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エンドレス・キャンパス  作者: 木眞井啓明
第一部 息吹  第十章 共生
32/65

登場人物)

 岩間いわま 聖美さとみ

  西暦2108年08月13日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、子供っぽい所もあるが、二〇歳に何とか相応しい女性だが、楓に似た所もあり、類は友を呼ぶを表した友人の一人。


 山田やまだ 明子あきこ

  西暦2108年06月21日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、長女であるだけにしっかり者で世話好き。だが、おっとりしているわけではない。その辺は弟を持つが故なのかも知れない。


 藤本ふじもと かえで

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識・知能が低い訳ではない。


 本藤ほんどう かおり

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。


舞台)

 関甲越かんこうえつエリア

  関東甲信越を短縮したエリアの名称。東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。


 厚木あつぎBB

  神奈川県西部、厚木を中心とした企業地区。

  楓達が通う学校も含まれ、関甲越エリアにある企業ブロックの一つ。


組織・家など)

 ATSUBB専課学校あつびーびーせんかがっこう

  場所は、関甲越エリア、神奈川、厚木にある。基底学部として、化学、物理、自然の学科を持つ専課学校。

「う~。流石に家に帰れないから、何か体が痛い」

 楓が箸を止めて漏らしながら、背筋を伸ばしたり肩や首を捻ったりしている。コキコキと鳴りそうである。

「へぇ。楓は、お家のベッドが恋しいと」

「あんですって」

「あによぉ」

「二人共、何やってるのぉ。ご飯を食べるか喧嘩するかどっちかにしてよ」

 珍しく明子が制止に入ったのである。

「え~、だって聖美が」

「あによ。あたしの所為だって言うの」

「二人共……。もう、しょうがないわねぇ」

 制止に入ったものの、押し切れず押され気味の明子は少々困り始めたようである。

「一週間……」

「ほっ?」

「外出禁止令が出てから一週間経ったわね」

「そう言えばそうだね。……まぁ、学校でのお泊まりは、結構楽しいよね」

「……そうね。調査は大変だけれどもね」

「うっ。そ、それは、大変だけど」

 楓が引きつりながら答えていると……。

「やぁ~いやぁ~い。調査が目的なのだよ、楓君」

「う~。聖美ぃ」

 何をどう話しても、結局こうなるのが楓と聖美である。

「一番の問題は」と、明子が何を思ったのか、唐突に真顔で問題提示をする。

「一番の問題?」

「そう。一番の問題。……それは、お風呂よ!」

 明子が、女性として大事(だいじ)なところを付いてくる。確かに、今は学校にいるのだから、自宅にいる時ほど快適ではないかもしれない。

「そうだねぇ。この学校は体育会系じゃないから、シャワールームも少ないし」

「そうそう。男子と交代制だし、なんかね」

「あるだけ良しとしなさい。緊急事態なんですからね」

 楚々と食事を取りながらそう告げる薫は、相変わらず冷静である。

「まぁ。ほうなんらけろね」

「楓ぇ。食べながら喋らないでよね、もう」

 お昼を取りながら、あれやこれやと会話が弾む楓達であった。

「そう言えば昨日の夜、脱走者が出たって」

 どこから仕入れたのか、聖美が怪しさ一杯の情報を話し始めたのである。

 一週間も缶詰状態であり、若い学生にとっては息が詰まったあげく、と言えるのであろうが、その真偽について、果たしてどうなのであろうか。

「脱走とは、余り良い言葉ではないわね。それにしては、学校から注意喚起はないわね。どこからの情報かしら?」

「又聞きだからねぇ。そう言っているだけだったりするかも」

「聖美。こんな事態ですからね、情報は正確にして頂戴」

「う、うん。次からもっと詳しく聞いておく」

 結局、墓穴を掘ることになった聖美である。

 如何にして、信憑性の高い情報を入手するか、あるいは、自信で裏付けをとるかであるが、結局の所、情報量が多すぎる時代である。複数の情報を元に考える必要があると言うことのようである。

「……う~ん。そうは言ってもなぁ、今の状態だとかなり難しい気がする」

「そうねぇ。楓の言う通りかもしれないわよねぇ」

「……。それはそうと、化学の方はどうなっているのかしら?」

「どうって言われてもねぇ」

 確かに楓の言うとおり、“どう”と言われて、何を答えるべきかは悩むところである。

「そうねぇ……。今のところ巨大建造物の周囲に、未知の化学物質、原子や分子も発見できていないのよねぇ」

「そう。こちらも、どういった力学で浮いているのか解明できていないわね」

「そもそもで言えば、未知の物質を探そうとしているのに、今の地球のスキャン方法で見つかるか疑問だけどね」

「ほう」

「聖美」

 聖美がにやけると、間髪を入れずに睨む楓がいた。ちょうどそこに、「ピンポーン」と放送が入ったのである。

「お昼休みですが、学校から連絡があります」

「何かあったのかしら?」

「ニュースでは、何も言っていなかったと思うけれど」

「じゃぁ……」と、楓が何かを言おうとしたが……。

「学生連絡会から最新の情報が入りました。海外の科学系大学が調査していた、学生の行方不明事件についてです。事件当時に、周囲の波長に変調があったことが発見されました。確実性の検証も重ねられていますので、何らかしらの波長が関与している可能性があるとのことです。最終的な判断はまだ出ておりませんが、学生連絡会から情報が入りましたので皆さんにお知らせします」

 この放送が流れた後、歓声が上がったのは言うまでもない。これまで、未解決であった事件であるのだから尚更であり、この学校の生徒にも無関係とは言いきれないからでもある。

「やっと、結論が出そうなのね」

「そうね。でも、防げなければ意味はないわね」

 薫の水を差す発言に、楓と聖美が喜ぼうとするのを止めざる終えなかったのである。

「そうだけどさ、一歩前進、じゃだめなの?」

「それはそうね。もう一つも解決できればいいのだけれど……」

 薫はそう呟きながら、食堂の窓から鎮座し続ける巨大物体を見詰めていた。


     *


 歓喜に沸いた食堂を後にして木立に来ていた楓は、「るんるん」と、口ずさんでしまう程に上機嫌のようである。

――一つ解決しそうだし。こっちも何とかしないとね。

 そう思いながら緑が茂る木立の中へと入り、枯れが集中している場所まで来る。一本の木の前で立ち止まって幹に触れる。

――うっ。痛いんだね。ごめんね。今、解放してあげる。うっ、くぅ~。

 楓が心から謝罪するのを見計らったかのように、また、その触れた手からではない、何処からか来るのであろう木々の傷みを受け入れているようである。

「うわぁっ。くぅ~」

 放っておいた所為なのか元からなのか。楓が感じる痛みは激しく、相当の痛みを受け入れたようで、「もう、だめ」と呟きながら、痛みに耐えかねた楓は、ずるずると根元に座り込んでしまうのであった。

――でも、大丈夫。痛いんだけどね。楓ちゃんは耐えるよ。

 木に語りかけながらも、傍らに座り込んでいるのであった。


     *


「だめだ」

「うん。だめぇ~」

「あらま。二人共ダウンなの?」

 食堂のテーブルに突っ伏している二人。相当に疲れた顔をしているのは確かである。

 薫と明子も疲れた様子が窺える。だが、それを臆面も見せていないのは大人の対応と言える。だが、別の見方をすれば、楓と聖美の方が自然だと言ってもいいのかもしれない。

「まだ、一週間ちょっとしか経っていないのにもうなのね。あれほど先は長いといっておいたでしょうに」

「えっ? あぁ、違う違う。調査の元ネタがあれだから、結果が出ないのがだめなの」

 楓が言い訳のように喋ると「そう。それは悪かったわ。てっきり……」と薫は何故かそこで切った。故に、楓は身構えるようにして言葉を紡いだのである。

「てっきり? 何?」

「ないわよ」

「うっそだぁ~」

「それはそうと。聖美は何かないのかしら」

「えっ? え~と」

「そう。聖美の方がだめなのね。楓は、まだ音を上げていないというのに」

 思いきり煽っているのが分かる薫の言葉。果たして……。

「え~。でも、こっちだって調査詰まってるじゃん」

 意表をつく発言である。バテてはいるのであろうが、そこそこの言い分は持ち合わせていた訳で、三人の視線が集まり、「あに?」と、聖美が疑問を返しただけに止まったためか、代わりと言っていいのか、薫が口を開いたのである。

「……確かに。物理の方は、化学より厳しい調査なのは分かっているわ」

「どういう事?」

「力学などを説くには、事象を解析できないといけないのだけれど、それが困難な状態。つまり、情報が全くないに等しい状態である、と言う事よ」

「それで?」

「そうね。結論を言うと、調査と言っても仮説や推論からスタートしている状態だから、正解に辿り着けない。と言う事ね」

「そ。多分こうだろう、いや、こっちかも、だけしか出来なくて、現実的じゃないって事よ。はぁ」

 聖美はため息までつく始末で、かなりつらい状態のようである。

「なるほど」

 上体を起こして腕組みをした楓が何かを考えている。

「じゃぁ、化学の方と同じだね」

「ふ? あんでよ」

「だって、スキャン結果はあるけど、地上からの計測だから地球上の分子がうじゃうじゃ。除外するのも一苦労。ついでに言うと、スキャンだってどこまで役に立つのか疑問だし」

「疑問って、あに」

 楓が自信満々に語る内容に、聖美も興味津々である。

「そりゃぁ。あれだよ。え~と……。そうそう。原子や分子が自然に出している波長や放射線、スペクトルなんて言ったものがあるけれど、それは、あくまでも地球上で発見された物を判別するための仕組みだから、未発見の物に、どれだけ有効かは分かっていないんだよね」

「うんうん。もうちょっと分かりやすく言うと、未知の原子や分子の放出物が、現時点で分かっている方法を使って検出できなければ、発見は出来ないと言ってもいいでしょうね」

「おぉ~」

 楓の珍しい高説と明子の補足により、聖美も理解したようである。どちらも、まだ仮定や推論の上での調査と言うことになる訳で、行き詰まるのも分かろうというものである。

 “ピンポーン”突然、校内放送のチャイムが鳴ったのである。

「生徒の皆さんに連絡します。只今、学生連絡会から報告がありました。先日報告のあった波長ですが、自然界には存在しない物であることが分かりました。特定の範囲内でのみ検出されたとの情報もあります。詳しくは、報告書を所定の場所に保存しますので、各人で確認して下さい。以上です」

「おぉ」

「きたぁ~」

 楓と聖美が、学校からの放送内容で元気を取り戻したようである。

「でも、巨大建造物の方ではないのを理解しているのかしら?」

 薫が浮かれすぎないように釘を刺すのを忘れていない。

「あっ、そうだったっけか?」

「そう言えば、そうだったような」

「あははは」

 笑ってごまかす二人であった。

「本当にしょうのない子達ね。……何をニヤけているのかしら。明子」

 傍らで、ニヤニヤしている明子を視界に捉えたようで、薫としては、結果が分かっているような表情を見せつつも、確認するようである。

「だって、久し振りに二人の母親薫が見られたから、つい嬉しくて」

「はぁ。明子まで」

「いいじゃない。私の気分転換なんだから」

 そんなこんなで、楓達はひとまず実験棟に戻ることにした。だが、戻った楓と明子に待っていたモノがあった。

「ほっ?」

「えっ? 今何と」

「ですから、あなた方には、発見された波長が何から発生しているのかを調査して欲しいのです。それで、依頼情報を渡したいのですが?」

「あっ、はい。どうぞ」

「それでは、よろしく」

 研究員から情報を受け取るため、明子は自身の携帯端末を操作して受領する。情報を渡し終えた研究員はその場を離れていくのであった。

「二人だけなのかしらね」

「何か書いてない?」

「ふむ。人数は書いていないわね。ま、緊急の依頼だものね。必要なら回して貰いましょ」

「はぁ。まぁ、どっちにしても地道なんだよねぇ」


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