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天使に願いを (仮)  作者: タロ
(仮)
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番外編 角の生えた動物が引くソリに乗っている赤いデブは、私たちの前を通り過ぎた


 クリスマスというのは一年の最後に待ち構える、人によってはひゃっほうでドキドキでウフフな幸せな日、人によってはざけんなくそったれ「つーか、クリスマスって結局、キリストさんの誕生日なんでしょ?俺らが盛大に祝ってやる義理、どこにあんだよ?」な日。そんな天使と悪魔 両方の顔を持つような日を数日後に控えたある日の出来事。

 榎と柊と篝火の女三人は、ファストフードのチェーン店であるハンバーガー屋にいた。

 榎と柊が一緒に街に居て、「そろそろお昼にしよっか」という話の流れになった所、偶然篝火と出会った。そしてそのままなんとなく三人で昼食をする感じになったので、近くにあって値段的にも手頃なハンバーガー屋に入った。

 榎と篝火は、ハンバーガーを一~二個とポテト、ソフトドリンクの乗ったトレーをそれぞれ持って、空いている席に座った。そこに、二人から少し遅れて、柊も来た。

「あなたね…そんなにハンバーガー集めてどうする気?」篝火は、柊の持つトレーを見て、引き気味に言った。篝火が引くのも無理はない、柊のトレーの上には、一人分とは到底思えないほどのハンバーガーが、山となって積み重なっていた。「ハンバーガー投げでもする気なの?それとも、たくさん集めてハンバーガー神でも呼び起こすつもりなの?」

「別にどうするもこうするも、食べるに決まっているでしょ。ハンバーガーをコレクションする意味分かんないし、てか、ハンバーガー神って何よ?」

 柊は、そう言って篝火を冷たくあしらいながら、榎の横に座った。



 榎たちが取った席は、四掛けのテーブル席だ。榎と柊が並んで座っている為、篝火の隣が自然と空席となっている…はずなのだが、現在、空席はゼロとなっていた。

 篝火が、二人分の席を占領し、本来の空席部分に半分倒れていた。辛うじて腕で支えている為倒れてはいないが、今にも倒れそうな勢いだ。

「どうしたの?篝火さん」榎は、心配して声を掛けた。

「行儀悪いからちゃんと座りな」

 口いっぱいに頬張っていたハンバーガーを飲み込み、柊は、篝火を注意した。

「はいはい、ちゃぁんと座りますよ」と口だけ言い、体勢を変えない篝火は、弱りきった声を絞り出し、「あ~、具合悪い」と洩らした。

「ハッ」と柊は、二個目のハンバーガーの包みを開けながら、短く笑った。「どうせいつもの二日酔いか何かでしょ」

「ハッ」と篝火は、なんとか笑い返した。「何かもなにも、二日酔いですよ」

「だったらもっと、あっさりした物の方が良かったかな?」榎は申し訳なく感じた。

「いえ、そんなことはないわ」篝火は、微かに首を横に振った。「私もハンバーガー食べたいと思っていたの。それを説明する為にも、ここで私の回想篇、スタート」

「なんか始まったんだけど…」

 と柊は、冷めた目で篝火を見ながら、二個目のハンバーガーの最後の一口を食べた。

「あれは、今日の午前中のことだった」篝火は、語りだした。「目が覚めた私は、頭に痛みを、胸には不快感を覚え、『あ~、二日酔いだわぁ』と思いました。気持ち悪いと思いながらも、何か食べたいと思った私は、素うどんを食べました。私は、素うどんが好きです。あっさりしていて簡単に作れるので、私は素うどんが好きです。素うどんもきっと、食べられるなら私に、と思っているでしょう。そんな相思相愛の関係にある私は、彼の長いものを一気にすすりあげます。すすりあげる時に彼から飛び散る汁を顔で受け止めながら、私は彼を舌で味わいます。すすりあげるときに思いがけず一気に口の中に入り込み、私の口の中が彼でいっぱいになってしまい、たまにむせ返ることもあります。が、それも含めて愛だ、と私は思っています」

「ストップ!」

 柊が声を荒げるので、篝火は「何よ?」と不満そうに語りをやめた。

「何か卑猥!」

「卑猥に感じるのは、あなたの頭の中がエッチな事でいっぱいだからよ」

 篝火は、平然と柊に言い返した。

「ハァ?何でよ!大体、何で素うどんのことを彼って呼ぶのよ?」

 と柊は、語気を荒げて言い返した。

「それは、そう想う位に素うどんが好きっていう、愛の大きさを表してみたのよ。てゆうか、話の続きしていいかしら?」そう言うと、「もういい!」と反対する柊を無視して、篝火はまた語りだした。「そんな感じで、今朝も私は、彼を口いっぱいに含み、飲み込みました。お腹も心も満足した私ですが、そこで、あることに気付きます。私は素うどんが大好きな為、常日頃から冷凍うどんを欠かさないように努めているのですが、そちらにばかり注意を払っていたら、冷蔵庫の中身は冷凍室の冷凍うどんしかありません」

「ハッ!バカじゃないの」と五個目のハンバーガーを食べる柊。

「いくら彼を愛しているからと言っても、朝と昼続けて二回戦、というわけにもいきません。そうやって満足できるほど、私は安い女じゃないつもりです。そして、何か食べに行くか、何か食べる物を買って帰ろうか、そう思って外に出たところ、あなた達に逢いました。で、たまにはアメリカ野郎も良いかと思い、ついてきましたとさ」

 篝火は、語り終えた。

 その話を、榎は、赤い顔を下に向けて黙って聞いていて、柊は、篝火を蔑むような冷めた目を向けながら聞いていた。

 アメリカ野郎を食してやろうと思ったのだが、思った以上に体調が優れない篝火は、暫らくの間、うな垂れていた。

 その間にも、柊は十個目のハンバーガーを食べ終え、山を小さくした。



 榎が一個のハンバーガーを完食するまでに、柊は十個食べ終わる。それと同時に、少し体調がよくなった篝火がハンバーガーの包みを開けた時には、柊はすでに一個完食している。

――あなた、それだけ食べて、何でそんなに細いの?

 篝火は、そう訊こうと思った。

 しかし、やめた。

 うっかりしていると、「何でそんなに細いの?そんなに食べた栄養が脂肪にもならず、かといって胸にもいかないって、どんな身体しているの?」と柊の逆鱗に触れるようなことを言いかねないので、やめた。

 その代わりに、ふと思った事を、篝火は言った。

「そう言えば、私たち三人だけで会うって、初めてじゃない?」

 唐突に篝火に言われ、榎と柊は思い返してみて、「そうだね」「そうかも」と応えた。

「でしょ?」と篝火は、少しだけ声を高くした。「いつもならあなた達の隣に椿君やら楸君やらがいるけど、今日はいない。男を交えないで、女子だけで集まる。これが噂に聞く『女子会』かしら?」

「いや、違うと思うけど」

 と女子会経験の無い柊は、控えめに否定した。

 しかし、篝火は、初の女子会 (らしきもの)にすっかり舞い上がっていた。

「あ、じゃあ、私が司会やってもいいかしら?」

「うん。お願いします」

 同じく女子会経験の無い榎だが、篝火の言動に嫌悪感を示すだけの柊と違い、少し乗り気だった。

 榎がやるとなれば、柊にも声を荒げてまで止める理由は無くなる。

 柊が十五個目のハンバーガーを食べ終えた頃、女子会 (らしきもの)が開かれた。



「それではトークテーマですが」と篝火は、お粗末で声に覇気も張りもない司会者として場を仕切り始めた。「単純に『好きな人』についてなんて、そんな小学生でもできるようなトークテーマだとつまらないから、もうクリスマスも近いという事で『今まで経験したクリスマスの過ごし方』について、で行こうと思います」

「はーい」と笑顔で榎は返事した。

 柊は、返事をする代わりに十七個目のハンバーガーにかじりついた。

 その反抗的な柊の態度、篝火は、司会者として見過ごす事は出来なかった。

「それじゃあ最初は、柊ちゃんね」

「ハ?」突然指名され、柊は、黙った。黙って口の中のハンバーガーを咀嚼し、それを飲み込むと、言った。「アタシ、そんなに特別なクリスマス過ごしたこと無い」

 柊は、不機嫌そうにそう言った。

「えっ、ホントに?」

 と篝火は、意外だという反応を示した。

 榎も、何も言わないが、意外そうな目で隣の柊を見ている。

「うん」柊は、頷いた。「誰か恋人と過ごしたってこともないし、基本一人」

 柊は言って、溜め息をつきたくなるぐらいの寂しさを覚えた。

 本当なら高橋と一緒にクリスマスを過ごしたい、というのが柊の本心だ。だが、柊には、自分から高橋を誘う勇気は無い。また、高橋は、クリスマスという特別だろう日に、部下に声をかけて食事に誘う事を基本しない。変に気を遣わせないように、特に女の柊にはプライベートを優先して欲しいという思いから、高橋はクリスマスの日、大人しくオッサン同士で呑みに行くのが通例となっていた。

 だから柊にとってクリスマスは、気まぐれを起こした暇な楸が誘って来ない限り、基本的にいつも通りの何も無い平日と大差なかった。

 我ながら寂しいクリスマスに、柊は心の中で溜め息をついた。

「意外」と篝火は言う。「あなた、顔はいいから引く手数多だと思うけど…」

 柊は、篝火の言う「顔は」の部分に引っ掛かり、片眉をピクッと動かした。しかし、榎にすぐに「うん。美人だし優しいし、こんなに素敵なのに」と言われ、「そ、そんなことないよ」と照れながら、否定した。

「そうよね。あとは、もう少し胸があれば、言うこと無いのに」

「うっ、うっさいわよ、アンタ!」

 柊は、一度消えかけた篝火への不満という怒りを爆発させた。手は出さないが、鋭い睨みを利かせ、篝火を脅す。

「あ、あれね…もう少し弱さや隙みたいなのも必要かもかも」柊におそれおののきながら、篝火は言った。そして、柊が榎に抑えられているのを見て安堵すると、「楸君とは、クリスマス一緒にいたりしないの?」と訊いた。

「楸と?」と柊は、尚も不機嫌そうに言う。「ハッ。何でアタシがあのバカと一緒にクリスマス過ごさなきゃいけないのよ」

 そう言いながら柊は、楸に誘われたクリスマスのことを思い出していた。

「柊。柊もどうせクリスマス一人でしょ?寂しい者同士、一緒に過ごさない?」

「柊ぃ。クリスマス前だって言うのに、フラれてさぁ。だからさ、二枚買ってた映画のチケット無駄にしたくないから、一緒に行かない?」

「柊!サンタ捕まえに行こう!」

――あのバカ、何でアタシがいつも一人だって決めつけるのよ!てか、サンタ捕まえに行こうって、何?行ったアタシもバカだけど、アレは何がしたかったの?

 楸とのクリスマスの思い出に不満を爆発させ、最終的には呆れた柊は、「アタシの話はもういいでしょ。それより、アンタはどうなのよ?」と篝火に話を振った。

「私?……私も、思い返してみれば良い思い出は少ないわね」

 ポテトを口にくわえ、食べるでもなくなめるでもない、ポテトをしゃぶるように吸いながら、篝火は話し始めた。

「いつだってそう。付き合っていた人は、私とは遊びの関係だった。でも、私も悪魔堕ちの身だから、それでもいいと割り切っていた。身体だけでも、私を求めてくれる事が嬉しかった。でもね、でも…クリスマス前になると、みんな私の前からいなくなるの!クリスマスは大切な人と、保険に掛けられているだけの私は、彼に大切な人が見つかればすぐに捨てられる。大切な人が見つからなくても、保険の私とクリスマスを盛大に祝ってくれる人なんていないから、やっぱり捨てられる。うぅ…寂しい……思い出すと、悲しくなってきた」と涙ぐむ篝火は、「誰よ?クリスマスなんてトークテーマにしたのは?」と悲痛さの滲む声を出した。

 だが、柊は「アンタでしょ」と冷たく答える。「てか、それだったら何でトークテーマを『今まで経験したクリスマスの過ごし方』にしたのよ?」

「ぐすっ…それは、あなたたちの話を聞けば、それで妄想できると思ったから。一人寂しい夜に妄想するネタとして、あなた達の話を参考にしたくて。でも、期待はずれだった」

「それどういう意味よ!」

「柊さん、落ち着いて」

 そう言って、榎は柊を抑えた。

 その様子を、ポテトをしゃぶりながら見ていた篝火は、「そういえば」と声を明るくした。

「まだ榎ちゃんの話を聞いてなかった。まだ希望があった」

 話を聞くだけで済むと思っていた榎は、「えっ、私?」と突然回ってきた話し手と言う役目に戸惑った。隣の柊を見るが、柊も「榎ちゃんは、どういうクリスマスを過ごして来たんだろう?」という興味から、目を輝かせている。

 これは逃れられない、と意を決し、榎は言った。

「あの…私も、そんなに特別なクリスマスを過ごした事はなくて…いつも通り一人で…」

「あら、そうなの?」とがっかり篝火。

「あ、でも…きょ、去年は、椿君と一緒でした」

 榎は、熱くなった顔を抑えながら、そう言った。

 榎の告白に、一瞬場は静まり返った。だが、榎の言葉の意味を頭で認識できるとすぐに、柊と篝火は興奮する。

「えっ!そうなの?」あのヘタレ、男見せたの? と興奮する柊。

「も、もしかして、クリスマスという聖夜が、性の夜と書いて性夜?サンタも気を遣って玄関先にプレゼントを黙って置いて行き、トナカイは赤い鼻を一層赤くすると言う、あの性夜?」と具合が悪い事なんて忘れて興奮する篝火。

「うっさい!アンタ興奮し過ぎ!」と柊は、篝火に注意した。

「ちょ、ちょっと待って!」と榎は、興奮する二人に待ったをかけた。落ち着けよ、と。「そんなに篝火さんが想像するようなことはありませんから!」

「じゃあ、どんな性夜?」と篝火。

「あの…椿君が『榎。彼氏出来た?もしいないなら、クリスマス、一緒にメシでも喰うか?』って言ってくれて、で、私も喜んで『うん』って言って。そしたら当日、椿君、夕方までお店の方の手伝いしてたらしいんだけど、その後に会ってくれて。それで、一緒に夕飯の買い物に行って、椿君が私の家で料理作ってくれて、一緒にご飯食べました。その後、お互いに用意していたプレゼント交換したの」

「おぉ」と感動すら覚える柊。

「それで、そのまま性夜?」と身を乗り出す篝火。

「その後は、一緒にテレビ見て、それでおしまい」

「「えっ…?」」

 篝火はともかく、柊ですら、それぐらいの関係ならキスまで発展するのではないかと思っていただけに、どこか拍子抜けした。

 しかし、榎は、それでも満足で、嬉しそうに頬を赤らめていた。

 だが、篝火は納得いかなかった。

「ホントに、それだけ?」

「うん」

「プレゼントは、何貰ったの?」

「マンガのキャラクターだっていう、人形」

「…性夜じゃなく、ただの聖夜?」

「うん」

「何それ?」と篝火は、くわえていたポテトを、トレーの上に放り出した。「話で聞くだけでも結構いい感じなのに、キスもなし?」

 篝火のその言葉に、不本意ながら柊も同意見だった。

「椿は、いつも通りの感じだったの?」

「うん。いつもの椿君だったよ」

 榎は答えた。

 榎と椿は、付き合っていない。それは、二人を知る者には周知の事実だ。

 だからこそ、柊や篝火は思う事がある。

 榎は、それでも満足なのか?

 これは目の前の榎を見れば、十分幸せそうだと窺い知ることが出来るから、いいだろう。

 問題は、椿だ。

 椿は、何なの?

 二人は、その難問を解こうとした。

 しかし考えたが、椿がヘタレだ、と言う事以外、柊も篝火も分からなかった。


クリスマス、続きます。

よかったら、次も続けてどうぞ。

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