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エンドレス・キャンパス  作者: 木眞井啓明
第二部 役  第一章 悲嘆
38/65

登場人物)

 岩間いわま 聖美さとみ

  西暦2108年08月13日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、子供っぽい所もあるが、二〇歳に何とか相応しい女性だが、楓に似た所もあり、類は友を呼ぶを表した友人の一人。


 山田やまだ 明子あきこ

  西暦2108年06月21日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、長女であるだけにしっかり者で世話好き。だが、おっとりしているわけではない。その辺は弟を持つが故なのかも知れない。


 井之上いのうえ 美也みや

  西暦2110年09月10日生まれ/専課学校、基底学部物理科3年生

  几帳面でしっかり者と言う性格が良く表れた、はっきりした物言いする。それでいて、自然にぼけてしまうところがあるという、堅物とは言い難い所もあり、どちらかと言えば、聖美や楓に近い性格であるのかもしれない。


 藤本ふじもと かえで

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識・知能が低い訳ではない。


 本藤ほんどう かおり

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。


舞台)

 関甲越エリア(かんこうえつえりあ)

  関東甲信越を短縮したエリアの名称。東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。


組織・家など)

 ATSUBB専課学校あつびーびーせんかがっこう

  場所は、関甲越エリア、神奈川、厚木にある。基底学部として、化学、物理、自然の学科を持つ専課学校。


メカニカル)

 巨大な物体

  突如地球上空に出現した物体。

  出現の理由はおろか、地球に対して何の影響も与えていない訳すらわからない。

 雲一つない晴天から日差しが降り注ぎ、屋内が隈無く照らされている。

 表では、既にそれなりの気温なのであろうが、屋内は……。

「ふぁ~。あふ」

「聖美、おはよう」

「ふえ?」

 起き抜けなのであろうが、心地よい暖かさも手伝ってか、ぼうっとしている聖美に声を掛ける女生徒がいた。

「……ん~。……明子?」

「あら。聖美は、まだおねむかしら?」

「ふ? うん、まだ眠い」

 明子の突っ込みに対して、聖美は、寝ぼけたままに肯定している。どうやら、本当にまだ眠いようである。

「あっ! 先輩方。おはようございます」

 席でも探していたのであろう、手に朝食を載せたトレーを持ったまま、二人を見つけてやってきた。

「美也ちゃん、おはよう」

「うん」

「岩間先輩、それって何ですか?」

「まだ、寝ぼけてるのよ」

 聖美の状態を把握していない美也に、明子は小声で教え、クスクスと笑っていた。

 今の状態であるなら、どんな問いに対してでも、肯定してしまいそうである。朝に弱い聖美であった。

 ピンポーン。

「朝っぱらから、何かしらね」

「おはようございます。九月三日金曜日です。

 学校から、緊急のお知らせです。

 行方不明事件の調査に使用しておりました、機器についての連絡です。

 現在、実証実験が行われておりますが、諸般の事情により、当面の使用を見合わせることとなりました。再開の時期は未定となっております。これにより、被験者となりました生徒の皆さんは、参加対象から外れることとなります。本日以降は、これまで通りの調査を引き続きお願いします。

 次の連絡事項です……」

「おし!」

「よかったぁ」

 食堂にいた他の生徒の間から、安堵の声が聞こえてくる。

 その言葉を耳にした明子は、複雑な思いを表情に滲ませた。

「……山田先輩? 大丈夫ですか?」

「……あら、ごめんね」

「ほっ?」

 明子の表情に、いち早く反応した美也が心配する。その傍らには、未だ寝ぼけたままの聖美が、”何?”と言った表情を浮かべていた。

「……当然こうなるわね。……でも、今更よね」

 明子は、憤慨しつつも、やりきれない気持ちでいるようである。

「……先輩」

「……分かってるわ。実証実験だから、仕方がないのかもしれないけれどね。

 ……ま、それでも、早い段階で中止にしてくれて良かったのかもしれないわ」

「そうですね。本藤先輩と藤本先輩の尊い犠牲も報われます」

「ありがとう。でもね、美也ちゃん」

「はい?」

「二人共、死んだ訳じゃないと思うわよ」

 美也が、明子の意見に賛成してくれたことは嬉しいのだが、一部に、不適切な言葉が混じっていることを指摘せずにはいられなかったようである。

「……あっ、ごめんなさい。そうですよね、犠牲は不味いですね。……う~んと。貢献にしたいと思います。

 あっとっとっとっ」

「そ、そうね」

 明子の指摘に訂正するも力が入りすぎたようで、持っていたトレーが揺れてバランスを崩しかける。この娘もまた、聖美や楓に近い存在なのかもしれない。

「……で。未だに寝ぼけ眼の聖美。いい加減、起きたらどう?」

 薫がいなくなったことも手伝って、寝起きに時間を要するようになった聖美であるが……。

「……はっ! い、今、刺すような視線が。どっから?」

 鋭い視線には、敏感な聖美であるのだが、振り返って辺りを見回している。

 明子の放つ視線の鋭さは、まだ、薫には届いていないようである。

「さぁとぉみぃ」

「岩間先輩」

「ほっ? おはよう。で、どったの?」

 相も変わらず、ここぞと言う時には、お約束通りの言動をしてしまう聖美である。

 ある意味においては、聖美と楓の天然ぶりが、清涼剤になることもある。

「実はですねぇ……」

 聖美が寝ぼけている間の出来事を、美也がぼそぼそと語り始めた。しかし、それは、次第に明子が呆れる内容へと変貌していき、項垂れてしまう明子であった。

「美也ちゃん。ちょっと、脚色しすぎ……。

 あっ、遅かった」

「ぬ、ぬぁにぃ~!」

 美也の説明を聞いた聖美が、大声を上げた。

 食堂にいる生徒と従業員、その全ての動作が止まり声の主に視線を注いでいる。それほどまでに大声であったと言う事である。

 聖美のその表情は、正に憤怒のそれであった。誰も、その状態を宥めることなど出来ないのではないかと思えるほどである。

 近いテーブルにいる女子生徒の表情が引きつっていることからもそれが伺えた。

「学校に抗議してくる!」

「聖美、待ちなさい!」

「止めないで!」

 ドラマのワンシーンをも彷彿とさせる言い回しである。双方共に、真剣であるが故に、臨場感が伴ってもいた。

 明子はとっさに、聖美を背後から羽交い締めにして、動きを封じようとする。

「こっちも、どうにかしないと……いけないけれどね。悪いけど美也ちゃん。いい加減……何処か……席を取ってくれる? 美也ちゃんも……トレー……持ちっぱなしだしね」

「そう言えばそうですね。立ち話しすぎました」

 そう言って、美也はそそくさと、適当な席を確保しにその場を離れていく。

 一方の聖美の怒りは、なかなかに治まりそうにない。一昨日から、楓のこととなると目の色が変わる。

「いい加減にして。学校を問い詰めても、どうにもならないでしょ」

「あんでよ。あたしは、学校に文句言いに行くだけ」

「美也ちゃんの説明は、大分脚色が入っているのよ」

 明子の必死の説得も、なかなか受け入れてもらえない様子である。それでも明子は、背後から羽交い締めにして、聖美の動きを封じようと必死である。

「お待たせしました。席は確保済み……、って、岩間先輩、まだ行く気ですか」

 席の確保に向かった美也が、二人を迎えに戻って来たのだが、相当に不味いことになっていることに気が付いたようである。

「駄目です」

「美也まで……。行かせて……。ふぅ~」

 背後から明子に羽交い締めにされ、前からは美也に押し戻される格好の聖美は、必死の形相で前進を試み続けている。

「美也ちゃんが……尾ひれを……付けるから」

「えっ、そうでした?」

「あのねぇ……。流石、聖美の……後輩だけあるわ」

「そうですか? ありがとう……ござい……ます」

「あぁ」

 美也は薫を慕っており、薫を目指しているものとばかり思っていた明子だが、どうやら、根っこの部分は聖美や楓に近いと認識することとなった。

「……それはそうと、聖美。おなか……すいたでしょ」

「あに」

「朝食は……まだでしょ」

「ふっ?」

 流石に付き合いが長いだけあって、目先を切り替える戦法に出た明子である。

「そ、そうですね。私も、おなか……すいてますから、一緒に……食べましょう」

「そうね。それが……良いわ。行くのは……食事して……からにしましょ。そうしましょ。ね、聖美」

 美也が便乗してくれたことで、明子は、更にそこに乗っかって聖美の怒りを静めに掛かる。

 明子の視線を感じたのか、小さいが、聖美は身震いした。

「……ふむ。朝ご飯……」

「そうそう」

「そうです」

「……そっか」

 聖美の体から力が抜けていった。それを感じた二人も力を抜く。

「んじゃ、ご飯食べよ」

 一転。聖美は、二人の腕を振り解いて、配膳カウンターへと向かっていた。

 息を漏らす二人は、顔を見合わせ笑いをこらえながらその場を離れた。

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