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エンドレス・キャンパス  作者: 木眞井啓明
第一部 息吹  第五章 解放
16/65

登場人物)

 藤本ふじもと かえで

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識・知能が低い訳ではない。


 本藤ほんどう かおり

  西暦2108年12月25日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。


 岩間いわま 聖美さとみ

  西暦2108年08月13日生まれ/専課学校、基底学部物理科5年生

  性格は、子供っぽい所もあるが、二〇歳に何とか相応しい女性だが、楓に似た所もあり、類は友を呼ぶを表した友人の一人。


 山田やまだ 明子あきこ

  西暦2108年06月21日生まれ/専課学校、基底学部化学科5年生

  性格は、長女であるだけにしっかり者で世話好き。だが、おっとりしているわけではない。その辺は弟を持つが故なのかも知れない。

舞台)

 関甲越かんこうえつエリア

  関東甲信越を短縮したエリアの名称。東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。


 厚木あつぎBB

  神奈川県西部、厚木を中心とした企業地区。

  楓達が通う学校も含まれ、関甲越エリアにある企業ブロックの一つ。


組織・家など)

 ATSUBB専課学校あつびーびーせんかがっこう

  場所は、関甲越エリア、神奈川、厚木にある。基底学部として、化学、物理、自然の学科を持つ専課学校。

「あ~。もう」

「聖美? どうしたの?」

「何でも、ない……」

 心なしか元気のない聖美の返事は、尻すぼみになってしまったようである。それでも何やら思いがあるのであろう、口喧嘩が絶えなくとも友達である楓を、ちらりと見る聖美である。

――どっこにも、行かないんだよね?

 いつもの四人は、学生会館は元より講義棟の談話室も混雑していたために仕方なく、屋外にあって比較的日差しが弱く、暑さをしのげる木立へとやってきていた。とは言え、既に千客万来である。空いている場所を探して木立の中をゆったりと歩いていた。

「楓。痛みはないのかしら?」

「ん? ないよ」

 唐突に痛みについて聞かれた楓であるが、ほぼ即座に返答して見せた。

 何故この質問がなされているかと言えば、今日は、楓が痛みを拒絶(端からは強くいやであると認識されている)してから三日程が経っていたからである。

「楓さぁ」

「あに?」

「本当に痛くないの?」

「どういう意味よ」

「あ、え~と。ついこの間までは、いつもすんごく痛そうだったから」

「おぉ。そうだね。痛みがない訳じゃないんだけどね。耐えられるくらいには、なったかな?」

 そう語る楓の表情は、以前より明るく話せるようになったようである。それは、何処かが痛む回数が確実に減っていたからである。しかし、あくまでも意識を失う程の痛みだけと言ったところのようである。

「!」

――来たぁ。……けど、これくらいなら、大丈夫。

 一瞬だが強ばった表情をするも、なるべく気付かれないようにいつもの表情に戻して、小さな痛みは何とか耐えて乗り切っているようである。

 言動が子供じみている楓ではあっても、そうそうみんなに迷惑を掛けたくないと言う思いはあるのであろう。そうは言っても、耐え続けることに問題がないと言い切れないのもまた事実である。

「楓?」

「あ、あに?」

「痛みが来た?」

「だ、大丈夫。ちょっと、考え事してたから」

「考え事ねぇ」

「あによぉ。楓ちゃんが考え事しちゃいけないって言うの?」

「いやいや。らしくないんだよ~ん」

「このぉ」

 小さな痛みに耐えながら追い回し、いつもと変わらない素振りを見せようとする楓……。だが、痛みに気をとられるためなのであろう、それ程手間も掛からない筈が、なかなか聖美を捕まえられない様子である。

 そんな二人のじゃれ合いを見詰めている人物がいた。薫と明子である。

「薫?」

「何かしら?」

「ここ数日、余り止めに入らないわね」

「そうかしら?」

「そうよ。どういう風の吹き回しかしらね」

「そうねぇ。これと言って、何かある訳ではないのだけど……。明子には何か問題があるのかしら?」

「う~ん。問題ではないけれど……。そうねぇ……。強いて言えば、薫と楓の親子の会話が聞けないのが、ちょっとつまらないと言ったところね」

「明子。貴方のその癖、早く直した方が良いわよ」

「そうかもしれないけどね。今のところは、楓と聖美だけにしてるから」

「そう。でも、二人に嫌われない程度にしておきなさいよ」

「分かってるわよ」

――明子……。ごめんなさいね。……楓。あの言葉は、本当なの?

 楓が“もう、いやなの。痛みに、耐えるのが……”と呟いた言葉……。以来、薫は楓と聖美の口喧嘩を止め切れていない。希ではあったが、二人の口喧嘩を止めるタイミング逸してエスカレートしそうになってしまい、明子に促されて少々傷を負いながら止めたことさえあった。

――楓。貴方は、どうなっているのかしら? ……偶然の一致と片付けて良いの? それとも、犬と楓の間に何かあるのかしら?

 答えの出ない問答を続けるそんな薫の思考を余所に……。

「……そう言えば、最近、木々の萌が遅くなったわよねぇ」

「そうそう。そこいら中、枯れ葉を付けた木ばっかり。楓も見てるよね」

「……そうかな?」

「あによぉ、気のない返事してぇ。あ~。また、楓は考え事でもしてたって言うか」

「……え、あ~。う~」

 触れて欲しくない話題なのであろう、目が泳いではぐらかそうとする楓がいた。犬の件が脳裏に焼き付いているのであろう楓にとって、似たような事柄には関わりたくないのかもしれない。

「うふふ。薫はどう考えてるのかしらね」

「……そうね。今のところ、これと言った考えはないわね」

「あら珍しい」

「そうかしら?」

「そうよ」

「痛っ!」

「か、楓ぇ~」

 さっきの元気が嘘のように聖美の表情が一転、今にも泣き出しそうな表情になっていた。

 このところ、楓が痛がる度におろおろとし続けており、以前よりも明らかに心配する表情が出やすくなっているようである。

 楓の痛みに四人が立ち止まった先の方から、悲鳴と驚きの声が聞こえてくる。

「何かあったみたいね」

「そのようね。でも、楓が……」

「そうよねぇ」

――さっきより、きつい……。けど、耐えられる……。

 楓は、痛みに耐え上体を起こそうとする。

「楓。無理しないの」

「無理……じゃないよ。大丈夫……だから」

「立てるのね?」

「うん」

 その間も、周囲にいた生徒達が声のした方へと足早に向かっている。向かっているのは、講義棟とは反対側。つまりは学校の敷地の外れに当たる場所である。遠目からでも、生徒達が群がっているその場所が、開けた場所を思わせるように明るくなっているのが見て取れる。

 聖美と薫に支えられ、楓もその場所へと向かう。

――痛みなんか……。痛みなんかに……負けない。痛みなんか……きらいなんだから。

 かなり出遅れた楓達ではあったが、その場所は……。

「な、何?」

「何が起こった?」

「葉が、ないじゃないの……」

「一斉に枯れて落葉したとでも言うのかしら?」

 木の傍に生徒は既にいなかったが、木々の周辺には落ち葉がこんもりとしていた。その光景を見る限り、薫の言葉が一番的を射ているのかもしれない。

「うわぁ」

「何だこれ……」

「……ねぇ、何が起こったの?」

 楓達だけに留まらず、その光景を目にした生徒全員が、感嘆の声を漏らしていた。

 その惨状の中にいる楓は……。

「す、すごい……」

 痛みを忘れて見とれていた。これが自然現象という物なのか、いや、異常現象なのだろうと。自宅からも枯れを目撃したことはあったが、それは、あくまでも葉が色づいたところまでであり、落葉するところまでは見たことはなかった。それは、ここに集まっている全員にも当てはまることであろう。

「楓?」

「……」

 薫の呼び掛けに、見入っているためか答えない楓。その表情を見た所為なのか、凝視したまま何も語ろうとはしない薫がそこにいた。

「薫? 楓がどうかした?」

「……楓! 痛みは、まだあるのかしら?」

「……あっ。忘れてたけど、痛くないや」

 聖美に声を掛けられ我に返った薫が、やや大きな声で楓に話しかける。異常現象に見入っていた楓も、我に返りふと自身の状態に気が付いたようである。

「そう。それなら良いのだけれど……」

「でもさぁ薫ぃ。これってすごすぎるよ。異常現象、って言うんだよね」

「そ、そうなるわね」

 楓のことを気にしていた薫は、咄嗟の質問に何とか返答するが、その思考は……。

――痛みがない? てっきり、萌が終わると痛みが消えるものと思っていたのだけれど。私の仮説が誤っていたというの? あるいは、楓の中で何かが変わったのかしら? ……分からないわね。

 薫がこの現象を解析しているとはつゆ知らず、楓は真剣にその現象を見続けていた。

 その一方で、集まっていた生徒達は、口々に「始まらなかったね」や「はずれか」などと呟いて三々五々去り始めていた。何故こう言う感想に至ったかと言えば、ニュースでは、急速な枯れの後、萌が始まると報じられていたためで、その萌が一向に始まらないからである。

 そんな生徒達がいる中で、その場に止まり続けていた四人であるが、聖美、楓と薫の会話に入らなかった明子は、何かを考えている様子である。

「薫。……間違っていたら訂正してね。まさかとは思うのだけど、この枯れが、楓の痛みに繋がっているなんて考えていないわよね」

「な、何てこと言うかなぁ、明子はぁ。そんな筈ないじゃん。ねぇ、薫」

 その問いに即答しない薫。それを見ていた聖美の表情が困惑の色に染まっていく。方や明子の表情は、次第に確信に満ちたものへと変化していったのである。

「……明確な理由はないわ。けれども、気にはなっているの」

 その回答に、安堵する聖美がいる一方で、明子は……。

「……そう。気になっているのね」

「へ? それって……。ちょ、ちょっと待ってよぉ。楓の痛みが、どうして枯れと萌えに繋がるって言うの。それってあり得ないよぉ」

「それでも、薫が引っかかっているのよ。全くの無関係とは思えない」

「あ、あのさぁ、明子? 薫がこの世の全てを知っている訳じゃぁあるまいし。偶然……。偶然だよ」

「そうかもしれないわね。でも、何か気になるのよ。それは確かだわ」

「う~、薫が頭良いのは分かってるけどさぁ。いくら何でも明子のは考えすぎだと思う、って言うか、やっぱあり得ないよ」

「それじゃぁ、今の現象は偶然なの?」

「そ、それは……。あたしは、薫ほどじゃないから理屈まではわかんないけど、明子は、偶然じゃないと言い切れる?」

「……確かに」

 答えの見えない問答を続ける三人がそこにいた。それは押し問答になり結論は見いだせなくなる。その押し問答を聞いているのかいないのか、楓は……。

「……痛みが、減ったんだね……。うふ」

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