表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使に願いを (仮)  作者: タロ
(仮)
82/105

番外編 バレンティヌスに報告を

途中、急激な場面展開があります。

なんとかついてきてください。


 二月十三日の夜、榎からのメールが椿、楸、カイ、十六夜のケータイに届いた。

『やあ、諸君。いきなりだが、明日の午後二時にB―2地点にまで来てくれ。詳しいことは、そこにいるエージェントから聞いてくれ。ちなみに、今回の件で諸君らが逮捕、もしくは死傷することがあっても、当局は一切関知しない。尚、このメールは五秒後に自動的に消去される。それでは、健闘を祈る』

 五秒後、メールは消えなかった。

「あいつ、『ミッション・イン〇ッシブル』見たな…」椿は、榎メールの隠れた背景を察した。「中途半端なマネしやがって。つーか、B―2地点どこだ?」

 呆れと不愉快さを表している椿もいる一方、他のエージェントはというと。

「なるほど…B―2ね…」と分かったフリをする楸。

「えっ?何か危険あるのか?」と若干驚くカイ。

 十六夜は、黙ってケータイを閉じ、五秒後に「プシュ~」と機械が煙を吹いて壊れる音を口にし、後は無言、真顔でミッションに備えて早く寝た。


 そんなことがあっての翌、二月十四日。

 公園に、椿、楸、カイ、榎、柊、篝火の六人が集まっていた。女子三人は、大きな紙袋を持っている。

「結局聞き返すことになんだから、面倒なマネするなよ」

「えへへ。ちょっと映画観て やってみたくなっちゃって」

 榎と話している椿は、ふとあることが気になった。

「つーか、十六夜は?あいつ、今日来ないのか?」

 十六夜がいない事が気にかかり、椿は、榎に訊いた。

「ううん、来ると思うよ」榎は、答えた。「でも、十六夜君からだけはB―2地点の質問が無かったから、もしかしたら迷っているのかも」

「迷っているのかも、じゃねぇよ。変なメール送るからだろ。あいつ、ああいうノリ好きなんだから」

 面倒だな、と椿が顔を歪ませた。

 その時。

 黒いスーツに黒いサングラス姿の少しポッチャリしたエージェントが、公園に猛ダッシュで入ってきた。

 そのエージェントは走って来ると、六人の前で立ち止まった。

「待たせたね」

 サングラスを外して満面の笑みを見せたエージェントとの正体は、十六夜だった。

 大きく口を開けて笑う十六夜に対し、榎は「あ、ツーだ!2の『十五分ごとにマヌケ面して笑う』って言われたイー〇ンだ」と喜びに声を弾ませているが、椿は、「うっせぇよ!つーか、お前どんだけノリノリだよ?よくB―2地点って言われてここ来れたな?」と驚き混じりでつっこんだ。

 十六夜の行動は、その場の空気をざわつかせた。

 だが、とにもかくにも、揃うべき人が揃った。


     椿へ


「はい、椿君。バレンタインのチョコレート」

「おお、ありがと」

 満面の笑みと一緒に渡されたチョコの入った小袋を、椿は受け取った。

「ん、椿」

 業務資料を片手で渡すような、大した感慨も無くチョコを渡す柊に対し、「おぉ、柊もくれるんだ…」と椿は、戸惑った。

「要らないなら、別にイイけど…」

「いや、サンキュ」

 椿がチョコを受け取ると、柊は少し頷いた。


     楸へ


「はい、楸さん。チョコレート」

「ありがと、榎ちゃん」

 笑みには笑みで。楸は、榎からのチョコを受け取ると、自然に柊を見た。

「なに?」と不機嫌そうな柊。

「いや、なに?」と楸。

「アンタ、今年は榎ちゃんから貰えたんだし、もういいんじゃない?」

「そうだけど、こういう女の子イベントが無いと俺、柊が女だって忘れちゃうから」

 その楸の発言に、柊はカチンときた。

「あげない」

「え?」

「アンタには、チョコあげない」

「えーっ?」楸は、まさかの展開に慌てた。「何で?ちょうだいよ。俺のもあるんでしょ?」

「あげない」

「くれないと俺、柊のこと男だと思っちゃうよ」

「斬るよ」

「怖っ!」

 その後柊は、うるさい相手を黙らせたくて、しぶしぶチョコを投げつけた。


     十六夜へ


「先輩。これ、バレンタインのチョコです」

「お、悪いな、マネージャー」

「い、いえ」

「大変だろ?」

「え?」

「ほら、ウチって『サッカー部に入っとけばモテる』って思って入部したヤツもいるだろ。そういうヤツ等のことにまで気を回させちゃって…なんか、悪いな」

「あ、いえ…そんなこと、ないです」

「そうか…。あ、チョコありがと。俺、もう少しボール蹴ってから帰るから。じゃあな」

 そう言ってグラウンドへ走って戻る先輩の背中を、マネージャーは見つめた。

「あ、はい。……先輩のだけはみんなと違うってこと、先輩は気付いてないか…。ホント、サッカー以外のことは頭に無い、鈍感な先輩なんだから」

 十六夜と篝火による寸劇を見ていた柊は、ボソッと言った。

「アイツには、後ででいっか」

「そうだね。なんか、楽しそうだし」と榎。

「きっと、サッカー部の主将である十六夜に淡い恋心を抱く後輩マネージャーの篝火だけど、その気持ちに主将は全く気付いていないっていうシーンなんだろうね」と楸。

「つーか、どこの世界にスーツでサッカーしに行く先輩がいるんだよ?」

 椿は、冷ややかにつっこんだ。


     カイへ


「はい、カイ君」

「あ、はい。ありがとうございます」

 カイは、深々と頭を下げた。

「そんな、大した物じゃないから」

 榎を恐縮させるカイの態度は、柊の平常心を乱していた。

――何なの、ホント?

 柊は、戸惑いの中で思った。

――もっと普通にしてくれないかな?喜んでくれるのは嬉しいけど、もっと「はい」「ありがとう」って気楽に、あんな緊張されるとこっちまで緊張するって言うか…いや!アタシ別に緊張してないし!する意味分かんないし!いつも通りだし!

 戸惑いの中で色々想うことのある柊だったが、グッと歯を食いしばり、気合を入れた。

「はい。チョコ味のクッキーにしたから、そこまで甘くないと思う」

「あ、はい」多少動揺を見せたが、カイは、柊からクッキーの入った包みを受け取った。「あの…ありがとうございます。大切にします」

「……ハッ」カイの反応がなんか面白く感じ、柊は笑った。

「大切にしないで、ちゃんと食べてよ」

「は、はい!」


     十六夜へ


「いっくんは、今日チョコもらえた?」

「ぐっ…嫌味かよ。てゆうか、いつまでも『いっくん』とか呼ぶなよ。恥ずかしいだろ」

「いいじゃん、何て呼ぼうが私の自由で。それに、ずっと『いっくん』だったから、今更変えるのもおかしいでしょ?」

「別におかしくないと思うけど…。俺のことより、お前は誰かにあげたのか?」

「え、私?…ううん」

「何でだよ?お前のチョコ欲しいって、クラスの男子が騒いでたぞ」

「知らないよ、そんなの。……私のことより、やっぱりチョコ一個も貰えなかったんだ」

「うるせぇな。お前に関係ないだろ」

「関係あるよ。幼馴染がかっこ悪いと、私まで恥ずかしいでしょ」

「悪かったな。迷惑ばかりかけるかっこ悪い俺で」

 男がそう言うと、二人の会話が止まった。

 会話が無いまま歩き続けていると、今の二人のように並んで建つ二人の家が見えて来た。

 家が近いのを確認すると女は、おもむろにカバンの中からピンク色の包みを取り出した。

 それは、チョコレートだった。

「はいこれ。可哀想ないっくんに、今年一個目のチョコレートだよ」

 押しつけるようにチョコレートを渡すと、女は、家まで走っていった。

 閉めた玄関の扉に背中を付けると、女は溜め息をついた。

「はぁ~。いつになったら、素直に渡せるんだろ」

 十六夜と篝火による寸劇第二幕を見ていた柊は、言う。

「アイツには、いつ渡せばいいの?」

「どうしようね?なんか、楽しそうだから話しかけ難いよね」と榎。

「きっと、冴えない男と、そんな男の内面で良い部分を知っている学年でも結構モテる女のストーリーだね。きっとこの後、学年一のモテ男が女の方に告白したりして、男が悶々としたりする展開が待っているよ」と楸。

「つーか、設定は分からないけど下校中だよな?なんでスーツでサングラスかけた男が、普通に幼馴染と下校してんだ?」

 椿は、また冷ややかにつっこんだ。


     雛罌粟へ


「いやいやいや。冷静に考えると、おかしいだろこれ?」

 自室でバラの花束片手に、五十嵐は言った。

 拳王・ゴリラから用意されたバラの花束を渡された時、五十嵐は気付いた。

 これはおかしい、と。

「この前はおめぇ、ジャ〇アン映画版の原理だとか言って真に受けたが、よく考えたら有り得ないだろ。なんで俺があの小娘に花渡す?気色わりぃ、冗談じゃねぇ」

 しかめっ面した五十嵐は、嫌がった。

 怒りの矛先を拳王・ゴリラに向けているワケではない。一度やると承諾したのだから、拳王・ゴリラを恨むことはお門違いであると、五十嵐は分かっていた。

 つまり五十嵐は今、一度やると言ったことを当日になってやりたくないと反発しているだけなのだ。

「しかし父上、もうヒナさんに話も通してあるのだが…」

「マジかよ!なんて?」

「『父上が渡したいものがあるから来てくれと言っていた』と」

「あ~、じゃあ間違いだったことにすればいいんだな。なら、『ちょっとした爆弾をイタズラ心から渡そうと思ったが、良心が痛むのでやめた』ってことにする」

「だが、父上。それはそれで怒られそうだ」

「何でだ?ヒステリーか?」

 目前に迫るイベントから逃げ出そうと必死に考える五十嵐だったが、妙案が思い付くこともないまま、このとき一番聞きたくなかった音を聞いた。

 コンコンッ。

 ドアをノックする音に、五十嵐は怯える様に反応した。

「すまんが父上。俺は、ここまでのようだ」

「そんなこと言わねぇで、助けてくれ」

「五十嵐さん。入りますよ」

 雛罌粟の声がすると、拳王・ゴリラは「では、御武運を」と逃げるように部屋の出口に向かった。

「あら、ゴリ君」

「おお、ヒナさん。俺はもう帰るが、ゆっくりしていってくれ」

 そう言って帰る慌てた様子の拳王・ゴリラに違和感を覚えた雛罌粟だったが、深く気にも留めず、「それで、渡したい物って何ですか?」と五十嵐に訊いた。

「あ?何っておめぇ、そりゃ…」

 やりたくないイベントが始まっても、五十嵐はまだ渋った。

 何で俺が?ジャ〇アンも花は渡さねぇぞ、きっと。

 だが、このままの空気に耐えられないというのもまた事実だったので、五十嵐は覚悟を決めた。

「それ、おめぇにやるよ」

 テーブルの下に隠していたバラの花束を取り出し、それを投げ渡して五十嵐は言った。

「えっ?」

「勘違いすんなよ。なんか、どっかの国では今日この日に男が女に花を渡す風習があるとか言って…気まぐれだ」

「五十嵐さん…」花束を受け取った雛罌粟は、五十嵐の目を見て言った。「気持ち悪い」

 雛罌粟の目は、おぞましい物を見ているようであった。

「うるせぇな!俺だってテメェのしていることが気持ち悪いって分かってるよ!」そう語気を荒げて言う五十嵐に、とたんに後悔の念が押し寄せた。「あ~あ、こんなことならおめぇ、黙って小言言われてた方がまだマシだっつんだ」

 五十嵐がそう言うのを聞いて、「あっ、そういうことですか」と雛罌粟は理解した。

「たまにでもイイ顔しておけば、日頃の悪習を大目に見てもらえると思ったんですね」

 非難するように言う雛罌粟に、「ったりめぇだろ!」と五十嵐は断言した。

「はぁ~」

 雛罌粟は、溜め息をついた。

 後悔してグチグチ愚痴を言っている五十嵐を見て、また溜め息をつく。

 しかし、花を見ていたら、自然と笑みが零れた。

「五十嵐さん。後で医務室の方まで来てくださいね」

「あ?」

「バレンタインのチョコあげますから」

「いらねぇよ!」

「来てくださいね」

 強く念を押す雛罌粟の圧に負け、五十嵐は「……あぁ」と生返事した。

 五十嵐の返事に満足すると、雛罌粟は出口の扉を開けた。

「お花、ありがとうございました」

 笑顔でお礼を言う雛罌粟に、無理して作った笑顔で五十嵐は返す。

「すぐ枯れますように」


     親友へ


 寸劇を繰り返す十六夜と篝火だったが、それも終わり、榎と柊は十六夜に、篝火は劇中でチョコを渡した十六夜以外の男メンバーにチョコを渡した。

 チョコの受け渡しが一通り終わると、その場は解散となった。

 今公園には、榎と柊しかいない。

「それじゃあ柊さん、高橋さんの分 お願いしていい?」

「うん」

 自分の代わりに渡してほしい、と榎はチョコを柊に差し出した。

 事前に了承し、今も快諾した柊だったが、差し出された小袋を見て、それを受け取れずに疑問の目で見ていた。

 榎の持っているチョコが入った小袋が、二つあったからだ。

 疑問を持った柊の視線に気付いた榎は、言う。

「どうしようかと思ったけど、女の子同士で渡す友チョコっていうのもあるって、やっぱり渡したいなって。…えへへ、一つは柊さんに。受け取ってください」

 榎の話を聞いて、驚く柊だったが、「アタシも」と持っていた紙袋から包みを取り出した。

「アタシも、榎ちゃんに。こういうのしたことないから、どうかなって思ったけど…その、変な意味じゃなく、友達として『好きだよ』って伝えたかったから」

 二人は、交換するようにチョコを受け渡した。

「「ありがとう」」


     レイラへ


「チョコもらったんだろ?椿のくせに、三つも!だったら、俺にもその幸福を分けろよ!」

「っせぇ!つーか、出てけ!」

 バレンタインのチョコを求める亡霊・レイラに取り憑かれた椿は、一人二役で口論していた。

「嫌だ!俺は、チョコを食べないと成仏できない!椿が出ていけ!」

「俺の身体だよ!なんで俺が出なきゃならねぇんだ!」

「部屋にゴキブリが出ると分かったら、もう理由は無く追い出すでしょ」

「誰がゴキブリだ!ゴキブリはお前だろ!」

「あ~、分かった。分かった、椿」

「何が?」

「とにかく、チョコ食べよう。そうすれば、俺満足」

 そのレイラの提案に、椿はしぶしぶ納得した。感覚を共有できているのであれば、自分がチョコを食べるのに支障無く、レイラの要求も満たされると思ったからだ。

 しかし、榎のくれた小袋の中に、『たぶん、レイラ君へ』と書かれた包みがあり、これをどちらの主導権の下で味わうかで、二人はまだしばし言い争いを続けることになる。


十六夜と篝火の寸劇は、意味不明だけど楽しく書いています。


作中の映画などのパロディネタに関しては、私の趣味や時々のブームが影響しています。わからないという方や、それ変じゃね、バカにするななどと思われた方は、スミマセン。




さて、突然ですが話が変わります。

この『天使に願いを(仮)』を、日頃より読んでくださっている方、まことにありがとうございます。短い番外編が多いからテキトーに読んでるぜ、という方もありがとうございます。とにかく、読んでくださる方には、感謝の気持ちでいっぱいです。

さて、第二部という仕切りを設けてから、何か違和感はありませんか?

そうです、やたら番外編が多い、のです。ざっとカウントしてみたところ、66話あって、11話 (前後篇でカウントは分けない)しか本編がないのです。番外編ばっかだ…。「分ける意味あるのか」などの疑問には、「どうなのでしょう?」という曖昧な態度を取らせていただきます。とにもかくにも、本編がないのです。

これには、(惰性で続けているだけという以外に)ちゃんと理由があります。

第十七話は、とある特別なキャラクターが登場したり、実在の歌 (作中ではぼかしている)を使用したりと、かなり自己満足の要素が強い話になっているので、投稿をためらっています。

第十八話は、後にも先にも影響のない話ではあり、大筋も考えているのですが、ただ単に書けていません(おいっ!)

第十九話。これが、大きな問題です。第二部の仕切りとも言っていい話なのです。実は、カイの登場後から、大まかな話の流れはできていました。しかし、しっかりと書きたいな等と悠長なことを言っていたら、篝火や石楠花が出てきて、番外編に逃げ、ここまで来てしまった次第です。それなのに、なんと、その先の話として、第二十話はできてしまっています。


話を一度、整理しましょう。

十九話は、節目の話である。節目の前には、十七話と十八話がある。節目の後には、第二十話がある。しかも、その第二十話だけが投稿可能な段階、あと一歩となっている。


なんてこったい。


第二十話に関しては、そこまで十九話の影響は受けていません。ですが、やはり十九あっての二十みたいにはなっています。しかし、十九を読まなくても別に…。


とりあえず、需要があるかどうかは置いといて、第二十話は投稿しようと思います。そこまでモヤモヤ感なく読めるようになってあるつもりですので、宜しければ読んでやってください。


第二十話の前書きでも、注意書きとして似たようなことを書きます。

それと、そこには『第二十話までの空白の時間にあった変化』についても書くつもりです。



私のいい加減な性格によって、読んでくださる方に不快感を与えてしまうことを、ここにお詫びいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ