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電気の海を行く  作者: 北野紅梅
第一章 サーバーが遅いんだけど?
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第二話 <ちゃんとしたとこの見積りには従いなさいよ!>

外は良く晴れて気持ちいいのだが、この「第四会議室」と札があがっているこの部屋には窓もなく、なんだか薄暗い。


自分用に指定されたパソコンのセットアップをしている北野は、部屋がノックされた音で扉に目をやった。

すぐに扉が開いて、きっちりとスーツを着た大柄で肥えた初老の男が入っていた。


「北野君すまないね、こんな場所しか用意できなかった……」

その男は入るなり、北野の向かいの椅子に座ると頭を下げた。


「やめてくださいよ竹原さん、ぼくなんかにこれだけの場所を用意してもらえるだけで勿体無いくらいですよ」


「こちらから呼んでおきながら、こんな場所においやって本当に申し訳ない」


「いや、いいですって。それより、もう一度、仕事の話を詳しく聞かせて下さい」

北野はこの数週間前に竹原に呼び出され、小さな居酒屋で助けてくれと頼まれた時に、どういう仕事かは聞いていたが、お酒が入っていた事もありその時に詳細を確認しなかった。


「いや……あの時は、北野君に来てくれるという約束をもらうまでは飲んでもちっとも酔わなかったから、まぁその時の話のままなんだが…」


カスミフラワー商事は「押花」という和風レストランを経営しており、全国に六十三店舗ある。

カスミフラワー商事全体の売上の二割以上を締めており、子会社を建て業務分割する話もあったが、色々あって見送られたままになっている。


そのレストランからは毎日朝から昼までの中締めの売上データが十五時に、この四ツ橋の本社サーバへ送信される。

各店舗で一台支給されている備え付けのパソコンで収集したレジや仕入れ伝票などのデータを、専用回線を使って四ツ橋に送る(といっても実際はボタンを一つ押すだけ)のだが、その処理速度が遅く、小一時間はかかるという苦情が多くの店の店長から来ている。


「現場が悩んでるんでなんとかしたいんだが……」

竹原はそう言うと北野から視線を外してうつ向いた。


竹原はその改善をシステム部に依頼した。

システム部は、保守を外注している会社の太陽電機システムにそのままの内容を依頼した。


彼らが言うには、遅い原因は古いサーバとプログラムで、新しいサーバの導入とプログラムの改修で数千万くらいの費用がかかるらしい。


「私はそれでいいとはどうしても思えないんだ」

竹原は北野を見据えてそう言った。




「それで、調べて何とかしろって言うんですか?!」

中崎は悲鳴ともとれるような声を上げた。


「まぁ、そういうことだね」

北野はさも当然のようにそう言い放った。


「業界最大手の、ここの保守してる会社がですよ、数千万かかるって見積もったのを、私たち三人で?!」

中崎は信じられない物を見る表情で北野を睨んだ。


「まぁ、そういう仕事だからねぇ」

北野はまたも、さも当然のようにそう言い放った。


そのやり取りを聞いていて大野が口を挟んだ。

「えっと、サーバーの、アドミンのパスワードも聞いてますし、リモートもここから出来る様になってますから……」


「そんなの、この画面みりゃ分かるわよ!」

北野のモニタを指差して中崎が声を荒げた。


「この画面見る限り、サーバのOSはWindows2000でしょ。2000が現役だった頃のサーバなら、今と比べればスペックはがた落ちもいいとこ。さらにシステムは五年で寿命って言われてるし……。そら太陽電機も買換えと改修を勧めるわよ」

中崎はあきれていた。


もう型落ちも甚だしいマシンなのだから、処理が追いつかないのは明白だ。

素直に買い換えれば解決する問題である。

なのにどうして他の方法で何とかするのか。

中崎には全く理解できないでいた。


「このシステム作ったとき、どういうコンセプトで何を求めて作られたかわかる?」

北野の質問は、ヒートアップする中崎には意味が分からなかった。


「それが、何の関係があるんですか?!」

中崎は怒りをぶつけるように質問で返したが、それにかまわず、北野は話を続けた。


「Windows2000が出た頃、カスミフラワーは不景気の中でもレストラン経営の拡大方針を固めていた。そのときに、売上げデータを伝送してここに送るっていう自動化のシステムを組んだんだよ」


「だから何だってんですか、古いハードとシステムが悪いんでしょう?」

中崎は北野のワケの分からない話に付き合う気はなかった。


「経営方針が拡大路線なのに、たった六十三個のファイルを送るだけでパンクするような仕組みを、君なら作るのかい?」

中崎はハッとした。


確かに、自分ならそんな設計はしないだろう。

まして将来増えると聞かされていればなおさらである。


「この業界じゃ、単位にもよるけど、百なんてそんなに大きな数字じゃないのは分かるだろ?その頃何店舗だったか知らないが、あの有名なファーストフードの店は日本に一号店ができてから、十年以内に全国で二百店舗以上出店したんだ。システム的には万が一も考えてその倍くらいでも何とか動くようにするだろうさ…」

北野は穏やかにそう言いながら、モニタの横にあるペットボトルのお茶に口をつけた。

中崎はその言葉に何も言い返せなかった。


「まぁ、設計者がちゃんとした人だったと信じて、原因探ってみようよ」

北野はそう言いながら椅子から立ち上がった。


「はい、わかりました……」

中崎はそうつぶやいたが、そんな返事を聞いていないかのように、北野は大野に「裏紙とかメモ用紙とかある?」と聞いていた。


大野が自分のノートを一枚千切って渡すと、北野は「もったいないなぁ」などと言いながらみんなに見えるように机の真ん中に紙を置き、握っていたペンで図を書き始めた。


「いいかい、今サーバがここ、四ツ橋にある」

そういいながらドラム缶のような円柱を中央に書いた。


「それで、全国の店舗から専用線を使ってデータが送られてくる」

円柱から下に、何本か線を引いてその下に四角を書いていった。


「今現状で登場人物はこれだけ、この中に犯人がいるってことだよね。まぁ、単独犯とは限らないけど……」

中崎も大野も黙って手書きの図を見つめた。


「あ!」

大野がすっとんきょうな声を上げた。


「線じゃないですか?!」

大野の目は輝いていた。


「あのね…」

中崎がため息をつきながら言う。

「普通ならそう、回線が犯人でしょうよ。でも、さっきも聞いたように、専用線なのよ。その可能性はないわ」


「まぁ、考え方としては間違ってないけど、もっと早く気付いてほしいね」

北野は少し笑いながら付け加えた。


「それに、こんなケースだと回線が犯人にされ易いし、し易い。理由として一番分かり易いからね。でも、だったら、太陽電機は絶対にそこを突いてくる筈だろ?ところが彼らの見積りに回線の改善はなかった。つまり、回線はシロってことだよ」


「専用線ってそんなにいいんですか?」

大野が不貞腐れた感じで聞いてきた。


「朝の道路を思い出して」

北野がそう言ったので、大野は「はい」と言いながら訳も分からず渋滞気味の車の多い道路状況を思い描いた。大野の頭の中ではクラクションがなっていた。


「そこにバスが来た。どうなる?」

北野の言葉に大野は嫌な表情をした。


「うわ、最悪ですね。渋滞が酷くなりました…」


「でも、バスしか走っちゃいけないバス専用レーンがあったらどうだ?」


「あぁ、なんかバスはスムーズに走れますね。他の車は渋滞してるけど…」


「そのバス専用レーンが専用線だと思えばいいよ」

北野の言葉で大野は「あぁ」と言いながら納得した。


「で、このサーバーで受け取ったデータは何処に行くのかな?」

北野は図にあるドラム缶を指しながら大野に聞いた。

大野は突然の質問に面食らって、困ったような顔をしている。


「普通、ホストへ売上データを転送するでしょう」

中崎が大野に代わって答えた。


「そうだろうけど、他にまだ、何かに使ってる可能性もあるね?」

北野の言に、中崎が「そうですね」と短く答えた。


「よし、じゃあ、まずはこの2000サーバが絡んでる処理を全部洗い出そう。中崎さんお願い」

北野の指示に中崎は「はい」と短く答えた。


「それともう一個の問題は、店側のパソコンのスペックとか環境とかだね。実際処理してるとこを見ないと何とも言えないから、大野君、店舗の一覧と、去年の四月五月の、店舗別で日別の売上げデータを出して来て~」


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