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エンドレス・キャンパス  作者: 木眞井啓明
第一部 息吹  第十一章 消失
34/65

登場人物)

 岩間いわま 聖美さとみ

  西暦2108年08月13日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、子供っぽい所もあるが、二〇歳に何とか相応しい女性だが、楓に似た所もあり、類は友を呼ぶを表した友人の一人。


 山田やまだ 明子あきこ

  西暦2108年06月21日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、長女であるだけにしっかり者で世話好き。だが、おっとりしているわけではない。その辺は弟を持つが故なのかも知れない。


 藤本ふじもと かえで

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識・知能が低い訳ではない。


 本藤ほんどう かおり

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。


舞台)

 関甲越かんこうえつエリア

  関東甲信越を短縮したエリアの名称。東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。


 厚木あつぎBB

  神奈川県西部、厚木を中心とした企業地区。

  楓達が通う学校も含まれ、関甲越エリアにある企業ブロックの一つ。


 鵜野森うのもりCB

  鵜野森とは、神奈川県相模原市にあり、東京都町田市との境にある地名。

  楓達が通学の途中にあり、関甲越エリアにある商業地区の一つ。

  飲食から衣料品などまでの店や複合施設、娯楽施設、宿泊施設まで揃っている。


組織・家など)

 ATSUBB専課学校あつびーびーせんかがっこう

  場所は、関甲越エリア、神奈川、厚木にある。基底学部として、化学、物理、自然の学科を持つ専課学校。

「だめだ」

「うん。だめぇ~。でも、食堂のテーブルは冷たくて気持ちいい」

「ほら、起きなさい。とは言っても、流石にきつくなってきたものね」

「そうねぇ。でも、そう言っている薫も表情が優れないわよ」

「そうかしら。……でもそうね。もう一ヶ月以上経つものね、疲れが溜まってもし方がないわね」

 食堂のテーブルに突っ伏している楓や聖美は、完全にダウンしているようであるが、ここに至って、明子や薫までもが愚痴を溢すようになったのである。外出禁止令が発令されてから一月以上が経っているのだ、この四人だけではない。他の生徒もそこかしこでぐったりしていた。

「化学の調査に進展はあったのかしら?」

「へ?」

「……ないわよね、楓」

「そうだね。これと言ってないかな? だってさぁ、波長の周波数は分かってても、実際にどれかとなると、似たような波長出すのも結構あるし、相互干渉とかになると情報不足だから特定は難しいって言うか、無理だよ」

「そう」

「物理の方は?」

「んなもん、ある訳ないじゃん」

「そう言う言い方は良くないわよ聖美」

「え~。だって、喋るのも億劫だし」

「そうであっても、たとえ友達との間でも突っ慳貪な態度は良くないわね。聖美」

「は~い。楓、ごめん」

 いやに素直な聖美である。ま、それだけ疲労が溜まり当たり散らしたいのであろう。

「うん。大丈夫。……う~。食堂に来たけど、ご飯食べたくないな」

「それだけはだめよ。何でも良いから食べなさい。いいわね」

「ほ~い」

「ふふふふふ」

「明子。その不敵な笑いは何かしら?」

「え? あ、ごめん。満足した笑いのつもりだったけど、これは不味いわ」

「何に満足したのか、聞かないことにするわ」

 ピンポーン。

「ほ? あに?」

「学校からのお知らせです。先日来連絡しておりました、学生の行方不明に関する波長に関する連絡です。

 先程、学生連絡会から情報が入りました。波長を打ち消す装置の試作機に当たる装置が複数台完成したとのことです。つきましては、当校でもその装置を使用した実証実験を行います。被験者につきましては、現在登校中の生徒の中から無作為に選ばせていただきます。お昼休みの間に決定します。以上です」

「え~。やだな」

「楓、当たっちゃえ」

「む。あんてこというかな」

「二人共、そんなことを言っていると当たるわよ」

「うっそぉ~」

「うげ。寝る」

「あらまぁ。ふて寝ねしてもねぇ」

「そうね。無作為なのだから、ふて寝しても意味はないわよ」

 登校している生徒数も全校生徒に比べれば少ないと言うことだけではなく、外出禁止令による管理の徹底からコンピューターに登録済みである。よって、結果はそれほどかからず、昼食時間が終わる頃には出た。

「……化学科五年生、藤本楓。物理科五年生、本藤薫。以上八名の生徒は、一三:三〇になりましたら実験棟、実験ラボ二〇二に集合して下さい」

「がっくし」

「本当に当たったじゃん」

「聖美が当たっちゃえ何て言うから」

「そうだったけ?」

「むぅ~」

「あと二〇分くらいね」

「あぁ、何でだろ。気が重くなってきた」

「そこまで気にする必要はないと思うのだけれど」

「えぇ。だって工学部的な実験と言えば、人体に何かあるじゃん」

「それは思い込みね。椅子に座らされるとか、シリンダーに入れられるとかを想像しているのね」

「え? 違うの」

「さぁ。どうかしら? 今回の事件を考えてみれば分かると思うのだけれど」

「う~ん」

「ほうほう」

 楓は元より、聖美も考え始めたようである。

 薫の言うところの装置については、空想上でのマッドサイエンティストが用いる方法である。地球上の歴史でも文明の初期の頃には似たようなことはあったようであるが、現代においては、まずありえない。

「そうね。行方不明のニュースでは、よく帰宅途中と言っていた筈よ」

「おぉ」

「と言うことは。屋外で使う物だ」

「そう言うことになるわね」

 等とどんな装置か思いを膨らませ、巡らせる四人である。

 そうこうしている内に時間が迫り、楓と薫は実験棟に向かったのである。

「届いてます装置は二人分です。ですので交代で実施します。まずは、藤本楓さんと本藤薫さんにお願いします」

「何と。一番……」

「光栄ね」

「どこが」

「外出禁止令も出ていますので、本日は学校の敷地内の屋外で実施します」

「げっ」

「楓。言葉遣いが悪いわよ」

「え~。だって屋外って、今、何度あると思う?」

「四〇度は優に超えているでしょうね」

「そうだよ。暑いんだよ」

「そうよ。仕方がないでしょ。それが実験なんですから」

「あぁ~」

 確かに楓の言うことはもっともである。歩くだけとは言え、炎天下で遮る物がない場所では気温以上の暑さがある。結構こたえるものである。

「これ?」

「そのようね」

「襷掛けに鞄をかけるみたいだけど、機械が一杯ついてる」

「それは仕方ないでしょうね、試作機と言うことだそうだから」

「で、歩くの?」

「藤本さん、本藤さん、準備は出来ましたか?」

「はい」

「データはラボで受けますが、念のため、講義棟の裏手と木立周辺に研究員と学生を配置して監視します」

「何でですか?」

「万が一の事態のためです」

「なんか、やだな」

「万が一、ですか」

「まぁ、なにぶん試作機ですから」

「あ、そちらのことですか」

「そうです。では、始めて下さい」

 そう切り出された楓と薫は、実験棟を背にして右方向、学校棟を左に見て、講義棟の方向に歩き始める。

 敷地の外れに位置する第二講義棟の裏手から第三講義棟の裏手へとぐるりと回るコースを使うようである。裏手という理由からなのであろうが、二~三メートル幅程で、薄暗い場所であるここを歩くことになったようである。しかし、既に楓は疲れた顔をしていた。

「楓。まだ始まったばかりよ」

「え~。だって暑いじゃん」

「それは分かるけれど、一回り位しゃんとしなさい」

「は~い」


     *


「きつい」

「まだ二日だけだけれど、炎天下だものね。私も堪えたわ」

「お昼食べようよ」

「無理」

「おじやなら良いかしら」

「学食にある訳ないじゃん」

 お昼時。食堂に赴いている四人。楓は既にテーブルに突っ伏しておりダウンしている様子。一方の薫も流石にかなりバテている様子なのが表情から伺える。

「で。何か結果ってあった?」

「ないない」

「骨折り損じゃん」

「聖美。それは言わないで」

「ふ~ん」

 関心があるようなないような、微妙な返答をする聖美。お昼ご飯を頬張り始める。

「れさ。まら。ん。続くの?」

「もう。口に物が入っているとき喋らないの」

「飲み込んだじゃん。ねぇ、どうなの?」

「聞いていないわね。メンバーを入れ替えるとか、聖美になるとか」

「な、何てこと言うかな」

「やってご覧よ。すんごい、つらいよ」

 聞きたがりな聖美に、薫と楓が口を封じるため、あることないことを言い出すのであった。

「うっ。ごめん」

 流石の聖美も、この攻めに観念したようである。

 不意に楓が上体を起こして……。

「ま。午後もあるんで、何か食べておかないと。脂っこくないモノってあったけ?」

「ちょっと楓。あ、危ない。しょうがないなぁ」

「聖美。食事の途中で席を立っちゃだめでしょ」

「んなこと言ったって、楓ふらふらじゃん。おっと」

 ふらつく楓を支えに向かう聖美である。なんだかんだ言っても友達と言うことのようである。普段は口喧嘩が絶えずとも、ピンチの時は助け合える。これも友情の一つであろう。


「よし」

「あら。ずいぶん気合いが入ってるわね」

「う~ん。ま、やるからにはね」

「そうではないでしょ。学校外に出られるからじゃないのかしら?」

「な、何、言ってるかなぁ、薫は。そんなことあるは、筈……」

「あるんでしょ」

「……あい」

 午後。再び実証実験が行われるのだが、どうやら、学校外で行うようである。しかし、発令中であるにもかかわらずよく許可が出たものである。

「それはそうと。よく学校から出られるよね」

「楓。説明は聞いていなかったのかしらね」

「えっ? そだっけ?」

「あぁ。学生連絡会に許可を取って、政府が特例として許可してくれましたと言っていたでしょうに」

 目を泳がせ、焦る表情の楓と、額に手をやってしまう薫がいたのである。

 現在は、まだ学生外出禁止令の発令中である。であるからして、通常は許可されることはない。しかし、既に学生連絡会からの調査要請で例外措置が執られている訳で、今回は、学生の行方不明事件の実証実験ともなれば、政府として許可を出さざる終えない、と言ったところであろう。

「前の組みが戻ってきましたので、藤本さん。本藤さん。交代です」

「はい。二時間経ったのね」

「おし!」

 名前を呼ばれた二人は、装備する装置の準備が行われている場所に向かう。そこでは、データの回収が終わり再設定が終わったところであった。

「これをどうぞ」

「はい」

 肩から襷に装置を掛けて準備が終わる。

「では、出発して下さい。後ろにこの二人が付き添いますので、何か不具合でもあれば言って下さい」

「了解」

「分かりました」

 元気よく出発する楓と薫だが、小一時間ほども歩き続けると……。

「ゴールは、まだ?」

「あと一時間程よ」

「……もう、だめ! 疲れた。足痛い!」

「まったく。子供じゃないのよ。だだをこねない」

「え~。ぶ~」

「そうは言っても、歩き通しも疲れるわね。休憩できるか聞いてみましょう。あの。申し訳ありませんが……」

 とうとうと言うべきか、遂にと言うべきか。ただただ歩くだけであるため、楓が爆発しかけた。まぁ、行く当てもなく、歩き続けるだけと言うのは意外につらいものである。

 見かねた薫がと言ってよいのか、後ろを歩く研究員に交渉を持ちかける。喫茶店か何かで休憩を取ってよいのかと。

「良かったわね。屋外であるなら良いそうよ」

「やったぁ。じゃぁ、この辺りだと。あ、和菓子喫茶だ! よぉし、がんばるぞぉ。でも、薫ってば。脅してなかった?」

「人聞きの悪い。脅してなどいません。融通が利かないのですか、と問いつめただけのこと」

「いや。それは脅してるんじゃ」

「楓!」

「わぁ~い」

 休憩が出来ることが決まるととたんに、元気になって走り出す楓。現金な、まもなく二〇歳となろうかという女性である。

 休憩も含めて、二時間ほど鵜野森CBにて歩き回ったが、例の波長はおろか異常と思われる波長は検知されなかった。

「検出されなかったね」

「そうね。そもそもいつでもどこでも、と言うわけではないものね」

「いつまで続くのかなぁ」

「それは分からないわね」

「ふぅ」

「飽きた、等と言わないわよね?」

 その言葉に、首が痛いのではないかという程に横に振る楓。相変わらず、薫の詰め寄りに弱い楓である。

「でも。どうなるんだろうね」


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