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天使に願いを (仮)  作者: タロ
(仮)
63/105

番外編 西へ行く遊客たちの記し

日常から離れた、少し特殊な番外編です。


「それじゃあ、今度は『西遊記』をやるらしいから、その配役を決めるよ」

 楸は、言った。

 場所は、壁の一面が鏡張りになった何処かのダンススタジオらしき部屋。そこに、椿、榎、楸、柊、カイ、十六夜、篝火の七人が集められていた。

「ちなみに、敵役は高橋さんたち大人組がやってくれるそうなんで、俺達は、それ以外を担当します」

 しかし、一人立って話す楸のことなど、座っているみんなは無視して好き勝手に喋っていた。

「つーか 俺、別の孫悟空しか知らねぇ」と椿。

「私もそうね。七つの球集める方しか…」と今日は少し元気な篝火。

「僕も」と元気よく同意した十六夜。「思い出すなぁ。アレ見た後、毎回筋トレしたり気を練ってみたりした」

「私も」と篝火。「そう言えば、私のウチにたしか、四星球あった気がする」

「うそ!僕んちにはたしか、七星球あったよ」

「ホントに!じゃあ、あとは五つね」

「うひゃほぅ!」

 このままでは冒険に出そうな十六夜と篝火を冷めた目で見ながら、柊は言った。

「榎ちゃんは、『西遊記』読んだ事とかある?」

「ううん。なんとなくは知ってるつもりだけど、ちゃんと本を読んだりってことは一度も…。柊さんは?」

「アタシも…。そもそも、桃太郎みたいな昔話より触れる機会少なくない?」

「だよねぇ」

「カイは?」と柊は、いきなり話をカイに振った。「男の子の方が、どっちかっていうと読んでそうじゃない?」

「い、いや、俺も全然」とカイは、好きな人との会話に緊張し、落ち着きなく答えた。「あんま本とか読むガキじゃなかったんで…。読んだとしても、パラパラめくりながら挿絵眺める程度だし」

「ハッ。それ、読んでるって言えるの?」

 柊は、呆れるように笑った。

『西遊記』そのものの内容について話す者はいなかったが、それでもみんな、何かしら『西遊記』に関する話題で盛り上がっていた。

 だが、

「うるさぁい!」

 好き勝手に談笑する他のメンバーに対し、楸はしびれを切らして叫んだ。



 仕切り直し、配役決めを始めた。

「決まらなかったらクジ引きにするけど、それはあくまで最終手段ね。出来れば話し合いでちゃんと決めたいから」

 そう楸が説明すると、カイが質問した。

「どっから決めるんだ?」

「う~ん。やっぱ、主役から?」

「だったら、はい」十六夜が手を上げた。「僕、沙悟浄やりたい」

「うん。主役ね、話聞いて」

 楸は、優しくあしらった。

「つーかさ」と椿が気だるそうに言う。「後で嫌々決める前に、先に決めといた方が良いポジションがあるだろ」

 この椿の発言で、場の空気が変わった。どこかヤル気のないメンバーが気を引き締めた。

 その場に居たほとんどの者の中に、一刻も早く、たとえ端役でもいいから決まってしまおう、アレだけは避けたい、という気持ちが湧いた。

「はい」と椿。「俺、孫悟空がいい」

「はい」と楸。「俺、三蔵法師がいい」

「ダメだ」椿は、楸が三蔵法師に成る事を拒んだ。「お前が三蔵法師になったら、どうせ始終 俺の頭の輪っか締め付けんだろ。榎、お前やれよ」

 椿に推薦された榎は、「えっ、私?でも私、頭丸める勇気ない」と尻込みした。

「んなもん、ヅラかぶれ、ヅラ!」

「じゃあ、榎ちゃん」と柊が笑顔で提案した。「榎ちゃんはアタシと一緒に団子屋の娘やらない?二人で、団子屋の看板娘」

「団子屋って、時代劇? それ西遊記に要らなくね?」と椿はやんわりつっこんだ。

「うん、ダメだね」と楸も、柊の意見を拒む。「榎ちゃんはともかく、まな板娘ならまだしも、柊が看板娘っていうのは納得できない。それに、団子屋の娘はピンチに陥る宿命なのに、柊みたいに屈強な団子屋の娘じゃ…」

「何?…ダメ?」

 と言う柊からの恐怖心を覚える程の圧力に屈し、「いや、OKっす」と楸はあっさり折れた。

「じゃあ俺、その団子屋の客やる」とカイは意気揚々と挙手する。

「おい!団子屋ばっか賑わって、肝心の旅の一行がうまんねぇよ!つーか、さっきも言ったけど団子屋要る?」と椿。

「そうだよ!」と楸は、とうとう決めなければいけないポジション、みんなが触れずに誤魔化してきたあの役について、切りだした。「誰が猪八戒やるの?柊?」

「何でアタシよ!」と柊は、嫌悪感をむき出しにした。「猪八戒って豚でしょ?」

「だからじゃない。柊はもう少し、いろんな所に肉付けた方が良いよって言う…」

「ぶった斬るよ?」

「あ、豚だけに」

 冗談めかしてそう言ったら、楸は柊に殴られた。

「榎…は、やめとけ」と椿は、思い付いた考えを自分で否定した。

「えっでも、役作りで太らなくても良いなら…」

「いや、やめとけ」

「じゃあ、私やろうかな」と手を上げたのは篝火だった。

 だが、その篝火のヤル気に、ほとんどの者が難色を示した。

「お前は…うん。やめろ」と椿。

「何で?私、別にメス豚でも構わないわよ?」

「だからだよ!お前がメス豚とか…なんかダメだろ」と椿は、この場で一番私生活がすれていそうな篝火の立候補を取り消させると、今いるメンバーの中で唯一小太りの男の方を見た。「つーか、十六夜。お前やれよ」

「嫌ですよ」と十六夜は即答した。「僕、真っ先に『沙悟浄が良い』って言いましたよね。僕は、河童になって伝説になりたいんです」

「ただの寸劇で どんな河童伝説 残す気だよ!」

 配役決めは、難航した。



 結局、猪八戒役が決まらないまま、時間は流れた。

 そして、その中で椿が言った。

「つーか、『西遊記』って何すんだ?」

 その今更な根本的疑問に対し、なんと即答できる者はおらず、誰もが頭を悩ませた。

「ハッ。旅するんでしょ?」と柊。

「うん。なんか、西に行くんだよね」と榎。

「たしか目的地あったよね。どこだっけ?」と楸。

「西って言ったら、やっぱ大阪とか京都じゃね?」とカイ。

「そうね。沖縄だと南だし」と篝火。

「バカだろお前ら」と椿。「中国から出発してんのに、それだと東だ。つーか、そもそも日本じゃねぇよ」

「わかった!愛の国、ガンダーラ!」と十六夜。

「や、違う気がする」と椿。

「でも、愛の国って素敵」と篝火。

「あ、そうだ!天竺だ!」と楸は、目的地を思い出せた。

 が…。

「天竺って、何処だ?日本?」とカイ。

「だから日本じゃねぇよ。海外だろ」と椿。

「あの世?この世?どの世?」と十六夜。

「外国なのに和名なんだね」と榎。

「イギリスのことを英国って言う、みたいな感じなんじゃない?」と柊。

「つーか、そこ行って何すんだ?」と椿。

「違うわよ 椿君。天竺に行って何かするんじゃない。天竺に行くまでが冒険なの」と篝火。

「じゃあ、その冒険は、何が目的なんだ?」とまたまた椿。

「……自分探し?」

「えーっ?」

 みんな、『西遊記』のことを何も知らなかった。

 そして、不穏な空気に包まれた中、楸が言った。

「『西遊記』……やめない?」

 全員一致で、『西遊記』をやるのは中止になった。



 某所にある、楸の言うところの大人組が集まる別スタジオ。

 そこでも配役決めをしているはずなのだが。

「ラスボスって何だ?」と高橋。

「さぁな。牛魔王とかか?」と五十嵐。

「金閣・銀閣っていうのがいるらしいけど、何処ら辺で出ればいいのかしら?」と雛罌粟。

「俺は、テキトーに仙人とかで下界を見下ろすだけでいいが…」と石楠花。

「ちょっといい?神崎君が用事あって今は来られないんだけど、『本番には絶対行くから、俺はフランケンシュタインでよろしく』って言ってたよ」と白木支部長。

「ああ、あいつはそれでいいよ」と呆れる五十嵐。「どっか別会場で永遠に出番待ってろ」

「で、ラスボスは?」と高橋。

「さあ?」

「そもそも、どんなお話なの?」と雛罌粟。

「さあ?」

「仙人って、何しても良いのか?」と石楠花。

「爆発シーンは何回ある?」と五十嵐。

「フランケンシュタインは?」と白木支部長。

 敵役をするはずの大人組にも、誰も『西遊記』を詳しく知る者はいなかった。 


『桃太郎』『シンデレラ』と続いて何かやろうと考え、日本・西洋 (イメージ)と来たから『西遊記』を選んだのです。が、よく考えたら話の内容をぼんやりとしか知らない、という絶望的ピンチに。それでも無理矢理やったら、こうなってしまいました。やってみて、やっぱり駄目だったとうオチの予定が、そこまですらも行かないなんて…。


グッダグダな話でスミマセン。

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