表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンドレス・キャンパス  作者: 木眞井啓明
第一部 息吹  第七章 混乱
24/65

登場人物)

 岩間いわま 聖美さとみ

  西暦2108年08月13日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、子供っぽい所もあるが、二〇歳に何とか相応しい女性だが、楓に似た所もあり、類は友を呼ぶを表した友人の一人。


 山田やまだ 明子あきこ

  西暦2108年06月21日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、長女であるだけにしっかり者で世話好き。だが、おっとりしているわけではない。その辺は弟を持つが故なのかも知れない。

 藤本ふじもと かえで

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識・知能が低い訳ではない。


 本藤ほんどう かおり

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。


舞台)

 関甲越かんこうえつエリア

  関東甲信越を短縮したエリアの名称。東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。

 厚木あつぎBB

  神奈川県西部、厚木を中心とした企業地区。

  楓達が通う学校も含まれ、関甲越エリアにある企業ブロックの一つ。


組織・家など)

 ATSUBB専課学校あつびーびーせんかがっこう

  場所は、関甲越エリア、神奈川、厚木にある。基底学部として、化学、物理、自然の学科を持つ専課学校。


メカニカル)

 巨大な物体

  突如地球上空に出現した物体。

  出現の理由はおろか、地球に対して何の影響も与えていない訳すらわからない。

「四日目だね」

「だからあに」

「え~と、休講長いな、と」

 悲しいとも、嬉しいともとれない表情をしながら、そう口にする楓である。

「この状況だと仕方がないわね」

「薫、冷静すぎ」

「嘆き悲しんだり、嬉しがってもしようがないからよ」

「うわぁ。薫ってば冷静ぃ」

「何か?」

 薫の口調と表情から、思わず首を横に振る楓と釣られて首を振っている聖美がいた。

 ここは、楓達が通う専課学校のコンパートメント。既に四日が経っているが、事態にこれと言った進展はなかった。いや、上空の建造物の正体すら分かっていないのが実情である。

 そんな事態の中で、相も変わらず学校に出てきて調査を続けている楓達である。

「うふふ」

「……あ、あにが可笑しいのよ、明子」

「ごめんねぇ。だって、こんな状況でも、みんないつも通りだから……。なんかいいかなぁと」

「う~」

「そのようね」

「あ、あのさぁ」

「何かしら?」

「生徒、少ないね」

「そのようね」

「はいっ? 楓は何言ってんの?」

「……楓が言いたいのは、こんな状況なのに生徒が少ない、と言う事じゃないかしら?」

 目を見開いて“どうして”と言わんばかりの表情をする聖美が薫を見る。しかし、思い直したのであろうか……。

「ない、ない。そこまでの意味なんてないんじゃ……」

「聖美!」

「あ、あい?」

「酷いじゃない! 何で、楓ちゃんがそんなこと考えちゃいけないの!」

「……え、え~と。そう言う……」

「じゃぁ、どう言う意味よ」

 頬を膨らませて聖美に詰め寄る楓に対し、幾分怯んでいる様子の聖美であった。

「……ごめん」

「うん、分かればそれでよし!」

「……で、何でそんなに気合いが入ってんの?」

「だってぇ、そうでもしないと怖いじゃん」

「あ、な~る」

「それとね。昨日までだって、そこそこ解析できてた訳だし」

「うむ、なるほど。それじゃぁ、楓君。続きを始めよっか」

「おぉ!」

 楓と聖美はここ数日、必要以上とも思える熱血ぶりを発揮して解析を続けていた。その理由の一端が楓から吐露された。その一方で、聖美の方も同様、あるいは楓に負けられないと言う思いもあるように感じられる。

「……楓、そう言えば、上埜教授に許可は取ってあるの?」

「あにが?」

「だから、いろいろとバーチャルで解析機能を使ってるでしょ」

「あ、それは……」

「取ってないのね」

「ち、違う違う。バーチャルで解析しますって、言ってある」

「……やっぱり……。だとすると、このあたりの解析機能は使えないわよ。また忘れたのね」

「へっ? そだったけ?」

「全く……。良いわ、許可申請を今から出しておくから」

「明子ぉ、助かるぅ」

「本当に、しょうがないわねぇ」

 悪びれもせずにこやかに返す楓に対して、心底しょうがないこと言いたげな明子の表情であった。

 許可申請を出すことより解析を優先でもしてしまったのか、あるいは夢中になりすぎたと言ったところであろう。いずれにしろ、楓らしいと言えばそうなのであろう。

「やぁい、怒られてるぅ」

「あんですって」

「聖美。楓に茶々を入れていて良いのかしら?」

「うっ。わ、分かってるよ」

「あらま。うふふ」

「明子、笑ってるば……あいじゃ、ないのはあたし?」

「どうやらそのようね。楓は張り切ってるわよ」

「うっ……。ようし!」

 いつも通りの四人は、バーチャルでの解析を続ける一方、薫と明子は、あきれながらも軌道修正していき、楓と聖美をフォローしているようである。

 付き合わされている、と言った印象は、薫と明子の表情からも見受けられない。ある意味、二人と一緒にいることで、恐怖心が和らいでいるのかしれない。何せ、何をしでかすか分からない二人であることは否めないからである。だからといって、気楽なものではないのもまた事実であり、今回の事象に対する解析に、順調というものがあるのか甚だ疑問だからである。

 そんなこんながありつつも、視点を変えつつバーチャルで出来る解析を続ける四人であった。と、突然、バーチャル内に、赤い点滅が広がった。

「何が起こったの?」

「外を見てくるわ」

 色めき立つ薫と明子が慌てだした。

「あ、薫ぃ。バーチャル中は無理だよぉ」

「楓。いい加減に覚えないさい、緊急コマンドがあるでしょ。……緊急開放」

 薫は、一カ所だけバーチャルになっていないパネル状の物に掌を乗せながら喋ると「本藤薫。緊急コマンド承諾」と流暢なマシンボイスが返ってくる。

「おぉ、そうだった」

「楓は緊急時に助かんないね」

「あんでよ」

「外で、警報は鳴っていないわね」

 開いたドアから顔を覗かせて、辺りを見まわしながら呟く薫。

「おぉ、そうだ。ねぇ、みんなこれ見て」

「何よ、今はき……。こ、これって。薫!」

「何かしら?」

 言葉を飲み込んだ明子が、呼び戻された薫がモニター上に見た物、それは……。”臨時ニュース”の文字だった。

「これは……。どういう事かしら?」

「えっ? 臨時ニュースだよ、薫。もう」

「いいえ。警報と臨時ニュース、どう繋がっているのかと聞いているのよ」

「へっ? あぁ。え~と、今は臨時ニュースも必要だよね。だから警報鳴るようにしておいた。よく見逃すからねぇ。あれ? 言ってなかったっけ?」

「聞いていないわね」

「薫……。顔が怖い」

「誰のせいかしら?」

「うぇ~ん。言い忘れたのは謝るからぁ」

「本当に……」

「……異常事態じゃなくて良かったわね。それで、どんな臨時ニュース?」

「その前に、警報を切りなさい」

「あい」

「……え~と、一次調査は失敗した模様、だって」

「し、失敗ってどういう事!」

「そ、そんな」

「何故……。その理由が知りたいわね」

 聖美、明子、薫。三者三様の反応を見せるが、何の反応も見せない楓……。

「か、楓。失敗したんだよ?」

「大丈夫」

「あにが?」

「だって、まだ一次だし」

 そう呟きながら、楓は中断していた解析を再開する。


     *


「全く。何で食堂もお休みなの!」

「仕方がないでしょうね。休講なのだから」

「学校は開いてるんだから、開いてて欲しい」

「食堂自体は開いてるよ?」

「そう言うことを言ってるんじゃない!」

「分かってるよぉ。でも、良いじゃん、たまにはお弁当も」

「たまにはってねぇ。休講してからずっとじゃん」

 学校内にある木立の境目にほど近い場所。そして今はお昼時である。各人が持参したお弁当を食べている。が、虫の居所でも悪いのであろうか、いつもより愚痴に怒りがこもっているようにも見える聖美である。それでも、お弁当をしっかりと食べているあたりは、聖美と言ったところであろうか。

「にしても、やっぱ暑いや」

「そうよねぇ。三五度なんてとうに超えてる訳だし、四〇度と言ってもいい気温だものね」

「それは言っちゃだめだって」

「気温のこと言ったのは聖美でしょ?」

「あう~」

「……もっと解析できたらなぁ」

 独り言のように呟く楓の表情には、呟いたその思いが滲み出ていた。

「確かに……。でも、実験棟が使えないのだからしようがないわね」

「そうねぇ……。正式に解析許可は出ていないものね」

「う~ん。確かに、バーチャルじゃぁそろそろ限界っぽいし」

「……あれに直接さわれたら」

「楓……。あんな上空にある物どうやって触るの」

「……だよねぇ」

「ふふ」

「薫、あに笑ってるの」

「別に……」

 楓が、何気なく視線を向けた木立の境目。そこからもかすかに見える巨大建造物があった。楓に釣られたのか、薫も同じ方向を見詰めている。

「静寂だから聞こえる、この音。移動している音なのかしら?」

「そんなこと、物理学的にあり得ないよ。ただでさえ馬鹿でっかいみたいだし、地上から見えるって、どうなってんの!」

「……どんなにあり得なくても、現実に、今起こってる。必ず、何か理由が、原因がある筈だよ」

 楓のいつにない冷静な言葉に、三人は返す言葉が見つからなかったのか、いや、その通りであると皆が思っているからであろう、何も発することはなかった。

 どんな理由があるのか。

 巨大建造物は、まだ、上空に鎮座し続けている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ