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天使に願いを (仮)  作者: タロ
(仮)
74/105

番外編 宿命と書いて「さだめ」

ついに、あの秘密が解き明かされます。


「もう…ダメだ……」

 力尽き、カイは倒れた。

 固く握っていた右手も、ゆっくりと解けていく。

 今まであったものは何処へ消えてしまったのかと不思議に思う程、身体に力が入らない。

 頭に、痛みが走った。

 その痛みを、カイは知っていた。しかし、その痛みを久しぶりに感じたカイは、その痛みへの対処法を忘れてしまっている。

 まさかまたこの痛みを感じることになるとは、そういう後悔も薄れるほど、頭が痛む。

――なんだか眠くなってきた……

 意識が途切れそうになった刹那、カイは、頭に別の痛みを感じた。

 今までの痛みが内から来る痛みだとしたら、今度の痛みは、外から来た痛みだ。

 その痛みとは?

 その答えは、目の前にあった。

「何が『もうダメだ』だよ?つーか、人付き合わせといて、勝手に寝んな」

 そう言ったのは、椿だった。

 痛みの正体は、椿に頭を叩かれたから、だった。

 椿からの叱咤を受け、カイは、しぶしぶ手から零れ落ちたシャープペンシルを拾い直す。

 そしてまた、教科書とノートに向かい合う。

 カイは、勉強していた。



 高校生の頃は、小テストに中間・期末試験、なんなら反則スレスレの抜き打ちと多くのテストがあった。更に、高校三年生になろうものなら、倒しても何度でも姿形を変えて甦っては学生たちの前に立ちはだかる、模試という名の敵もいた。大学一年生となったカイは、そんなテスト漬けの学生生活から解放されるのでは、と考えていた。

 しかし、現実はそんなに甘くない。

 大学生になっても、試験はある。

 日本の大学は、「入るのは難しいが、出るのは簡単だ」とも言われることがあるように、やることさえやれば卒業することは可能だ。しかし、その「やること」、つまり単位を取得するためにやることは、当然避けては通れないモノとして学生たちの前に立ちはだかる。

 単位を取得する方法は、履修している授業や担当教師によっていくつかに分かれる。

 その中でメジャーとなるのは、論文を提出することを除けば、やはり試験だろう。

 一年を前期と後期に分け、その期末の試験だけで単位評価をする場合もあれば、中間試験を設けて期末と併せて評価する場合も、または何度かの小テストも評価の対象に加える場合もあるだろう。

 とまあ、色々と大学の単位取得や試験について述べてみたが、ここで言いたいのは一つ。

 単位を取得するのに関係ある試験を目前に控えているカイが、勉強に苦しんでいる。

 それだけのことだ。

 しかし、他人にはそれだけのことであったとしても、当のカイにとってはそれだけのことと済ませられない位、深刻な問題である。どれくらい深刻かと言うと、恥を忍んで椿に助けを求める位に深刻であった。

『試験が立て続けに俺を襲うんだが、俺一人じゃどうしようもない!手ぇ貸してくれ』

 それが、椿の所に届いたカイからのメールだ。

 いくら周囲からバカと言われていようが、大学二年生の先輩である椿に、それこそ藁にもすがる思いで、カイは助けを求めた。

 その助けを求めるカイの声に、椿は応えた。

 理由は、「しゃーねぇな。任せろ」と楸が勝手に椿のケータイを使って返事をしてしまったためだ。椿本人は全くヤル気無いが、乗り掛かった船と言うこともあり、しぶしぶ付き合っている。

 そして、カイのための勉強会が開かれた。

 場所は、大学構内にある図書館。その中にある、簡単な防音設備を備えた部屋だ。本来は、ゼミ生が集団発表の準備や打ち合わせに使うためなどに設けられた部屋なのだろうが、集団で勉強することに使っても咎められることは無い。図書館内にいくつも設けられている個人向けの勉強机と違い、他と隔離された空間ならば多少雑談しても周りに迷惑をかける事が無いので、椿は、そこを勉強会場に選んだ。

 椿は、図書館の一階にあるカウンターで手続を済ませ、二階にある一室を借りた。

 部屋を借りる時に「さすが、二年にもなると権限が違うぜ」とカイは感心して言ったが、「一年でもちゃんと申請すれば借りられるよ」と椿に溜め息交じりに言い返されていた。

 カウンターから鍵を借り、入った部屋は、十人は優に入れるだろう大きさの部屋だった。長テーブルと椅子が置かれていて、壁には黒板が、部屋の隅にはモニターとして使用することを推奨されているのだろうテレビもあった。

 その部屋に、椿と楸、カイの三人が入った。

 そして、アドバイザーとしての呼ばれた椿監視の下にカイは勉強を始めたのだが、すぐに「もう…ダメだ……」と音を上げていた。



「何が『もうダメだ』だよ?」そう言って椿は、机に突っ伏したカイの頭を叩いた。「つーか、人付き合わせといて、勝手に寝んな」

「仕方ねぇだろ。勉強、苦手なんだよ」

 そう泣き言を言うカイだが、手から零れ落ちたシャープペンシルを一応握り直した。 

 しかし、再び教科書・ノートとにらめっこするが、そこに書いてある文字は読めても、内容が理解できなかった。このノート、俺が取ったんだよな?そう疑ってしまうほど、書いてあることに関する記憶が無い。だが、やっぱりこの字は自分の字だ、と思うと、カイは、教科書とノートを睨みつける。

「この授業は、うん、少し難しいんだよ」

 誰にでも無く、カイは言った。

 そして、別の教科書とノートをカバンから引っ張り出し、「やっぱこっちから勉強するわ」と言って、そちらの勉強を始めた。

 だが、試しにやってみた勉強も、なかなかはかどらない。

 どうしたらこの『勉強出来ない迷路』から抜け出せるのか、カイは、椿に質問しようとした。勉強の仕方を、それと出来たら教科書に書いている内容を分かり易く、俺に教えてくれ。そう言おうとしたカイだが、やめた。椿に教わることを今更屈辱に感じたワケではないが、人が勉強しているという目の前でマンガの週刊誌を読んでいる男に声をかけ、そいつが自分を下に見ながら面倒くさそうにあれこれ教えてくることを想像しただけで、腹が立った。

 だから、椿に助けを求めるのはやめた。

 助けを求めるなら、楸だ。

 カイがそう思ったのは、ほんの一瞬だった。

 何故なら、楸も本を読んでいたからだ。足を組んで真面目な顔して本を読む楸の横顔は、まるで難しい専門書や詩集を読んでいるような雰囲気さえある。しかし、読んでいるのは児童向けの絵本だった。それも、懐かしがって内容を振り返ろうと一気に読むのではなく、一ページ一ページ真剣に目を通している。

 読み終えた薄い絵本をぱたんと閉じ、ふぅと息を吐き出すと、楸は、自分に視線を向けているカイに「あれ?勉強は?」と訊いた。

「やってるよ!」とカイは、楸に語気を荒げて言い返す。「てか、人が勉強してんのに、絵本読んでんじゃねぇよ!気が散るだろ!」

「それは、俺の読書が気になってしまう位、カイが勉強に集中出来てないって証拠だよ」

 楸にそう平然と言い返されたカイは、勉強に集中し切れていない事は事実だった為、言い返す言葉が見つからなかった。

 そんなカイを見兼ねた楸は、「大丈夫」と言った。

「何が大丈夫なんだよ?」とカイは、不満げに訊ねる。

「勉強を教えるとなると、俺も自信無いし、椿なんて真っ先に戦力外通告されるでしょ」

「誰が戦力外だよ、クソ天使!」

 そんな椿の怒声を無視し、楸は続ける。

「そこで、俺は考えた。勉強教わるなら、女教師がいい」

 楸が何を言いたいのか理解できないカイは、「で…?」と話の先を促した。

「だから、呼んじゃいました、女教師。榎ちゃんと柊、もう少ししたら来るって」

「はぁ?」

 突然の教師の追加に、カイは、戸惑いの声を上げた。しかも、それが例えば十六夜ならば嫌悪感を示すだけで大した反応ではなかったのだろうが、柊の名前が出たことで、戸惑いを一層大きくしていた。

「ちょっ、待てよ!榎さんはまだしも、柊さんは勘弁してくれ」カイは、必死にそう言った。榎なら多少恥をかくことになるが勉強を教わる相手として適任と思えるカイも、柊だけは嫌がった。その理由は、「柊さんにバカだって思われたくねぇ!」ということだ。

「大丈夫。お前はバカだ」と椿は、マンガを読みながら言った。

「それにさ、柊に隣で勉強教えてもらえば、今よりはヤル気も出るんじゃないの」

 その楸の声に、拒否反応を示していたカイの動きがぴたりと止まった。

 カイは、楸の言う様なシチュエーションを頭に思い浮かべていた。

 柊さんが、俺の隣に座る。柊さんが近くに居るだけで、部屋の空気がさわやかになる。柊さんが、「だからここは…」と教えてくれる時、無意識に髪を耳にかける仕草。もし教えてもらったことをすぐに理解出来たら、「すごい!やればできるじゃない」と誉めてくれる柊さん。もしかしたら緊張で頭が回らない自分は、想像の中から排除する。

「柊さん、来てくれるのか?」

 カイは、顔を赤らめながら楸に訊いた。

 カイの中で、柊に会えること、それが何よりも勝った。



「おじゃましま~す」

 榎が、控えめなあいさつとともにドアを開け、椿達の待つ勉強部屋に入ってきた。その後から、初めて入る大学の図書館に戸惑い「何ここ?本がいっぱい」と妙に気持ちが高ぶり、辺りをキョロキョロと見渡していた柊が入ってきた。

「楸。アンタは何読んでんの?」

 柊は、一人机に向かって勉強するカイとその向かいでマンガ本を読んでいる椿の二人から距離を置いている楸に、そう訊いた。

「本」と楸は、本に視線を向けたまま素っ気なく答える。

「何の本よ?」若干イラッとして、柊はまた訊く。

「挿絵が割と多い本」

「それただの絵本じゃない」楸の読んでいる本の中身を見た柊は、呆れる声を出した。「何でそんな児童向けの本が大学にあんのよ?」

「さあ?結構いろんな本があったよ」

 そう言うと、楸は、柊との会話を打ち切り、次に生き返った時の猫の運命はどうなるのだろうか、と読書に集中した。

 柊も、これ以上楸と話す事も無いので、ここに来た本題に入る。

 二人には事前に、楸から「カイの勉強に付き合ってくれ」という旨のメールが届いていた。だから榎は早速、「ちょっと借りてもいい?」とカイに断りを入れてから、カイの持ってきた教科書に目を通した。その榎の動作につられ、柊も、他の教科書に目を通す。

 柊が来てくれたことに喜んでいたカイも、いざ勉強を教わると自分のバカさが恥ずかしくなり、黙ったまま俯いている。

 楸は絵本、椿はマンガ本、榎と柊は教科書を読み、カイは黙って俯いているので、勉強部屋が沈黙に包まれた。

「何これ?」そう言って沈黙を破ったのは、柊だった。「大学ってもっと専門的な事学ぶんじゃないの?」

 カイの持ってきた教科書は、数学や英語といった高校の授業科目のような物だった。法律や経済といったような小難しい勉強をしているのだと思っていた柊にとって、今 カイの目の前にある勉強科目は、予想外だった。

 柊のその疑問に、椿が答えた。

「他所はどうか知らないが、ウチの大学の方針として、一年の内は広く基礎知識を身に付けさせることにしているらしいんだよ。大学入って本格的に勉強しようと思っている分野以外にも、言語や法律、物理、教育、化学、いろんな分野を広く浅く勉強させるんだ。だから、履修する授業によっては、カイみたく高校レベルのことを学ぶこともある」

「へー」大変なんだな、そう思いながら柊は、持っていた本を読み進めた。

 カイに教える為にというよりも好奇心から教科書を読み進めていた柊だったが、何となく、見ていたページに書いてあることを理解しようと思った。

「榎ちゃん。この、いんすーぶんかいって、何?」

「えっ……?」

 柊のその質問に、勉強部屋の空気が少し凍りついた。

 楸ですら、読んでいた絵本から顔を上げた。根拠はないが何となく、柊は勉強できるものだと思っていた。

 だがしかし、柊は、高校レベルの勉強が出来なかった。



 ペーパー試験で計る学力に関して、意外なことに柊は、五人の中ではカイと並んで最下位クラスにいることが判明した。

「柊、おべんきょ出来ないの?」

 にやにやと笑みを浮かべながら楸は、柊に言った。

「うっさい!」と柊は、イライラしながら言い返す。「別にいいでしょ、こういう勉強できなくても。戦争を知らない人間が武器の扱い方を知らないように、アタシには、こんな勉強は必要なかったの。そんなの知らなくても、死なないもん」

「勉強嫌いの小学生みたいな言い訳だな」と椿は、ボソッと小声で言った。

「てか、楸!人のことああだこうだ言っといて、アンタはこういう勉強できんの?」

 柊のその強く責めるような質問に、楸は、たじろぐことなく平然と「うん」と頷いた。

「教科書軽く読めば、感覚的にだけど、問題は解けたよ」

 その楸の発言の真偽のほどを確かめようと柊は、椿に視線を向けた。

 楸の言っている事は本当か? そう無言で訊いている。

 その無言の問い掛けに椿は、頷いた。

「そいつの言っている事は、ムカつくが本当だ。教科書に載っているレベルの練習問題なら、すぐに解いてみせたよ」

 椿がそう言うと、悔しくて「う~」と唸っていた柊は、「じゃあ椿は?」と言った。

「椿は、勉強できるの?」

 柊が訊いた相手は、榎だった。本人に訊いても「もちろん」と答えるだろうから、質問の答えを知っていそうな第三者である榎に、柊は訊いた。

「椿君?」と榎は、思い出しながら答える。「椿君は、学校の試験だったら結構出来てたよ。中間や期末で赤点取りたくないって、必死に勉強してたから」

「…必死って?」

「えっとね……例えば英語なら、ワークブックから問題が出るって言えば、問題番号を聞いただけで答えを言える位にワークブックの問題をやりこむし、教科書の英文から問題が出るって言えば、何ページにもわたって英文を丸暗記するぐらい勉強してた」

「ホントに?それで、結果もイイの?」

「うん。学年でも割とトップクラス。…でも、模試とかになると、事前に具体的な準備が出来ないからって点数が上がらないって、いつも悩んでいたようっ」

「喋り過ぎだ」

 顔をうっすら赤くした椿が、片手で頬を摘まむようにして榎をヒヨコ口にし、黙らせた。

「てことは、椿の学力は仮初めのメッキってことだな」

「ハッ。大した事無いね」

「椿って絶対、試験前日に徹夜して勉強したのに、『俺、全然勉強して来なかったわぁ。ヤバいわぁ』とか言うタイプだよね」

 そんな椿を嘲笑する声が、あちこちから上がった。

「っせぇ!つーか、さっさと勉強しろよ!」

 椿のこの一言で、「そりゃそうなんだけど、いいじゃないもう少しお喋りしても」となっていた空気が、しぶしぶ勉強する雰囲気へ戻って行った。



 第一科目・歴史

「あれでしょ?殺すだの待つだのホトトギスってやつ」と柊。

「歴史って聞いて、まず出てくんのがそれかよ…」と呆れる椿。

「てか、何で794の時はウグイスなんだよ?統一しろよ」と不満げなカイ。

「語呂合わせの覚え方に文句付けてんじゃねぇよ」と言う椿とは別に、柊は「ウグイス?」とカイの発言に興味を示した。

「ウグイスが鳴くと、平城京です」とカイ。

「違ぇよ!平安京だ、バーカ!」

「じゃあ、何でウグイスが鳴けばソレなの?」

 柊にそう訊かれたが、椿は答えられなかった。

 一方その頃、楸は、読み終えた絵本を榎に勧めていた。


 第二科目・英語

「昔、つっても中学の時なんだけど、宿題が分かんねぇから質問しに行った時に親父がさ、『ここは日本だから、日本語が出来ればいい』って言ってたんだよ。だから、親父から教わって『I don’t speak English』て言葉だけは完璧に言えるぜ」と自慢げに言うカイ。

「いや、完璧じゃねぇよ」椿がつっこんだ。「その場合、『don’t 』じゃなく『can’t 』な」

「マジかよ?」

「で、その意味は?」

 柊に訊かれ、「マジかよ?」と、和訳が必要かよ、と椿は呆れたが、「カイのだと、『私は、英語を話さない』で、俺のは『私は、英語を話せません』だ」と答えた。

「だったら、カイのも間違いじゃ無くない?」柊は言った。「カイのお父さんの理屈だと、『ここは日本だから、日本語を喋れ』ってことでしょ?なら、『話せない』じゃなく、信念を持って『話さない』であってるんじゃないの?てか、どっちにしろ英語喋れてるし」

「しらねぇよ。ウダウダ言ってねぇで、黙って勉強しろ」

 口答えするやつらに疲労感を覚えながら、椿は言った。

 一方その頃、榎は、楸から勧められた絵本を読み終えた。

 楸は、別の絵本を探しに行っていて勉強部屋にはいなかった。


 第三科目・数学

「数学って言うくせに、数字より英語の方が多いな、おい」と教科書に文句を言うカイ。

「英語じゃねぇよ。ただのアルファベットだ」と椿。

「てゆうか、数学の問題のくせに、問題文は長いし数字じゃなくアルファベットだしで、何がしたいのかはっきりしない。こういう芯がブレブレなの、どうかと思うよ?」と柊。

「俺も、そうやって文句ばっか言って勉強しないの、どうかと思うよ?」

 絵本に目を落としたまま楸が言うと、「「「お前は黙ってろ!」」」と、椿、カイ、柊の三人から強く言い返された。

 その三人の怒声に、絵本読んでる場合じゃなかった、と榎も陰で反省した。


 テスト対策会議

「持ち込み可の試験って、あれ、俺らのことなめてんのか?」と不満気なカイ。

「持ち込み可って?」

 その柊の疑問に、カイが答えた。

「持ち込み可ってのは、例えば教科書やノート、A4一枚のメモ用紙なんかを試験に持ち込んで、それ見ながら回答していいってことです。持ち込みが認められない試験もあるんですけど、授業によっては、先生の指定した物なら持ち込んでいいってのがあるんです」

「へー」と柊。「カイ、それなめられてるよ。情け掛けられてるよ、アンタ」

「ですよね」

「ちげぇよ」と椿が、異議を唱えた。「持ち込み可の試験は、そうする分 難しくなってんだよ。教科書持ってきていいってのは、ちゃんと読み込んでいるのかを確認するためで、ノートを持って来てもいいってのは、ちゃんと授業を聞いているかを確認するため、A4一枚とかなら、要点をまとめて学習できているかを。だから、別になめてるわけじゃねぇよ」

「てか、対策立てるんじゃないの?」

 絵本を読んだまま、楸はボソッとこぼした。

 絵本を読むのはやめようと決意して会議に加わろうとしていた榎だったが、最後に読んだ仕掛け絵本の仕掛けを上手く片付けられず苦戦し、結局、そうこうしているうちにテスト対策会議は終わってしまった。



 カイ (ついでに柊)の勉強は、それなりに進んだ。

 高校レベルの内容なら何とか教えられるという榎が勉強の輪に加わり、それが「椿よりも全然分かり易い」とカイ、柊の両名から共に好評であり、格段に勉強がはかどった。

 御役御免とされた椿は、絵本を読む楸と一緒に、勉強の輪から離れてマンガを読む。

 そして、この日の勉強はここまでとした時、片付けをしている中で柊は、カイに言った。

「良く分かんないけど、頑張ってるんだね。アンタ、せっかく榎ちゃんに教えてもらったんだから、本番もしっかりね」

 その言葉は、カイにとって何時間何十時間の勉強よりずっと効果があった。

 より一層気合を入れ直したカイは、この後の試験で、自分でも驚く位の結果を残す。


「ところで、椿君は勉強いいの?」榎は、帰り道 椿に訊いた。

「いいんだよ、俺は」

 焦りの無い椿の声で、榎は察する。

 椿は、A4一枚なら持ち込み可という試験が控えているのだが、習った内容全てをA4用紙一枚に書き込み、両面が極小の文字で真っ黒になったメモ用紙を持って試験に臨むつもりでいる。

 そして試験本番、書き込んだ文字が読み難いことに苦戦した椿だったが、何とかなった。

 普通に覚えたほうが早いんじゃないのかな? そう思った榎だった。


前書きで大げさなこと言ってスミマセン。


第一話で、椿は「勉強ができる」発言をしていました。しかし、作中ではバカ扱いされることが多い。実際のところはどうなのか、というのがこの話の書きたかった部分です。



椿は、「赤点は嫌だ」とすごく強く思っているので、勉強はします。「赤点もやむなし。だって釣りにはまってしまったから」と考えるカイと、そこで異なります。



ペーパー試験なら、楸と十六夜と椿が上位、榎と篝火は中くらい、柊とカイは下位だと思います。IQというのか、勉強とは違う知能でいえば、楸と十六夜、あと柊も上位の方、榎は真ん中、篝火は低くて、椿とカイが最下位争い、そういうイメージですかね。楸は真面目にやりたがらない、十六夜は単にふざけたがるので、上位に関しては疑問があるかもしれませんが、そういう理由です。


こういう設定ですが、あまり気にしないでください。

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