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エンドレス・キャンパス  作者: 木眞井啓明
第一部 息吹  第一章 嫌み
3/65

登場人物)

 藤本ふじもと かえで

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識・知能が低い訳ではない。


 本藤ほんどう かおり

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。


 岩間いわま 聖美さとみ

  西暦2108年08月13日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、子供っぽい所もあるが、二〇歳に何とか相応しい女性だが、楓に似た所もあり、類は友を呼ぶ、を表した友人の一人。


 山田やまだ 明子あきこ

  西暦2108年06月21日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、長女であるだけに、しっかり者で、世話好き。だが、おっとりしているわけではない。その辺は、弟を持つが故なのかも知れない。


舞台)

 関甲越エリア(かんこうえつえりあ)

  関東甲信越を短縮したエリアの名称。東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。


組織・家など)

 ATSUBB専課学校あつびーびーせんかがっこう

  場所は、関甲越エリア、神奈川、厚木にある。基底学部として、化学、物理学、自然の学科を持つ専課学校。

 どんより、とまではいってはいないものの、やや厚い雲に覆われた空。ともすれば、今にも泣き出しそうな空ではある。

 日差しが遮られている事から、前日より幾分か低い気温ではあるが……。

「日が出てない分、ましだけど。あちぃ」

「聖美。言葉遣いが悪いわよ」

「え~。いいじゃん」

 聖美は暑がりなのであろうが、言葉遣いに関しては、これまでの言動から推察するに、口癖になっているようである。

 確かに、日差しが雲に遮られて三〇度を下回ったとは言え、それほど下がってはいないのだ、暑い事に変わりはない。

「木立の中だから、まだましだよ」

 今はお昼の休憩時間に入っており、楓達四人は昼食前に木立の中で携帯座布団を広げ、腰を下ろして各々にくつろいでいるところのようである。

 携帯座布団とは、屋外で使用することを主な目的とし、携行する際の最小サイズはクレジットカード型で、他に数種類存在する。この小ささであるが故に持ち運びが楽に出来、広げると小さめの座布団サイズ(四〇センチメートル四方程)になる優れものである。また、広げた際に膨らんでクッション性を上げ、座り心地が良くなるようになっている。

「それはそうと、楓。もう大丈夫なのかしら?」

「ほっ?」

「昨日の痛みよ」

「おっと、そう言えばそうだった。

 えっと~。……昨日は心配させてごめん。そいで、ありがとう。でも、もう大丈夫だよ」

「そう。良かったわ」

「昨日は、じゃない。昨日もだって」

「あによ~」

 相変わらず楓の事を心配している薫である。楓の痛みが気がかりでしょうがないと言ったところであろうか。とは言え、原因すら特定できていないのだ。端が心配したところで何も出来ない事は、薫とて重々承知している筈である。

「あ~あ。楓ちゃんも出たかったよ」

 溜息とも受け取れる言葉を、心底残念そうに漏らす楓。一体、何に出たかったのか。

「怪しい雲行きなのに、楓も怪しい雲行きね」

「あによぉ~、薫。ひっど~い。楓ちゃんは、天気予報じゃないよ」

「ぷぷっ」

 楓の言葉に、吹きだした聖美。

 聖美ではなくとも、楓の言いようには吹き出したくもなろう。どの辺りが天気予報なのか……。

「聖美。そこ、笑うとこ?」

「え~。だって、怪しい雲行きが天気予報って。おかしいじゃん」

「ふえっ?」

 何がおかしいのかと、訝しんでいる楓。

 薫が、天候と楓の状態を結びつけたところから来ているのであろう。だが、受けを狙ったつもりではないのだろうが、もう少しセンスが欲しいところである。

「それで。何に出たかったのかしら?」

「へっ?」

 聖美と言い合っているところを、本題に引き戻された楓は、素っ頓狂な声を出した。

「何に出たかったのかよ」

 明子が、きちんと聞いていなかった楓にフォローを入れる。

 この辺り、気配りの効く明子ではあるのだが、その裏には、楓の答えが聞きたいという思惑が見え隠れしている。

「明子。あんがと。……え~と。入学式だよ」

「はぁ?」

「あによ、聖美」

 素っ頓狂な声を上げたのは聖美で、即座に反応したのは楓である。また良からぬことを言われる前に釘を刺した、と言ったところであろうか。

「そう」

「あっ、だって今日。四月七日は、新一年生の入学式だよ」

「えぇ、そうね」

「祝ってあげないと」

「なるほど……。だけれども、その役割は新二年生と新四年生が受け持っているのよ。楓も私達も、去年がその年だった筈よね」

「うっ」

 専課学校での入学式には、新二年生と新四年生が在校生を代表して、新一年生を迎えるのが慣例となっている。よって、それ以外の学年の生徒は通常通りの講義を受ける事になっていて、お休みにはならないのである。

「はは~ん。さては楓は、抗議サボりたいんだ」

「……あ、あんてこと言うかな聖美は。あ、あたしは、サボりたい訳じゃ……」

「そうなのね」

「ひっ」

 楓は、言葉を最後まで言わせてもらえず、更に、薫の鋭い視線を浴びた。

「うっ。えっと。そ、それだけじゃなくて、新一年生も見たかったし。……あっ」

 結局、全てではないにせよ、それも口実にしたかった事が判明した訳である。

「やはり、そうだったのね……」

「な~んだ、楓も一緒じゃん。……あっ」

 二人揃って言わなくても良い事を口走ってしまう。いつもの事と言えばそれまでであるが、やはりこの二人、上級生の自覚が足りていないのかもしれない。

「あ、え~と、ね。講義の時間、まだかなぁ」

「そ、そだね」

「お昼休みは始まったばかりよ。お昼もまだ食べてないのに。二人共、言い訳が大変ね」

 涼しい顔で楓と聖美、それに薫の会話を楽しんでいる明子であった。

「ちょっと、明子。ずっこいよ」

「そうね。これでは、私が二人をいじめているように見られてしまうわよ」

「そうだそうだ! 明子が悪い」

 どさくさに紛れて、聖美がもの凄い事を口走った。

 それを聞き逃すほど明子は甘くなく……。

「ちょっと、聖美。今なんて言ったの?」

「えっ? あははは」

 笑ってがまかす聖美だが……。

「聖美のその曲がった性根、叩き直さないといけないわね」

「ちょ、ちょっと。明子、ごめん。悪かったって、ついうっかり……」

 びくりと反応した聖美は、恐る恐る別の方に視線を巡らせると……。

「ひぃ~」

「薫ぃ。やり過ぎだってばぁ。明子も」

 いつにない明子の凄みに、薫の刺すような鋭い視線、その双方の攻めにより震えが止まらなくなっている聖美であった。

「あら。聖美ぃ、ごめんねぇ。やり過ぎちゃったわ」

「しょうがないわね。今日の所はこの辺にしておきましょう」

 この状況にも関わらず、相変わらず厳しい薫である。

「聖美。聖美。返ってきてよ」

 お灸が効きすぎた聖美は、薫の視線が治まっても尚、青ざめた顔をして両手で膝を抱えたまま震えていた。

「そろそろ、学生会館に行くわよ」

「え~。聖美、置いてっちゃうの」

「まだ、早くない?」

 等などと会話を始めた三人。

「今日の限定メニュー、食べるんでしょ、楓」

「そ、そだった。食べるよ。聖美もだよね」

 ガサッ。っと音を立てて何かが動いた。

「食べる!」

「聖美が、復活した」

「ふっ」

「あっ、薫ぃ」

 薫の的確な言葉によって、震え、怯えていた聖美が立ち上がっていた。見事に復活を果たしたのである。

「行こう!」

「あっ、聖美。待ってよぉ」

 聖美の号令で、座ったままでいた三人も立ち上がって歩き出した。

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