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登場人物)
藤本 楓
西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生
性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識・知能が低い訳ではない。
本藤 薫
西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生
性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。
岩間 聖美
西暦2108年08月13日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生
性格は、子供っぽい所もあるが、二〇歳に何とか相応しい女性だが、楓に似た所もあり、類は友を呼ぶ、を表した友人の一人。
山田 明子
西暦2108年06月21日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生
性格は、長女であるだけに、しっかり者で、世話好き。だが、おっとりしているわけではない。その辺は、弟を持つが故なのかも知れない。
井之上 美也
西暦2110年09月10日生まれ/専課学校、基底学部物理科3年生
几帳面でしっかり者と言う性格が良く表れた、はっきりした物言いする。それでいて、自然にぼけてしまうところがあるという、堅物とは言い難い所もあり、どちらかと言えば、聖美や楓に近い性格であるのかもしれない。
石本 正人
西暦2108年09月16日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生
何事にも動じないとみられがちであるが、その実、殆どの出来事に関心を示さない。一人であることを望んでいる節もある。
舞台)
関甲越エリア(かんこうえつえりあ)
関東甲信越を短縮したエリアの名称。東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。
組織・家など)
ATSUBB専課学校
場所は、関甲越エリア、神奈川、厚木にある。基底学部として、化学、物理学、自然の学科を持つ専課学校。
メカニカル)
巨大な物体
突如地球上空に出現した物体。
出現の理由はおろか、地球に対して何の影響も与えていない訳すらわからない。
薄曇りの隙間から覗く日差しが、何処までも届いているかのように、奥の奥までが明るいのではと思える屋内。
三々五々、人が集まり始めていた。
「おはよう、聖美。よく寝られた?」
「ふ?」
横から朝の挨拶を掛けられた聖美は、寝ぼけ眼をしており、状況を直ぐには飲み込めないようである。
「ほ……。あっ、おはよう。
で、明子、あんで覗き込むの」
「酷い顔よ、洗ったの?」
聖美は、まずは頬を膨らませて怒りを表した。それにしても、相変わらずお子様ぶりが炸裂しているようである。そうは言っても、覗き込まれた挙げ句にこの仕打ちなのだ。聖美でなくても、起こりたくなろうというものである。
「ふふふ。さ、朝食にしましょ」
聖美の返答を待たずに誘う明子。朝食を摂りに食堂にやってきたところ、ばったりと言ったところのようである。更に言えば、昨日の今日である。特に待ち合わせをした訳ではないのだろうが、そこはそれ、いつものと言う奴であろう。
「あによぉ、朝っぱらから。洗ったってばぁ……。
……そんなに、酷い?」
意地を張っては見せたものの、結局気にする聖美に、明子は大きく頷きつつもクスリと笑う。
思い切り泣いたのだ。泣きはらした目は、まだ赤く、目の下には隈ができかけていた。どうやら、昨晩はあまり眠れなかったようである。それほどまでに、楓がいなくなったことが聖美には堪えているようである。
「ちょっと行ってくる」
明子の言葉が気になったのであろう、脱兎の如くに食堂を出て行く聖美である。仮にも二十歳である。お子様な言動や行動が目立つとはいえ、女性であると言うことなのだろう。
「しょうがないわねぇ。
……さて、今朝は、何にしようかしらね」
走り去るその背中を見送りつつ、口を突いて出てしまう明子がいた。
明子は、踵を返して朝食を選びに向かう。
数十分後。
「はぁ~。食べた食べた」
ご満悦の聖美である。
「まだ、充血は引かないわね。どれだけこすったのよ」
「うっ。それ言っちゃぁ駄目だって」
朝食が終わったばかりの二人は、食後の休息よろしくまだ席を立つ気配はない。
ぽんぽん、とおなかでも叩かんばかりの聖美に、明子が心配をしているのだが、いらぬお世話と言ったところか。
それでも聖美は、ややうつむき加減である。やはり気にしているのであろう。
「さ、そろそろ行くわよ」
「えぇ~、もう。もうちょっと休もうよ」
トレーをのけてテーブルに突っ伏して、休みたいと意思表示する聖美は、今のところは、いつもと変わりがあるようには見えない。
「ほら。食器を片付けていくわよ」
「ぶ~」
再度促された聖美は、渋々と明子の言葉に従いトレーを持って下げ膳場所へと向かう事となった。
早々に実験棟に向かった二人なのだが……。
「あちぃ」
「聖美。言葉遣いが悪いわよ」
「えぇ~、だって暑いんだもん」
「それは、そうなんだけどね。はぁ」
実験棟に入るや否や、愚痴を漏らす始末である。聖美の本領発揮と言ったところであろう。それ故に、明子はいつもより長い溜め息をついてしまう。
「……いいわ。聖美、お昼に食堂でね」
「うん」
元気の良い返事をする聖美。
そうは言っても、これから当面は二人でやっていた調査作業を、各々が一人で行うことになるのだ。果たして聖美の元気はいつまで持つ事やら。
「おはようございます」
聖美は、ラボのドアを開けて、挨拶をしながらラボに入っていく。
「はぁ……。そんじゃ、昨日の続き始めよっか……」
溜め息なのか、気持ちを切り替えるためなのか、息を漏らした聖美は、誰にともなく呟いていた。そうは言っても、その表情からは、心の整理がついているとは言えそうにない。
聖美が、このところ作業をしている実験台へと向かっていると……。
「……あっ。岩間君、ちょうど良いところに、ちょっと良いですか?」
「……あっ、はい。何でしょう」
聖美と薫が行っている調査、その指示を出している研究員に声を掛けられる。
──美也じゃん。どうした?
研究員に呼ばれるまで気が付かなかったようだが、確かに、美也と呼んだ女性がいた。
井上美也、一七歳。
目は大きめで、垂れても釣り目でもない。鼻は小さいが、鼻筋は見えにくいためちょこんと載ったように見える。輪郭は細面であり小さい顔立ちである。
髪型は、くせっけで肩まであり色は黒である。
大きめの目から来る子供っぽさがあるのは、楓や聖美に共通しているが、身長が二人より高い一七二㎝あるため外見上からは子供と判断されにくい。また、ヒップが聖美よりしっかりしていることも子供に見られないところである。
本日の服装はと言えば、トップが白を基調として淡い黄色でグラデーションされたブラウス。ボトムは、パステルグリーンのフレアスカート。シューズは、薄めのグレーのパンプスを履いている。
ちなみに、美也は聖美や薫と同じ学部で二つ下の学年である。
最初の出会いは、二年ほど前であろうか、大がかりな実験、つまりは学年を超えた実験を行った時である。その後も何度か一緒になった事がある。とは言え、意気投合したのは確かであり、あまたいる薫のファンの一人でもある。
「岩間君。今日から本藤君の代わりに、井上君と一緒に作業をするように通達が来ている」
「は? ……代わりって何ですか」
聖美は二つ返事ではなく、”代わり”という言葉が気に入らなかったようで、疑問を呈する事で返事とした。
「あっ、いや。本藤君が行方不明のため……」
「薫の代わり……」
「その通りだ」
「岩間、先輩?」
聖美の表情を気にしたのであろうか、美也が声を掛けるが聖美には届いていないようである。
「代わりって、何ですか?」
「……い、岩間君!」
──……あっ。あれ?
「ちょ、ちょっと待ちたまえ、何故泣く」
「えっ? なんで?」
本人ですら気が付かないうちに、涙が溢れてきていた。昨晩、散々泣いたにもかかわらず……。
当分の間、楓と薫の行方不明の事は引き摺りそうである。
「……代わりならお断りします」
「それは出来ない相談だ」
「なんで……」
食い下がる聖美は、まだ涙を流したままである。
この時点で見咎めた者がいたならば、恋愛のこじれ、と勘違いしたことであろう。
「申し訳ないが、私は、決定を伝えることしか出来ないのだ」
「……代わりなんて。……代わりなんて」
「……そうですね。私は代わりじゃないですね。ううん。本藤先輩の代わりなんて出来ません、大丈夫です」
「井上君。この場は任せる」
嗚咽を漏らす聖美に、対応困難と感じたのであろう、研究員はその場を立ち去り、更にはラボまでも出て行ってしまう。
*
一方、化学科で使用しているラボでも……。
「山田君。少々良いですか?」
「はい。何でしょうか」
早々に呼び出された明子は、何かあったろうかと訝しんでいた。
──あの男子は……。確か同じ学年の……。
「朝早くに申し訳ないが、今日から藤本君の代わりに、君と組んで作業して貰う、石本君だ」
石本と呼ばれた男性、石本正人、一九歳。
目は大きくも小さくもないが、目の間隔が狭く眉が太めである。鼻は団子っ鼻で鼻筋は見えない。輪郭は細面の顔立ちである。
髪型は、耳を出している程度の長さで、後頭部は刈り上げにしているがスポーツ刈りではない。色は光の加減で赤茶に見える黒である。
身長は一七九・八㎝あるが、痩せているというよりは、やや太り気味と行った背格好である。
本日の服装はと言えば、上は、絵柄の入ったシャツであるが、色が地味なため派手に見えていない。下は、かなり色を抜いた(履き古した?)青のデニム。シューズは、ありきたりな黒のスニーカーを履いている。
そんな正人を目の前に、告げられた明子に動揺が走る。
「えっ? 楓の代わり……」
「石本正人だ、よろしく。同じ学年だから知らないこともないか」
正人が手を差し出して、挨拶を交わそうとするが……。
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「何か問題でも?」
「あります。代わりとはどう言うことですか」
行方不明の翌日に、代替要員の配属とは素早い対応。と褒められるのだろうが、明子にとっては、まだ早かったようである。
「言葉の通りだ」
「昨日の今日では、受け入れられません」
「だからこそ、何だが」
「そうなのでしょうが、直ぐに見つかる可能性も……」
何とか、楓の居場所を残しておきたい明子なのであろうが、世の中は待ってくれないようである。
「それとだ、私は決定を伝えるだけで、異議申し立ては受け付けられないのだよ」
「……」
「伝達事項は以上だ。二人共、作業に入りたまえ」
そう言い残して、伝達を終えた研究員はその場を離れていく。
残った二人は、その場に立ち尽くしていた。
正人は、出した右手の所在をなくし、引っ込めざる終えないばかりか、この状況に戸惑いを隠せない。
「……山田さん?」
「何ですか」
「どうする」
──……楓。……私も、聖美のこと言えないわね。良し!
「ごめんなさいね。もう大丈夫よ」
「それは何よりだ」
「決定では仕方がないと、言わなければいけないようね……。
ちょっとあれだったけど。石本君、こちらこそよろしく」
「あ、あぁ。お互い、突然だしな……」
「くすっ」
「笑うな」
「ごめんね。今のは私自身によ。それじゃぁ、始めましょうか」
どうやら、ごたごたは落ち着いたようであるが、明子も楓がいなくなったことに、戸惑いを隠せなくなっているようである。
*
「まったく。あによ!」
朝の明子との約束通り、お昼になると、食堂に足を向けた聖美と明子、そこに美也が加わった三人である。尚、正人は、朝の騒動が主な要因ではないと思われるが、別行動を取ると言うことでこの場にはいない。
あえて言っておくと、女性と一緒に食事が取れない事はないのだろうが、今日の所は遠慮すると言うことなのであろう。
「聖美。決定は決定として……」
「そこじゃない!」
昨日とは別の問題で、怒り心頭の聖美に対して、明子は、フォローし尽くせていない様子である。
「代わりってあによ。代わりって」
「あっ、そこね」
「それ以外に何があるって言うの? 明子」
詰め寄られる明子はたじたじである。
溜め息をつきつつも、聖美を宥めに掛かっているのだが、そこは薫と違ってなかなかに難しいようだ。
「そうですよね。自分でもそうは言ったんですが、私じゃ駄目ですよね」
今度は美也が、代わりになり得ない現実に、意気消沈してしまったようである。薫の代わりなど、務まろう筈がないことは承知していても、そう臭わされては、自信もなくなろうというものである。
「そうそう。代わりってあによ、代わりって!」
「聖美」
「誰であろうと、代われる訳ないじゃん。ねぇ、明子」
怒りのあまりに、周囲の事に気が回っていない聖美は、その代わりとして、代役として組むことになった美也がいることを忘れているようである。
「聖美……。美也ちゃん」
「えっ?」
明子に促された聖美が、左隣の美也に視線を移したところ、俯いてしまっている美也がいた。
「……だぁ~。あぁ~。違う違う。美也が悪いんじゃない。う~ん。嫌いとかではなく……」
「良いんです。私じゃぁ、岩間先輩の力になれないんですから……。しくしく」
聖美は、どうして良いのか分からずにおろおろし始めた。
自分の言い分のみを語ったが故の顛末であるのだが、こういう状況に弱い聖美であった。
「……ごめん、美也。美也は誰かの代わりじゃない、美也は美也」
「そうよね。薫の代わりなんて誰にも出来ないわけだし。美也ちゃんにも代わりがいる訳じゃない」
「そうそう」
やはりこういう場面では、明子の方が説明が得意である。聖美は頷くだけである。もう少し、その辺りを学ぶべきであろう。
「ま、別の見方をすれば、私も聖美も、言葉を切り取って揚げ足を取ってるのと変わりないのよね」
「あんでそうなるの」
「伝える側の立場で言えば、交代要員、代わりの人、等など、あまり良い表現はない訳だしね。受け取った方の心情で、内容なんて変わってしまうもの。
あぁ~。私なんて、まだ薫にはほど遠いわね」
しんみりしてしまう三人であった。
「……分かった。言葉遊びと言われちゃ、止めるしかない」
「あらま。良いの?」
「明子って、時々煽るよね」
「あらそう?」
「うん」
「うふふ。あはは」
「美也。ど、どうした?」
聖美が、突如笑い出した美也に戸惑った。
「やっぱり、お二人とも良いです」
「はい?」
「美也ちゃん?」
「私も頑張ります」
何が良くて、何を頑張るのか。
呆気にとられる聖美と明子であったのだが、ひとまず、交代劇のごたごたは落着したようである。




