プロローグ
「グギャオオオォォァァアアア!?」
奇怪な声を上げ、怪物が駆け寄って来る。
静寂に満ちた洞窟を、奇声と足音が破る。
怪物が向かう先には、白いコートを着た少年が佇んでいた。
少年は焦る素振りも見せず、背中の剣を抜く。
閉じていた瞼が開き、漆黒の瞳が顔を見せる。
刹那、
「――フッ!」
鋼の剣が、怪物に吸い込まれる。
剣が辿った軌跡から緑色の、どろりとした血が噴き出す。
怪物 ―― 魔物がぐらりと倒れ、少年が剣を背中の鞘に納める。
小さく溜め息を吐き、後ろを向く。
だが、魔物は一匹ではなかった。
そろり、そろりと魔物は少年に歩み寄る。
慎重に剣を構え、少年の背中に狙いを定める。
少年はポケットをまさぐり、地図を出している。
魔物はその様子に、どこか嬉しそうに笑い、ためらうことなく剣を下ろした。
――だが、剣は少年に届かなかった。
「ヤアアッ!!」
暗闇から、一条の光が走る。
銀色のそれは、魔物の急所である首に吸い込まれていった。
魔物は思わぬ奇襲に対応出来ず、哀れな断末魔を上げて倒れた。
ごと、と音が洞窟に響く。
「――さすがだな、アリス」
「…ありがとう」
少年――ハルトは振り返り、少女――アリスは、小さく礼を言う。
アリスが肩にかかった銀色の髪を払い、腰にある鞘に細剣を仕舞うと、それに合わせたようにハルトも緩く一歩を踏み出す。
入り口から差し込む光が、二人に朝を告げた。
五年前、それは唐突に訪れた。
天から無数の魔物が降り注ぎ、血の雨と共に降り立った。
その日から始まった人間の虐殺。
村は淘汰され、町は蹂躙され、国は次々と滅亡した。
気づけばそこには魔物が王として君臨し、人々は虐げられ、搾取され、終いには殺された。
死体の山は日に日に高くなり、血の海はより一層深くなる。
魔王は言った。「この世に、人間は必要ない」と
とある国の王が殺された時、魔王は新時代を高らかに宣言した。
「この世に顕現せし魔物達よ…残りの人間どもを殺せ!!」
洞窟からでると、ハルトは地図を広げた。
「次、どこ行くか」
アリスはハルトの手元を覗きこみ、現在地から最も近い町を示す。
「まあ、残ってるのか分からないけどな」
ハルトが自嘲気味に呟くと、アリスが首を振る。
「きっと、大丈夫。行きましょう」
アリスはどこか言い聞かせるように言い、ハルトを振り返る。
ハルトはアリスの銀髪が反射する朝陽に目を細め、大きく頷く。
少年と少女が、朝露に濡れた地を歩む。
終末への冒険の、続きを描く一歩を踏み出して。
続く
初めまして、魔鎖騎です。
馴れないジャンルを書くので、あらぬ粗相をやらかすかもしれませんが、よろしくお願いします。
それでは、次話でお会いしましょう。