番外編 篝火さんの素敵な休日 ~白熱スポーツ 冬の陣~
むだに前回の続きだったりします
様々なスポーツが出来るレジャー施設に、椿達一行は遊びに来た。
居るのは、椿、榎、楸、柊、カイ、十六夜、篝火、石楠花の八人だ。
だが、これからスポーツするというのに、一番最後にしぶしぶといった感じで来た石楠花は、ジーパンにタートルネック、ロングコートという服装で、他の者と違い運動する気を感じさせない。
「石楠花。ダメだよ、動ける格好じゃないと」
そう注意する楸だが、椿に「お前もだ、浴衣バカ!」とつっこまれた。
服装にヤル気が感じられない楸と石楠花に、篝火は言った。
「そうよ、二人とも。私なんてジャージ持ってないから、借り物の柊ちゃんジャージに胸を無理矢理収納してるのよ。特に、Tシャツが苦しい」
「うっさい、アンタ!」自分では余裕をもって着られる服が、篝火にはある一部分が窮屈そうなのを見てひどく傷ついた柊は、泣きたい気持ちで叫んだ。「てか、窮屈なら前開ければいいでしょ!それとも、邪魔な部分斬り取ってあげようか?」
柊の怒り狂う様を見て、楸は「いくら斬り取っても、柊の胸は変わらずぺっちゃんこのままだけどね」と笑った。
その結果、柊の怒りの矛先が楸に向き、楸への制裁が始まる。
「た、楽しみだね、カイ君」
修羅場と化した空気を変えようと榎は、カイにそう言った。
だが、カイは「そっすね」と生返事を返すだけ。
それもそのはず、カイは、運動着に身を包み、動き易くする為に髪をアップで結っている柊に見惚れていた。いつもの違う柊のポニーテールに、感激しているのだ。
「ところで、浴衣の」柊からの制裁が終わってボロボロになった楸に、石楠花は訊いた。「ここに来れば、チョコ〇ールをくれると言っていたよな?」
お前の目的それかよ、と楸を除く全員が思ったが、口には出さなかった。
「うん」楸は頷く。「今からやるスポーツ大会で優勝したヒト用に、二千円分のチョコ〇ールを優勝賞品として用意してるよ」
「優勝賞品?」と石楠花の表情が、苦いものになる。「おいおい…こっちは、来れば貰えると聞いて来たんだ。以前気まぐれに買った一個のくちばしが銀で、それを機に折角だからと集めて やっと最近銀のくちばしが三つになったんだよ。何度も大人買いするのも気が引けると思っていた所に舞い込んだ話で来てみたが、そういうオチか」
なに真剣に可愛いこと言ってんの、と全員が思ったが、口には出さなかった。
「ごめん。でも、人数が足りなかったんだよ」と楸は弁解する。
「何でだよ?人数合わせなら、俺以外にもいただろうが」
「いや、そうでもないんだよ。俺の上司とかは、例えば温泉もあるプールに行ったら、温泉にだけ入って後は大広間で酒を呑むような人だからさ。スポーツしようって誘っても、面倒くさがるんだよ」
「俺も似たようなもんだぞ」
「いや、そうだとしても石楠花がピッタリなんだよ。七人いる所に一人加わって偶数になるし、運動できるメンバー(俺、椿、カイ、柊)と苦手メンバーの比率もちょうど合うし、男女比も同じになる」
「ならないだろ」と静かに怒る柊が、楸の頭を掴んだ。「アンタ、アタシのこと男にカウントしただろ?」
「す、すいません…」
柊という恐怖に恐れ震える楸を見て、石楠花は「はぁ~」と一つ溜め息をつくと「分かった。やろう」と参加を決めた。
「話から察するに、この後チーム分けでもするんだろ?ただ使えないヤツを頭数に呼んだワケでもあるまい。力配分をなるべく均等にしたチーム分けをして、チームとして優勝を目指す。なるほど、それなら俺にも優勝の可能性はあるワケだ」
理解の速い石楠花に、満足そうに楸は頷いた。
「みなさん!」満を持してといった感じで、十六夜が話し始めた。「それぞれ思う所は在るでしょう。私も、運動不足気味な私を気遣って開催してくれた幼馴染のことを思うと、余計な事をしてくれたなと思う反面、すごくうれしくも思います。皆さんの日頃の行いが良いお陰で、空は快晴、絶好のスポーツ日和となっております。勝ち負けももちろん大切ですが、何よりも『楽しむ』ということを忘れず、この後の競技に臨んでください」
「「はい!」」
元気よく返事をした榎と篝火以外の全員が、お前が開会のあいさつをするのかよ、てゆうか室内だから天気関係ないし、などと思ったが、面倒だから口には出さなかった。
クジ引きによるチーム分けの結果、
椿、楸、榎、石楠花チーム
柊、カイ、十六夜、篝火チーム
に分かれた。
「ちょっと!こっち、明らかにふざける二人が揃ってるんだけど!」
と柊は、苦言を呈するが、椿には「こっちだって浴衣バカと石楠花のヤル気に欠ける二人が揃ってんだよ」と聞き入れてもらえなかった。
第一種目、フットサル。
四対四でキーパーは特に決めないという変則ルールで、フットサルの試合を始めた。
「すげぇ!サッカーむずい!」とカイは、上手くドリブルが出来ずに苦戦したが、出来ない事を楽しんでいた。
「審判!」楸は、声を張り上げ、居もしない審判に「相手チームに、女に変装した男が居ます!そいつ、執拗に俺の脚を削ろうとします」と助けを求めた。
「なら、ちまちまやってないで、いっそ折ろうか?」
柊が脅しをかけると、楸は「しんぱーん!」と叫んだが、誰も彼を助けなかった。
「おい、石楠花!」とボールを一旦 足元におさめた椿は、声を荒げる。「お前、さっきから全然動いて無いだろ!」
「そんなことはない。さっきから走り回ってもうクタクタだ」
石楠花は、平然と応えた。
「ウソつけ!息一つ乱れてねぇし、汗もかいて無いだろ!」
「汗は、代謝が悪いせいだな。息は…おぉ、確かに乱れていない、スゴイな」
「スゴイな、じゃねぇよ!」
楸のことを痛めつける柊、石楠花に苦言を呈する椿。八人のうち半分の四人がフットサルと関係ないことをしているため、必然的に試合が止まってしまっている。その為、試合が再開されるまでの暇つぶしとして、残りのメンバーは遊び始めた。
試合ではなく、いわゆるサッカーのペナルティキックのようなことをしている。
「いくぜ!」
と榎は、気合を入れた。ボールを見つめ、その先にあるゴール、そしてそれを守る十六夜に視線を移し、彼のことをジッと鋭い眼差しで見つめる。
「こい!」
ゴールを小さく見せるように めいっぱい腕を広げ、十六夜は構えた。
その構える姿は、さながらクモ男の様である。
「お願い…私を、国立に連れてって」
二人の勝負の行方を、胸の前で固く手を組んで祈りながら、篝火は見ていた。
そこには、勝負事独特の緊迫感があった。
そして、その緊迫感は、榎がゆっくり助走し始めると一気に高まった。
「くらえ!ドライブシュートっ!」
掛け声とともに、榎は、思いっきり足を振った。
しかし、榎の気迫とは裏腹に、ボールに動きは無い。つまり、空振りした。
そして、ボールの代わりにゴールに向かって飛んだのは、脱げた榎の靴だった。
「うわっち!」
顔目掛けて飛んでくる靴を、十六夜は間一髪かわした。
「わぁー!ご、ゴメンね!十六夜君!」
自分の失態を榎は激しく謝罪するが、カイは「いいぞ、榎さん。ナイッシュー!」と笑っていた。
「こやつ、敵方だったか」
裏切り者を見つけた篝火は、十六夜と一緒になってカイにボールをぶつけ始めた。
何が何だか分からない状況のまま、フットサルは終わった。
第二種目、ボウリング。
この競技では、四人のチームを更に二つに分け、計四組でゲームをし、二組の合計点で競うことにした。それに従い、椿・榎ペア、楸・石楠花ペア、柊・篝火ペア、カイ・十六夜ペアという四つのペアが生まれた。
ボウリングでは、個々の運動能力の差が大きく影響することは無く、ゲームが進行している。
「ダメだ。浴衣の、もっと軽い球を持って来てくれ」
「無理だよ。それ以上軽いのだと、子供用の球になるよ」
第三フレームにきて、石楠花の腕に限界が迫っていた。
非力な石楠花を心配しながら、ペアとしてのスコアが思うように伸びない楸は、「おかしいな」と首をかしげた。「何でか、球が曲がるんだよね…」
「ハッ。髪の毛と一緒で、性格のねじれが現れてんのよ」と柊。
柊に癖っ毛のことも含めてバカにされた楸は、ムッとして「どういう性格してたら、身体の一部に鉄板が現れるんだろうね?」と小声で悪態ついた。
しかし、その言葉が柊の耳に届いてしまい、鬼の形相でボウリングの球を武器として振りかぶる柊に、「すいません、冗談です」と楸は震えながら謝った。
味方である楸・石楠花ペアの成績がパッとしない中、榎がその穴を補って余りある活躍を見せていた。
「やったぁ!ほら椿君、またストライク取れた!」
嬉しそうにピョンピョンと跳ね、はしゃぐ榎。
榎の投げる球は、威力は無いが当たり所が良いらしく、ドミノ倒し式に全てのピンを倒していった。もちろんそれは、椿が第一投を投げた後でも変わらない。どんなに椿が散らかした後でも、榎は一掃できた。
そのことに対し椿は、スコアは伸びているが、何処か面白くなく感じていた。
「すいませんね。さっきも俺がスプリットにしたヤツまで上手く倒してくれたし」
嫌味ったらしく椿は言うが、絶好調で気分が乗っている榎は、椿の気持ちに鈍感だ。
「大丈夫!まかせてよ。たぶん私、ボウリングの才能あったみたい。今度からプロフィールに、『特技:ボウリング』って書けるかも」
「あ、そう…」
頼りにならない男三人の分も奮闘する榎を見て、篝火は危機感を覚えた。
「大変よ!これはもう、外法でも何でもリ〇コ=ナカヤマを召喚しないと勝てないかも!」
早めの解決策を取ろうと篝火は焦るが、それに「大丈夫」と冷静に十六夜は応えた。
真剣な面持ちで十六夜は、ボールを持って構える。その目は、まるでストライクを取れるコースが見えているかのような、鋭い眼光を放っていた。ゆっくり、余裕すら感じさせる動作で、十六夜は投球した。
球が手から離れるとすぐ、十六夜はピンに背を向けた。
まるで全て視えているかのように、ガコーンッとピンが倒れ始める音に合わせ、十六夜は右の拳を高く挙げた。
倒れたピンは、七ピンだった。
「いや、中途半端ぁ!」
カイのツッコミが、ボウリング場に響いた。
第三種目、ダーツ。
体力的な限界が近付いている石楠花や篝火の要望で、激しいスポーツではなくダーツをすることにした。
石楠花と十六夜以外のメンバーは細かいルールを知らないということなのだが、コンピュータが勝手に矢の刺さった場所を判断して得点を計算するタイプのダーツマシンだったので特に問題は無く、勝敗は、個人の成績を総合してチームで競うことにした。
「あれ?石楠花、右利きじゃなかったか?」左手でダーツの矢をクルクル回して手遊びする石楠花に、カイは訊いた。「さっき、ボウリングの時は右で投げてただろ?」
「ああ。そのせいで右がダメになったから、しょうがなく左だ」
本気の力が出せなくて残念だ、とでも言うように石楠花は話す。が、気を張ることなく左手で投げた矢は、見事的のど真ん中に当たった。続けて投げた矢も、刺さっている矢とほぼ同じ場所、的のど真ん中に当たった。
「すげぇな!お前!」
驚愕するカイの様が面白く、石楠花は「ききっ」と薄ら笑った。
石楠花の高度の腕前に感心するカイもいれば、その腕前に嫉妬する男もいた。
「このままじゃ石楠花の独壇場だ」と嫉妬するのは、楸だ。
「いいだろ、別に。同じチームなんだから」
冷めた態度の椿に諭されるが、楸は「イヤ」と言って聞かない。
「ここまでは椿みたいにいいトコが無いから、ここで俺も活躍したい!」
「一言余計だ、クソ天使!」
椿は怒鳴ったが、その声は楸の耳に入っていなかった。
楸は、周囲の物音が聞こえなくなるくらい、完全に集中しきった。
「的の中心に、ちぃっちゃい椿…的の中心に、ちっちゃい椿…」
ぶつぶつ呟きながらイメージを固めた楸は、ちっちゃい椿を狙って矢を投げた。
楸のイメージの中で、ちっちゃい椿は、すんでの所で矢を避けた。が、矢は、的の中心に刺さった。
「ちっ!逃げやがった」
悔しがる楸の頭を、「ちっ、じゃねぇよ!」と椿は平手で叩いた。
とにもかくにも、楸の投げた矢が的の中心に当たったことは事実で、それを隣で見ていた榎は、素直に感心して見ていた。
「石楠花さんも楸さんもスゴイな。私はさっきから思った通りに当たらないし、ダーツって思ったより難しいよ」
自信無く語る榎を、「大丈夫」と柊は励ました。
「不本意だけど、楸のマネすればいいのよ」
「楸さんのマネ?」
不思議がる榎に「うん」と微笑みかけると、柊は矢を構えて立った。
「的の中心は、楸の眼球…的の中心は、楸の眼球…」
ぶつぶつ呟きながらイメージを固めた柊は、楸の眼球を狙って矢を投げた。
しかし、矢は、楸の眼球のわずか横にずれて刺さった。
「ダメだ。アタシ、優しいから外しちゃう」
「ウソつけ!」と楸は、つっこんだ。「ヒトの眼球狙って矢を投げるヤツのどこが優しいんだよ!胸のサイズだけじゃなく、性格も超が付くドSですか?」
楸が言い終わるが先かというくらい早く、すぐに本物の楸の眼球を狙って矢を投げようとする柊の後ろで、「いや~、想像するだけで痛い」と榎は、震えていた。
「つーか、痛いで済む気もしないがな…」と呆れて言う椿は、「あれっ?つーか、十六夜と篝火は何処行った?」と二人を探して辺りをキョロキョロ見た。
カランカランとドアに付いたベルが、客が来たのを知らせる。
その女は、店に入ると店内を見渡した。
そして、カウンター席で一人 バーボンの入ったグラスを傾けている男を見付けた。
男がグラスをテーブルに置くと、女は「モヒート お願い」とバーのマスターに声をかけてから、男の隣に座った。
「久しぶりね」
女は、正面を見たまま隣の男に声をかけた。
男も、「ああ」と前を向いたまま答える。
「お前にヴェネチアで逃げられて以来だから、相当経つな」
「六年よ」
「そうか…。何時こっちに…?」
「今朝」
女は、答えた。
男が「そうか…」と感慨に浸っていると、女の前にモヒートの入ったグラスが置かれた。
モヒートを一口飲み、息を一つ吐き出すと、女は言った。
「ここに来る前に色々見て回ったけど、変わったわ…街も、人も…あなたも」女は、チラッと男に視線をやり、「昔は、もっと…輝いてた」と冷めた声で言った。
女の視線に、男は応えない。
ずっと正面の一点を見つめたままで、グラスの残りのバーボンを一気に口に流し込む。
「何も変わっちゃいねぇよ」男は、言った。「昔から、この街は渇いたままだ。住んでるヤツらも、どっかから何かから逃げてきたようなヤツばかり。俺の渇きを潤してくれる酒の味も、変わらない。変わったとすれば…」
一度言葉を切り、男は、横目で女を見た。
そして、自嘲気味に笑いながら言う。
「俺の隣に、最高の女が居なくなったことくらいか」
男が言うと、男の視線から逃げるように女は、首を振って視線を正面に戻した。
「言っとくけど、そんな気ないから、私」
「俺だってねぇよ」と男は薄ら笑う。「裏切られるのは、もうこりごりだ」
二人の間に、短い沈黙が流れる。
そして、グラスが空になると、女は「ねぇ」と声をかけた。
「あなたの腕を貸して欲しいの」
この時、男は、はじめ断ろうと思っていた。思い出が気持ちを沈ませ、ヤル気が出なかったからだ。
しかし、女の話を聞いていると次第に興味が湧き、仕事を引き受けることにした。
男は、まだ知らない。
この後、死にかける事はおろか、世界の命運をその手に託されることも。
「なに遊んでんだよ!」
椿は、つっこんだ。
バーボンの代わりにオレンジジュースを飲む十六夜と、モヒートの代わりにスポーツドリンクを飲む篝火の頭を、平手でたたく。
「ダーツしろよ!ダーツバーに来た小芝居してないで!」
「いいんですか?僕がいないと、世界の命運が…」
と十六夜は、椿を非難するように言うが、「どうにもならねぇよ!」と強く否定された。
他にもいろいろやり、全競技終了。
結果、勝利したのは椿チームだった。
柊チームが敗北した原因は、色々ある。柊が終始、楸を敵視し続けてゲームに集中し切れなかったこと。カイが、柊の汗かく姿に心ときめいていたこと。十六夜と篝火が、予想通りふざけ倒したこと。色んなことが重なった結果、柊チームは負けた。
勝利チームには、レジャー施設を出た後で、二千円相当のチョコ〇ールが渡された。
チョコ〇ールは四人で均等に分けるのだが、それに異議を唱える男が一人いた。
「ちょっと待て」それは、石楠花だ。「俺は、それなりにチームの勝利に貢献したはずだ。運動が苦手なのに、無理矢理呼ばれたのに、俺は頑張った」
「何が言いたいんだよ?」
面倒くさそうに訊く椿に、石楠花は答えた。
「もし銀のくちばしが出たら、それを頂戴したい」
「どんだけおもちゃのカンヅメ欲しんだよ!」
椿はつっこんだが、榎に「まぁまぁ」と抑えられた。
「いいよ、私は。もし出たら、石楠花さんにあげるね」
榎が言うと、楸も「しゃーねぇな。俺もくちばし見たいだけだし、それでいいよ」と納得した。そして、二人に流されるように、しぶしぶ椿も納得する。
そうだ、それでいい。そんな目で三人がチョコボールを開けるのを、石楠花は待った。
「あ、何か出たよ」
榎が言うと、石楠花は嬉しそうに口角を吊り上げ、榎の手元を覗き込んだ。
榎のチョコボールは、金のくちばしをしていた。
椿や楸だけではない、柊達もみんなが、スゴイとうるさいくらいに驚いていた。
その中で石楠花は、
「おぉ…」
と、タイムカプセルを掘りだそうとしたら油田を掘り当てた、そんな衝撃と戸惑いを感じていた。
「はい、石楠花さん」
「いやいやいや、これは貰えない」石楠花は、金のくちばしを差し出す榎の手を、両手で押し返した。「あんたが大切にしろ」
「えっ、でも…」
「いいから。俺のポッケには大き過ぎる」
石楠花に受け取りを断られ、結局、金のくちばしは榎のポケットに収まった。
ちなみに、椿と楸のチョコボールは普通のくちばしで、石楠花に「はぁ~。これだから……いや、いいか」と愛想尽かされた。
素敵な休日だったと、篝火は満足していた。
家に帰って一人で夕食をとっていると、楽しかった昼間の反動でいつもより寂しく感じた。石楠花、もしくは榎や柊とご飯を一緒に食べれば良かった、と後悔した。
だが、その後悔が薄れるくらい、楽しい思いが胸にあった。
お風呂が、気持ち良かった。お酒が、いつもより美味しかった。
幸せな気持ちで、篝火は眠る。
そして、翌々日。
篝火は、筋肉痛に苦しむことになる。
いろいろと勢いに任せて書いたので(ダーツバーの小芝居とか)、読みづらかったらスミマセン。




