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エンドレス・キャンパス  作者: 木眞井啓明
第一部 息吹  第六章 出現
20/65

登場人物)

 藤本ふじもと かえで

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識・知能が低い訳ではない。


 楓の父

  父親としては、穏やかさが目に付く。がしかし、その中に厳しさもかいま見える。

  この時代の標準に入る身長で、体重もそれなりにあるため、ひょろっとした印象は薄い。


 楓の母

  性格は、優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。

  食事、食べ物の好き嫌いはないが、ケーキなどの甘い物が好物。


 本藤ほんどう かおり

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。


舞台)

 関甲越かんこうえつエリア

  関東甲信越を短縮したエリアの名称。東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。


 百合ゆりおかLB

  神奈川県東部、百合ヶ丘を中心にした居住地区。東京都の境も含まれる。

  楓と薫りの家が含まれ、関甲越エリアにある居住ブロックの一つ。


組織・家など)

 藤本家ふじもとけ

  楓と両親が住む家。

  この時代、一戸建ては存在しておらず、全てが集合住宅となっている。

  藤本家は、関甲越エリア、神奈川、向ヶ丘にある、第十住宅と呼ばれる、2階屋タイプ-21階建ての中層集合住宅、14階のW07号室に住んでいる。


 ARCCアーク

  100年ほど前に設立されたアジア圏の警察部門。

  Asia Range Criminal Consultant(アジア圏捜査顧問)と呼ばれる警察部門の略名。

  現在では、規模が縮小され1~5までと、特殊部隊が残るのみである。


メカニカル)

 iRoboあいろぼ

  各家庭には、情報端末ロボットが置かれる。

  AIによって学習型会話が可能、家族管理、家族分のiHandを管理等の機能がある。


 グランド・バス

  主に、各集合住宅を起点とし、学校、ショッピング街、ビジネス街、レクレーション施設などを繋ぐ、公共機関。

  路線バス、近郊電車の置き換えられたもので、短距離、中距離の利用を目的とした移動手段。三両以上の連結タイプ。

  燃料は電気で、燃料電池を使用、駆動は独立リニアホイールモーターで、ホイールには、ゴムタイヤを履く。

 月は変わり、六月も既に十日が過ぎていた。今日は抜けるような青空で、日差しが痛いほどに眩しいその早朝。楓は、久し振りに家族揃っての団らんな朝食を取っていた。

「お父さん。今日は早出じゃないんだ」

 食卓にやってきた楓が“今日はまだいたんだ”と言った表情で父親に質問を投げかけたのである。

 ここしばらくは、会っていなかったようである。

「そうだ、今日は一般的な出勤だよ」

「一般的?」

「会社勤めの人たちが出勤する時刻、九:〇〇だからね」

「ふ~ん」

「何だ? お父さんがいない方が良かったのか?」

「そ、そんなことある訳ないじゃない。何言ってんだか」

「ふふふふ。楓は、お父さんがいないと寂しいのよね」

 父と娘の久方ぶりの会話を微笑ましく思いながら、少々からかうような笑みを浮かべ、話している楓の母親がそこにいた。

「な、なんて事言うかな、お、お母さんは」

 慌てふためいている楓と、それを見守っている両親を見ているとなんとも和やかである。

「そんなに寂しいか。はははは」

「ふふふふ」

「もう、知らない!」

 結局、膨れてしまう楓であったが、朝のせわしない食卓にあって、なんとも微笑ましい光景であろうか。

 お喋りが一段落した頃……。

「次のニュースです。

 日本政府より芸術学部に通う学生に、自宅からの外出禁止が発令されました。政府の発表によりますと、この所、芸術学部に通う学生の行方不明者が、増加傾向にあるためだと言うことです」

 神隠し程度ですまされないほどに頻発するようになった行方不明に対して、政府がやっと重い腰を上げたということのようである。只、救いがあるとすれば、行方不明となっても一週間ほどで全員が無事に戻ってきている事であろう。とは言え、政府としては、行方不明になる事が問題であると言う事の表れなのであろう。

「あら、凄いことになってきたわね」

「人事のように聞こえるね」

「あら、ごめんなさい。でも、楓は化学だから大丈夫ね」

「ん? まぁ、基底学部だけど。でも、ちょっとだけいるんでしょ?」

「そうだな。楓も気を付けないとな」

「どうやってよぉ」

「あ、そうか。原因が分かっていないんだったな。こりゃいかん」

「……でも、いいな」

「今のは聞き捨てなりませんね。楓は、単に学校をさぼりたいだけなのでしょ」

 リビングで待機している筈のiRoboが、いきなり起動して茶々を入れてきたのである。

「あぁ! あんてこと言うかな、iRoboは~」

「楓、食事中でしょ。行儀が悪いわよ」

「えぇ、だってiRoboがぁ」

「仲が良いのだな」

「えぇ~。そんなことないよぉ。iRoboってば、口を開くと小言ばっかりだし」

「それも聞き捨てなりませんね。それは、楓がちゃんとしていないからでしょう」

 iRoboが、楓の言葉を聞き逃さずに反論すると、すかさず楓が反撃に出ることになる。それを再びiRoboがやり返している。詰まるところ、仲のいい姉弟とも友人とも言えるのかもしれない。

「ほらまたぁ」

「はいはい。いつまでお茶碗とお箸持ったまま立ってるの、早く食べなさい」

「はぁ~い」

「……警護に就かせると発表がありました」

 会話の合間にこぼれ聞こえる、ニュースの言葉が気になった父が、「静かに」と楓と母親の会話を遮ったのである。母親は気になる事があるのだろうと涼しい顔で口を噤んだが、楓はまだ何か言いたそうにしながらも父親の言う事を聞いて黙ったようである。

「繰り返します。地連のARCCによりますと、主に芸術学部の学生が住む高層住宅を中心として、警護に就かせると発表がありました。尚、開始は本日からで、既に配備が始まっている高層住宅もあるとのことです」

「う~む。……少々大げさすぎるように思うな」

「あら大変」

「……」

 母は驚きの言葉を発するが、楓は愕然として言葉を失ってしまったようである。

「しかしなぁ……。そこまでに事態が悪いのか? ここまでする必要があるのか?」

「楓は大丈夫かしら」

 訝しみながら父親が疑問を口にし、母親の方は心配そうな表情をしていたのである。


     *


 けたたましいサイレントが響き渡る地階に、ARCCの車両が隊列を組んで整然と入ってきた。その光景を、停車場で漠然と眺める人々がおり、その中に楓もいた。

――こりゃぁ、本当に凄いかも。お父さんが言った通り、やり過ぎじゃない?

 早々にARCCを目の当たりにして、楓にも事態の深刻さが実感もって感じられたようである。それと、ARCCが雪崩れ込んできたことによる、慌ただしさに目を奪われてしまう人々と楓であった。

――ん? ちょっと、痛い……かな? そう言えば、緑地の木々は大丈夫……かな。……う……そ。痛みが……。

 痛みを覚えた楓は、増す痛みに顔を歪めながらその場に蹲ってしまった。

「あの……。大丈夫?」

「は、はい。だ、大丈夫です」

「……どうされました? お加減でも悪いのですか?」

 直ぐ側にいた女性が楓を気遣っていると、その様子が移動中のARCCの目にも止まったようで、楓の元まで駆けつけてきた。

――……反応良すぎだよぉ。

「急ぎ、救急の手配を……」

「だ、大丈夫ですから」

「とても大丈夫には見えません。失礼します」

 そう言ったARCCは、楓を脇に抱えてグランド・バスを待つ列から連れ出そうとする。

「……あ、あの。ホントに……大丈夫……ですから」

 まだ痛みがあるのであろう、抱えられている状態を振り払うことも出来ない楓は、唯々訴え続けるしかいようである。

 軽いと考えていた楓であるが、どうやらそうも言っていられない程に強くなっているようで、時折見せる表情からもそれが伺えた。それ故、ARCCも強硬手段に出たのかもしれない。

「だ、大丈夫……です。学校へ……行かないと……」

 抱えているARCCから体を捻ってやっと逃れた楓は、停車場に戻ろうとしていた。ARCCの方も意地にでもなっているのか、楓を捕まえようと必死になっているようである。

 そこへ、グランド・バスが到着する。楓とARCCの些細な揉め事は、到着したばかりのグランド・バス車内からも見ている人がいた。

「楓!」

 大声を上げて降りてくる女性がいた。

「お知り合いの方ですか?」

「友人です」

「そうですか。では、説得にご協力をお願いします」

「説得……ですか?」

 楓の状態から大方の予想がついていたのであろう女性が、何を説得するのか訝しんだようである。

「はい、そうです。停車場で急に蹲られたものですから、体調を崩されたと判断しました。ですが、救急を呼ぶことに同意されなかったため、緊急措置として場所を移動しようとしたのですが……」

「いつものことですから、問題はありません」

「し、しかし、これは尋常ではないと考えますが」

 ARCCが楓のことを知らずとも、現状において心配しているのは事実である。しかしその女性にしてみれば楓の痛みを知っており、それ故に痛むことは問題であったとしても、日常的に起きることであるため問題と見なしていないのも事実である。互いの理解している度合いの違いと言ってしまえばそれまでであるが、双方ともに、楓を心配している事に変わりはないのである。

「病院に行くことに意味はありません。……楓、学校に行けるわね?」

「……うん。大丈夫……だよ、薫」

 痛みをこらえている表情ではあるが、楓ははっきりと答える。

「し、しかし……」

 二人のやり取りに、ARCCが言いよどんでしまうのは致し方がないと言える。更に、薫の口調に怯み躊躇していると、徐に薫が楓の左腕に付けている携帯端末の操作を始めた。

「何をされるのですか。いくら友人とは言え、他人の端末を操作するのは……」

 薫が操作した携帯端末に表示された内容を見たARCCは、「……分かりました」と、何とも言いがたい表情を浮かべつつ、薫が示した楓の状態を理解したのか、捕まえた楓の腕を放さざる終えなかったようである。

 薫は楓を引き取り、止まったままのグランド・バスに乗り込んでいった。

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