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エンドレス・キャンパス  作者: 木眞井啓明
第二部 役  第二章 現出
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登場人物)

 藤本ふじもと かえで

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識・知能が低い訳ではない。


 本藤ほんどう かおり

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。


 リーツ・フィフナイ・プト

  不明な場所の住人と思われる人物の一人。

  初老の男であること、不明な地の長老を務めている事が分かっている。


 リーツ・シクワン・プト

  不明な場所の住人と思われる人物の一人。

  長老よりかなり若く、楓や薫と同年代と見受けられるが、男女の区別は不明。


舞台)

 不明な地/場所

  日本で行方不明事件の実証実験中に、行方不明の原因と思われる事象によりやってきた場所。

 暗闇の中、何処かでどさっと音がした。いや、ばたっとも聞こえる。どうやら、何かが落ちたか倒れたようである。

 その音がした後は、再び静寂がその場を包んだ。

「……ん」

 数十分か、小一時間かが経った頃、人が上げたような声が一つ聞こえた。この暗闇の中に人がいるとでも言うのであろうか。

「……ん」

 その数分後。再び声が一つ聞こえた。どうもその声は、人が目覚める際に上げる唸りのようにも聞こえる。やはり、誰ともしれない人物がいるようである。だとすると先程の音は、この者が倒れでもした時のものだったのかもしれない。

「……ここ……は……。何も見えないわね」

 声と共に、何かを引き摺るような、布地が擦れているような音も聞こえてくる。

 俯せにでもなっていたのであろうその人物が、口をついて出たしまった呟きを漏らしながら、手でもついて上体を起こしたようである。

──……どうなっているのかしら……。確か……。……そう。思い出したわ。

 混乱する記憶を整理し、何かに思い当たったその人物は……。

「楓! ……!」

 思わず大声で叫んでしまった人物は、慌てて口を手で押さえたようである。ここが何処であるのか分からない以上、自身の居場所を知らせることに繋がる言動はするべきではない、との判断が瞬間になされたようである。

──参ったわね……。とりあえず音の類は聞こえない……。やってしまったことは仕方がないわね。

 目覚めたら暗闇の中にいたのである。動揺するなと言うのが無理というものである。然るに、焦ったとしても咎められる者などいないであろう。

──……やはり駄目ね。殆ど何も見えないわ。いいえ、落ち着きなさい。目を慣れさせれば……。

 上体を起こした人物の動きが止まった。気持ちを落ち着かせつつ、この暗がりに目を慣れさせようとしている。目を慣れさせることで、夜行性ではない人であっても、ある程度までの暗さであれば見ることは可能である。

──……困ったわね。少しでも明かりがあれば、もう少し見やすいのだけれど。明かりの類の持ち合わせはないわね。

「……あら? ど、どう言うことなの? 僅かに明るくなったわ」

 思わず口走ってしまったようであるが、願ったとたんに明るくなったとなれば驚かずにはいられないであろう。しかも、願ったとおりの明るさであれば尚更である。

 これ以上の明るさを願わなかったのは、この人物の思想、あるいは考え方が垣間見えて面白い。つまりは、現在の事態が理解できていない以上、大げさな行動は控えると言えば分かるであろうか。所謂、慎重に事を進めるという奴で、穿った見方をすれば臆病者と言うことになる。

「楓。どこ」

 薄明かりの中、先程より小さい声で楓を呼ぶ人物は、座ったままの姿勢で辺りを見回しているようである。暗くとも、時折かすかに聞こえる布地が擦れる音から察することが出来る。

──……返事がないわね。気絶……いえ、そのまま寝ているのかもしれないわね、あの子の事だから……。

 そう考えながら薄笑いが零れている。どうやら少しは落ち着いたようである。

──……そうね。このまま座っていても埒があかないわね。

 布が僅かに擦れる音と靴が擦れる音がした。楓を呼んだ人物が立ち上がったようである。探すには立った方が都合が良いとは言え、この場所の事は分かっていないのである、立つことによる動きを察知される危険はある。

 ぐるりと周囲を見回す人物のその表情は、薄明かりのため判然とはしないものの、楓を心配しているように見受けられる。

 そして、真後ろを向いた時、はっと声を上げて動いた。

「楓!」

 発見した嬉しさからなのであろう、慎重さもすっかり忘れて叫んでいた。

 カシャン。ペキ。

 移動する中で何かを蹴飛ばした、あるいは踏みつけたようであるが、お構いなしに歩を進め、楓の傍で跪いて両肩を掴んで揺する。だがその揺さぶりに反応が返ってこない。次第に揺すり方が強くなった。それでも反応が返ってこない。

──……楓。何てことなの……。こんな……こんなことが……。

 かなり狼狽しているこの人物は、楓に声を掛けては揺するを繰り返していた。それでも、なかなか目を開ける気配がない楓である。

「……あら。いけないわね。落ち着かなければ……」

 何度目であろうか。口をついて出た言葉……。落ち着いたように見えていたのだが、探していた人物を発見したとなれば平常心を保つなど出来よう筈もない。更に言えば、何処ともしれない場所にいるのだ、致し方がないであろう。

「そ、そうだわ」

 そう呟いた人物は何かに思い当たったようで、己の手を楓の鼻の近くに翳す。その後に腕を取って手首に指を当てていた。意識がないため、呼吸と脈で生存の確認を取ったと言うことであろう。

「ふぅ。ひとまず呼吸も脈もあるわ。……良かった。それにしても、寝るにはちょっと寒いかしら?」

 楓が生きていることを確認したことで、気持ちが落ち着いたようである。そして、その人物がふとした感想を口にした瞬間……。

「……まただわ。寒さが少し和らいだようね。どう言うことかしら?」

 徐に、右手を開いて額を覆うように添えた。その目は、何かを思案しているようであるのだが、ややきつく睨んでいるようにも見えた。この場だけを見た者がいたならば恐怖に怯えたことであろう。

「……ん……」

 再び人が上げたような声がかすかに聞こえてきた。

「あら。やっとお目覚めね」

 どうやら、楓が目を覚まそうとしているようである。その声を聞いた人物は、ここで意識を回復してから二度目の笑みを漏らした。その笑みには、先程より安心感が見え隠れしている。

「……ん、……ん?」

「楓」

「……う~ん、もうちょっと……」

「まったく。しょうのない子ね。起きなさい」

 楓の傍らに座っている人物は、恰も自分の子供を起こしに掛かっているような表情で接している。その声も母親と見まがう優しさに満ちている。

「……ん。ん~。ん? 薫?」

「そうよ。目覚めてくれて良かったわ」

「よっ。う~ん。……どれくらい寝てた?」

 楓はそう呟きながら上体を起こした。

「分からないわ。でも、良かった」

 そう言った薫は、楓の両手を包むように握った。すると……。

 カチッ。

 小さいがスイッチが入ったような音が聞こえた。

「ここ……は……ど……」

 楓が何か質問を始めた所で声が次第に消えて行った。その状態に慌てた薫は……。

「楓? どうしたの? 楓!」

 突然のことに驚いた薫だが、握ったままの手は離さなかった。その一方で、楓が自身を支えている全ての力を手放したかのようにふらりと後ろに倒れかかる。

「駄目よ! 痛っ」

 薫はそう叫びながら、倒れる楓の後頭部との間に手を差し込めたようである。ぶつかる衝撃全てを緩和できなかったであろうが、幾分かは薫の手の甲で引き受けられたようである。しかし、咄嗟のこととは言えよくこの行動が取れたものである。

「楓、返ってきなさい!」

 慌てている薫は、楓の頬を叩いて意識を戻そうとする。しかし、楓の意識は返ってこない。慌てながらも再び呼吸と脈を取った。

──呼吸も脈もかなり浅いようね。このままでは……。

 焦りが薫の明晰な頭脳をかき乱す。何をどうしたらよいのか、どうするべきなのかに迷いが生まれた。

「楓。どうしたら良いの……」

 項垂れ、途方に暮れる薫。だが、一刻の猶予がないと思われる事態である。

──……落ち着きなさい。落ち着きなさい。……楓の命に関わることなのよ。

 何度も自分に言い聞かせ、混乱したままの頭で考え続ける薫……。

──……そうだわ。基本に立ち返りましょう。あっ、いえ、違うわね。呼吸も脈もあるのだから……。

 慌て焦る薫は、どうやら心臓マッサージと人工呼吸でも行おうと考えたようである。だが、そのどちらも今の楓は自力で行っている。だとすれば何をすべきなのか。医療知識までは持ち合わせていないのであろう薫にとっては、措置のしようがないと言わざる終えないようである。

 楓の傍らに両手をついて、項垂れた格好となって無力であることを噛みしめる事しか出来なかった。

「……ごめんなさい。今の私には何も出来そうにないわね」

 床ずれの音をさせ、徐に楓の頭を上げた薫は、そのまま膝の上に載せて力の失せた楓の両手を自分の両手で包んだ。

 目を閉じて祈ることしか出来なかった。

「楓。お願い、意識を取り戻して……」

 優しく包んでいた薫の手には次第に力が入っていた。すると……。

 カチッ。

 小さいがスイッチが入ったような音が薫の耳に届いた。

「今のは? 何の音かしら?」

「……ん」

「楓!」

 楓の口から声が漏れてきた。どうやら意識が戻ったようである。

「……ふっ? えっ? あっ?」

 目を覚ました楓の視界に飛び込んできたのは、自分の手を握って涙を浮かべた薫の顔であった。更に、後頭部に柔らかい何かを感じ取った。

「……とっ。何? 薫の膝枕? あんで」

「良かった。良かったわ」

 そう言った薫に頭を抱きしめられた楓。手は自由となったのだが事態が飲み込めていないまま、両腕を宙に浮かせてされるがままの状態に落ち着くしかなかった。

「ちょ、ちょっと薫。何がどうなって……」

「……そうだったわね。さっき目覚めたのは覚えているかしら?」

「はい?」

「大事な事よ」

「う、うん。え~と……。うん大丈夫、覚えてる」

「そう。その後は?」

「……薫に両手を握られて……、あれ? で、どうなったんだっけ?」

 この質問の間も薫の膝枕は続いていた。楓も、目覚めた直後は動転したようだが、薫の質問に恥ずかしさが失せたのかいつも通りに答えている。見ようによっては、いささか問題がありそうな構図ではある。

「そう。分かったわ。……ごめんなさいね、楓。手を貸して……」

「う、うん」

 薫は、こわごわ差し出す楓の両手を握った。すると……。

 カチッ。

 小さいスイッチが入ったような音が薫の耳に届いた。

「? あにす……ん……の……」

「……楓?」

 薫は、握っていた楓の両手を楓のおなかにおいて声を掛けているが、声から察するに恐る恐ると言ったところのようである。

「……ごめんなさいね。直ぐ起こしてあげるわ」

 楓の両手を掴んで、三度目となる自身の掌の中に包んだ。

──……おかしいわね。これでいいはずだけれど。

 しばらく何も起きず、少々焦りが見え始めた薫は、若干手に力が籠もった。すると……。

 カチッ。

 スイッチが入ったような音が耳に聞こえてきた。

「……良かったわ。これで目覚めるはずね」

「……ん」

 そう言っている間に、楓から声が漏れてくる。

「……ん、ん~」

「目が覚めたかしら?」

「ん? おはよ~」

「おはよう」

「ん~。ん? じゃない! あによ、あれ!」

 目が覚めるや否や憤慨する楓である。まぁ確かに、再三強制的に意識をなくさせられたのではたまったものではない。楓でなくとも怒ろうというものである。

 さて、その憤慨している楓の状態はと言えば、未だに薫に膝枕されたままであり、その事を忘れているようである。

「どうなったのかしら?」

「どうってねぇ。いきなり目は見えなくなるは、何も考えられなくなるし。まったくもう! 楓ちゃんはおもちゃじゃないんだよ」

「分かってるわよ、ごめんなさいね。楓に起こったことを確認したくて」

「む。何か納得いかないなぁ。む~……。で、何が起こったか分かった?」

「そうね。おぼろげながら」

「う~、何か酷い。おぼろげって、つまりはまだって事じゃ?」

 威勢良く憤慨している楓ではあるが、状態は依然として薫に膝枕されたままである。双方を見比べた場合、格好が良いとは言いがたいのは事実である。

「そうね。でも、そろそろ起きてもらえるかしら、いくら楓だからと言っても、ちょっと恥ずかしいわね。この格好は」

「う? あっ、ちょ、ちょ……」

 顔を真っ赤にして飛び起きる楓であった。楓にとって居心地が良かったのであろうか。いや、結局の所で言えば、現状を把握していなかったと言うのが真相であろう。

「ぶ~」

 薫の斜向かいに座り直し、頬を膨らませて怒っている楓がいた。しかし、いつになったら頬を膨らませて怒ることを止めるのであろうか。

「さて、楓のこともまだ気がかりだけれど。ここが何処なのか把握しないといけないわね」

「そう言えば、何処?」

 薫は徐に立ち上がりながら、ここが何処であるのかを調べると告げた。それを聞いた楓も、後に続いて疑問を呈しながら立ち上がった。

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