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エンドレス・キャンパス  作者: 木眞井啓明
第一部 息吹  第五章 解放
18/65

登場人物)

 藤本ふじもと かえで

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識・知能が低い訳ではない。


 本藤ほんどう かおり

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。


 枯下こもと 貴人たかと

  西暦2104年11月20日生まれ/専課学校、化学科の研究員

  枯下家の血筋の所為か、物事、事象を理論的に考える事が多く、事象に対しては、原因が必ずある、そこから考える。

  故に、冷徹、と言われるほど冷たい態度を取る。


 楓の母

  性格は、優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。

  食事、食べ物の好き嫌いはないが、ケーキなどの甘い物が好物。


舞台)

 関甲越かんこうえつエリア

  関東甲信越を短縮したエリアの名称。東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。


 百合ヶゆりがおかLB

  神奈川県東部、百合ヶ丘を中心にした居住地区。東京都の境も含まれる。

  楓と薫りの家が含まれ、関甲越エリアにある居住ブロックの一つ。


組織・家など)

 藤本家ふじもとけ

  楓と両親が住む家。

  この時代、一戸建ては存在しておらず、全てが集合住宅となっている。

  藤本家は、関甲越エリア、神奈川、向ヶ丘にある、第十住宅と呼ばれる、2階屋タイプ-21階建ての中層集合住宅、14階のW07号室に住んでいる。


 ARCCアーク

  100年ほど前に設立されたアジア圏の警察部門。

  Asia Range Criminal Consultant(アジア圏捜査顧問)と呼ばれる警察部門の略名。

  現在では、規模が縮小され1~5までと、特殊部隊が残るのみである。


メカニカル)

 iRoboあいろぼ

  各家庭には、情報端末ロボットが置かれる。

  AIによって学習型会話が可能、家族管理、家族分のiHandを管理等の機能がある。

 眼下に広がる緑と茶のコントラスト。だが、剥き出しになった大地の茶色ではない。その全ての色は、緑地公園に広がる木々が織りなしているものである。その景色を、高層住宅の一室から眺めている人物がいた。

「ふぅ~。ここの木々達もだいぶ枯れてるよねぇ」

 楓である。

――痛みが減ったのは良いんだけど……。木々達の枯れが増えてるよねぇ。そんでもって、犬や猫や鳥たちもおかしくなってるしぃ。

「はぁ~。犬達だけじゃないんだろうな。もっと多くの動物たちも、かな……」

「あっ……」

 楓が眺めている間も、緑が減り茶が増え続けていた。

 木々の急速な枯れは、その範囲を確実に広げている。しかし、人類はその原因すら掴めていないのだ、その勢いを止めることなど当然出来ない相談であった。

「む~。やっぱ、楓ちゃんの痛み、なのかな……」

 そう考えざる終えない状況ではあるが、楓としてはそうであって欲しくはない。しかし、そうではないかと考えている人物がいた。薫である。

――薫はそう思ってるのかなぁ、やっぱ。でも……。

 それについて何か言って欲しいと思いつつも、何も言って欲しくないとも思っているのも楓であり、微妙な精神状態に追い込まれつつある。

「……イタッ!」

――忘れた頃に、って。ちょっと、おなかが痛い。う~。変な物は食べてない……筈、だからぁ。

 不意に襲った痛みに、楓は腹部を押さえて蹲ってしまい、しばし耐えることとなった。

「ふぅ。全く、何でこうも痛くなるかなぁ。あっ!」

――……む~。やっぱ、分かんないか。

 不意に思い立って、窓の外、眼下に広がる緑地公園を見入ったものの高所からである、そうおいそれと違いなど見つかる筈もなかった。

「はぁ~」

――って、溜め息ばっかだ。暇だぁ。痛みが減ったら、何でか時間が経つのが遅い……。

「うにゃぁ~」

 勢いよくベッドに仰向けに倒れ込む楓は、何かに気をとられることが少なくなり、時間が出来たようである。しかし、もう何年もそんな時間がなかった訳で、することが何もなかったことに、今更ながら気付かされたようである。

――そうは言ってもなぁ……。痛みが完全になくなった訳じゃないしぃ。

 それ故に、何かを集中してやろうとも思えず、結果として暇をもてあますことになっている訳である。

――痛みが減ったことはうれしいんだけどね。でも……。

 嬉しいのだが、何故か手放しでは喜べない。それは、医者もさじを投げかけている、原因不明とされたその痛みからは完全に解放されていないという事実がある。それに、この前に出会った飼い犬の件とその顛末のこともあり、枯れと萌が痛みに関係しているのではないかという思いが涌いているからであろう。

 そして、もう一つ……。

――異常行動で排除された犬や猫って、どうなるんだろうか。ペット達だけじゃない、野良であっても責任はないと思うんだけど……。

「ま、鳩やカラスは野良って言わないか……。それに、木々達だって、いきなり枯れたくはないんだろうな……」

 楓の愛おしむ心が、これらのことによって苛まれ続けているようである。

 ペットや木々だけに留まらず、人に対しても無闇に悪いと決めつけない考え方を持っている楓である。“きっと何か理由があるんだよ”楓が、貴人に突っかかられた時に言いかけた言葉である。人が行動するにはそれなりの理由がある。楓は、理屈ではなくそう思っているようである。そうは言っても、その理由を考えているかと言えば、そうとは言えないところがある。それが楓なのかもしれない。

ARCCアーク……か。お巡りさん達だって、そんな事したくないだろうな、きっと……」

――う~。

「だぁ~! 今日は臨時休校だって言うのに……。暇だ……」

 鬱積した諸々を吐き出すかのように声を上げてしまう楓であった。

 ペットの異常行動が、昨日辺りから増加傾向を示したことで、グランド・バスに一時的な麻痺が増加した。その結果、高層住宅に近い場所にある基課学校では、生徒の登下校の安全のため休校となり、専課学校では、通学中の事故に巻き込まれるおそれが高いことから休校となった。

「はぁ~」

 ベッドの上に膝を抱えて座り込みながら……。

――こんな思いするのも、やだな……。

「ニュース」

「どのジャンルのニュースをご覧になりますか?」

 各家庭にいるiRoboに備わる自動返答機能の機械的と言える言葉が返ってきた。そのiRoboを核とした住宅システムが、楓の指示を抽象的と判断したために再度指示を仰いだが……。

「ニュース」

「未選択と判断し、ニュース全般をダイジェストにして流します」

 システムは、家庭毎に抽象的であると判断した場合の行動を設定している。藤本家では、抽象的な指示を二回出した場合、初期設定である“ニュース全般のダイジェスト”を選択したと認識させていると言うことである。

 楓が膝を抱え込んでいるベッド、その向かいの壁に貼られたペーパー液晶にニュースが映し出される。

「最新の交通情報をお伝えします。

 グランド・バス公道では、依然LB、BB間での本数を半減せざる終えない状況が続いております。LB、CB間では、ほぼ運行を取り止めております。また、一般公道では、閉鎖区間が変わりやすくなっておりますので、目的地に行くことが困難であることも予想されます。事前にナビを行うことをおすすめします」

――あぁ。今日は駄目だね。CBに行けないんじゃ、お家でごろごろしてるしかないじゃん。

「動物の異常行動の最新情報です。

 交通情報にもありました通り、未だ異常行動が続いており、影響はまだ続きそうです。専門家によりますと、この異常行動の原因は分かっていないとのことです」

――うぅ~。やだなぁ、別のに……。

「木々の枯れの最新情報です」

「うっ」

 楓が指示を出す前に、もう一つの出来事である枯れと萌えのニュースが流れる。

 見たくない、聞きたくない、考えたくない。その思いから動きが止まる楓をよそに、ニュースは先を続ける。

「木々の枯れと萌えは、現在、枯れがかなり先行しており日本各所に広がっています。ですが、萌えについては、殆ど発生していない状況で、日本中の木々が枯れるのは時間の問題であるとの指摘もあります」

――やだ……。やだ……。聞きたくない!

 楓は、目を閉じ、耳を塞いでニュースを遮断しようとする。それでも耳を塞ぐ手の隙間から、動物の異常行動、木々の枯れを扱うキャスターの声が微かに聞こえてくる。

 楓は、罪の意識に苛まれていた。この全ての現象は自分のせいなのか。痛みは何かの罰ではないのか。痛みを嫌がったからなのかもしれない。いろいろな考えが思い浮かんでは消え、それは、楓の心を圧していく……。

――……何でよ。何で、こんなに言われなきゃいけないのぉ。

 ただの情報である筈が、いつの間にか攻められているように聞こえ、目を閉じ続け、耳を塞ぎ続ける楓は心が折れそうにもなっていた。

――……いや……だ。……もう、いやぁ!

「……テレビオフ! うぅ」

 紡ぎ出せた言葉が怒鳴り声となってしまった楓は、嗚咽を漏らし膝を抱えてベッドに座ったままである。

「楓!」

 壊れるのではないかと言うほどに、開け放たれた楓の部屋のドア。

「……」

 どうやら、楓のテレビを消す声は、階下にも届く程に大きかったようである。

「楓?」

「……。お母さん……。うぅぅ」

 顔を上げる楓の目の前には、心配な顔をした母親がいた。

「楓……」

 楓の傍らに腰を下ろし楓を抱きしめる母は、背中を撫でて落ち着かせようとしている。楓の嗚咽は、次第に小さくなっていった。

 しばらくすると、背中を撫でていた母の手は頭に移っていった。それはまるで、幼子をあやすような仕草である。

「……あ、あのね」

 落ち着きを取り戻したのか、楓が何かを語ろうとする。

「……良いわよ。何も言わなくて……」

「……うん」

 やはり、親にとっては、いくつになろうとも子供は子供なのであろう。泣いていた理由など、親にとっては些細なことなのかもしれない。

 語ることによって気分が軽くなることもあるが、親は子供の全てを受け入れることが出来る唯一の存在なのである。正しい正しくない、と言う論理を超えているのである。

 何も語らず、何も聞かず。楓は、ただ母親に抱かれている。それだけで気持ちが安らいでいくようであった。

 楓の葛藤の一方で、木々の急速な枯れとそれに伴っていた萌えの衰え。更に、動物たちの異常な行動は、日本中の至る所で起こり蔓延していた。

 それは、日本だけで起こっていることではなかった……。

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