番外編 W・C 大戦
「これは、遠い 遠い銀河の物語。無限に広がる大宇宙のとある星で、二つの勢力が争いを繰り広げていました。戦場となったのは、トイレット星にあるトゥトゥ王国。清らかな水が豊かな緑を育てる平和な国は、過去のもの。今では戦火の絶える日がなく、子供たちは本当の平和を知りません。この国がこんなことになったのは、あの日、突如として異星人が現れてからです。シリリ星からやってきた異星人、ウンコ星人。彼らは、何の前触れも無くトゥトゥ王国にやってきて、トゥトゥの王宮に砲撃する事で開戦の狼煙を上げました。そして、またたく間に、清らかな水は戦争の影響を受け汚れてしまいました。これが、世に言う『濁流の進撃』です。
ウンコ星人の目的は、侵略でした。水が無いと生きられない種族であるウンコ星人は、かつては、自分たちの星に流れている水を使い、生きていました。水は、彼等にとって何にも代えがたい大切な資源です。ですが、彼等は『水の利用価値』は知っていても、『水を守ること』は知りませんでした。限りある資源だということに気付かなかったのです。それ故、欲望の赴くままに水を使い続けた彼等は、水が無くなって初めて、『水の本当の大切さ』に気付くのです。彼らの星に、綺麗な水は、もうありません。あるのは、すっかり力を失ってしまった、汚れまみれの死んだ水分です。水を失って、彼等は困りました。
『どうすればいい?』
『もう、水が無い』
『このままでは、この星は枯れてしまう。死んでしまう』
窮地に立たされたウンコ星人は、一つの打開策を講じました。それは、近くの水が綺麗な星に移住することでした。このままでは星と一緒に滅ぶのを待つだけだと自らの星に見切りをつけ、新たな星を探すことにしたのです。今度は水を大切にする、その誓いを胸に、新たな生活の地を探しました。
そして、見付けたのがトイレット星でした。
ですが、その星には先住民がいます。トゥトゥ王国を首都としてあるトイレット星人たちです。しかし、ウンコ星人にはもう迷っている時間はありません。いつ自分たちの星が滅ぶとも分からない状況で、躊躇している余裕はありません。だから、交渉などというのんびりした手段ではなく、侵略という武力行使にうったえたのでした。
戦争が始まりました。
生きる為に水を求めるウンコ星人。自らの星を守ろうと外敵に立ち向かうトイレット星人。どちらも引くことの無い争いは、開戦から数十年経った今も終わりが見えません。
開戦当初は、互いに作戦もなく、まさに力同士のぶつかり合いといった体で戦場は混沌としていました。しかし、これでは勝つことが出来ないと互いに気付き、戦争は一時の落ち着きを見せます。その間、武器を整える、作戦を練る、次世代に賭けて育成に努める、そんな動きが見られました。
戦争が長引くにつれ、トゥトゥ王国では、新たな争いの火種が生まれました。それは、トゥトゥ王国内での、ペーパー公爵とウォシュレット男爵という二人の男が筆頭に立つ、二つの勢力の対立でした。
『ペーパー公爵!自らの手を汚すのもいとわないとあなたは言うが、あなたの意向に沿えず敵に情けをかける者がいる。敵も生きることに必死なだけだと同情し、非情になり切れていない。実際、あなた自身詰めが甘い!あなたのやり方では、生かしたまま敵を帰してしまう可能性が多分にある。今日生かして帰した敵が舞い戻り、今度はこちらが血を見るかもしれないのですぞ!』
『ではウォシュレット、どうしろと?』
『敵は一掃する! 敵の居所は知れている。回りを岸壁に囲まれる、あの場所です。そこを、ヤツ等の欲するもので、水攻めで一斉攻撃。それはただの作業に過ぎず、一切の情が介入する余地はない。皆殺しだ!』
『それはいかん!』ペーパー公爵は、慌てて止めます。『悪意なき者を打ち倒すのに、そのような手ではいかん。彼らの声を受け止める為にも自らの手で刃を交えなければ、我等はこの戦いで何も得ないぞ。この戦いで倒れた者たちの命を活かす為にも、彼らの声を聞かなければならない。何も得ずに終える事、それも敗北に等しいのだ』
『それが甘いと言うのだ! 非情になり切らなければ…』
『勝てぬと言うか! 貴様等は弱卒か?敵を全て駆逐せねば、何も守れぬというのか?』
『違う! 全て守る為に、敵はすべて排除する!』
両者は、一歩も引きません。戦争にあるなかで、味方同士の確執も深くなります。
生きようと攻撃する者、生きようと守る者。先を見据えて守ろうとする者、今をとにかく守ろうとする者。それぞれの想いが交錯し、戦況は加速していきます。
つづく」
「榎ちゃん……何、その有害図書?」
楸は訊いた。
榎が「部屋を片付けていたら、面白い本を見つけた」と言うので、楸は、興味を持って榎の読む絵本を黙って聞いていたのだが、その内容にすっかり呆れ果てた。
「トイレとかウンコとか、戦争をモチーフにしているみたいだけど、相当アホな内容だよね。しかもそれ、続くの?それ一冊で終わりじゃないの?」
「うん」閉じた本を胸の前で抱え、榎は答える。「これはまだ序章らしいの。続きは、この世界のどこかにあるって。この本は、椿君のお父さんが作った、世界で一冊ずつの物語らしくて、私は、その中の一冊を持つ『物語をつむぐ者』なんだって」
「なに、バカは家系なの?」
椿のバカもしょうがないのかも、楸は思った。
真剣に考えました、これでも、ええ。




