたんですが、一部分を変えると物理法則的には何とかなるんじゃ、ないかと……」

「ふっ。あ、ごめん。あに?」

「……先輩? 大丈夫です?」

「あにが? あぁ、ごめんごめん。大丈夫! で、何をどうするって?」

 心配しているのであろう表情の美也に、いつもの明るさをもって返す聖美であった。ある意味、聖美のやせ我慢と言ったところであろう。

「ここですよ。これをこう変えると……。どうでしょう」

「ふむ。……あっ。美也、ごめん。それだと法則が破綻する」

「はぁ、駄目ですか。……上手くいきませんね」

「……やっぱ、地球の物理学は、通じないのかなぁ……」

 美也の提案もあっさりと却下することとなってしまい、項垂れてしまう二人であったが、ぼそりと聖美が別の観点を呟いていた。

「駄目です、先輩」

「は?」

「落ち込んでる暇なんて、ありませんよ」

 美也自身ですら先程は泣いてしまう程だったのに、聖美を元気づかせようと拳を握って気張ってみせる。そんな美也を見た聖美にも笑みが漏れていた。

 意気揚々と定義を練り直そうとした矢先、「ピンポーン」と放送が入った。

「調査中に失礼します。学生連絡会から情報が入りましたのでお知らせします」

「何か進展あったのかな?」

「先輩。シー」

 後輩にまで注意されてしまう聖美は、どうしても感想を述べたいようである。

「学生連絡会の情報によりますと、西暦二一二八年九月一四日の夜に通達があったとのことですが、その内容については、月の表側にある基地からの観測情報が入ったとのことです。ですが、まだ全世界に向けて公開されていない情報ですので、取り扱いにはご注意下さい」

 学校からの連絡事項としては珍しかったため、ラボ内でも「珍しく注釈付きか」や「それ程重要と言うことだろ」等々ややざわめきだってしまったようである。

「静粛にしてお聞き下さい。月基地からの情報によりますと、地球の上空には異常な現象も事象もなく、地上から見えている物体も観測が出来ないとのことです」

 一泊遅れて騒然となるラボ内。見えているものが見えないと言われたのである、とうてい受け入れられるものではないであろう。

「うそだぁ!」

 大声を上げる聖美の声に、一瞬静まりかえるラボ内だったが、「そ、そうだ。あり得ない」や「いや、待て。宇宙から見えないように遮断しているのかもしれん」等などと動揺が垣間見えながらもやや冷静に議論が始まったようである。

「……じゃぁ。あれは何? 見えてるあれは何なの!」

 研究員や生徒の論争に加わることなく、喚いていた聖美が、“ドン!”と実験テーブルを叩いたのである。

「……すん。薫と……楓は、何処に……いるって……言うの」

 実験テーブルを両の拳で叩きながら泣きじゃくる聖美の言葉に、近くにいた研究員と生徒は黙り込んでしまったようである。傍らにいる美也も、釣られたのか泣いていた。だが……。

「先輩。落ち着いて下さい」

「うぅぅ」

「……落ち着いて……下さいよぉ」

 美也が聖美の背後から服にしがみついて訴えかけるも、聖美は聞く耳を持たず、実験テーブルを叩き続けている。一方の美也は泣き崩れ、その場に座り込んで泣き続けるのであった。

「五月蠅いわ……」

 そこに一〇二ラボに入ってきた博実が、拳をテーブルに叩き付けている聖美を目にし、「なんで誰も止めないの」と文句を一つ呟くが、誰一人として動く者はいなかった。

 テーブルを叩く聖美と、崩れても尚泣き続けている美也が博実の目の前にいた。

「聖美! 止めなさい!」

 博実の忠告を無視するかのようにテーブルを叩き付ける様は、かんしゃくを起こした子供のようでもあった。

 振り上げた手をテーブルに叩き付ける前に腕を捕まえた博実に、やっと反応を示した聖美であった。

「止めなさいな。……こんなに赤くして、痛いでしょうに」

 その言葉に、更に涙が溢れてくる聖美は……。

「あれは、ないの? 見えている……のは嘘? 薫と……楓は、何処? うわぁ~ん」

 正気に戻ったのか、まだ戻っていないのか判然とはしないが、聖美が言いたいことは博実に伝わったようで、いつにない笑みを零していた。聖美の腕から力が抜けたことを理解した博実が、聖美の拳をさすっていた。

 言いたいことを言ったからなのか、優しさに全てを晒してしまったのか、聖美が大泣きする一方で足下に座り込んでいる美也も大泣きしていた。

 ラボにいた研究員も生徒も、その泣き声を前に黙ることしかできなかった。

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