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エンドレス・キャンパス  作者: 木眞井啓明
第二部 役  第四章 模索
46/65

登場人物)

 藤本ふじもと かえで

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識・知能が低い訳ではない。


 本藤ほんどう かおり

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。


 リーツ・シクワン・プト

  不明な場所の住人と思われる人物の一人。

  長老よりかなり若く、楓や薫と同年代と見受けられるが、男女の区別は不明。


舞台)

 不明な地/場所

  日本で行方不明事件の実証実験中に、行方不明の原因と思われる事象によりやってきた場所。

「う~」

「……楓。彷徨かずに座って貰えるとありがたいのだけれど?」

 唸りながら実験台の前、薫の目の前を行ったり来たりを繰り返している楓に対して注意にも似た言葉を投げかけている。

 楓は楓で、現状で把握している実験器具で何が出来るのか、楓なりに考えているのであろう。一方で椅子に座り実験台に肘をついて、何やら思案しているようにも見える薫ではあるが、視界を楓が横切る度にぴくりと眉が動いている事から苛立ちを覚えているのが伺える。

「……楓。動き回るのを止めてくれないかしら。どうにも落ち着かないわね」

「え~、だってぇ」

「いいからそこに座って考えなさい」

「ぶぅ~」

 少々苛立っている様子の薫の小言に渋々と椅子に座る楓だが、今度は楓の眉がぴくぴくと動いている。どうやら落ち着かないようである。

「……駄目だぁ~」

 そう言った楓は立ち上がって再び実験室内を彷徨き始める。

 楓にとっては動いている方が良いのであろう。方や薫は静かにして考えをまとめたいのであろう。正反対であるが故の事態と言って差し支えないであろう。

「……」

 楓が彷徨く事で落ち着かない薫は、苛立ちを募らせているようで、右手を握りしめて耐えているようである。

「ん~」

 唸り続ける楓ではあるが、その中で時折ぶつぶつと何かを呟いている。それに併せて頭が上を向いたり下を向いたり、果ては表情まで変わっている。

「……楓。……いい加減に、しなさい!」

 苛立ちが頂点に達したのであろう薫が、遂に怒鳴り声を上げた。

「……」

 その怒鳴り声にびっくりした楓はぴたりと動きを止めていた。薫の苛立ちがこれほどとはつゆぞしらなかったようで、いつも通りに振る舞っていたのであろう。いつにない薫の怒りを目の当たりにして、いつしか楓の目に涙が溢れていた。

 苛立ちを湛えたまま顔を上げた薫の目に飛び込んできたのは、怯えて涙を流す楓の姿であった。我に返った薫は、これまでにない程の苛立ちを楓にぶつけた事に気が付いたようで、“ガタッ”っと椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。

 楓に走り寄った薫は、怯えて泣いている楓を抱きしめた。

「……ごめんなさい。ごめんなさいね」

「うぅぅ」

「……楓。怒鳴ったりして、ごめんなさい」

 謝り続ける薫と泣き続ける楓は、しばらくの間抱き合ったままであった。

 嗚咽が落ち着いた楓は、薫に付き添われながらも椅子に腰を下ろしたが、テーブルに突っ伏すことになった。

「ん~。おぉ! そう言えば、どう作るかっていっても原料見ないと駄目なんじゃ……」

 突然、上体を起こしながら、半ば叫ぶように考えに至ったと言わんばかりの発言が飛び出した。

「……それはどう言うことかしら?」

「ん? おっと、えっとねぇ。色を作る元ってまだ見てない訳だから、それ見ないとどう作るか分からないかなと」

 目を見開いた薫がそこにいた。

「何てことなの……。初歩的な事を見落とすなんて……」

「あぁ。それはしょうがないんじゃ……」

「楓の言う通りね。二人共、地球にいる感覚で物事を考えていたようね」

「……あっ。そう言う事になるのかな? まぁ、ここに来ていろいろあったしね」

「そうね。余計な事に気を取られていたのかしらね」

 あっけらかんと笑顔でいる楓に対して、酷く落ち込んだ薫がいた。

 何故ここに来たのか、ここが何処であるのか。何故思うだけで明かりがつくのか、物が出てくるのか。回答を得ようとしても得ることの出来ないもどかしさが、薫にとっては不本意なのであろう事が表情に滲み出ている。

「……薫?」

「な、何かしら?」

「何か問題、ある?」

「何故そんなことを聞くのかしら?」

「う~ん。なんとなくだけど、表情がいつもと違う気がするから」

「そ、そんなことは……。そうね、納得がいかない、いえ、不本意なことだらけですからね、ここは。……それでも、貴方を見ていると些末なことのようにも思えてくるわね」

「はっ?」

「……いいのよ。気にしないで頂戴。……さて、今後はどう進めましょうか?」

「あぁ、何かはぐらかされた気がするぅ。……まぁ、いっか」

 自身の思いを少し吐露したことで気持ちに折り合いがついたようで、薫の表情がいつものそれに戻りつつあるようである。釣られたのか、楓にも笑顔が戻ったようである。

「進めるねぇ……」

「分担として考えるなら、器具の整理は中途半端になってしまうし、これは私が引き続きやるわね」

「じゃぁわたしは……。薫とかち合わないように原料探す」

「そうね。それじゃやり直しをしましょう。とは言ったものの、記憶するには限界があるわね」

「そうだねぇ。紙の類は置いてなかったような気がするぅ」

「筆記具の類の持ち合わせもないわ、困ったわね」

 二人が途方に暮れていると、“ガタッ”っと家具の類を置いたときに発するような音が聞こえてきた。

「? い、今、音がしたよねぇ」

「そうね。間違いないわ」

「まさか、ねぇ」

「いえ、ここではそのまさかが起こり続けているのよ。否定など出来ないわよ」

「音はあっち?」

「……多分」

 何故か小声になって話している二人が向けた視線の先は、実験室の隣の小部屋であった。

「……行くの?」

「何が起きたのか確認しないといけないでしょ。さ、行くわよ」

 先程の元気は何処へやら。怯える楓を余所に、スッと立ち上がって小部屋へと向かう薫と、その後ろから屁っ放り腰の楓が続いた。

 間口の前で無言のまま、薫が楓に左側に寄るようにジェスチャーをすると、首を横に振る楓だが、“やるのよ”と言わんばかりの視線に頷いてギクシャクしながら位置につく楓であった。

 薫は間口の右から左側を、楓は左から右側をざっと確認し、怪しい人物がいないことを確認すると、意を決して足を踏み入れる。裏手側の隅に引き出しだけのキャビネットが設置されており、天板の上には鉛筆立てと筆記具が立っていた。

「うっひょ~。すっご~い」

 最初に動いたのは楓である。まるで子供が新しいおもちゃを見つけたときのように、ガタガタと引き出しては中を確認していた。

「これは見慣れた大きさ、って事はA4だねぇ。こっちはB4かなぁ」

「ちょっと楓」

「ん? あに?」

「その顔は……。子供に戻ってるわよ」

「えぇ~。だって、欲しいなって言ったら出てきたんだよ。もう、ワクワクするよねぇ」

 目を輝かせた楓は、見尽くしたにも関わらずその場を離れようとしないのである。挙げ句は「書けるかなぁ」と言いながら紙を一枚取り出して、筆記具で試し書きを始めてしまう始末である。

「……そう言えば、楓」

「あに?」

「紙が欲しいって言ったわね」

「うん。言った」

「ノートが欲しいと言ったらそれが出てきたのかしら?」

「おぉ、なるほど」

「……まぁ、いいわ。今回はバラの方が都合がいいものね」

「? ……おぉ、戸棚に張るってこと?」

「その方が分かりやすいでしょ」

「そうだね」

 素朴な疑問を口にした薫であるが、結果としては問題がないようである。楓に関しては、何かが出たことに興味を引かれている様子である。

「所で楓?」

「あに?」

「いつまでもここにいてもしょうがないでしょ。それに、原料探しを忘れていないかしら?」

「おぉっと。忘れてた」

 いつまでもキャビネットを見て離れそうにない楓に、薫が分担を思い出させたようである。薫の言葉に名残惜しそうにながらも小部屋を後にする楓であった。

「とりあえずは、五枚程でいいかしらね」

 そう呟いた薫は、A4が入った引き出しから五枚程取り出し、鉛筆立てから適当な筆記具を取り小部屋を後にした。

──手触りは、紙そのものね。

 手にした紙の触り心地を確認しながら実験台の椅子に座り、手にした筆記具で紙に試し書きをした薫は……。

──書き味も変わるところはないようね。……考えても仕方のないこととは分かっていても、どう言う仕組みか知りたいところね。

「あぁ、地道だ……」

「まだ根を上げるのは早いわよ」

 ルーチン的な作業であるのはしれたこととは言え、既に気が重くなったのであろう楓が呟くとすかさず小言が返ってきた。

「そ、そうだよねぇ。……頑張る」

 しばらく無言でお互いの作業を黙々とこなしていった。

「だぁ~。何処にもそれらしい物ないよぉ」

「全てを見たのかしら?」

「ひっど~い。棚は全部見たよぉ。実験室の隅々まで……。あっ、実験台の下があった」

 スッと立ち上がりながら「頑張りなさい」と呟いた薫は、紙を持って離れている棚へと向かった。

 更にしばらく経つと、それ程大仕事ではないにも関わらず、椅子に座ってぐったりしている楓がいた。

「もう、いやぁ」

「……確認するところはないのかしら?」

「えぇ~。棚の中、二回は確認した。でもそれらしい物はなかったぁ」

「そう……。流石にそれは変ね」

 突然。ビーボ-ビーボ-、とサイレンのようにけたたましくも何処か間の抜けた音が実験室に鳴り響いた。

「あによぉ」

「何の音かしら」

 飛び起きる楓と実験台で器具の整理をしていた薫が顔を上げた。二人の目に飛び込んできたのは、天井の中央から下がっていた突起の明滅であった。

「うるさいぃ!」

「黄色?」

 音の音量に文句を付ける楓と、突起の明滅が黄色であることに訝しむ薫が立ち尽くしていた。

「……そうだわ。小部屋に何か? 楓も周りを確認しなさい!」

「おっと。そうだね。え~と……」

 音と明滅に気を取られた薫が我に返って小部屋へ向かう中、楓にも指示を出すとざっと辺りを見回し、更に実験室内を移動しながら見て回った。

「小部屋は問題ないわよ!」

「実験室も見た限り問題なさそう! これって、何?」

「分からないわね。何を伝えようとしているのか……」

 問題が見つからない二人は、音が割合小さくなる小部屋に非難しつつ、それでもお互いの耳元で話さないと聞き取りにくい状態に陥っていた。

「む~。どうしようか」

「……この作業場で、知らせなければならないこと……」

「お知らせ……ねぇ。あっ!」

「……来客かしらね」

「そうかも」

「行きましょう」

 二人は耳を塞いで小部屋から出て実験室からロビーへと出た。

「どうしました?」

 ロビーに出てきた二人が耳を塞いでいたことを疑問に思ったようである。

「シクワン! あのねぇ。凄い……。あれ?」

「音が止んだようね」

「そだね」

「ん?」

 楓がシクワンに状況を説明しようとするが、音が止んだ事に逆にびっくりして最後まで言えなかったようである。二人のやり取りを聞いたシクワンが、小首をかしげて“何?”と言いたげな表情をしている。

「……顛末はひとまず置いておくとして、話があるようだから実験室に戻るわよ、楓」

「あ、うん」

「はぁ」

 シクワンの表情からと言うより、訪れたことから何かあるのだろうと踏んだ薫の提案で、実験室に戻ることとなった。

 実験室に戻ると……。

「おぉ。音が止んでるね」

「そうね。突起の明滅も止まっているようね」

 音が鳴り止み、明滅の消えた突起を睨んでいるように見える薫と、“何だったんだろうね”といった表情をしている楓。二人を唯々見詰めるシクワンがいた。

「おっと。立ったままもなんだろうし。椅子椅子」

 ぽんと手を叩いた楓が、呟きながら実験室の隅に置いてあるもう一脚を持って二人が使っている実験台傍に椅子を置いた。

「よっこいしょ。シクワン。どうぞ」

「あ、これはどうもありがとうございます」

 置いた椅子に座るよう勧める楓に、シクワンは笑みを浮かべて返した。

「今日はどのような用件で?」

 シクワンが座るや、唐突に質問を始める薫の表所は堅い。

「二日目ですので、どうなっているか聞きに来ました」

「う~ん。どうって言われてもねぇ、よく分かんないよ」

「……」

「そうね。建物の間取りと備品があることは分かったわね」

「それだけですか?」

「……まだ始めたばかりですから、そう一足飛びに進む筈もないでしょう?」

「うっ、え~」

 不本意なことが未だに続いていることもあってか、薫の言葉からはどうしても棘があるように聞こえてしまう口調に、シクワンが怯え始めてしまうのであった。

「えぇっと、薫。何か怒ってない?」

「そうかしら。いつも通りの筈なのだけれど」

「そう。そうならいいんだけど……」

 困惑するシクワンを見た楓がフォローしようとしたのであろうが、薫にあっさりと否定されてしまったのである。とは言え、楓が気にするくらいであるのだ、何らかしらの含みはありそうである。

 ビボボンビビボーン、と突然に今度はメロディのようでそうでない音が鳴り出した。

「うわぁ~! また来た。あにこれ~」

「今度は何かしら! 突起の色も違うわね」

「ええっ? あっホントだ。きれいな色だね」

「ひぃ~」

 咄嗟に耳を塞いだ三人であるが、各々の性格が言葉に出ているようである。薫が指さした突起にはあらゆる色が瞬いており点滅ではなかった。

「音を半分にして下さい」

「シクワン。何?」

「いえ! 音をですね……!」

「うひゃぁ~」

「これは失礼。しかし、この音量は溜まりませんね」

 シクワンが呟いたとたんに大音量が半分程へと下がっていった。その中でシクワンの喋っていた最後が大声となったため、今度は楓がびっくりしたようである。

「ふむ。これは溜まりませんね。何故小さくして欲しいと望まなかったのですか?」

「はて? なんでかなぁ」

「そうねぇ。目的を知らされていなかったから何事かの問題ではと考えたせいかもしれないわね」

「うっ。またですか」

「そうでしょう。目的が分かっていれば少なくとも慌てずに済みましたものね」

「……確かに、質問されませんでしたので、うかつでした」

「はぁ。それはおかしいわね、質問しても回答して頂けなかったのに」

「……薫。止めようよぉ」

「……そうね。楓の言う通りね。失礼したわ」

 毅然としているようで、未だどうしても強い口調になってしまう薫である。

 何とか止めた楓は……。

「……でさぁ、これって何?」

 話題を変えようとしたのであろうが、はしょりすぎた質問をしたためシクワンが首をかしげてしまっていた。

「……はぁ。それでは伝わらないわよ。……楓が言いたかったのは、この音あるいは音楽が何を表しているか……。そうねぇ……。何を知らせようとしているのかという事よ」

「何を、ですか」

「……あははは。そうそう」

 少々物言いが過ぎた薫は、ばつが悪そうに楓に変わって質問をし直したところ、何かがおかしかったのであろうか、クスリを笑ったシクワンが……。

「お昼です」

「ほっ?」

「ですから、今の音色はお昼になったことを知らせてくれています」

「お、お昼?」

「そ、そうですよ」

「よぉし! お昼行こ。直ぐ行こう!」

 楓の一言で、三人揃って作業場を後にした。

「ねぇ、シクワンはお昼どうする?」

「そうですねぇ、よろしければご一緒します」

「薫は、問題ないよね」

「……そうね。ついでに質問してもいいかしら?」

「ど、どうぞ」

 表に出た三人は揃ってお昼を食べに食堂へと向かうことにし、その道すがら質問をすることとなったのだが、シクワンは若干引きつっているように見えた。

「あの突起の役割ついてお伺いしてもよろしいですか?」

「あ、はい。あれはですね、来客や食事の時間などを知らせる端末と行ったところです」

「次の質問になりますが、黄色に点滅していたのはどう言う意味になるのででしょうか?」

「黄色ですか。いつのことです?」

「貴方が来たときです」

「えっ? おかしいですね。始めて来た方の場合が黄色なんですよ。ですが、昨日入ってますから、どう言うことでしょうか。戻ってから調べてみます」

「って事は、二回目以降は別の色?」

「そうです。音は同じですが、緑の点灯になります」

「なるほどぉ……。でもさ、それなら最初に教えてくれてもいいじゃん」

 突起の色にもいろいろ意味があるようであることが分かってきた。しかし楓は、最初に教えてくれなかったことに少々むくれてしまったようである。

「それで、他には伝えておくことはないんでしょうね」

 少々きつい口調で釘を刺す薫に、びくりと体が反応したシクワンは、咄嗟に楓の陰に隠れてしまった。

「は、はい。い、いえ。そこは、なんとも……」

「まだ、何かあるのではないでしょうね」

「ひぃ~」

「か、薫? そ、その視線は不味いって。シクワンもこっちが知らないことも分かんないだろうし、こっちもシクワンが知っていること分かんないんだから、……え~と。あっと、つまりね」

「分かっているわよ。お互い相手のことを知らない以上、落ち度があっても仕方がないわね」

 楓の機転(?)で、薫の刺すような視線は和らぎ、ひとまず納得したようである。

 それでもシクワンは、怯えが消えるまで楓にしがみついていたのは言うまでもないことである。しかし、この状態は何処かで聞いたような見たような気がするのは気のせいかもしれない。

 その後、食堂に到着した三人は、各自のお昼を受け取りテーブル席へと着いていた。

「藤本さん、元気がないように見受けられますが、どうされましたか?」

「ん? え~とね。午後も原料探さないといけないなと考えてた」

「原料、ですか」

「そ。……でも、何処探すのぉ。うわぁ~。やだぁ~」

 ここに来るまでの元気が嘘のような状態の楓に、シクワンが心配そうに訪ね、楓が子供のような態度を示していた。

「そうね。発注でもする必要があるのかしら」

 薫も同調するかのように、半ば投げやりとも取れる口調で呟いていた。

「原料ですよね」

「ん? そうだよ」

「ないんですか?」

「うん。ない」

「……発注するにはどうすればいいのかしら」

 楓と薫のやり取りを聞いたシクワンは何やら情報を持っていそうな勢いで二人に確認をしている。

「いえ。そんな話は聞いてないですね」

「発注の仕方が分からないとでも」

「違います。原料がないと言うことに対してです」

「うっほだぁ。んぐ。何処探しても袋とか箱なかったよ」

 楓の言葉に、再び“何ですか”と言いたげに小首をかしげるシクワンであった。と直後に食事の手が止まる二人がいた。

「やはり。まだ教えて頂いていないことがあったようね」

 そう呟いた薫の視線は冷たく刺すようであり、その視線により、条件反射の楓を含めシクワンを硬直させたようである。

 カランと落ちる音がした。それは竦み上がったシクワンが箸を落としたためであった。隣りにいる楓も同様の筈だが影響は小さいようである。この状態はまるで楓と聖美を見ているようである。

 はたと今の視線は自分にではないと気が付いた楓は、シクワンの顔を薫から外した。

「どう言うこと?」

「な、何がです?」

「おぉ、ええ~っと。袋や箱に入ってないって事?」

「え~と。袋とか箱と言う物は見たことがありませんのでなんとも言えないのですが」

「あぁ、え~っとね。入れ物的な物って言えば分かる?」

「入れ物、ですか。少々分かりかねますが、確かにそう言った類の物に入った何かを見たことはありません。だとすると原料も同じではないかと思います」

「じゃぁおてあげじゃん。はむ、はむ。そんなどこからか涌いてくるなんてあり得ない……?」

「何か思いついたのかしら?」

「! まさか、トイ……」

「それはないわね! 楓、探すんじゃありませんよ!」

 ああでもないこうでもないと、原料について談義した三人は、お昼を終えて作業場に戻ろうとしていた。

「あぁ、何か今日のお昼はせわしなかったよぉ。味も何かよく分かんなかったしぃ」

「こ、これは申し訳ないです。私がご一緒した所為ですね」

 楓の愚痴を聞いたシクワンが申し訳なさそうに項垂れながら謝っていた。

「ち、違う違う。シクワンの所為じゃないって」

 必死に否定するのだがシクワンは項垂れたままだったため、懇願の眼差しを薫に向け助け船を期待する楓がいた。

「……しょうがないわねぇ。シクワン」

「はい」

「楓に悪気はないのよ、ちょっと正直なだけなのよ」

「む! それって考えなしに喋ってるように聞こえるぅ」

「あら。そう聞こえたかしら?」

「ぶ~」

 楓の懇願は思わぬやり取りをうんだが、そのやり取りがおかしかったようで、うっすら涙を浮かべながら吹き出して笑うシクワンがいた。

「……ま、いっか。シクワン元気になったし。で、シクワンはこの後どうする?」

「あ、はい。この後は用事がありますのでこの辺りで失礼します」

「うん。じゃ、またねぇ」

 楓が言葉で見送る中、薫は複雑な思いがあるのであろう、言葉を発することなく去って行くシクワンを目で追っていた。

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