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登場人物)
岩間 聖美
西暦2108年08月13日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生
性格は、子供っぽい所もあるが、二〇歳に何とか相応しい女性だが、楓に似た所もあり、類は友を呼ぶを表した友人の一人。
山田 明子
西暦2108年06月21日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生
性格は、長女であるだけにしっかり者で世話好き。だが、おっとりしているわけではない。その辺は弟を持つが故なのかも知れない。
井之上 美也
西暦2110年09月10日生まれ/専課学校、基底学部物理科3年生
几帳面でしっかり者と言う性格が良く表れた、はっきりした物言いする。それでいて、自然にぼけてしまうところがあるという、堅物とは言い難い所もあり、どちらかと言えば、聖美や楓に近い性格であるのかもしれない。
石本 正人
西暦2108年09月16日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生
何事にも動じないとみられがちであるが、その実、殆どの出来事に関心を示さない。一人であることを望んでいる節もある。
舞台)
関甲越エリア(かんこうえつえりあ)
関東甲信越を短縮したエリアの名称。東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。
組織・家など)
ATSUBB専課学校
場所は、関甲越エリア、神奈川、厚木にある。基底学部として、化学、物理、自然の学科を持つ専課学校。
「む~」
唸りを上げながら、照明の明かりに照らされた、壁に囲まれた通路と思しき場所を歩く人物がいた。
「だぁ~」
遂にはやや声を張り上げた人物は、大げさな身振りで頭を抱え、再びぶつぶつと何かを口にしながら“一〇二ラボ”と書かれたプレートのある部屋へと入っていく。
「大声出してどうしたんですか。待って下さいよぉ。先輩、岩間先輩。……あ、おはようございます」
「おぉ、おはよう」
声を張り上げていた聖美を追ってきたのであろう、別の人物が声を掛けながら同じ部屋へと続く。入るや立ち止まって礼儀正しく挨拶をしているのだが、追っていた聖美からの返事はなかった。
「先輩?」
「う~。よし! じゃぁ、始めよう」
声を掛ける後輩と思しき人物の言葉を聞いているのかいないのか、徐に背筋を伸ばしたかと思いきや気合いを入れた聖美である。
「先輩……? 何を始めるんですか?」
「うん」
何か考え事でもしているのであろうか、聖美は後輩の問いかけに返事とは言えない言葉を漏らした。
「う~。これだとこっちの理論付けが苦しいか。でもでも、そうすると……。あぁもう」
「……あの、先輩?」
「うん。あ、そっか。……何らかしらの重力遮断があると仮定すると?」
「はぁ。……先輩、私は何を」
「ん?」
「……お手伝い……」
「あぁ~。だめだ~」
聖美の傍らに立ち尽くす後輩。実験用机に寄りかかり、聖美の作業を見詰める事しか出来なかった。
「井之上君?」
「はい」
「どうしたね」
「いえ、その……」
近くを通った研究員に声を掛けられる美也だが、言い訳を思いつかなかったのか歯切れが悪くなった上に視線を逸らしてしまった。
「岩間君」
美也の隠しきれない表情に、研究員が聖美に声を掛けるのだが、集中しているのか聞こえていないようである。
「岩間君! ……駄目か。しかし珍しいな。授業でもこれくらいだと嬉しいんだが」
「はぁ、そうですか……」
「……あ、あぁ。困ったか」
「……はい」
再三呼んでも応えてくれない聖美に、美也は疎か研究員も頭をかきながら困り果てるしかなかった。
*
「はぁ」
「美也ちゃん。何か疲れているようだけど、大丈夫?」
「あ、お構いなく」
「そうは見えないんだけど。聖美」
はぐ。もしゃもしゃ。
「ん? わに。んぐ」
なんとも素っ気のない返事をする聖美は、相変わらず食べながら喋っていた。
既に時刻はお昼を過ぎており、聖美と美也もお昼を取りに食堂を訪れて明子と合流していた。ちなみに正人は本日も別行動でお昼を共にはしていない。
「もう。口に物入れながら喋らないでっていつも言ってるでしょ」
「ほう……だっけ?」
言われる傍から頬張りながら喋り続ける聖美である。
「美也ちゃんが疲れてるわよ。気が付いてないの?」
「そう?」
「あのねぇ。一緒に調査してるんでしょ、ちゃんと……」
「大丈夫、大丈夫」
そう言いきった聖美は再び昼食に戻るのであった。恰もその行為は、周りの全てを無視したいかのようにも見受けられる。何かを忘れたいが為に……。
「聖美。もう」
「いえ、良いんです。私は……大丈夫……です……から」
美也は言葉を詰まらせながら、明子の気遣いを流そうとする。するのだが、表情が暗くなる一方であった。
「ちょっと聖美」
「さっきから、あに」
「何かあったの?」
「何にも」
「嘘よ」
聖美の口調に釣られたかのように、明子も強い口調に変わってしまっていた。
売り言葉に買い言葉、と言って良いのか。時として、何でもない事柄をきっかけに喧嘩が起こることがある。この二人、いや三人には、楓と薫が消えたという重しがまだ心にのしかかっているのであろう。
「あんであたしを気にするの明子」
「友達じゃない、当然でしょ」
「む~」
「あ、あの。お二人とも落ち着いて下さい」
「あんで。落ち着いてるじゃん」
「何処がなのよ。苛つくのは分かるけれど、美也ちゃんのことを忘れてない?」
「忘れてないよ」
「いいえ、そうには見えないわ。美也ちゃんと一緒に作業してるの?」
「うっ」
「ほらご覧なさい。美也ちゃんに八つ当たりしてもしょうがないでしょ」
言い合いになりかける明子と聖美だが、聖美が墓穴を掘ったことで明子の表情が和らいでいた。一方の聖美は、目が泳ぎ、たじろぐしかなかった。
「そ、そう言う明子はどうなの?」
「ど、どうって。特にこれと言って……。えぇと……」
「ふ~ん。明子も同じって事じゃ」
「……はぁ。……そうね、同じかもしれないわね。でもね。石本君をないがしろにするようなことはしていないつもりよ」
「で、でもさぁ。あたしは引っ張るタイプじゃ……」
「あ、そう言われると……。確かにそうかもしれないわねぇ。……とすると。……美也ちゃんに指示出して貰う?」
「……えっとぉ。それだと……岩間先輩の……」
「う~。それって何か違う気がする。……けど、それも良いかも」
苛ついていた聖美も、いつの間にか明子に乗せられたのか表情が穏やかになっていた。しかも、先輩としての威厳を捨て去るようなことまで言ってしまっている。聖美らしいと言えばそうなのだが、果たして何処まで本気なのやら。
「え~、良いんですか? 先輩をこき使っても」
聖美の言いように、暗く沈んでいた美也の表情もぱっと明るくなっていた。いや、鼻息が荒くなっているようである。
「うっそだよぉ。美也も元気になった。うん」
「もう。先輩の意地悪」
「美也、ごめんね。不届きな……。あれ? なんか違う気がするけどよろしく」
「あぁ。……はい」
「聖美ぃ。それを言うなら不慣れなとかあるでしょ。ホントにしょうがないわねぇ」




