こんな夢を観た「スクラップ置き場の釣り堀」

　スクラップ置き場のわずかばかり空いたスペースに、小さな池がある。わたしはその前に座って、のんびりと釣り糸を垂らしていた。

　水は錆色に濁っていて、底がまるで見えない。日の光がみなもで揺れて、時折キラッと光るものがある。それらは水草なのだが、どれも金属でできていた。

　池は相当に深いらしく、釣り竿を沈めて水の中を探ってみても、いっかな手応えがない。

「底が抜けてるんじゃないだろうな。だとしたら、魚なんているわけがない。釣り堀屋に、一杯食わされたのかなぁ……」

　時折、糸をたぐって釣り針を確かめるのだが、エサを囓られている様子すらない。

　ふと、思い付いた。エサにアカムシを使っていたけれど、ここの魚はこんなものでは喰いつかないのかもしれない。

　試しに、そこいらに転がっていた硬貨大の歯車をエサ代わりにぶら下げてみた。

　池の真ん中辺りを狙って、竿を振る。歯車付きの釣り針が、ポチャンと音を立てて沈んでいった。

　波紋が岸に届く間もなく、たちまちアタリが来る。

「わっ、反応はやっ！」わたしは立ち上がって踏んばった。かなりの引きだ。これは大物に違いない。

　リールを巻いていく。相手は釣られるものか、とグイグイと引っぱる。

　水面に影が見え、水しぶきが勢いよくはねた。ついに釣り上げた。50センチはありそうな、大きなコイだ。

　けれど、よく見ると何かおかしい。黒いウロコは、光の加減で虹色に反射するし、尾びれにはスクリューがついていて、今も高速で回転している。

「クローム・メッキされた、機械の魚じゃんっ！」わたしは仰天した。あんまり驚いたものだから、タモを差し出してすくうのを忘れてしまった。

　金属製の魚は、エサに使った歯車のかけらをぺっと吐き出すと、ザブンと池の中へ帰って行ってしまった。

「あ、しまった……」

　１匹釣ると100円貰えることになっていた。但し、１時間の場所代が500円も取られる。

　まだ釣果は０だ。しかも、この調子では時間内に５匹以上など、とても無理だ。

「まったく、割に合わないな。それに、あんな魚を釣ったところで、いったいなんになるんだろう。鯉こくにするにしたって、よほど歯が丈夫じゃなけりゃ、食べるのも大変だ」

　独りごちながら、わたしはまた座り直した。

　別の歯車を探して結びつけると、わたしは再び釣り竿をしならせる。

　まあ、いいさ。何も鯉こくばかりが料理じゃない。うすーく刺身にでもすれば、食べられなくもないだろう。

　池の水は、さっきにも増して赤く淀んできた。