第五話 天使は恋のキューピッド?(前篇)
楸 Ⅰ
アイツが…帰って来た。
姿を消して、数年。
最後の戦いで死んだと言われていたあの男が、新たな風を巻き起こす。
「……楸?」
「楸さん!」
男の帰還に湧く仲間たち。
再開した仲間たちは驚きと涙、そして大きな笑いに包まれる。
……しかし…幸せな時はすぐに終わった…。
突如として現れた新たな敵!
彼らの作った見たことのないウィルスに侵される世界!
次々と倒れる椿。
「ぐはぁっ!」
「俺も…ここまで、か…」
なにを企むか、柊。
「なにしてんだよ!おい、柊ぃ!」
「楸。アンタはここで消えて…」
絶望に満ち、誰もが生きることを諦めた時、あの男が立ち上がる。
果たして敵の目的は?
誰が味方かも信じられない世界で、男は何を信じ…闘うのか。
誰も見たこと無い天使の仕事が今…始まる!
『天使に願いを(仮) ザ・ムービー ~天使と涙~』
「……ごめん、ね…ひさぎ…ちゃん……」
「い、いやぁあああ!」
誰が願い、誰を救うのか…?
はい、カット!
……あれ?これ良くない?かっこよくない? この映画予告カッコイイな。
どうも、楸です。職業は天使。そして今は新鋭の映画監督、に成り切った遊びをしています。この形式で映画予告をやっても分かりにくいとは思われるが、想像力を働かせてみてください。何とかなるはずです。もしできない場合も自分の想像力は決して責めず、前向きに何度でも挑戦してみてください。決して俺のことは責めないでください。
実はこの前、DⅤDをレンタルして映画を観たんだけど、それに入ってた洋画の予告がすげぇカッコ良かったんだよ。本編の内容自体は目が覚めた時には終わってたから良く覚えてないけど、メニュー画面についてた特典の他作品の予告がカッコ良かったってことだけは覚えてる。俺はDⅤDで映画を観る時、映画館みたいに最初にいろいろ予告を観てテンション上げる派だから。その予告はなんか迫力があって、鬼気迫る感じがあって、ドーンってくる感じがあったんだ。そんで、散々盛り上げといて最後の方はBGMもなく悲しい感じのシーンを映す。いやぁ~カッコ良かった。あれは映画を観たくさせる効果があるね。 って、それが予告だっつの!なんてセルフツッコミしちゃう位テンション上がった。
んで、そのあとも別な映画の予告を何本か見て興奮しちゃったのよ。
だから俺もそんな映画予告を作ってみたくて、今ここで空に浮かびながら構想を思い描いていたワケ。もちろん主役は俺の。
いやぁ~。これもなかなかカッコ良くできたな。
……んでも、これを実現するのは難しいな。完成度は高いと思うんだけど、今度はそれが仇になってるな。俺の登場を盛り上げるための設定も、俺が一度なにかの戦いに巻き込まれて死にかけないと、っていう縛りになるな。それも何年間も音沙汰なしで。それに悲しさを表現したくて入れた最後のシーンも、俺が苦しんでる、もしくは最悪瀕死状態みたいだし。そんな痛い思いも苦しい経験もパスだな。でも、なんか俺もああいう映画予告みたいなカッコイイことしたい。
やっぱりアクションやサスペンスは実現するのに限界があるんだ。そうだよ、ジャンルを変えよう。できれば派手なアクションもしたいけど、それは諦める。変えた別のジャンルで、少しアクションを取り入れる程度にしよう。
なににしようか?なにがいいかな?
俺は、暫し頭を悩ませた。
……そうだ。ラブロマンスにしよう。
ラブ系のストーリーなら少ないリスクでハイなリターンも望める。主役、俺。ヒロイン、榎ちゃんのラブストーリーなんてどうよ。いいんじゃね?
細かいところは行き当たりばったりでいいから妄想してみよう。
はい、アクション!
交わるはずのなかった二人の視線が交差した時…物語は走りだす。
『劇場版 天使に願いを(仮) ~天使と人間の恋~』
ふとしたきっかけで出会った二人。
何気ない日常を共に過ごしていくうちに、いつしか二人は、互いに密かな想いを寄せる。
天使と人間という大きな壁を乗り越え、想いを伝えようとした、その時。
「ごほっ……ぐっ…う……」バタッ。
「…しゅう?………楸!」
生と死という越えられない壁が二人の前に。
カット!
あれ?なんでこうなった。また俺死んじゃう感じ?
せっかくの映画だから障害は大きくって思ったらこうなっちゃったよ。死にたくはないってのに。
ん~でも、どうしよ。恋愛映画の定番っていったら恋人のどっちかが不治の病でしょ?そんで、タイムリミットがある短い人生の中で愛し合うんでしょ?愛し合うのはいいけど、俺はそんな辛そうな役は嫌だし、榎ちゃんにやらせるのも申し訳ないな。
……あ、そうだ。
どうせ映画の中の話なんだし、俺がその役を引き受けよう。そんで最後はハッピーエンドにしたいから、榎ちゃんの涙か口づけで不治の病が奇跡的に治っちゃえばいいんだ。やっぱラブには奇跡のパワーだ。それだ!そうしよう。チューしよう。…………照れるな。
そんなワケで、テイク2!アクション!
「ごほっ……ぐっ…う……」バタッ。
「…しゅう?………楸!」
生と死という越えられない壁が二人の前に。
「別れよう」
自分の余命が短いことを知り、男は女を遠ざけようとする。
女は全てを理解した上で、男に愛を伝えようとするが…
「いい加減にしろよ!もうほっといてくれ。お前のことなんか、もう好きでも何でもないんだよ!」
女のことを思ったつもりでついたバカな嘘。
離れ始める二人の心。
刻々と訪れる別れの時。
なにを企むか、柊。
「楸。アンタの幸せはこれでおしまいよ」
想いの行方は…。
最高のエンディングがここに。
カット!
う~ん…いまいち。
俺がどの段階で榎ちゃんと付き合っているのかが分かりにくい。「別れよう」ってことはこの前には付き合ってるの?だったら告白のシーンもやりたいよ。それに役者が少ないと思ったから柊を出してやろうとしたのに、アイツじゃラブストーリーは無理。いったい何を企んでるんだよ、ホント。椿は出てないけど、いっか。アイツは助演なんかじゃなくモブキャラ扱いってことでいいや。てゆうか、結局キスシーンをうまく入れられてないし。予告でキスシーンは取り上げすぎかな?でもできればチューしたいし…。
あぁ~なんか上手く行かないな。
良く考えてみたら、俺って恋愛映画観たこと無いんだよ。予告はちらっと見たけどそれじゃあやっぱダメだ。監督たる者、他の作品にもちゃんと目は通しておかなきゃな。
あ、そうだ!
作りものじゃダメだ。モノホンの恋愛を見に行こう。
仕事として人間の恋愛をサポートしてハッピーエンドを作ってやるんだ。天使が人間の恋愛に関与している部分とかピッタリじゃないか。そろそろまたノルマも溜まってきたし、高橋さんに言われる前にたまには自分から仕事して、あの人を驚かせてやろう。そして誉めてもらおう。
そうと決まれば早速、モブキャラ君に連絡だ。手伝ってもらおう。働き次第ではエキストラから助監督ぐらいにしてやってもいい。
よし、いくぞ!
作者取材のため仕事に行きます。
椿 Ⅰ
『カンヌを絶賛させるために喫茶店に集まれ!』
なんだ、このメールは?
日曜日の昼下がり、俺は家にこもって世界を救う勇者として活躍していた。テレビ画面の中で俺の分身として活躍したアイツは、盗賊として生計を立てていたのだが、ある日、敵の策略で国家の反逆者とされることで壮大な物語に巻き込まれる、それぞれの思惑・思想のある仲間と協力し合い、傷つき倒れることがあっても決して諦めずに闘い続け、世界を救った。あの姿はまさしく勇者であり、俺の理想とするヒーロー像に近いものがあった。そして今さっき、俺の活躍によってあっちの世界には平和が訪れた。が、しかし、またゲームをスタートさせれば世界は闇に包まれてしまうワケで、俺が必死に作った平和は仮初のものでしかなく、また俺の勝手で世界が混乱してしまうのかと思うと、勇者として世界を救ったのに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
たしか冒険を開始したのは金曜日の夕方からだったはずだ。ほとんど不眠不休で世界を救う旅をしていたら、いつのまにか土曜日は俺の意識を通り過ぎて日曜日になっていた。もしかしたら今週は土曜日がないのかもしれないと思ったが、カレンダーには確かに金曜と日曜の間に土曜日が段を分かれてではあるが存在している。それに、俺の記憶の片隅には昨日発売した週刊誌を買った記憶も微かにだがある。実際に物もここにある。前までコンビニから善意で貰っていた週刊誌は、いつもは月曜日に発売されるものなのだが、今週は明日の月曜日が祝日だということで、昨日つまり土曜日に発売された。この週刊誌は天使の仕事をしてからは毎週、俺の報酬として月曜日に天使から貰うことになっている。しかし、昨日は発売日だというのにアイツは持ってこなかった。だから自分で買いに行ったはずだ。メールで催促をするという考えはなかったらしい。そうやって待ち切れずに買った週刊誌なのだが、俺は世界を救うという使命に駆られていたので、ほとんど読んだ記憶がない。もしかしたら本当に読んでないのかもしれない。だから世界を仮初の平和にした勇者がひと眠りした後に読もうと思った時、天使からメールが来た。天使の仕事用のケータイが受信したくもないメールに苛立つように震えている。
眠いというのにアイツからのメールを開いたのは、俺がダークヒーローとして本当に救うべき世界はこっちだということに気づいたからであって、別にあの勇者に憧れて世界を救いたくなったとかいう気持ちは一切ない。これも仕事なんだ。
だが、天使からのメールの内容は、勇者として世界を救うというモノでも、仕事をするというモノでもなかった。
『カンヌを絶賛させるために喫茶店に集まれ!持ち物は一切不要。椿の場合はヤル気も少しで充分だ。緊張しなくていいぞ。とりあえず待ってるから早く来いよ。あんまり監督を待たせるな』
なんだ、このメールは?
カンヌを絶賛させるって何をするつもりなんだ?カンヌっていったら国際映画祭か?まさか映画でも撮るつもりだとか言うんじゃないだろうな。映画を撮るにしても何をするにしても、なんで俺のヤル気は少しでいいんだよ。俺は主人公だぞ。つーか、監督って誰だ?
一つの世界を救って眠いのに天使の遊びになんか付き合っていられない。
申し訳ないとは思わないから断らせてもらおう。
『やだよ。ばか』送信。
やっと戦士の休息をとってHPを全回復できる。そう思いながらベッドに倒れ、入り枕に顔を埋めた時、またケータイに着信があった。
『早く来い。ばか』
カコカコカコッ
『だまればか。つーかおれいまねむい』送信。
ヴーッ、ヴーッ
『漢字変換もできないのか、バカめ。そんな椿には全部ひらがなで送ってやらないと内容が全然理解できないのか?しゃーねぇな。かんぬをぜっさんさせるためにきっさてんにあつまれ!もちものはいっさいふよう。つばきのばあいはやるきもすこしでじゅうぶんだ。きんちょうしなくていいぞ。とりあえずまってるからはやくこいよ。あんまりかんとくをまたせるな。これでいいか?』
うぜぇ!
何がしたいんだよ、あのバカは!こっちは眠いってのに、なんでこんなクソみたいなことに付き合ってんだ?もう無視だ。今日はもう寝る!
ヴーッ、ヴーッ
『ちなみに、来なかった場合は俺が椿ん家に行くから。なんだったら柊も誘ってお邪魔するよ』
カコカコカコッ
『今行くから待ってろ』送信。
天使だけでも家には入れたくないってのに、あの「聖なる堕天使」を名乗る限りなく悪魔に近いヤツまで来られたんじゃ俺の部屋がメチャクチャにされかねない。天使なのに人間を脅していいのか?
取り敢えず、眠気を覚ますためにも軽くシャワーを浴びて歯を磨いた。危うく忘れるところだったが、トレードマークのニット帽もしっかり被った。あんまりというか全く気乗りしないが行くとするか。
しかし眠い。喫茶店に着いたらコーヒー飲もう。
喫茶店に着いた。途中にあった公園のベンチが高級ベッドに見えたが、誘惑に負けずに一直線で来た。
喫茶店に入ると店のコにいつも通りコーヒーを注文した。小腹が減った気もするが、この店のメニューはコーヒーと、前に榎が食べたチョコレートパフェしか知らないので、その場での注文は諦めた。
天使はいつも通りの場所にいた。窓側の四人がけのテーブル席。今日もこの店には客が少ないのですぐに分かった。もし多少混んでいたとしてもすぐに分かるだろう。それは別に俺と天使が仲良しで、お互いがどこにいても心で通じ合っているからだとか、そんな気持ちの悪い理由ではない。アイツは今日も、浴衣を着て下駄履き、棒付きのアメを咥えているから、普通の人とは違う雰囲気を醸し出している。ちなみに普通の人と違うというのは、アイツが天使だからじゃなく、もちろんアイツが変人だからという意味だ。
「遅いぞ、椿」
俺に気付いた天使が、開口一番、非難の声を上げた。
そりゃあシャワーを浴びてから来たのだから遅くなって当然だ。だが説明するのも面倒だったので、「ヒーローってのは遅れて来るからいいんだってよ」とだけ言って席に座った。
「ヒーローだろうがヒロ君だろうが、監督のこの俺をこんなに待たせていいと思ってるのか?」
「お前が監督かよ…」つーか、ヒロ君って誰だ?
呆れた俺は、とりあえず何か食べようと思い、メニュー表に手を伸ばす。
しかし、立てかけてあるメニュー表に手を伸ばしたら、天使がそれをヒョイと横取りして自分側の椅子の上に置いて隠した。
「今日もこれやるのか?お前じゃなくて楸さんだってば」
「嫌ならやんなきゃいいだろ。メニューよこせ」
「ちゃんと名前を呼んでくれたらいいぞ。さん、はいっ!」
「…………」なんか食べるのは諦めよう。小腹は減った気がしなくなった。
俺は何もしゃべらないのに、天使はいつまでも耳を傾けている。昔、デパートの屋上で見たヒーローショーで、司会のお姉さんが「こんにちはーっ!」と元気よく言った後、観客にガン無視されても耳を傾け続ける姿には俺も子供ながら憐みを覚えた。その記憶がフラッシュバックしたこともあり、俺は固く口を閉ざす。
コーヒーが運ばれてきた。そのままブラックで飲んで目を覚ますのも良かったが、なにも食べられないとなると頭を働かせるための糖分が足りなくなる気がしたので、テーブルに備え付けの砂糖をスプーンで二杯入れた。コーヒーに入れるミルクが眠気に何ら作用するかは分からないが、俺のイメージで入れなかった。
「なぁ椿。ミルクは入れないのか?」
俺のコーヒーを見て、天使が訊いた。
「ああ。なんかミルク入れたら眠くなりそうな気がするからな。砂糖だけでいいよ」
「ふ~ん。変なヤツ」
別に変ではないはずだ。そういう天使のコーヒーはミルクも入れているようで茶色くなっている。そして、コーヒーをかき混ぜるために仕方なく入れたとは思い難い棒も入っている。こいつがいつも咥えている、アメの棒だ。何故か天使はコーヒーにアメを入れる。今も咥えている物とは別に一本アメの棒が入っている。あれはおいしい飲み方なのか、とはいつも思わない。天使が変なだけだ。
そういえば今日は俺だけが呼ばれたのか?
「なぁ天使。今日、榎は?」
「監督と呼べ!」名前じゃなくていいのか?
「…榎は?」
「監督と呼べないようじゃ、助監督にはなれないぞ」俺がいつ助監督になりたいなんて言ったんだよ。
「……榎は?」
「エキストラなら他にもいっぱいいるんだぞ」
「うっせぇよ!榎は今日来ないのかって訊いてんだろ!」つーか俺はエキストラなのか?主人公なのにっ!
「榎、榎って、そんなに榎ちゃんに会いたいのか?好きなの?」
「はぁあ?意味わかんね! ただ今日は呼んでないのかって訊いてるんだよ」
「今日は榎ちゃん、バイトだってさ。でも、これはこれでヒロイン不在のまま構想を練れるってことで結果オーライだよな。ヒロインには飾らない素の演技を見せてほしいし」ヒロインは榎かよ。
つーか、バイトで来れないってことを聞くのになんで時間かかるんだ?時間だけならまだいいが、なんでこうイライラしなくちゃいけない。やっぱりイライラを抑えるためにもミルク入れた方が良かったか?コーヒーのミルクにもカルシウムって入っているのか?
俺が今イライラしている原因の八割以上が目の前の天使にあるとは思うが、寝不足であるというのも少しは要因となっていると思ったので、早く帰って寝るためにも、天使に話の先を促す。
「今日は何するんだ?映画でも撮るってのか?」
もしそれだけだったら今日はこのまま帰ろう、そう思いながら訊いた。
「正確には映画予告を撮りたいんだけどな」
「はぁっ?」予告?
「いや、映画予告って短い時間でアレだけ人を興奮させて魅了するなんてすごいだろ。だから俺もそういう映画予告を作ってみたいと思うんだよ。もちろん主役は俺で」こいつが主役かよ。もし俺が主役だったら手伝っても良かったのに。
「映画予告がカッコイイってのには共感するが、だからって作るのは無理だろ。つーか映画本編はないのに予告だけ作る気かよ」
「いいだろ、別に。これも遊びなんだから」やっぱり遊びかよ!
これでハッキリした。今日は帰る。天使の仕事だというなら付き合っても良かったが、天使個人の遊びに付き合ってやるなんてごめんだ。しかし、天使にそのことを伝えると「何言ってるんだ?」と不思議がられた。
「誰が遊びに誘ってるんだよ。椿と二人で遊びになんて行くワケ無いだろ。今からやるのは、天使の仕事だよ」
そう言うと、天使はコーヒーを飲み干し、咥えていたアメを俺に向けてきた。
「さっきも言っただろ、構想を練るって。俺は、仕事を通して映画予告を作るためのアイディアを得ようと思っているんだよ。仕事を通してインスピだかインスパだかを得よう、ってね。だから、今からやるのは映画撮影なんかじゃなく立派に天使の仕事なの」
天使が公私混同しようとしていることには触れない。言っても無駄だと分かってるから。
それより、今から仕事するのか。仕事ならしょうがないと思っていたけど、いざやるとなるとダルい。
「なぁ。今日じゃないとダメか?」
俺はダメ元で訊いてみた。
「ダメだ」
ダメ元はいつもダメだ。
「なんでだよ。またノルマが溜まって高橋さんに怒られてるのか?」
「…ああ」
天使は一瞬間を開けて答えた。
俺が天使の仕事を手伝うようになってあまり日は経っていないが、それでも真面目にやることはやっているはずだ。少なくとも天使が一人でやっていた時よりは真面目なんじゃないかと思う。だがまぁ、不真面目な天使のことだから元々ノルマが溜まっていたと考えれば不思議でもないか。
「それにな、椿。報酬を貰っている以上ちゃんと働かないとダメだろ」
そう言われて思い出した。俺はこいつに苦情があったんだ。
「そういえば今週分の週刊誌な、あれ明日祝日だから昨日発売だったんだよ。教えてなかった俺も少しは悪いけど、報酬を払う側としてそんなことがあっていいのか?」
俺からの苦情に悪びれるそぶりも見せず、天使は平然と答える。
「おいおい。それは椿が悪いぞ。だが、どうしてもというなら高橋さんに直接言ってくれ。『テメーそんなんでいいのか?怠慢じゃないかよ』って」直接なんてどうやって言うんだよ。たとえ間接的でも、それなら引き下がる。こちらに落ち度が少しでもある以上、高橋さんに逆らうのは、なんか怖い。
「…まぁ苦情云々は置いとけ。とりあえず、俺はもう自分で買ってあるから今週号は報酬として要らないから、何か別なものくれ?」
俺が言うのを天使はニヤニヤ笑いながら聞いていた。
「分かった。高橋さんに、椿が『別な報酬をよこせ』って言ってたって伝えとくよ」
「おい、言い方に気を付けろ」
「そうと決まれば行くか、仕事しに。働かざる者、報酬なし。ってな」
そう言うと天使は立ち上がり、店を出て行こうとする。
「おい、頼むから高橋さんに変なこと言うなよ」
俺も慌ててコーヒーを飲み干し、天使の後を追おうとした。
コーヒーで、むせた。
公園に来た。もはや喫茶店→公園というのは天使と仕事をするときのお決まりのコースになっている。
今日は日曜日だからか、少しではあるが人がいる。ボールを蹴り合ってサッカーのような事をしている子供。ベンチに座っている高校生くらいの男子。この国の未来を語り合うかのように熱心に話し合っている中高年のおばさんたち。ああいうおばさんたちってホントにいるんだな、そんなことを思いながら、そんな人たちと離れた場所に、俺達はいる。
先日はここから柊とのバトルゲームが始まった。バトルというよりもいじめに近いそのゲームで開始早々柊が斬り裂いた地面は、きれいさっぱり元通りになっていた。天使の関係者もしくは苦情が届いた役所の方、どちらにしろ俺たちの知らないところで誰かが直してくれたようだ。
俺と天使は、バトルゲームを始めた時のように公園の中央ではなく、どちらかといえば隅っこの方にいる。今日もここから仕事をするために悩んでいる人間を探すのだ。
「んじゃ、早速やりますか」
そう言って天使は浴衣の袖口に手を入れ、白い人形を取り出した。天使の知り合いの五十嵐さんという天使が作った人形だ。そのまま人形を地面に座らせ起動させようとしているが…。
「ちょっと待て」
「なんだよ?」勘弁してくれといった面持ちの天使は、人形を持って立ち上がると、「早速出鼻を挫くのか…」と勢いを削がれたことで肩を落とした。
「いや、だって前に使った人形と違うだろ。あの青いヤツはどうした?」
前に天使の助けを求めている人、つまり何らかの理由で困っている人を探すといって使い、バドミントン少年を見つけた人形は、全身が青く目や鼻、口など顔のパーツの無い人形だった。だが今 天使が持っている人形は、顔のパーツが無いこと等ほとんど同じではあるが、頭部にシミのような汚れが少し付いているだけで全体的に白い人形だ。色違いだ。
「それって前に使った『天使を呼べ!叫べ!お前の気持ちをさらけ出しちゃいなよ、君 3号』じゃないよな?」
一度だけしか使っていない天使のアイテムの変化に、俺は敏感に反応できた。それなのに天使の反応は、俺を誉めるでもなく、面倒だという感情を顔中に浮かべている。
「そうだよ。これは『天使を呼べ!叫べ!お前の気持ちをさらけ出しちゃいなよ、君 3号』じゃなく、『天使を呼べ!叫べ!お前の気持ちをさらけ出しちゃいなよ、君 4号』だよ。はい」
それだけ言って天使はまた人形を起動させるためにしゃがんだ。
「ちょっと待てって」俺は、また天使を止める。「人形が変わったんならその説明をしてくれよ。つーか、もうモデルチェンジしたのかよ」
何故その人形を大事そうに抱えているのかと、その頭部の汚れについては 今日は訊かないでおこう。どうせくだらない理由だろう。余計なことはしたくない。
しかし、モデルチェンジしたことはスルーできない。
天使は立ち上がると人形をギュッと抱きしめながら説明を始める。
「前回 榎ちゃんに説明したからもういいだろ?その時にいなかった椿が悪い」
説明は説明でなく、「俺が悪い」の一言で終わった。
「前回って何時だよ?俺がいない時に勝手なことすんなよ」
「だって今からまた説明したら繰り返しになるよ?それでもいいのか?」
「俺にとっては繰り返しじゃないんだよ!いいから説明しろ」
天使は髪を掻きむしりながら「しゃーねぇな」と言い、今度こそ説明を始める。
「説明しよう。この人形は、前3号と違って色が変わるという新機能が付いた。起動の仕方等の操作方法など、他に変化はない。コイツはキャッチした相手の想いに合わせて色を変える。例えば、青色に変化したら相手は落ち込んでいる。緑色に変化したら身体の不調で苦しんでいる。ピンク色なら色恋沙汰で悩んでいる。こんな感じだ。この機能が付いたことで、相手の感情がどういった状態にあるかが分かりやすくなったし、面白い。…わかったか、椿」
天使は説明書のような紙を読み上げた。
「まぁ分かったよ。それで、なんでこんなに早くモデルチェンジしたんだ?」
天使は紙をしまうと、やれやれといった感じで首を振る。
「分かってないなぁ。前3号にはこれと言った欠点がなかった。完璧と思われていたからモデルチェンジしないまま数十年の長きにわたって使われ続けていた。だから3号の生みの親でもある五十嵐さんがこの4号を発表した時には誰もが驚いたよ。発表前に五十嵐さんが俺に教えてくれた時、俺は目を皿にしたね。なんでそんなバカなことをするんだ、3号の気持ちを考えたことあんのかよ、って思わず詰め寄ったよ。そしたら五十嵐さんなんて言ったと思う?」
「…さぁ?」自分から訊いておいて何だが、人形の開発秘話なんか興味無い。
「五十嵐さんさ、『お前は3号のことだけ考えているのかもしれないが、俺は違う。俺は1号から4号まで全てを自分の息子だと思っている。3号だけが特別じゃねぇんだ。3号には進化の余地があった。それを知っていて成長を妨げるのは親のすることじゃねぇだろ』って言ったんだよ。俺はそれを聞いた時、鳥肌が立ったね」
「へぇ~」まだ続くのか、これ?
「五十嵐さんはさ『天使を呼べ!叫べ!お前の気持ちをさらけ出しちゃいなよ、君』全てを愛していたんだよ。たぶんあの人はこれから先も進化の可能性を見つけたら5号、6号って作り続けるよ。でもそれは前機に愛想を尽かしたからじゃなく『天使を呼べ!叫べ!お前の気持ちをさらけ出しちゃいなよ、君』の成長を親として心から喜んでるからなんだよ」
「そうなんだ」もういいよ。つーか、なんで涙目になってんだ?
「俺は、自分のバカで浅はかな考えと、五十嵐さんの深い愛情に気付いて、その場で号泣して膝から崩れ落ちたよ。そして、五十嵐さんに抱きついた。五十嵐さんは、その深い愛で俺を許すように優しく抱きしめてくれたよ」
「…そうか」バカなことしてたんだな。
「でも世間は五十嵐さんのそんな想いを知る由も無くて、4号のことを3号に後ろ脚で泥をかけるヤツだと誤解して、受け入れてくれないらしく、あんまり売れてないんだって…」
天使は箱ティッシュを袖から出し、鼻をかむと説明を終えた。
感動している天使には申し訳ないが、その4号は売れなくて当然な気がした。前3号に欠点がない以上、わざわざ色が付く機能がついただけの4号に買い替えるメリットは無いだろう。そもそも五十嵐さんの話は感動するのか分からないが、所詮人形の話だ。そんな話を知っていても他の天使たちが愛着ある自分の3号を捨て4号に乗り換えることはないんじゃ無いのか。つーか、天使も大切な人形ならなんで早速頭部に汚れ付けてんだよ。
天使は鼻をかむと、ズズッと鼻をすすりながら箱ティッシュと一緒に鼻をかんだティッシュを袖口にしまった。汚いな。
「…ぐすっ。もういいよな。起こすぞ」
天使がそう言って人形を起動する許可を求めてきたので、俺は黙って首肯した。
天使は、鼻をすすりながら人形を地面に座らせた。そして「えいっ」と勢いよく人形にデコピンした。五十嵐さんは可愛い息子の起動方法を変えるつもりはないらしい。
人形は、地面に倒れた後ゆっくりと起き上がり、大きく伸びをしながら息を吐き出す。これは五十嵐さんのこだわりで付いている起動動作なのだそうだ。この直後に設定した範囲内にいる一番強く天使の助けを求める人間の想いをキャッチして、何色かに変化し動き出す。はずだ。
人形は、何かを探すようにキョロキョロと周りを見ながら、身体の色を変化させ始めた。
黄色だ。
周りに人がいることを配慮して天使がそうしたのか、それとも初めからそう設定していたのかわからないが、人形は小さな声で「うわぁー」と叫びながら慌てふためいている。どうやら何かしらのピンチに陥っている人がいて、その人の想いをキャッチしたようだ。
人形は慌てた様子のまま、対象の人間がいる所へ俺たちを導くために走り始める。しかし、俺はそれに続こうとしたのだが、天使がいきなり人形の行く手を遮り、持ち上げた。何をするのかと俺が訊ねるよりも先に、天使は人形にまたデコピンした。すると人形は白色に戻り、全身の力がなくなったようにダランとし、動かなくなった。
「おい、何してんだよ?」
「ん、強制終了」
強制終了された人形は、先ほどまでの慌てた自分をすっかり忘れたかの様にピクリとも動かない。愛がどうしたとか言ってたくせに強制終了の仕方までデコピンなんて愛がない。
「なんで強制終了なんかしたんだよ」
俺がそう訊くと、天使は、
「ちょっと訳ありでな。黄色はダメなんだ」
とだけ応えた。
どのくらい離れている所にいるかは分からないが、とてつもない危機に瀕している人間がいるかもしれないというのに無視するなんて、天使がそんなことをしていいのか。俺がそのことを追及すると、天使は「いいんだよ。そっちは他の天使が行くだろ。だいたい設定範囲を広くしすぎたから、遠くの人間だった場合、俺たちが駆け付ける前に事が済むかもしれないだろ」と言い、反省の色は人形と同じで全くない。いや、人形は白いし汚れも付いているから人形の方が色があるのか? まぁどうでもいいか。
天使は設定範囲を間違えたから狭くすると言って人形の首を回し始めた。どうやら首をひねることで設定範囲を変えることができるらしい。五十嵐さんの愛情がどういうものなのか、全く理解できない。
探索範囲を狭く設定された人形は、再び地面に座らされた。
天使はまた「えいっ」とデコピンして人形を起動する。
先ほどと同様に地面に倒れた人形はゆっくりと起き上がり、大きく伸びをして息を吐き出す。そして、またキョロキョロと周りを見回し、色を変化し始める。今度は緑色だ。緑色に変化した人形は、一度うつぶせに倒れ、這って進み始めた。悶え苦しむように前進する人形は、見ていて可哀そうになる。
俺は、病気かケガかで苦しんでいる人を助けようとは思ったが、何よりもまず目の前で苦しむこの人形こそ救うべきであると考え手を差し伸べようとした。しかし、俺の差し出す手よりも先に天使の手が伸びて来て人形をつかみ、持ち上げた。てっきり助けを求めている人間の所へ導いてくれる人形の足をしてあげるのだと思ったら、天使はまた人形を強制終了させるべくデコピンした。
「なんでまた止めんだよ!」
「緑もダメなんだ。それに見ていて可哀そうになるだろ」
天使が人形の汚れた頭部をなでながら言った。
「その人形にだけ慈悲の心を向けているが、同じように苦しんでいる人間がいることを忘れてないか?」
「大丈夫だよ。こいつらはどんな時でもああいう反応を見せるんだ。オーバーリアクションなんだよ」
つまり、オーバーリアクションではない場合もあり、実際に同じように苦しんでいる人がいるのかもしれないということか。しかし、俺たちが行ったところで病気とかだったら何ができるワケでもない。もし本当にピンチだったら自分の力で救急車を呼ぶなり勝手にしてくれ。そういうことにさせてくれ。俺は今日、眠いから遠くには行きたくないんだ。
天使はまた設定範囲を狭くするために人形の首を回している。けっこうな回数首を回しているから探索する範囲はだいぶ狭くなっているはずだ。あれ以上回したらこの公園内の人間しか探せない、または人形の首が落ちることになるんじゃないか、というくらい天使は人形の首をひねった。
また人形は地面に座らされ、作りの親が設定した起動という暴力を受け、本日三回目のダウンにもめげずに起き上がる。そしてキョロキョロと先ほどさんざんひねられた自分の首が動くのを確認するかのように周りを見回すと、色を変化し始めた。今度はピンク色だ。ピンクに変色した人形は頬に手をやってクネクネしている。照れている。
ピンク色になったということは、たしか色恋沙汰で悩んでいる人間の想いをキャッチしたことになる。ぶっちゃけ他人の恋愛なんかどうでもいい、強制終了するために、額が痛いであろうところ申し訳ないがデコピンしてやろうと思ったが、天使がいち早く人形を抱き上げ、それを防ぐ。
「ピンクか~。しゃーねぇ。仕事は仕事だしやるか、椿」
めんどくさそうなセリフを吐くが、言葉とは裏腹に、天使の顔は嬉しそうだ。そして待っていましたとばかりに人形の示す方向に歩き始めた。天使に両脇を抱えられた人形は、右手を頬に当てて足をクネクネさせ、左手で行き先を示している。
どうやら天使はこの仕事を始めるつもりらしい。俺は気乗りしないので、せめて近場であってくれとだけ願い、天使の後について歩き始めた。そしたら本当に近場だった。天使が人形の首をぐりぐり回しまくったおかげで、俺たちは公園から一歩も出ることがなく対象の人間の所へ着いた。公園のベンチに座っていた、高校生くらいの男子だ。
名前の分からない高校生男子くんは、全身をピンク色にして照れる人形のとっていた行動とはまるで違い、ただベンチに座ってぼぉっとしている。もしかしたら日々の学生生活に疲れ、ここで日向ぼっこをしているだけなのかもしれない、そう疑っても自然な位だ。
「ねぇキミ。なにか恋のお悩みでもあるんじゃないか?」
天使は、役目を終えて眠りについた人形を浴衣の袖口に入れながら訊いた。いつものように自分が天使であることをいきなりカミングアウトすることはなかったが、それでも充分に怪しい。もしかしたら、俺たちが天使の仕事をする上で最初に何者なのかを説明するのは毎回付いて回る問題なのではないか?そうだとすれば、この天使の最初のアプローチの仕方はマシなんじゃないかと思えた。つーか、眠いからいちいちつっこんでいられない。
「なんスか、いきなり…?」
高校生男子くんは、馴れ馴れしく自分の隣に座った天使ではなく、俺に訊いてきた。
「あ~アレだよ。俺たちは大学のサークルでボランティアをやってんだ。んで、そいつは心理学を専攻しているとかでキミの悩みを見つけちゃったんだってさ」
俺は即興でテキトーな嘘をつく。うっかり天使には不釣り合いな設定を与えてしまった。
「…そうだよ。俺、見抜いちゃったの」
心理学なんか聞いたことも無いだろう天使も、俺の考えに合わせてきた。
「なんか悩みがあるんだったら言ってみ。俺たちが力になってやるよ」
「いや、いいッスよ」
高校生男子くんは、苦い顔して断った。
「いやいや。俺たちが力になるって。俺は自分の勉強のためにもキミの恋の悩みに興味がある。キミは悩んでいて助けてほしい。お互いにメリットはあるだろ」
「いや、恥ずいし…」
「なんでだよ? 偶然出会った他人だろ。母親に恋の悩みをするのよりはだいぶ気が楽だと思うぞ」
その後も天使は積極的に高校生男子くんの力になると言い続けた。こいつがこんなに熱心なのは映画の予告を撮るためのアイディアを求めているからで、たぶんその作りたい作品が恋愛モノだからだろう。そうでなければコイツがこんなに仕事に真面目に取り組むワケがない。
俺は、天使が高校生男子くんを説得するのを、高校生男子くんの隣、天使と反対側に彼を挟むようにして座って待った。興味が無いから遠くの雲を眺めていたら、これってカツアゲや脅迫の現場に見られないかな、と不安に感じたが、まあいいかと気にしない。
しばらく熱い天使の説得と冷めた高校生男子くんのお断りの言い合いが続いた。しかし天使の熱意、しつこさに根負けした高校生男子くんは、何故悩んでいたのかを話し始める。
「っと……オレには小学生からの女友達がいるんスけど…」
「おお、幼馴染!いいねぇ続けて」
天使のテンションが上がった。幼馴染という設定が嬉しいらしい。
「そいつのことが最近気になりだしたっていうか…」
「おお、好きになっちゃったと」
「黙って聞けよ!」
俺は、いちいちうるさい天使に釘を刺し、高校生男子くんに話の先を促した。
「なんで、いきなりそう思ったんだ?」
「…高校生になって知らないヤツとかが増えたんスよ。中学までのヤツらだったらなんとも思わなかったんスけど、その女友達が俺の知らないヤツと楽しそうに話をしていると、最近はなんかムカつくっていうか、嫌な感じになるんス…」
「なるほどなるほど。今までは近すぎてなんとも思わなかったけど、他の人に取られて彼女が自分から離れそうになって初めてその存在の大切さに気付いたってヤツっすね」
刺した釘が抜けた天使は、高校生男子くんの口調を真似しながら言った。高校生男子くんはそれに黙って頷いたので、天使が言うことはだいたい当たっているようだ。
天使は「いいねぇ~。甘酢っぺぇ」と言っているが、俺には良く分からん。今日は眠いから理解できないのかとも思ったが違うだろう。
俺は、基本的に女子高生が嫌いだからだ。
女子高生という生き物はとにかくよく群れる。水牛のように群れを成し、人々の生活するスペースを占領していく。俺が高校生の時もやはり女子は群れていた。それだけならまだ無視をすれば済むが、ヤツらは昼休みに俺の席を奪ってまで女子で群れて昼飯を食っていた。おかげで俺は、席を奪われた一部の男子と共に夏はベランダ、冬は教室の地べたに座って飯を食った。
これだけじゃない。あいつらは何故かなんでもかんでも「可愛い」という。そして価値観を押し付けてくる。絶対に可愛くないと思って俺がそう真実を教えてやったのに、機嫌を悪くしてまた女子で集まり「え、これ可愛くない?」「え~、可愛い」「ね、ね」「うん、ちょー可愛い」「でしょ?さっき、椿君に『可愛くない』って言われてさ」「え~、そんなことないよ。椿君、ちょっと変わってるから」と影で愚痴る。俺に聞こえているのに、決して直接は言ってこない。そんで、女同士でも可愛くないと思ってるくせに「逆にカワイイ」とかワケ分かんねぇことを言いやがる。逆って何だ?カワイイの逆は可愛くない、不細工ってことだろ?だったら逆に可愛いモノは可愛くないんじゃないのか?
あ~なんか思い出したら腹立ってきた。そうだあれもだ、ダイエット!やたら痩せなきゃ痩せなきゃ言うよな。別に太ってないヤツでも「ダイエットしなくちゃ」って言うんだよ。本当に太ってるヤツからはそんなセリフ聞いたこと無いぞ。無理して飯抜いてゲッソリしてるヤツより太ってるくらいの方が健康的だろ。それに痩せたいならお菓子なんか食うなよ。そんで動け。楽して痩せようとか思うな。柊なんて、この前買い物に付き合ってもらった時に夕飯奢ったんだけど、軽くハンバーガー十個完食してたぞ。動いて能力使うと腹減るからアレぐらいの量は楽勝なんだとよ。あんだけ食うくせに細い体型で、どこにエネルギーとられているのか知らないが胸も育たない。あのモヤシ女のせいで俺の懐が冬に逆戻りだよ!
あと、男子にダイエットの話なんか振るなよ。「私、太って来たからダイエットしなくちゃ」って言われて「そんなこと無いよ」って返してやっても「いや、マジでヤバいの」とか言うんだろ?それだったら「マジでヤバいの」って言われたら「やっぱりそうかも。マジでヤバいな」って共感してあげればよかったのか?それとも手っ取り早く、「私、太って来たからダイエットしなくちゃ」って言われて「そうだな、頑張れ」って励ました方がいいのか?どっちにしたってお前らキレるんだろ。そんで仲間の群れにいって集団で攻めてくるんだ。喧嘩なら一対一で来いよ!
はぁ、ダメだ。寝不足すぎてどうでもいい過去のことでまで怒りっぽくなってる。怒りを鎮めなければ。
偶然俺の周りにいたヤツがそうだっただけで全てがそうとは限らない。女子高生だって榎みたいな例外も稀にいた。そうだ冷静になれ。ここは冷静にならないと仕事に支障が出るかもしれない。切り替えろ。
天使は高校生男子くんと話をしていた。俺が心の内で怒りをぶちまけている間にも仕事をしていた。今回の天使は自分の娯楽のために真面目に仕事をしている。
「なぁ。小学生からの幼馴染なんだろ?」
「小学校からで幼馴染って言うなら…そうッスね」
「それで、どっちかは不治の病とかだったりする?」
「いや、俺もアイツも頭は良くないけど身体は丈夫ッスから。てゆうか、あんまりそういう少女漫画みたいな不幸なこと考えたくないし…」
「それもそうだな。んじゃさ、恋のライバルは?お金持ちのイケメンとかサッカー部の主将とか?」
「…いないって思いたいスね」
「なんだよ~頑張ろうぜぇ~」
果たしてこの無駄話を仕事として認めて良いのだろうか?つーか、今から助けるっていうのに彼を落ち込ませるなよ。
俺は仕事に向き直り、今回の方向性を決めるため、天使と高校生男子くんに話しかける。
「それで、今回はコレどうするんだ?」
「何言ってんだよ、椿。もちろん告白成功させるのが今回の目標だろ」
天使が、高校生男子くんの背中を越して言った。
「え?そうなんスか?てゆうか何勝手に決めてんスか」
背中に目の無い彼でも、自分の背後にある天使の勝手な企みは見抜けた。まぁ普通に話声が聞こえた。
「そうだよ。こういうのは本人の意思でやらねぇと。他人があんまりとやかく言うことでもねぇだろ」
自分で言っておいて何だが、それじゃあ今回は俺たち要らないじゃないか。
「どうなんだ、キミ。告白する気はないのか?」
天使が高校生男子くんの肩に手を回しながら言った。
「いや、無いことも無いけど…」
「だったら告白しなよ。当たって砕けろ、だ!」
「え、砕けるんスか?」
「大丈夫だ。キミの頑丈かもしれないボディならちょっとやそっとじゃ砕けないって。ハートのほうは保障しかねるけど…」
ダメだこりゃ…。
この天使に任せていたら彼のハートは告白前からヒビが入り、告白する時の緊張の震えで結果を待たずして粉々に崩れ落ちるに違いない。このクソ天使、人助けをするってのに、さっきから不安だけを煽っている。
かと言って、恥ずかしながら俺も恋愛経験が豊富とは言い難い。頭の中で指を折り数えてみたが、一本目の指が折れそうで折れない。彼に明確かつ画期的でバラ色な成功の道へと誘うことができるようなアドバイスをする自信は全くない。こういう時にこそ女子の榎や辛うじて女子の柊が必要なんじゃないのかと思ったが、やっぱり柊は要らない。ここで男三人が頭を寄せて考えても変な妄想だけだったら浮かぶかもしれないが、今回の仕事をするのに効果的な案は浮かぶことなく沈みっぱなしだろう。
俺が沈んでいる名案をどうやってサルベージしようか頭を悩ませているのに、天使はお構いなく話を進めている。
「キミは今の状況が嫌なんだろ。それだったら、告白するかしないかの二択だよ。状況を変えたいなら動かなくちゃ」
「それもそうッスね。当たって砕けてみて、それでも何かモヤモヤしてる今よりはマシかもしんないッスよね?」
「いや、フラれたら今より悲しいだろ…」それは言わなくていいだろ。
どうやら告白することに決まったらしい。俺が必死にサルベージ作戦を考えていた海は、ただの水溜まりだったようだ。
何はともあれ告白することは決まった。それじゃあ次だ。
「そんで、どうするんだ?」
「ん。何がだ?椿」
「コイツが告白するんだろ。俺たちは何をしてやるんだ?」
「え?何もしなくていいスよ」
「遠慮すんなよ。俺たちも何かしないと。話を聞くだけじゃ違うんでね」
ダークヒーローや天使の仕事については話しても分からないと思ったので省き、高校生男子くんを説得した。
「そうだな」と天使は空を仰ぐ姿勢で、考え始めた。「俺たちは裏方でシチュエーション作りでもするか。盛り上げて告白しやすい状況を作るんだ」
天使の言う通りにするとなると、今回の俺たちの仕事は地味になりそうだ。
ま、それも仕方ないというか、ここで文句を言ってはワガママになるだろう。
ということで、ここからは告白するためのシチュエーションについての作戦会議が始まった。
まず、俺の案「体育館裏」
「やっぱり学生の告白場所っつったら体育館裏とかか?」
「うわぁ~ベタだな、椿。そんなんだからダメなんだよ」
「そうッスね。うちの学校の体育館裏って結構人通りがあって目立つし」
「んだよ。裏の無い体育館か」
ボツ。
天使の案「美術室」
「ここはおしゃれに美じゅちゅ室ってのはどうだ?」
「……もう一回言ってくれ」
「…美ずつしちゅ」
「もう一回」
「…おしゃれに絵を描く教室なんてどうだ?」
「諦めんなよ。つーか美術室っておしゃれなのか?」
「教室名を言えるからって反対するなよな、椿」
「てゆうか、美術部がいるから放課後も空いてないッスよ」
ボツ。
俺の案2「水族館」
「やっぱりデートっつたら水族館だろ。絵具で汚れた美術室なんかよりもおしゃれだし、そこで魚たちに見守られながら告白すればいんじゃないか?」
「デートもしたこと無いヤツが良く言うよ」
「え、お兄さんデート経験なしッスか?草食系ってやつ?」
「そうなんだよ。このお兄さんは羊だから牧草しか受け付けないってさ」
「んなこと言ってねぇだろ!つーか、水族館だよ!どうなんだ?」
「いや、この辺 高校生の行ける距離に水族館なんて無いッスよ」
ボツ
天使の案2「彼女の家」
「じゃあもうさ、敵地に乗り込んで闘うってことで彼女の家は?」
「………………無理ッス」
ボツ
作戦会議はいつにもまして不調だ。出る案出る案次々とボツになり、一向に先に進まない。告白をするのってこんなに難しいことなのか?みんなどうやってるんだ?試しに現役高校生である高校生男子くんに訊いてみると、「メールとかじゃないッスか?」と教えてもらえた。それならそれでお前もメールで告白したらどうかと言ったら「いや、オレはできれば直接言いたいんスよ。なんかメールだとカッコつかない感じしません?」と一丁前の口を叩きやがった。
まったく先に進まない。こんなに作戦会議が進展しないのも珍しい。俺が寝不足だからか?それともここにいる三人はまともな恋愛経験を持ってないからか?高校生男子くんの恋愛歴は知らないが、少なくともこの天使はそうであって欲しい。俺よりも経験豊富だなんて認められない。
もう案を出し尽くして考えることをやめた俺の代わりに、天使はまだまだ尽きることなく案を出している。
天使の案・最新版「花火大会」
「花火大会ってのはどうだ?『空に咲く花より、君の方が綺麗だ』とか言ってさ!」
「なんだよそれ。臭すぎっつーか、もう腐ってるだろ。ダメだ」
「なんでだよ。いいじゃん、花火大会。せっかく告白したのに特大の花火の音にかき消されて相手には届かず、とかってなんかいいだろ」
「先が続いてハッピーエンドが確約されたマンガならな。せっかくコイツが頑張って告白したのに、それじゃああんまりだろ」
「それに市の花火大会があるのってまだまだ先ッスよ」
「ほらな。だからダメなんだよ」
ってことでこれもボ…
「ちょっと待て!」天使は声を張り上げた。「花火大会がまだ先だからボツ?そんなの俺には関係ないね」
ボツだとは思っているが、まだ言っていない。それなのに天使は、高校生男子くん越しに俺の頭を押さえつけてストップをかけた。
「放せよ!肝心の花火大会が無いんだから、お前の案はボツでいいだろ」
俺は天使の手を払いのけ、ズレた帽子を直しながら言った。
「フッ、分かってないな椿。楸さんの作戦にはボツにされるような欠点なんか無いんだよ!」
少なくとも今まで欠点のある案を五つ以上は出したと思うが、天使はその記憶を失ったかのように自信を持って言った。
「まさか花火を用意できるんスか?」
「モチのロンだよ!」
「手持ちのヤツじゃないよな?」
手持ち花火でいいなら俺にも準備できる当てがある。たしか去年、榎が花火をやろうと言って買った花火がある。約束した日に雨が降ったから使わないままになった花火が俺の家にあるはずだ。
「それも欲しかったら用意できるぞ。でも告白のシチュエーションっていったら打ち上げでしょ」
「打ち上げ花火できるんスか?」
「だからモチでロンだって」
どういう根拠でモチのロンなのか、天使は語った。
話を聞いてから判断すると、たしかに花火を打ち上げることは可能そうだ。
モチなロンで打ち上げ花火をできると言った天使がやるワケではない。コイツにやらせたら大事故になってしまう。では、誰がやるのか。
五十嵐さんだ。
天使の知り合いの天使である五十嵐さんは、開発課という天使の仕事に役立つアイテムを開発する所に所属している。開発するものは役に立つ物ばかりではなく、五十嵐さんの趣味で作られている物も多くあるらしい。そしてその趣味で作られた物の中には、花火もあるのだそうだ。五十嵐さんの趣味はマニアックなのか、浅く広いのか気になる。
天使の世界にも俺たち人間の世界のような花火もちゃんとあるらしいのだが、それは置いといて、参考までにと五十嵐さん作の花火について天使がいくつか教えてくれた。
まずロケット花火からインスピレーションを受けたという、人が乗り込むことができるサイズのロケット花火。五十嵐さんはこれがただのロケットだとは気付かず、俺のパートナーの天使を実験台として乗せたそうだ。もちろんちゃんとしたロケットではないので直ぐに爆発し、天使が火傷をする程度で終わったらしい。次に教えてくれたのはヘビ花火。蛇玉とも言うこの花火は本来、直径1センチ、高さ1センチ前後の円筒形の星に火を着けることで蛇のような燃えカスが伸び出るという物だ。五十嵐さんはこのヘビ花火の名前だけ知っていて、ろくに調べもせずにイメージで作ったらしい。そうしてできたヘビ花火は蛇のような見た目をしていて、火を着けると口から火花を吐きながら地を這うそうだ。蛇というよりもドラゴンである。そのヘビ花火は作った本人も驚くほどのスピードで動きまわり、周囲の人の足元を狙ってくるので失敗作となったそうだ。ちなみにその時も下駄を履いていた天使の足は少し焼けたらしい。
この他にも、十分間は消えない寿命が長い線香花火や、手で持てないサイズの手持ち花火(それはドラゴン花火ではないかと言ったが無視された)、ネズミ花火に飛行能力を付けたゴキブリ花火などを教えてもらった。魅力ある欲しいと思うようなものは一つも無い。
五十嵐さんはこのような花火をジョークとして作っているが、打ち上げ花火は真面目に作っているらしい。なんでも打ち上げ花火は事故が起きたら大変だとのことだが、それをいうなら、五十嵐さんの作ったという花火はほとんどが危険だ。そんな危険な人が作った危険なモノを打ち上げることに危険はないかと天使に訊いたら「大丈夫じゃない?」という根拠のない危険な答えが返ってきた。
ということで、打ち上げ花火をすることは可能である。ただし危険でもある。大事故はないかもしれないが小事故くらいは覚悟しておいた方がいいかもしれない。
高校生男子くんは、自分が今危険な橋の上に立っていることには気づいておらず、独創的な花火を作る人がいて、その人が花火を打ち上げることもできるということに感心し、現実味を帯びてきているらしい告白にソワソワし始めた。全くもって若さとは怖い。
「決まりだな!キミは明日、その彼女に花火が打ち上がる中、それをバックに告白する。花火の音には気を付けろよ」
いつの間にか天使は勝手に決めた。俺はそれに反対する理由はないが高校生男子くんはいきなりの決定に驚いている。
「明日ッスか?」
「そうだよ。あんまりダラダラするのは得策じゃない。善は急げ、だ。」
「あ……はい…」
天使の勢いにのまれ高校生男子くんは納得してしまった。だが、俺は彼ほど楽観的ではなく、この天使が言うことに素直に「はい」とは言えない。
「明日はいくらなんでも早くないか?花火だって用意できないだろ」
「いいんだよ。椿 言ってただろ。明日は祝日だって。それに花火もたくさんは要らないから簡単に準備できると思うよ」
「あっそ」
これ以上反論する者がでないことを確認し、天使はずっと咥えていた、ただのアメの棒を吐き捨て、手を叩いて言う。
「それじゃあ明日、夜の8時には河原に集合な」
天使の足りない説明を補う為に、具体的な集合場所や、8時半には花火を上げ始めること、彼女への連絡の仕方(これは高校生男子くんが責任を持ってやる)などを確認した。
さっき俺は、明日が祝日でも夜遅くにやるんだったら関係ない、むしろ次の日が休みである今日の方がいいんじゃないかということと、お前が準備するワケじゃないのに簡単だとか決めつけるな、時間がかかったらどうするんだ、と言ってやりたかった。しかしそれは矛盾する意見でもあったし、話が終わりに近づいていること、つまり就寝時間が近付いていることを察していたので言わなかった。
「それじゃ、今日は解散な」
天使が言った。
高校生男子くんとは公園を出る前に別れた。
明日、本当に高校生男子くんは告白できるのか?その前に俺たちみたいな怪しいヤツの話に乗って明日、彼女を連れて花火を見に来るのか?そして花火は無事に打ち上げられるのか?様々な疑問は「なるようになるだろう」という一つの答えで全て解決してみせ、俺も天使と別れた。
これでやっと眠れる。
楸 Ⅱ
今回のターゲットと別れた。そして椿とも今日は別れた。俺は二人と別れ、帰り道の空に浮いている。
はて、いまさらながら彼の名前は何と言うのだろうか?今回は最初から本題をブチ込んじゃったから自己紹介もしてなかったな。…ま、いっか。男子高校生の彼だと味気ないから便宜上、高校生男子くんとでも呼んでおこう。
それにしても取材がこんなに長引くとはな。できれば今日中に終わらせたかった。ささっと適当な人間を見つけて告白シーンとラブラブなところだけ見るつもりだったのに、世の中そう簡単には行かないよ。でも、これはこれでいいのかも。密着した取材の方がより良い映画予告を作れそうだ。
さて、これからどうしよっかな?
五十嵐さんの所には花火を注文しに行かないとだけど、まだ時間に余裕あるしなぁ。
あ、そうだ!今日、榎ちゃんいなかったからメールしよっ。
榎ちゃんは俺の仕事を手伝ってくれるパートナーだけど、今回はそれだけじゃなく映画予告のヒロインでもあるからな。今日やったことの報告くらいはしないと。
んでも、あんまり映画予告の内容を知られて演技に縛りがかかると困るな。
今回は細かいところは教えられないけど、とりあえず明日の花火だけは誘おう!
せっかくきれいな花火が見れるんだから誘わないと。そんで、できれば高校生男子くんの成功の波に乗らせてもらって俺と榎ちゃんも映画予告を飛び越えてリアルなラブストーリーを走り始めちゃったりして!うきゃっ!
そうだよ。そうしよう!
そうと決まれば早速メールだ。浴衣の袖口から俺のケータイを取り出して、っと。
『明日花火大会やるよ!夜の8時からだけどバイト入ってたりする?』これで送信、っと。
あれから一時間。返事が来ない。俺は空に浮いて待ちぼうけ…。
細かいことは後のメールで教えるからイイと思ったんだけど、やっぱり情報が少ないから判断に困ってるのかな?いや、でも時間が分かれば行けるかどうかくらい決めれるよね。
あぁ~じれったい。まだ夕方だから寝てるってことはないはずだけど。またメールすると待てない、しつこい男みたいだしなぁ。
…きっとまだバイトの時間なんだ!
そっか、だから返事来ないのか!なぁんだ、そうか。
しょうがないな。待ってる時間がもったいないし、今のうちに五十嵐さんの所にでも行くか。今の時間だったらまだ開発室だかいうあの人の部屋にいるはずだよな。
てゆうか、俺あの人の家知らないな。五十嵐さんっていつも開発室にいるし、あの部屋から出たところをみたことないな。たしかあの部屋には家具、家電が一式揃ってるし、個室みたいだから他の開発課の人も見たこと無いな。ひょっとして五十嵐さんってあそこに住んでるのかな?まさか引きこもりってことはないよな…?
花火の打ち上げをやってくれって言ったら引き受けてくれるのかな……?
後篇へ続きます。